Fate/Game Master   作:初手降参

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言うことないな……
作者の自転車の名前はレーザー・スターリオンmk2です(自分語り)



第二十二話 Lose your way

 

 

 

 

 

「……何故マシュ・キリエライトを入れた、ポッピー!!」

 

「だって……」

 

 

ポッピーが俯く。彼女は、マシュと話している内に段々情が沸いてしまって、一度黎斗神と話をさせようと思ってしまったのだ。出来れば黎斗神に謝罪して貰って、そうして、マシュに此方側に付いて貰いたいとも。

 

 

「……黎斗さん」

 

 

マシュの目が、黎斗神に向けられる。

黎斗神は、マシュに入られたことは鬱陶しく思っていたが、マシュに責められることは何とも思っていないらしく特に何のリアクションも見せない。

 

 

「何で、私達を作ったんですか?」

 

 

マシュはそう聞いた。ずっと思っていることだった。

 

 

「決まっているだろう。私が、究極のゲームを作るためだ」

 

「それなら、何で私達に、あの旅をさせたんですか?」

 

「テストプレイだ。言っただろう」

 

「私達に、何で意思を与えたんですか!! 全て貴方の手の上なら、いっそ、何もないほうが良かったのに!!」

 

 

……黎斗神には、ここまでマシュが怒る理由がイマイチ飲み込めていない。何しろ、彼女の反応は今までのバグスターのそれとは、全く違っていた。

悪の大魔法使いとしての設定を組み込んだアランブラにだって過去はある。ライバルレーサーとしての意思を持ったモータスにだって意地がある。全て黎斗が組み上げた物だ。

しかし、彼らはマシュのような反応はしない。皆が皆、与えられた役割を演じることに抵抗はなかった。

二つの差は、その意思に黎斗が手を加えたかそうでないか、それだけなのに。黎斗神には分からない。分からないし、謝ることなど何もない。

 

 

「……私は君に謝ることなど一つもしていない。君が怒る理由も分からない」

 

「く、黎斗!?」

 

 

ポッピーが動揺する。まさかストレートに言うとは。いや、前にゲーム病のニコに死んでもバグスターになれる、と言っていた辺り言うかもしれなかったが、それでも自重はすると思っていた。

 

 

「分からない……? 分からないんですか黎斗さん!?」

 

「ああ分からないとも。何故君がそこまで拘るのか分からない!! 私のシナリオは完璧な物だ、違和感の一つもあるはずがない!! 君達は君達の世界で役割を終えその後こちらに呼び出されたそれだけだ!!」

 

「そんなことない!! 私達は、私達は──」

 

「何故空虚さを覚える!! 君の旅は私の作ったものだ、私の手の上にあったものだ、それがどうした!!」

 

 

黎斗神は、いつの間にか冷静さを欠いていた。自分の産み出したキャラクターが離反するのは構わなかったが、自分の設定に文句をつけられるのは我慢ならなかった。

 

黎斗神にとって、ゲームの過去も現実の過去も何ら変わりない。

そもそも、彼は現実を絶対の物とも思っていない。彼は未来だけを見て生きている人間だ。過去は過ぎ去った物語でしかなく、仮にそれが誰かに作為的に作られたものであろうと、それをどうしようとも思わない。

 

 

「私達の全ては偽物なんです!! 私達の過去も!! 私達の旅も!! 私達の命も!! ラーマさんもジル・ド・レェさんもエミヤさんも偽物なんです!! 皆偽物なんですよ!! 貴方でさえも!!」

 

「っ……ほう?」

 

「貴方だって!! 本物の檀黎斗の記憶を引き継いだ、本物の檀黎斗の物語をコピーして生まれたバグスターなのに!! 貴方だって、偽物なのに!!」

 

 

マシュは口論の末に、黎斗神すらも偽物だと、そう言った。しかし黎斗は動じない。それがどうした、私は究極のゲームを作るだけだ、それで終わる。

 

