ジャックは流石にガバガバ外科手術はドクター的に不味いかと思って没にして、ケイローンはエミヤの方が話を進めやすかったから没にしました
……太陽が、昇った。
与えられた自分の部屋で外を眺めていたアヴェンジャーは、そろそろ計画の開始だろうと立ち上がり、外に出る。
そこで、マシュとすれ違った。
彼女は、やはり暗い顔をしていた。
「……どうした、マシュ・キリエライト」
「……いえ、ただ……私も、黎斗さんから指示を受けただけです」
「どんな指示だ」
「……」
マシュは、アヴェンジャーの問いには答えずそっぽを向いた。大方、CRの妨害だろうと考えたアヴェンジャーは、それ以上は何も追求せずにマシュに一本煙草を差し出す。
「……いえ、私は吸わないので」
「構わん。取り合えず持っておけ」
そしてアヴェンジャーはそれをマシュに押し付けて、階段を下りた。
人間は誰も居はしないロビーで、カリギュラが待っていた。その姿は、バーサーカーというには落ち着いているように思えた。アヴェンジャーは彼と並び立ち一瞬だけ視線を交えて、どちらともなく歩き出す。
「さて……バーサーカー、カリギュラ」
「何、だ?」
自動ドアを潜ると同時に、アヴェンジャーが声をかけた。特に何も恐れるものはない、警戒するものもない二人は霊体化すらせずに街道を歩く。
「一つ聞きたかったんだが……お前は、檀黎斗をどう思っている」
「……」
カリギュラはそう言われて、少しだけ考えた。とはいっても、狂った頭ではろくに考えられられはしないが。それでも、言えることがあった。
「……檀、黎斗……神。彼こそ、ローマにして、神、だ」
「……そうか」
……かつて、カリギュラを狂わせたのは月だと謳われた。月が、ローマの悪習に囚われる前にカリギュラを守ったのだと。
そして、カリギュラを設定する際に彼を狂わせたのは黎斗だ。つまり……カリギュラを狂わせた月こそ、黎斗と言えるのだろう。
アヴェンジャーはそう思い至り、皮肉げに笑った。
───
「花家医院が本格的に受け入れを開始するって!!」
「分かりました!! 今すぐ重病患者の輸送を開始します!!」
その時、聖都大学附属病院では丁度患者の大規模輸送が始まっていた。大我の病院がとうとう受け入れ準備を整えたらしく、向こうからの連絡が入ったのだ。
とはいえ、この連絡もゲンムコーポレーションに傍受されている。患者の安全を考慮して、向こうからはエミヤが監視に入ると言っていた。こちらは既に貴利矢とマルタが出向いている。
「パラド、ストレッチャーをあるだけ持ってきて。患者さん達を救急車に乗せるから」
「はいはい」
永夢がそうパラドに指示を出した。パラドは二つ返事で了承し、患者を運ぶためのストレッチャーを運びにかかる。
プルプル プルプル
「……ん?」
……しかし、突然永夢のポケベルが鳴ったのでパラドは動きを止めた。連絡してきたのが、黎斗神だったからだ。パラドは耳を傾ける。
「……どうしましたか」
『……ゲンムのサーヴァントが二体接近している。現在裏口まであと300メートル!!』
「何ですって!? また襲撃ですか!?」
思わず永夢はポケベルに叫んだ。もう患者の移動は開始している、今更中止は出来ない。そして、患者が皆ゲーム病患者である以上、経験のあるCRのドクターは皆移動に付き添う必要があった。
永夢は慌てて辺りを見回し……そして、パラドを見る。つい一昨日、戦うなと言ったばかりの彼を。
「……永夢」
「パラド……」
「任せろ。ここは、俺が引き受ける。ああ、取り合えずはゲンムのバグヴァイザーを使うから安心しろよ」
パラドはそう言った。永夢は引き留めようとしたが、現状は彼に頼る他なかった。
永夢は、サンソンを引き連れて飛び出していこうとするパラドに、ビルドガシャットは使うなと呼び掛けるので精一杯だった。
───
「っ、とっと……ギリギリ間に合ったみたいだな」
「そのようですね……ここで、止めないとっ!!」
それから一分もせずに裏口から飛び出したパラドとサンソンは、すぐに待ち構えていた二人のサーヴァントに気がついた。
ゲンムのバーサーカー、カリギュラ。そしてもう一人、パラドも扱うガシャットで返信する外套の男。
「さて……出迎えにしては、数が少ないな」
「お前ら……何の用だ」
「当然、マスターである檀黎斗からの指示をこなしに来た。それだけだ」
「っ……」
事も無げに、外套の男はそう言った。サンソンはその剣を強く握り、パラドも黎斗神の元から借りているバグヴァイザーを取り出す。
