確かクロノスがニコを拉致したとき、ニコにドライバーも何も渡さずにクロノスになれる云々言ってた気がしたけど、つまりクロノスにはバグヴァイザー使用パターンとゲーマドライバー使用パターンとドライバーなしパターンがあるという認識があると見ていいんだろうか
それとも全部作者の勘違いなのか
───
──
─
「はい、もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、ありがとうございます花家先生……!!」
「良いんです。本当に、元気になってよかった」
エミヤは、いつの間にか何処かの病室にいた。どこの病院かはさっぱりだったが、目の前の男が今の自分のマスターだ、ということは理解できた。
「……過去か」
エミヤは悟った。目の前の花家大我には、白髪なんてなかった。
彼の資料を覗いてみれば、花家大我は元々放射線医だと理解できた。それも世界で数例しか報告のない癌すら治療する、所謂天才ドクターだった。
「お疲れ、だな」
「ああ、牧。今日はもう終わりだよな?」
「ああ」
恐らく同僚であろう恰幅のよい医者と会話しながら、大我はエミヤの覗いていた資料を回収して歩いていく。
その姿は確かに自信があった。いや、今の大我にだって自信があるのだろうが、何というか、毛色が違うように思えた。
ザッ
「──」
……いつの間にか、場面は変わっていた。
病院なのは変わりなかったが、見覚えがあった。
つまり、CRだった。
大我と牧が、ガシャットとゲーマドライバーを奪い合っていた。ゲーマドライバーは、血で汚れていた。
どういうわけか、エミヤはそれをガラスを隔てて見ていた。眼下にはベッドと、患者が見えた。
声は聞こえない。しかし、共に苦しんでいることは手に取るように理解できた。
そして、牧は消滅した。ゲーム病での、ストレスでの消滅とはああいうものなのかと、エミヤは初めて理解した。
ザッ
ザッ
ザッ
目まぐるしく変わり行く風景の中で、様々な物を見た。
患者も友人も地位も何もかもを失った花家大我。
飛彩に憎まれる大我。
傷を負うのはもう自分だけでいいと決意する大我。
そして、ニコと出会った大我。
……その、大我の過去の、最後の場面は。
「お前は、免許のない俺を、主治医だと呼んでくれた」
噴水の中、奮い立つ一人のドクター、そしてそれを見上げる患者。
「……嬉しかった」
「……」
「ゲームが出来なきゃストレスだって言うならもう止めやしねぇよ。ただし……俺の側から離れるな」
「大我……」
『デュアル アップ!!』
『バンバンシミュレーション!! 発進!!』
「……お前は俺の患者だ。何度ゲーム病になろうが、この俺が治してやる」
─
──
───
「……おっと」
エミヤは、そこで意識を取り戻した。周囲を見回してみれば、大我も机に突っ伏して死んだように眠っていた。毛布が掛けられていた。
本来ならばゆっくり寝かせてやりたいとも思うが、今ばかりはそうもいかない。エミヤはヤカンに火をかけてから大我を揺すり、目覚めさせる。
「……おい、マスター」
「……ん」
「……目覚めたか。目覚めたな?」
大我が目を開けたのを確認してから、エミヤはコーヒーを仕込み始めた。本当なら彼は紅茶を淹れたかったが、眠気覚ましにはコーヒーが優れていることは認めていた。
時刻は、大体午後の八時だった。
「……お前の、夢を見た」
「……そうか」
切り出したのは大我だった。彼は変な体勢で寝たせいでついた寝癖を直しながら顔をしかめていた。
「お前がゲンムの作ったキャラだとは知っているが、一言言わせろ」
「……」
「この、バカめ」
コーヒーの匂いが、充満し始めていた。
「……本当ならゲンムに言うべきだろうが、どうせアイツは聞かないだろうしな」
「……そうだな。熱いうちに飲め、マスター」
エミヤはそう言って、コーヒーを差し出した。バカと罵られたことには触れなかった。
「……オレも、見た。マスターの過去をな」
「……そうか」
「オレからも一言言わせろ。この、バカめ」
今度はエミヤが罵った。そしてすぐに、気持ちは分かるが、と付け足した。大我はすぐには反応せず、コーヒーを一気のみした。
「仕方ねぇだろ。……俺は、救いたかったからな。いや、今でも救いたいと思ってる」
「……そうか」
エミヤは自身の過去を後悔してはいない。全てを救おうとしたその道は正しいと、今でも思っている。
ただ、大我のような在り方もまた正しい、とも思った。
「今だけは無理をしてもらうが、マスター。全部終わったらゆっくり休むといい。何かあったら、患者に関わるだろう」
「……ハッ、当然だ」
───
「はーい容態はどうですかー? 何か体調に変化があったら言ってくださーい」
ニコは、荷台に治療道具を積んで往診を行っていた。本来は大我の付き添いも必要だったが、丁度遅いお昼寝の最中だったので彼女は気を利かせて毛布をかけてやり、一人でやろうとしていた。
「……あの」