例え自分が、本当の自分のコピーであると知っても、彼は何とも思わない。むしろ自分の才能を誇る。自分の神の才能が命のあり方を変えた、と。

例え世界が、五分前に誰かに作られたものと知っても、彼は何とも思わない。彼の目指すものは究極のゲームのみ。

 

そういうものなのだ。彼は何とも思わない。彼だけではない、他のバグスターも人間も、誰も何とも思わない。少し疑問に思っても、しかし仕方のないことだと忘れるのだ。悩み続けているのは、マシュだけなのだ。

 

 

「私は私だ!! 私は私が何者であろうと、私の才能を具現化することが私の使命!!」

 

「っ──」

 

 

黎斗神は、檀黎斗と変わっていない。変わったのは、その具現化が皆を笑顔にするものであれ、というオーダーを受けたことのみ。それ以外は、本当に変わっていない。

マシュはそれを悟り、踞った。悔しかった。涙が、堰を切って溢れだした。

 

 

 

 

 

「ゲンム、ちょっと黙ってろ」

 

 

パラドが、黎斗神をそうたしなめた。そしてマシュに手を伸ばして反応を見る。

 

 

「おい、あーと、マシュ?」

 

「……」

 

「……俺もバグスターだ。話がしたい」

 

「……?」

 

 

自分もバグスターだ、という声で、マシュは思わず目線を少し上げた。パラドの目は真剣だった。

 

パラドは怒っていた。先程まではサンソンを見殺しにしたことに対しての怒りだったが、それに加えて今はマシュのこともあった。

 

 

「聞かせてくれないか、お前の過去(設定)を。俺は知りたい。知って、力になりたい」

 

「──」

 

 

マシュは暫く静止していたが、思わずその手を取った。

 

───

 

マシュの説明は、余り上手いとは言えなかった。かつては皇帝すら納得させてきた語り口は、実力行使の波に呑まれ今は見る影もなかった。

しかし、パラドは辿々しい説明の全てを、頷きながら聞いていた。

 

 

「それで……その、その退去の時に……あの、レイシフトから帰るときは何というか、その、光に包まれるような感じがするんですけど……その時に、その、黎斗さんが……ドレイクさんを、バグスターで消滅させて──」

 

「……そうか」

 

 

既に、一時間は経っていた。長いようにも思えたが、詳しく語っても彼女の一生の半分ほどをそれだけで話せたのだから、やはり彼女の命は短かった。

 

貴利矢とマルタは遠巻きに眺めていた。貴利矢は自分が茶々を入れるべきではないと考えていて、マルタは話を聞いている内に下手したら黎斗神に手を出しかねなかったから自重していた。

BBは、キアラの存在を知ってからほぼずっとパソコンに向かっていた。キアラが倒された後でも。彼女もマシュが来たことには気づいていたが、ポッピーにとっては喜ばしいことに何も言わなかった。

当然のように、黎斗神はガシャットを調整していた。メディア・リリィは何時ものようにその背に杖を突き刺して治癒をかけていた。

 

 

「それで、それで……私がその後に、帰ってきた後に黎斗さんを問い詰めたら、ブーディカさんも同じだって言われて、それで……」

 

「……辛かったな」

 

「……」

 

 

パラドは、知っている。

その全てが黎斗のゲームだと最初から知っている。彼がゲームをプレイする様を知っている。

知っていて、止めなかった。その時の彼は止めようなんて思わなかった。ただ、早く仮面ライダークロニクルを作れとしか思っていなかった。

今となっては、申し訳ないことをしたと、そう思った。

 

───

 

 

 

 

 

「ねぇ、どう思うマスター?」

 

 

それから暫くして、ナーサリーがマシュの位置情報を見ながら呟いていた。マシュの体内のGPSは、彼女が今CRにいることを如実に示していた。ナーサリーは、それを見てどうしようかと迷っていた。

 

 

「どうする?」

 

「……この時を、待っていた」

 

「マスター?」

 

 

……しかし、真黎斗は嗤っていた。全てが、上手く行ったと。

 

 

「ここまで泳がせた甲斐があった……!!」

 

───

 

 

 

 

「それで、私は、守護者になろうと決心しました。黎斗さんには、任せられない……」

 

