Fate/Game Master   作:初手降参

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新興宗教 黎斗神道

教義

神は檀黎斗
経典はエグゼイド本編
聖句は『ホウジョウエムゥ!!──』と『本当に助かったよ──』
信仰するものは黎斗神と己自信の才能
人生の目的は己の才能を形にすること

毎朝鏡の前でテッテレテッテッテー!!
一日一回聖句の暗唱
どこかのタイミングでブゥン


毎日やると元気が出て自信がつきます
皆も黎斗神道で神の加護を得よう(布教)



第十七話 JUST LIVE MORE

 

 

 

 

「……」

 

 

ジークフリートは、いつの間にか外に出ていた。当然目的地はない。そもそも彼はゲンムコーポレーションから聖都大学附属病院までの道程しか知らない。

 

しかし、一度出た以上すぐに戻るのは躊躇われた。行き先もなく、変装もなく、目的もないが、彼は取り合えず歩き始める。

その足取りは微妙にふらついていた。

 

 

「何を、するべきなんだ?」

 

 

答えは誰も与えてくれない。

 

───

──

 

『……なんであんな事が出来たのよ。仲間だったのに』

 

『いや……それも俺が洗脳されていたせいだ。倒されても当然だった』

 

『そうじゃないの。なんで何の迷いもなく攻撃の指示を出せたのよ。答えなさいよ……!!』

 

 

いつのことだったか──確か、バグで発生した魔法少女の特異点でのことだったか。

そこで、ジークフリートは敵に操られて黎斗に牙を剥いた。そして、捩じ伏せられて正気に戻された。

 

 

『答えなさいよ……答えなさいよ!!』

 

 

正気を失ったジークフリートを強引に潰して助けたことについて、エリザベートは怒っていた。なぜそんなことが出来るのか、と。彼女は黎斗の無遠慮に怒っていた。

ジークフリートは、それを当然だと思っていた。敵に回ったのなら、それを倒すために何だってするだろう。そう思っていた。

 

 

『……決まっているだろう? この人理を修復しなければならないからさ』

 

 

だから、黎斗の嫌々したその返事にジークフリートは意外性を感じた。己の才能のみを見る自分勝手な人物、そう捉えていた彼にはその時の黎斗は普通の人間に見えた。

 

 

『ああ、私の才能を腐らせないため、そして神の恵みを受けとるプレーヤー達のため。それなら私は、私に持てる全てを注ぐのみ』

 

 

……その言葉に嘘はなかった。

 

嘘はなかった。しかしジークフリートは、その言葉を他者への思いやりと捉えてしまった。そして、己のマスターは他人を思いやり、他人の幸せの為に動ける人間と捉えてしまった。

 

ジークフリートは優しい存在だった。生前では、全てを救うことが出来ないならせめて自分を頼る人間を救ってみせようと決意した存在だった。少なくともそう設定されていた。

だからこそ、そんなマスターに剣を預けようと思ったのだ。

 

 

 

……その全ては、ただの勘違いだった。

 

──

───

 

「……俺のしたいことは、何なんだ?」

 

 

ジークフリートに、答えは分からなかった。結論はなく、それでも歩いていた。

自分のマスターを裏切り、街の人々の為に戦うべきだろうか。しかし、果たしてこれまで共に戦った仲間に刃を向けられるだろうか。そう思うと、裏切りは彼には出来ない行為で。

 

街には、ゲーム病患者が溢れていた。道行く人は皆程度の差こそあれどゲーム病に苦しんでいた。しかしそれでも、己の日常を貫かんと歩いていた。ジークフリートには皆が視線を向けたが、しかし騒ぎ立てはしなかった。

 

ジークフリートはそれをありがたく思いながら歩いていた。そしてその中で、一人の少年を見る。

 

 

「あれは……!!」

 

 

 

 

 

「うう、う……」ガタガタ

 

 

その少年は、道の真ん中で踞り震えていた。多くの車がクラクションを鳴らしながらそのすぐ脇を通過していた。

どうやら他よりも酷くゲーム病を発病しているようだった。ジークフリートは、彼の四肢が半分透けているのを見抜いていた。

 

