Fate/Game Master   作:初手降参

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現在のナーサリー・ライム

言動は本来のナーサリーに近いが、性格は黎斗とナーサリーの合の子になり、思考の結果行きつく結論は黎斗とほぼ同じになっている
黎斗の才能を目覚めさせると同時に、日に日に黎斗と近くなっていく

ついでに言えば、黎斗自体が自分至上主義のナルシストでもあるので黎斗本人との相性は抜群。というか檀黎斗という存在とずっと共に愛し合い協力し合える唯一の女性の可能性まである
当然のように間接キスとか平気でやる



第十九話 KOE

 

 

 

 

……炎が、止んだ。

 

 

「……う、う……」

 

 

エミヤの固有結界は鎮火と共に解除された。キアラのシルエットも弱り果てて消え失せた。残ったキアラ本体は全身に火傷を残しながらうち震え、ギリギリで堪えていた。しかしもう起き上がることも出来ない。

 

そしてジャンヌは、金の粒子に還ってゆく。

ポッピーが遠巻きにバグヴァイザーを向けて回収を試みていたが、それは出来なかった。ポッピー自身がバグスターとして粒子になっての移動が出来ないように、このFate/Grand Orderの世界ではバグスターのルールが書き換えられていた。

 

 

「……セイバー」

 

 

ブレイブが、よろけながら彼女の隣に立った。ジャンヌはそれを見てやはり微笑み、しかし何も言わず。

 

 

「……感謝する」

 

「……ふふっ」

 

 

そして、消滅した。

 

───

 

「っ……ジャンヌ……!!」

 

 

ジル・ド・レェは、かねてから飛び出しがちな目をさらに見開いて、ジャンヌが消えてゆく様子を見届けていた。突然その場から消え失せ、そして戻ってきた時には消滅しかけだったのだから当然の驚きだった。

 

 

「ジャンヌ、おお、ジャンヌ……!!」

 

 

ジル・ド・レェは、真黎斗を神として崇拝している。それに代わりはない。しかし、かつて共に戦い執着したジャンヌ・ダルクが消えて行く様は、やはり少しばかり堪えた。

 

 

「……遅れてしまってすまない。迷子になってすまない……」

 

「主人公っぽく後から参戦しようと思ったらもう終わってたんじゃが」

 

 

マシュは足元で踞って泣いていた。後からやって来た信長とジークフリートは、何があったのか分からずに顔を見合わせていた。

 

───

 

「……終わらせるぞ」

 

 

ブレイブが、倒れ付したキアラに剣を向けた。後は、体内を傷つけないように切開して、止めを刺すのみ。

 

 

「……そうだな」

 

「皆を、解放する!!」

 

 

キアラが、空に手を伸ばした。それほ空を掴み、力なく垂れ下がる。

 

 

「……私の……私の、理想郷……とても、とても……気持ちが良かったのに……」

 

「理想郷、か……こんな気持ち悪い理想郷あってたまるかよ」

 

「ああ……お前の世界は、ここで終わりだ」

 

 

もう、彼女に構う暇はなかった。この後には、何人もの患者が待っているのだから。キアラに付き合っているだけで危機に晒される命があるのだから。

ドクターは、救命を第一優先とするのだから。

 

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「……気持ちよく、殺して下さいね?」

 

「お前の要望を聞く余裕はない」

 

 

ブレイブが、キアラの胸元にガシャコンソードを添えた。切開して、人々を取り出して救出する。そんな試みだった。

もうキアラは、諦めていた。……しかし、その割には余裕があった。最後に感じる痛みを気持ちよく受け入れて死のう、と口では言うが、それはもっと別のことを考えてもいるようで──

 

 

 

 

 

「……待って!!」

 

 

ポッピーが突然声を上げた。上を指差しながら動揺していた。全員が、一斉に上を向く。

 

 

「えっ?」

 

「ん?」

 

「何が──」

 

「あ?」

 

 

 

 

 

『タドル ドラゴナイト クリティカル ストライク!!』

 

「ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌゥゥッ!!」

 

 

ジル・ド・レェの変身した仮面ライダーキャスターが、大量の触手を纏ってビルの屋上から飛び出し、キアラもライダー達も皆々纏めて葬らんとしていた。

 

 

「なっ──!?」

 

 

ブレイブは咄嗟に、キアラに向けていたキメワザを上空へと放つ。それは確かにキャスターの触手を切り落としこそすれど弾き飛ばすことは出来ず。

このままでは飲み込まれる。そう思ったときには、キャスターは地上6メートルまで迫っていた。

 

 

「何ぼさっとしてんの、避けるわよ!!」

 

「何でこう、上手く行かないんだ!!」

 

「早く逃げなきゃ──」

 