 

いつの間にか、話し始めてから二時間だった。そろそろ夜明けだった。

飽きることなく話していたマシュはかなり疲れてこそいたが、それでも、ずっと話を聞いてくれるパラドに安心感を覚えていた。

 

だからこそ、不意打ちを警戒なんてしていなかった。

 

 

「そして、決戦の朝が来ました。私達は聖都へと──」

 

 

 

 

 

『令呪をもって命ずる』

 

 

 

 

 

「──え?」

 

 

突然、マシュの脳裏に真黎斗の声が響いた。マシュの心身はそれと同時に凍りつき、恐怖でピクリとも動かなくなる。

それに構うことなく、宣告は告げられた。

 

 

 

 

 

『CRを破壊しろ』

 

 

 

 

 

「……嫌、嫌です」

 

「マシュ?」

 

「嫌です、嫌です……!! 嫌、嫌、やめて……!!」

 

 

マシュは震える自分の右手を左手で押さえつけながら、椅子から転げ落ちた。少しでも気を抜いたら、右手は勝手に剣を抜いて破壊活動を始めてしまう。令呪を何とか押さえるだけの対魔力が、彼女にはあった。

 

 

「おいマシュ!!」

 

「どうした!!」

 

「やめて、やめてください!! 嫌、嫌、嫌!! わたしは……!!」

 

 

命令に従おうとする衝動を押さえ込む。理性でもって押さえ込む。意思でもって押さえ込む。

……しかし、この意思すらも黎斗の手の上なのではないか?

そう思ってしまった。それと同時に、命令が左腕にも伝播する。体が侵食されていく。マシュは必死に両手を足で押さえ込むが、限界は近かった。そして。

 

 

「やめて、はいってくる……やめて……やめて……!!」

 

『重ねて令呪をもって命ずる。CRを破壊しろ』

 

「やめて、いや、やめて、ください……!!」

 

 

……マシュ・キリエライトは、二つ目の令呪によって敗北した。完全に。

 

支配権を完全に奪われたマシュは一瞬フリーズし、次の瞬間エクスカリバーを握りながら立ち上がり、それでCRの天井を切り裂いた。

明かりが明滅し、一瞬闇に包まれる。そしてまた明るくなった時には、CRの配線は完全に破壊されていた。

 

 

「っ……神、ガシャット!!」

 

「修理中だ!!」

 

 

貴利矢が黎斗神にガシャットを要求する。しかし先程投げ渡したばかりのガシャットの修理がもう終わっているなんてことはなく。しかも黎斗は、パソコン一式を抱えて逃げようとしていた。

 

 

「ここは私が!!」

 

『ときめき クライシス!!』

 

 

ポッピーがガシャットを構えて、マシュの前に立つ。

この責任は、完全にポッピーにあった。彼女がマシュを、招き入れてしまったのだから。

 

 

「……変身!!」

 

『バグル アアップ』

 

『ときめきクライシス!!』

 

 

変身したポッピーがマシュを押さえ込む。彼女は既に、マシュの暴走の原因が真黎斗の令呪だと察していた。暫く抑えれば解放される筈だと。

だからマシュの手首を捕獲し暫く押さえつけることをポッピーは目標にした。マシュを、傷つけられなかった。

 

 

「はあっ!! あああっ!!」ブンッ ブンッ

 

「っ、止まってマシュ!!」

 

   ガン ガン

 

 

バグヴァイザーⅡのチェーンソーとマシュのエクスカリバーが交差する。鈍い音と共に二人の間を往来する刃は、互いを傷つけることは出来ず。

 

 

「頼む姐さん」

 

「任せなさい!!」

 

 

そして、その隙を見て背後に回ったマルタが、マシュを羽交い締めにした。タラスクこそ呼べないが、彼女の馬力は十分だった。

 

 

   ガシッ

 

「落ち着いて!! 落ち着きなさいマシュ!!」

 

「あああっ!! はああっ!!」バタバタ

 

 

暴れるマシュ。手を動かした拍子に、彼女の手からエクスカリバーが溢れ落ちた。音を立てて剣が転がる。

それが、マルタを油断させた。

 