あのまま動けなければ、すぐに跳ねられるだろう。……現に、微妙にふらつきながら走行するトラックが彼の前まで走ってきていた。トラックの運転手もゲーム病なのは疑いようがなく、恐らく少年に気づいてはないのだろう。都市の機能は、死にかけていた。

 

 

「……っ」

 

   ダッ

 

 

ジークフリートに、少年を見過ごす選択肢はなかった。仮に、この後己のマスターが好き勝手にする命であっても。

ジークフリートは高速でその場から飛び出し、少年を掬い上げて反対側の歩道まで跳んでいた。

 

 

「……大丈夫か」

 

「っ……だ、れ?」

 

「……病院までつれていこう」

 

 

少年の目は虚ろだった。きっとジークフリートの姿の像すら結べてはいまい。ジークフリートはぼんやりと考えながら、聖都大学附属病院へと急いだ。ようやく、彼は一時の目的を得られた。

 

───

 

「っ、と……ついたか。無事か?」

 

「ん、う……」

 

 

ジークフリートが聖都大学附属病院に辿り着くのには十分もかからなかった。彼は病院の中まで少年を連れていこうとし、先日自分がここを攻撃したことを思い返して一瞬踏みとどまる。

 

その時、ロビーの前には人だかりが出来ていた。他にも酷い事故がいくつかあったらしく、数人の医者が患者の手術の優先度を決めているように見えた。

 

……その中にいた飛彩が、ジークフリートに気づいてしまった。

 

 

「お前は、ゲンムのセイバー!?」

 

 

飛彩は病院を庇うようにしながら身構え、ガシャットを構える。その目は、セイバーよりむしろその腕の少年に向けられていて。

 

 

「その子をどうするつもりだ!!」

 

『タドルクエスト!!』

 

 

……ジークフリートに戦うつもりはなかった。

彼は少年をゆっくりと地面に下ろし、一歩退く。そして、その場から消え失せた。

 

 

「……すまなかったな」

 

「おい、待て!! ……逃げられたか」

 

「大丈夫ですかマスター!?」

 

 

少し遅れて、ジャンヌが飛彩の隣に立った。既に敵は去っていた。

ジャンヌは倒れている少年に気づき、彼を背負って歩き始める。

 

 

「とにかくこの子を運びましょう。ゲーム病の具合は?」

 

「まだ大丈夫だ、それでも早い治療は必要だがな」

 

───

 

「急患!! 急患!!」

 

 

誰かが患者を乗せた台と共に走り抜ける。

聖都大学附属病院には、未曾有の人数の患者が押し寄せていた。

 

突然発生し、少し前に多くの人々の命を奪った病、ゲーム病。少なくとも人々はそう捉えていた。だからこそ多くの人が診察を求め、命に関わる大病に感染したという事実でストレスを募らせ症状を悪化させていく。

 

 

「ベッドの数が足りません!!」

 

「とにかく安静にさせないと!!」

 

 

また誰かが駆け抜けていく。

 

今回の症例の厄介なところは、『治療法がない』ということだった。

本来なら、ゲーム病の治療は感染したバグスターを倒し、ゲームクリアにすることで成立する。しかし、ここに集まる患者は皆、恐らくFate/Grand Orderのウイルスに感染していた。Fate/Grand Orderのクリア方法は──不明だ。

 

 

「明日那さん!! こっちにも担架を!!」

 

「分かった!!」

 

 

だから、安静にして落ち着かせる他に、当面の対処法はなかった。ストレスで消えかかっている人々には薬剤を投与して、強引にでも落ち着かせていた。それは、非常事態宣言の出ている現在だからこそ可能なことだった。

 

しかし、緊急事態は突然終わりを告げる。

 

 

「……あれ?」

 

「症状が……」

 

 

呻いていた患者たちのゲーム病の症状が、一斉に停止したのだ。

 

 

「ゲーム病が、収まった……だと?」

 

 

少年を届けて元の場所に戻ろうとしていた飛彩が、あり得ないものを見るような目でそう言った。事実あり得ないことだった。何の治療もなしに病が治るなんて、起こり得ない。

 

 

「いや、違う。これは……」

 

 