「生憎だが、他の奴等は用入りだからな。……俺達と遊ぼうぜ。バーサーカーに──」
「……アヴェンジャーだ」
「……そうか。じゃあ……頼んだぞ、アサシン」
次の瞬間、サンソンが飛び出してカリギュラへと斬りかかった。その剣はカリギュラの首を捉え、しかし刃は容易くその腕で弾かれる。
初撃で失敗した。パラドはアサシンの周囲に警戒しながら、いざというときに使えるようにビルドガシャットに手をかけ、ガシャコンバグヴァイザーのビームガンを構える。
『『ガッチョーン』』
『Knock out fighter!!』
『Perfect puzzle!!』
「……行くぞ」
「余の、行いは……運命で、ある……!!」
『バンバンシューティング!!』
『ゲキトツ ロボッツ!!』
そして、アヴェンジャーとカリギュラが共にその腰にバグヴァイザーL・D・Vを装填した。さらに各々のガシャットの電源を入れ、変身する。
「「……変身……!!」」
『マザル アァップ』
『赤い拳強さ!! 青いパズル連鎖!! 赤と青の交差!! パーフェクトノックアーウト!!』
『バグル アァップ』
『ババンバン!! バンババン!! バンバンバンバンシューティング!!』
『ぶっ叩け 突撃 猛烈パンチ!! ゲ キ ト ツ ロボッツ!!』
───
「何だって!?」
『だから!! 今聖都大学附属病院がゲンムのサーヴァントに襲われています!! 至急来てください、貴利矢さん!!』
「あ、ああ分かった!!」
貴利矢はその時エミヤと落ち合って、どう道を護衛するかの相談をしていたのだが、永夢からの連絡でそうも行かなくなった。
この場をエミヤに任せて開けるのも、それはそれで不味い。しかし──そう考える彼らの元に、一人のサーヴァントが現れる。
「……待って」
「何だ姐さん、今──」
マルタの視線の先に、女がいた。その名は、マシュ・キリエライト。彼女が黎斗から言い渡された命令こそ、聖都大学附属病院の援軍になり得るサーヴァントの相手、だった。
「……ごめんなさい」
『ブリテン ウォーリアーズ!!』
そう言いながら、マシュはガシャットの電源を入れる。
マルタと貴利矢は顔を見合わせる。まさかここまで危機を重ねてくるとは。……しかし、エミヤだけはマシュに違う目を向けていた。
「……まさか、守護者か?」
「何だアーチャー、何か手があるのか!?」
「……ここは、私に任せてくれ」
そしてエミヤは、貴利矢にそう呟く。その手には、既に投影した一組の剣が握られていて。その目は、後輩のみをじっと見つめていた。
───
パラドとサンソンは、確実に善戦した。バグヴァイザーと然程強くないサーヴァントだけで、二人の仮面ライダーと二十分は渡り合ったのだから。
しかし、それだけだった。戦力差は圧倒的、勝てなかった。
『Buster chain』
「はああっ!!」
「っ──」
殴りかかってくるアヴェンジャーに対してパラドはバリアを展開するが、容易く割り砕かれて彼は力なく転がる。しかしすぐに立ち上がり、彼は膝についた砂を払った。
「……仕方ない、か。悪いな永夢」
『仮面ライダー ビルド!!』
このままでは、勝てない。そう思った。だから、やるしかないと考えた。パラドは近くに隠していたゲーマドライバーに手を伸ばし──
「おおっと、ちょっと待ったちょっと待った!!」
『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』
「っ、レーザー!?」
病院の四階から飛び出してきたレーザーターボが、空中で弓を射る。アヴェンジャーとバーサーカーはそれを弾くが、少しだけライフに響いた。
「……護衛は? お前がいなくても大丈夫なのか?」
「今は仕方ねぇだろ。……当然俺もあっちにいた方が安心なんだが、アーチャーがこの場は引き受けるって言ってな」
「……そうか」
パラドは並び立ったレーザーターボとそう言葉を交わした。
現在の真黎斗ならば、道路を変質させて救急車を妨害するなど容易。それを知っているレーザーターボとしてはあの場を離れるのは心苦しかったが、それでもこの病院にも患者が残っている。
「それに、俺だけじゃない。……姐さん!!」
そして、レーザーターボは天を仰ぎ、叫んだ。それにつられて、一同が天を見上げる。
何もない。ただ、青空が広がっているだけ。
「愛を知らぬ哀しき竜よ……ここに、星のように!!