「いや、間に合わねぇ……!!」

 

「伏せろ!!」

 

「っ!!」

 

   ズザザザザザザザッ

 

 

 

 

 

───

 

その様子は、ゲンムコーポレーションにいたナーサリーもモニター越しに見ていた。隣では真黎斗が疲れた目で紅茶を煽っている。

 

 

「ふぅ……一段落、だな」

 

「そうねマスター。地下駐車場しか取れなかったけど」

 

「今は十分さ、足掛かりが手に入ったからな」

 

 

真黎斗はそこまで言って、モニターの向こうを見た。ジャンヌの消滅に興奮したジル・ド・レェが暴走したのだということは、用意に見てとれた。

 

 

「……これって、もしかして、全員倒しちゃったかしら?」

 

「まさか。それはないだろう……」

 

「あ、本当ね……もう出てきてる」

 

 

モニターの端に、触手から這い出る九条貴利矢の姿が映った。他の場所では、鏡飛彩が触手を切り裂き、キアラから解放された患者を運びだし始める。

 

 

「アルターエゴは倒されたのかしら?」

 

「……いや、どうだか。まだ、魂は聖杯(ガシャット)にくべられてはいないが」

 

「あら、そうなの……」

 

 

もう、ジル・ド・レェはその場には見えない。霊体化して去ったと考えられる。

これ以上救出劇を見ても面白くない。真黎斗はそう断じて、聖都大学附属病院攻略に戻る。

 

 

「次の段階だ。畳み掛けるぞ」

 

 

そしてそう言い、新しくサーヴァントを二体呼びつけた。

 

 

「……カリギュラに、アヴェンジャー? 不思議な組み合わせね」

 

「ふ、理由はあるさ」

 

「それは、そうでしょうけれど……」

 

 

呼びつけたのは、カリギュラとアヴェンジャー。これまでの二人の関わりは皆無に等しく、ナーサリーはその組み合わせに疑問を呈する。しかし真黎斗にはしっかりとした計画があった。

 

大して時間を開けずに、カリギュラとアヴェンジャーは社長室にやって来た。ナーサリーがいそいそと二人に紅茶を差し出す。

 

 

「……コーヒーが良かったんだが」

 

「もう、贅沢言わないの!!」

 

「……そうだな……で? これからの作戦はどうするつもりだ」

 

 

アヴェンジャーが、早速真黎斗にそう言った。真黎斗はその言葉に小さく鼻を鳴らして、そして聖都大学附属病院の一部が写ったパソコンを見せる。

 

 

「……聖都大学附属病院の外面破壊」

 

「ほう? また前回と似たようなことをするんだな、芸のない」

 

「……むぅん……」

 

 

アヴェンジャーとカリギュラは共に画面を覗き込み、似たような感想を抱いた。パソコンに写っているのは聖都大学附属病院の裏口付近、室外機やら何やらがよく集まっていそうな部分。ここの破壊は確かに効くだろうが、それだけに思えた。

しかし、真黎斗はそう言われても怒らなかった。そして口元をニヤリと歪め、続ける。

 

 

「──というのは体面で、これと平行して、もう一つの目的がある」

 

「……ん?」

 

「カリギュラにしか行えないことだ。場合によっては令呪のバックアップを加えてでも強行する──」

 

 

そう前置きして、真黎斗は本当の計画を話し始めた。

 

───

 

 

 

 

 

「急いで!! 」

 

 

ストレッチャーが患者を乗せて駆け巡る。キアラの元から助け出された患者総勢29名、内3名は重体で手術室へと運ばれていき、残りは意識が混濁しているために薬品の投与を開始しなければならなかった。

 

永夢は、手術室へと向かう飛彩と居合わせた。彼はついさっき灰馬にジャンヌの退場を告げ、その足で手術着を着込んでいた。

酷なことだと、永夢は思った。数日とはいえ寝食を共にした仲間を失ったその日の内に、他の人の命を背負うのだから。しかし飛彩に、憂いの色はなかった。

 

 

「……頑張って下さい。全員……助けてください」

 

「当然だ。俺を誰だと思ってる」

 

 

世界で一番のドクターだぞ……飛彩はそうは言わなかった。ただ、ゴム手袋を着けて手術室に赴く彼の背には、確かに自信が満ちていた。

 

 

「……お願いします」

 

 

永夢はもう一度だけそう言って、他の人々の治療に戻る。

まだ、何も終わっていない。寧ろ、ここからが始まりだ。

 

永夢が向かったのは、現在作やその他のキアラに取り込まれた人々のいる病室だ。その中には子供達もいたため、小児科医としての仕事があった。

 

 

   ガラガラガラ

 

「あ、永夢……」

 

「作さんは? 皆はどうですか?」

 

 