明日那がそう呟きながら、黎斗神にアップデートさせたゲーム病用聴診器(ゲームスコープ)を一人の患者に向ける。

 

バグスターを示すシルエットは、色は薄く、しかし範囲はそれまでとは比にならないほど巨大になっていた。

 

 

「……まさか、患者と一体化を!?」

 

───

 

   カタカタカタカタ  ッターン

 

「……できました、できましたキアラさま!!」

 

 

その時、小星作のパソコンにはとうとう100%の文字が表示されてしまっていた。

作は震える手でパソコンに繋がっていた白濁色のガシャットを引き抜き、よろよろと膝をついてキアラに献上した。

キアラはそれを、頬を桃色に染めながら受け取り、うっとりとした目で眺める。そして、電源を入れた。

 

 

『随喜自在第三外法快楽天!!』

 

「ふふ、ふ……」

 

 

音が響く。キアラはその輝きを見てため息をつき、作を抱き寄せた。

 

 

「ああ、キアラさま……!!」

 

「それでは、共に参りましょうか……!!」

 

 

そして、胸にガシャットを突き立てる。

ガシャットはするすると胸元に吸い込まれ──それと同時に、作もキアラに取り込まれた。

 

 

「ああ、ん……」

 

 

そのシルエットは、天井をも越えて拡大していき──

 

───

 

「受け入れの準備はどこまで出来ている!!」

 

「ちょっと待ってよ!! 何人来るって!?」

 

「百人!! 重病患者百人だ!!」

 

「ベッドが足りない!!」

 

 

その時大我とニコは、自分達の病院の内部で駆けずり回っていた。既に彼らのところにも何十人ものゲーム病患者がやって来ていたが、聖都大学附属病院がパンク寸前ということで緊急受け入れ態勢を取ろうとしていた。

当然のようにフィンとエミヤも駆り出されていた。人間離れした身体能力の彼らのお陰で、作業はそれなりに進んでいた。

 

 

「ベッドなら地下に予備がある!!」

 

「地下!? 地下のどこ!?」

 

「階段の横の倉庫だ!!」

 

 

忙しく指示を出す大我。……その隣に、エミヤが立つ。──窓の外を見ながら。

 

 

「……おい、マスター」

 

「どうしたアーチャー、追加のベッドは──」

 

「いや、違う。……あれを見ろ!!」

 

「あぁ?」

 

 

エミヤが指差していたのは、やはり窓だった。大我は半ば苛立ちながらそこへと目をやり……愕然とする。

 

 

「──な」

 

「あれは……」

 

 

人が見えた。建物の向こうに、普通の何倍もの大きさの、半透明の女性が立っていた。その大きさは5mか10mか、それは分からないが……緊急事態なのは確かだった。

 

 

「……ランサー!! ランサー、いる!?」

 

 

その姿は、当然ニコの目にも入っていた。

あれは、放棄できない。大我とニコは、病院を聖都大学附属病院から先行してきた看護師達に任せ、病院を飛び出していく。

 

───

 

 

 

 

 

「何だ、これ」

 

 

最初にその人影の元へと辿り着いた大我が見たものは、おぞましいほどの『天国』だった。

CRのアルターエゴ、殺生院キアラ。それを中心にして広がる巨大な人の形をした空間は逃げ惑う人を吸い寄せ、その中に取り込んでいく。そしてその空間の中から、取り込まれた人々の快楽に溺れた喘ぎが、小さく漏れていた。

 

 

 

「お前が……殺生院、キアラ……なのか?」

 

『そうですね、私こそが殺生院キアラ──随喜自在第三外法快楽天、殺生院キアラにございます』

 

「作さんはどこだ!!」

 

 

後から駆けつけてきた明日那や貴利矢も、キアラの有り様には愕然としていた。しかし永夢は、ひたすらに作のことを心配していた。

 

 

『心配せずとも、私の中にございますよ』

 

「中……!? それは、つまり……」

 

「何をするつもりなんだ、貴様!!」

 

 

そう飛彩が問う。既にこの場には、CRのキャスター以外のCR陣営が、皆集まっていた。

 

 

『決まっているでしょう? とても──とても、気持ちのよいことでございます』

 