「っ!?」
「後ろかっ!?」
アヴェンジャーが後ろを向いた時にはもう遅い。態々遠回りをして後方に回っていたマルタの宝具は、もう二人の鼻先まで迫っていて。
『Buster chain』
『Buster chain』
「駄目だ、間に合わ──」
ガガガガガガガガ
「──!!」
当然、抵抗も出来ず。アヴェンジャーとバーサーカーは共にタラスクに撥ね飛ばされ、そしてレーザー撥ね飛ばされた先でレーザーターボに斬りつけられるという目に遭った。
「……ハハッ、乗せられちゃった?」
「っぐぅっ……!! 確かに、想定外だったな」
「捧げよ……その、魂、捧げよ!!」
その場から飛び退きながら体勢を整えるアヴェンジャーとバーサーカー。あっという間にレーザーターボとマルタとタラスクが戦場に加わり、二人の優位は崩された。しかし、二人に大した焦りはなく。
───
「うーん、曖昧な所ね、マスター。勝てると思う?」
「マシュ・キリエライトが真面目に働けば容易かったが……この状況でも、ここで勝つことに集中すれば出来ないことはない。ファントムの分の令呪も注ぎ込めば、あの二組は容易に潰せる」
「……その言い方なら、そうはしないのよね?」
「そうだな」
モニターで戦況を観察しながら、真黎斗とナーサリーはそう言葉を交わす。現在は、二人とも聖都大学附属病院の攻撃は行っていない。
代わりに……黎斗のパソコンには、支配領域の全ての携帯電話、スマートフォンの画面のデータが映っていた。
「……目的は、別のことにある」
そして真黎斗はそう言いながら、『日本政府より連絡』の文字を入力する。そしてその下に『今すぐ外に出てください』、と、打ち込んだ。そして、巨大なエンターキーを叩きつける。
「……送信完了。……頃合いか」
───
『マッスル化!! マッスル化!! マッスル化!!』
『1!! 2!! 3!!』
アヴェンジャーの手元のパラブレイガンにマッスル化が三重にかけられる。アヴェンジャーはそれによって巨大になったパラブレイガンを振りかぶりながら、腰のバグヴァイザーに手を伸ばした。
『パーフェクト ノックアウト クリティカル ボンバー!!』
「はああああああっ!!」
「お願い、タラスク!!」
全身に力を籠めての強引な打撃。そんな一撃であっても、タラスクは受け止め、弾く。アヴェンジャーはマルタとタラスク、そしてサンソンにパラドを同時に相手していた。その隣ではレーザーターボがバーサーカーを圧している。
「っ……」
そしてとうとう、アヴェンジャーのライフゲージが赤色になった。アヴェンジャーは少しだけ苛立たしげに舌打ちをし、その場から飛び退く。
彼は待っていた。真黎斗の、本当の命令の決行を。
「まだか、檀黎斗……!!」
『……令呪を二画重ねて命じる』
その刹那、バーサーカーとアヴェンジャーの脳内についに真黎斗の声が響いた。打ち合わせ通りのことだった。
『宝具、
……その命令も、確かに打ち合わせ通りだった。
「神……おお、神が、見える……!!」
『バンバン ゲキトツ クリティカル ストライク!!』
「うぉ……うおぉ……うがあああああああ!!」
カッ
「っ、熱い……!!」
突如バーサーカーが、叫びながら巨大な右腕を振り上げた。基本的にはロボットの腕の形状であるそれは自爆に際したバーサーカーから放散される熱で変形し、砲台を形作る。
天に向いた砲台。そこに狂気とエネルギーが溜まっていく。溢れていく。バーサーカーの限界と共に爆発する爆弾にして拡散兵器。
「……やはり、残酷なことだな。去らばだ、カリギュラ」
その姿を見届けることなく、アヴェンジャーはその場から消え失せる。しかし一人消えた所で、誰もバーサーカーには近づけなかった。
熱が溢れる。あれが爆発すれば、病院は一堪りもない。というか、既に壁が溶け始めている。その場にいるのは皆バグスターだから助かっているものの、人間がいたなら確実に全身火傷だろう。いや、バグスターでも、近づけば危ない。
それなのに。
「……アサシン!?」
「僕が行く。僕が、行ってきます」