既に部屋で診察を行っていた明日那が、苦い顔をした。その隣では先に来ていたナイチンゲールが、黙々と消毒液を準備している。

この病室の患者は皆、強制的に快楽に浸けられていた状態だった。治療としては抗うつ薬の使用を主としているが、バグスターによる症状ということもあって、どうしても慎重に動かなければならなかった。

 

永夢は取り合えず、ナイチンゲールから機材を受け取って小さな子供の診察を開始する。彼らの無事は、祈ることしか出来ない。

 

───

 

 

 

 

 

「怖い……怖いよぉ……」プルプル

 

「大丈夫だよ、大丈夫だからね……」

 

 

キアラに飲み込まれた少年の一人は、異常なストレスで消えかかっていた。永夢が少年の体にめり込まない程度に強く肩をさする。

 

 

「容態はどうですか、マスター」

 

「……多分、ストレスでPTSDになりかけてるかも」

 

「……そうですか」

 

 

この病室の全員が、ストレスを抱えていた。また全員がゲーム病に感染している以上、そのストレスは命の危機に直結する。

 

 

「……永夢」

 

 

唐突に、明日那が永夢を呼び寄せた。

作のベッドの隣にいた彼女は、作が目を覚ましそうだと永夢に告げる。

 

 

「っ……!! 作さん!! 目を覚まして!!」

 

「作さん!!」

 

 

呼び掛ける。呼び掛ける。その声は届いているのかどうか、外からではさっぱり分からず。しかし、呼び掛ける。結局、病を治すのは患者だから。せめて、患者と共にあろうとする。

 

 

「う……あ……」

 

「作さん!! 聞こえますか、作さん!?」

 

 

……そして、作はその瞼を開けた。虚ろな目で、辺りを見回す。そして、呟いた。

 

 

「……あ、あぁ……あなた、は……」

 

「作さん!!」

 

「……キアラ、さま……?」

 

「……っ」

 

 

永夢と明日那は顔を見合わせた。その背後で、ナイチンゲールがカルテに病状を書き付ける。

どうやら作は、キアラと永夢とを混同しているようだった。あり得た話だが、目の当たりにするとやはり心が痛んだ。

 

 

「……どうやら精神的にかなり疲労していると見られますね」

 

「そうね……」

 

 

明日那が俯く。この病室の人々は、大なり小なりキアラの存在を焼き付けさせられているのだろう。それがどうしようもなく痛ましくて。

 

 

「……でも、絶対に諦めない」

 

「……ええ。作さんは必要だから。彼にも、やらなきゃいけないことが、まだ残ってる」

 

 

それでも、絶対に諦めない。諦められない。作の存在は現在のCRには必要不可欠だし、他の患者だって、きっと誰かが無事を祈っているから。

 

いつの間にか、月が高く上っていた。

 

───

 

「お疲れさまです、マスター」

 

「……俺より疲れてる奴等は沢山いるだろ」

 

 

サンソンは、ずっと病院の物資運搬の大半を一人で担っていたパラドにコーヒーを差し出していた。今は休憩時間だが、後十分もしない内に彼はまた病院全体を駆けずり回ることになる。

医者として看護師のサポートに回っているサンソンとしてはパラドに従えないことがもどかしかったが、それでも自分も頑張ろうと決意していた。

 

 

「……でも、マスターだって十分やっているかと」

 

「……かもな」

 

 

パラドがコーヒーを一気に飲み干して、天井を見上げる。その口から、少しだけ独り言が溢れた。

 

 

「……俺は、かつて命を奪った」

 

「……そうですね」

 

「今でも、少しでも埋め合わせをしようと頑張ってるとは思ってる。でも──誰かの命の埋め合わせなんて、出来ないんだ」

 

「……そうですね」

 

 

今のサンソンには分かる。何故己が彼のサーヴァントに選ばれたのか。

共に、多くの命を奪ってしまったから。そして、共に償いを求めているから。

 

 

「……でも。マスターの努力は、決して無駄な物ではないと、僕は思います」

 

「だと、いいな」

 

 

そしてパラドは立ち上がる。サンソンも、再び現場へと赴く。

彼らは今は、するべきことをするだけだった。




次回、仮面ライダーゲンム!!


──進められる計画

「また襲撃か!!」

『令呪を二画重ねて命じる……』

「ここで、止めないと!!」


──聖都大学附属病院崩壊の危機

「酷い揺れだ……」

「急いで患者を運ばないと!!」

「背に腹は代えられない、か」


──そして、唐突な別れ

「マスター、令呪を!!」

「駄目だ、お前も道連れになるぞ!!」

「それでも、いいですから!!」


第二十話 清廉なるHeretics


「良いんです。ああ、これこそ道理と言うものだ」

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