「これ以上話しても拉致が開かねぇ。力の限りぶっ潰す!! いいなアーチャー!!」

 

『バンバン シューティング!!』

 

『ガン!!』

 

「了解した」

 

 

最初にガシャットの電源を入れたのは大我だった。彼はバンバンシューティングと共にドラゴナイトハンターZの電源も入れ、永夢と飛彩にもその分身を渡してやる。

 

 

「作さんを助け出す!!」

 

『マイティ アクション X!!』

 

『ファング!!』

 

「ええ。緊急治療を始めます」

 

 

永夢はそれを受け取り、身構えた。パラドは負傷しているため、マイティブラザーズは使えない。しかし、それは怯む理由にはならなかった。

 

 

「勝算はあるのかしら、マスター?」

 

「自分にはさっぱり。だが、この戦いは乗るしかねぇんだよな姐さん!!」

 

『爆走 バイク!!』

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

 

貴利矢はそう言いながら、レーザーターボ用の爆走バイクとシャカリキスポーツの電源を入れる。口調は冗談めかしていたが、その表情は真剣で。

 

 

「うう、まさかこんなに早く現れるなんて……BBちゃんショックです、まだ何の仕掛けも出来てないのに」

 

「いい、BB? ぜっっったいに、裏切っちゃダメだからね!!」

 

『ときめきクライシス!!』

 

「分かってますって。あれにはついていきたくありませんし」

 

 

明日那はBBの裏切りを心配していた。これまでに何度もそれについてBBは言及していたから、この気に乗じてやってしまえ、とばかりに裏切られるかもしれないと思っていた。

いざとなれば令呪の使用も視野に入れていたが……その心配はなさそうだった。

 

 

「……頼むぞアサシン」

 

「ええ、お任せを」

 

「さっさと終わらせてよねランサー、この後沢山の患者が待ってるんだからね!!」

 

「分かっているとも、美しきマスター。君に勝利を捧げよう」

 

「うわきっつ」

 

 

パラドとニコは、遠巻きに指示をするに留めた。下手に近寄るとうっかり取り込まれるかもしれない、との懸念もあったから、仕方のないことだった。

 

 

『タドルクエスト!!』

 

『ブレード!!』

 

「……行きましょう、マスター」

 

「分かっている」

 

 

……最後にガシャットの電源を入れたのは飛彩だった。別に巨大な敵影を恐れた訳ではない、たまたまのことだった。

彼は隣に立つジャンヌを見た。気に入ったのかは知らないがナース服こそ着ているものの、ここ数日の間力仕事以外ではてんで役に立たなかった彼女だが、こうして共に戦うのなら頼もしかった。

 

 

「第伍戦術」

 

「大大大大大──」

 

「爆速」

 

「術式レベル5」

 

「「「「「変身!!」」」」」

 

『『『『『ガッシャット!!』』』』』

 

 

変身する。変身する。並び立つ五人のライダー、そして七体のサーヴァント。それらを見て尚、殺生院キアラには余裕があった。

 

作によって作られたガシャット『随喜自在第三外法快楽天』は、使用者を強制的に魔人の領域まで引き上げるガシャットだった。そのガシャットを取り込んだ彼女は最早人の形をしているものの、生物の領域にも、ウイルスの領域にも当てはまらない。

 

彼女は、最早一つの現象になろうとしていた。人々に至上の快楽を与え、己自信も無限の快楽を得るシステムとなろうとしていた。

 

 

「天上解脱……なさいませ?」

 

 

それでも医者達は、怯むことなく立ち向かう。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


──動かない檀黎斗

「仕方がない、地下駐車場の支配権をパージ──」カタカタカタカタ

「ここが正念場よ……!!」カタカタカタカタ

「小星作の作るゲームなど屑だ!! 私は屑に構う余裕などない」カタカタカタカタ


──悪化する戦況

「な、効いていない……!?」

『私の中にはまだ人々がいるのですよ?』

「貫通する攻撃は、使えないのか……!!」


──そして、聖女の決意

「短い間でしたが、楽しかった」

「最後の令呪をもってセイバーに命ずる」

「人々を救う、ドクターであってください」


第十八話 英雄 運命の詩


「主よ、この身を委ねます──」

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