サンソンが駆け出した。彼はバーサーカーから溢れる熱量も意に介すとこなくバーサーカーに近づき、そのバグヴァイザーをもぎ取ってパラドに投げ渡す。しかし、それでも一度起動した宝具は、解除されず。
『ガッチョーン』
「何やってるんだアサシン!! 戻れ!!」
「……マスター!! 令呪を!!」
「何だって!?」
「バーサーカーを押さえ込めと令呪を下さい!!」
サンソンの体が、ぶれ始めていた。しかしサンソンはそれに構わず、病院を背にしてカリギュラに抱きつき、爆発の勢いをその身に受けようとしていた。
「駄目だアサシン、そしたら、お前は……!! お前も、道連れになるぞ!!」
「それでも、いいですから!! 早く!!」
……サンソンの脳裏には、戦う
今ここで、彼を助け彼の助けたい人々を助けられるなら……それは、良いことだとサンソンには思えた。
「……っ……マスター!!」
「……令呪をもって命ずる、バーサーカーを、押さえ込め!!」
……パラドは、そう言ってしまった。サンソンの望みに、負けてしまった。
「っ……うおおおおおおおおおおおっ!!」
サンソンはその言葉を聞き届けて、少しだけ嬉しそうにカリギュラを押さえ込む。少しでも、病院を守れるように。
パラドも彼に報いようと、病院の全体にバリアを展開した。それは今のパラドには厳しい行動だったが、それでも全力を尽くす。
……そして。
「がああああああっ!!」
「あああああああっ!!」
カッ
───
グラグラッ
「酷い揺れだ……」
「急いで患者を運ばないと!!」
その時、病院内は揺れていた。物理的にだ。廊下の角度は元々当然のように0度だったのがいつの間にか3度程になり、落とした器具が転がる程度にはなっていた。
まだ、患者は全員移送出来ていない。エミヤがゲンムのシールダーと交戦していると聞いた為に遠回りも余儀なくされている。余裕がなかった。
「暫くはこの棟は放棄しないといけませんね」
「背に腹は代えられない、か……」
永夢と明日那がそう言葉を交わす。その顔は苦くて。
カッ
グラグラグラグラッ
「きゃあっ!?」
また、廊下が傾いた。
───
「……余の、命……捧げ……」
……カリギュラが、消滅した。爆発の煙が止むのと同時だった。
彼はその腕より熱と共に爆発を解き放ち、ゲームエリア中に攻撃を放った。そしてまた、彼の近くの空間を消し炭にした。
……しかし、サンソンが身を張って守った病院は、耐えていた。患者は皆、無事だった。
そのサンソンは、パラドのバリアに叩きつけられていた。パラドが慌ててバリアを解除し、サンソンに駆け寄る。
「アサシン!! 大丈夫かアサシン……!!」
「マスター……」
……その足は、もう金の粒子になっていた。
「アサシン、耐えろ!! まだやりたいことあるんだろ!! 言ってただろ!?」
「……良いんです。ああ、これこそ道理というものだ」
「何言ってるんだよ!!」
パラドがサンソンに声をかける。肩を揺さぶる。しかし、サンソンはもう何も望まない。
もう、腰まで消滅していた。
「……マスター。貴方と会えたことは、僕にとって幸運でした。貴方は僕を、認めてくれた。僕と、同じだった」
「アサシン……」
シャルル=アンリ・サンソン。フランス革命に立ち会った、清廉なる異端者。その顔には、もう満足しかない。バグスターの仮初めの命は、それでも彼の望みを遂げさせた。
「……ありがとう。その道に、祝福があることを祈ります」
……そして、サンソンは完全に消滅した。
CRのアサシン、脱落。
次回、仮面ライダーゲンム!!
──マシュ、真黎斗と対立
「何故役目を果たさなかった……!!」
「私は……」
『何かあったなら、私の元へ来るといい』
──増え続ける患者
「癒しの水増やして!!」
「ベッド増やすぞ!!」
「薬が足りない!!」
──そして、CRに来訪者
「これよりサーヴァントの魂を解析する」
「……何故、お前がここにいる」
「お前は……ゲンムの……」
第二十一話 Real Heart
「ガシャットの使用権を剥奪する!!」