マシュはその瞬間にマルタからすり抜け、ルールブレイカーを黎斗神のパソコンに投擲し──

 

 

「はああっ!!」

 

   ダンッ

 

 

貫いた。

 

 

「──!!」

 

「黎斗!?」

 

「おい、お前!!」

 

 

投げたルールブレイカーは、黎斗のパソコンを穿っていた。モニターも基盤もキーボードも貫いて、破壊していた。

ポッピーも思わずそちらを向く。全員の目がそこに集中する。

 

 

「──……私は」

 

 

そして、そこでマシュは自分の主導権を取り戻してしまった。黎斗のパソコンを破壊することが、CRの息の根を止める条件だったのだろう。

 

 

 

「──」

 

 

マシュは剣を拾い、何も言えずに駆け出した。ここに至っては、何の言葉も意味はなかった。彼女は駆け出しながら霊体化し、その場から消え失せた。

 

───

 

 

 

 

「……」

 

 

もう、彼処には戻れない。

 

聖都大学附属病院近くの公園のベンチに現れた彼女は、半ば呆然と空を眺めていた。平日の昼前に、人はあまり多くない。

太陽が照りつけていた。マシュは八つ当たりの意を籠めてそれを睨もうとしたが、眩しさに負けて目を背けた。

 

 

「私は……」

 

 

自分は、徹底的に真黎斗の駒らしい。曲がりなりにも自分の意思でCRを訪れたはずだったのに、それすらも利用されてしまった。

黎斗の笑い声が脳内に蘇った。

 

 

 

 

 

「……ここにおったのか、マシュ」

 

「……信長さん、ジークフリートさん……」

 

 

聞き慣れた声に顔を上げれば、信長とジークフリートがいつの間にか彼女の傍らに立っていた。迎えに来たのだろうか。

 

 

「……黎斗から聞いたぞ」

 

「っ……私は……私は……」

 

「……すまない、俺もそこに居れば良かったのだが」

 

 

マシュの肩は震えていた。徹底的に打ち据えられた彼女の精神はもうズタズタだった。とうの昔に砕けていた彼女の水晶が、きりきりと痛んだ。

 

 

「……さい」

 

「……?」

 

「……どうした」

 

「……ください」

 

 

そして、その痛みが、彼女の道を決定付けた。

 

 

「……私と一緒に……来てくれませんか。私と一緒に……黎斗さんを」

 

 

即ち、独立。ゲンムには戻りたくない、CRには戻れない、ならば、と彼女が選択したのはそれだった。

痛みが、黎斗を許してはならぬと囁いた。苦しみが、黎斗を終わらせることが贖罪だと告げた。黎斗を倒せ、黎斗を倒せと衝動が彼女を駆け巡った。

例え彼女の意思が全て黎斗によるものであったとしても、黎斗を倒すということだけはそれでも可能だった。それは、壊してしまったCRへのある種の義理立てでもあった。

 

 

「お願いです。私と……一緒に、来てください」

 

 

……信長はやっぱりな、という顔をしながら、ジークフリートは困惑を浮かべながら視線を交えた。二人はマシュの思いは何となく理解はしていたが、しかし完全に彼女に肩入れすることも出来なかった。

 

 

「……わしは、賛成できんな」

 

「信長さん……」

 

「……すまない。俺も、すぐに頷くことは出来ない」

 

「ジークフリートさんも……」

 

 

マシュは道を見失っていた。

最早、迷うべき岐路すらも分からない程に。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───新生CR

「ここをキャンプ地とする」

「何処で買ったのよこれ!?」

「パソコンの修理を始めようか……!!」


───花家医院での対話

「裏切ってどうする。何をする。何が出来る」

「私は、どうすれば……」

「ここは病院だ。てめぇに付き合ってる暇はないんだよ……!!」


───そして、訣別

「……ありがとうございます」

「全く……手間のかかる奴じゃ」

「私……私は、それでも」


第二十三話 逆光


「ネットワーク潜航救急車シャドウ・ボーダー、出航だ」

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