「どうしましたー?」
一人の女性が手を上げた。ニコはそっちに駆け寄りカルテを手に取る。
しかし女性が見せたのは、体の何処でもなく自分のスマートフォンだった。ネットニュースの一番上に、『東京のゲーム病変質、患者と融合!?』とでかでかと書いてあった。
「……これ」
「どういうことなの……?」
「何で……?」
声が、漏れた。
パニックを避けるためになるべく広めないようにしよう、と言われてたことだったのに、こうも堂々と開示されれば──
「なあ、俺達、死ぬのか?」
「嫌だよ……」
「死にたくないんだよ……!!」
ストレスが募るに、きまっている。
───
「さて、どうなるかしら……?」
「どうなるだろうな」
ゲンムコーポレーション社長室にて、真黎斗の膝に座ったナーサリーがジャックし終えたカメラ越しに聖都大学附属病院の様子を眺めていた。皆が皆、パニックに陥っていた。
今回のネットニュースを流したのは彼らではない。しかし、彼らはそのニュースの流通を止めるつもりもありはしなかった。
「少なくとも、カリギュラはしっかり仕事をしたことは確かだったわね」
「ああ。ゲームエリア全体に狂気をばらまくというのは、しっかりと成功したらしいな」
───
「……」
マシュ・キリエライトは歩いていた。彼女自身目的地はなかったが、一先ずは今苦しんでいる人を助けないといけない、という使命感だけはあった。
既に日は傾いていた。夕陽が丁度差し込む路地に人影が見えた。
「……?」
人影は動いていなかった。マシュは気になって、その中へと入っていく。
「すいません、大丈夫ですか……?」
「──」
「あの、大丈夫で──」
そして、覗き込んで絶句した。
その顔は、見たことのある顔だった。
殺生院キアラだった。
「貴女は……!?」
マシュは飛び退きながら剣を振り抜く。おかしい、確かにあの時、消滅したと思っていたのに──
……そこで彼女は、キアラもドクターを皆ジル・ド・レェによって飲み込まれてしまったことを思い出した。きっとあの時、どうにかして逃げていたのだろう。
「……私の、せいだ」
マシュは呟いた。彼女がジル・ド・レェより先に飛び出して止めを刺していたなら、いや、最初から手伝っていればこうはならなかったのに。そう思ってしまった。
「初めまして、でしょうか?」
「そう、でしょうね……!!」
幸い、まだキアラにはあの時のような力は無さそうだった。倒されてからさほど立っていない影響だろうか。
「そうですね。では、早速ですが……」
キアラはそう言いながら立ち上がる。そして、次の瞬間に彼女から飛び出した魔神柱が、マシュの足下を貫いた。
ダンッ
「っ──」
「楽しませて下さいね?」
マシュは魔神柱を回避しながら飛び回り、鞄の中に手を入れて仮面ライダークロニクルを取り出す。与えられた情報だと、この仮面ライダークロニクルを使用すればライドプレイヤーと呼ばれる形態になれるとあった。それを使用しようと考える。
しかし。
ダンダンダンダンダンッ ズダンッ
「っぐぁっ……!?」
「ああっ、なりませんわ。ガシャットは厄介ですもの。ね?」
その瞬間にマシュの左腕は空間に現れた数多の魔神柱によって鋭く打ち付けられ、ガシャットを取り落としてしまった。
どうやら少しだけ自分は油断していたらしい。マシュはそう実感させられる。
キアラは魔神柱からガシャットを回収し、それを、胸の中に仕舞い込んだ。取りに行くことは出来ない。マシュはガシャットを諦め、大我に心中で謝罪し、エクスカリバーを握り直す。
そして、大きく飛び上がって剣を振りかぶった。
───
「大丈夫だから!! あいつはちゃんと病気を治すから!!」
ニコは、患者達を手当てしながら宥めることしか出来ない。パニックになる患者達に、声をかけることしか出来ない。
一人の男がニコの手を掴む。
「なあ、死にたくねえよ、俺死にたくねえよ!! 治してくれよ!!」
「だから!! アイツは治せるから大人しくしててよ!!」
「じゃあ何時になったら治してくれるんだよ!! 治療法分かってないんだろ!?」
ニコはその手を引き剥がした。
しかしすぐに、反対の手を別の男に掴まれる。
「なあ!! ゲーム病ってのは、何時になったら治せるんだよ!! 頼むから治してくれよ!!」
「だったら大人しくしてなさいよ!!」
「怖いんだよ!! 死にたくないんだ!!」
……ニコはまだ気がついていないことだが、この騒ぎで最もパニックになっているのは、ゲンムコーポレーションが政府からの通告として出した外へ出ろという命令に従った者達だった。彼らは外に出て、カリギュラが天へと解き放った狂気をその身に受けた者達だった。
ニコはどうにかそれらから離れて、玄関口へと赴く。暫く揉まれている間に、他所の病院からの追加の薬が届く時間を、十分ほど過ぎていた。
玄関に出れば、段ボールが積んであった。ニコはそれの中身を確認し、台車に積み込む。
そして何気なくポストを覗き、その中の茶色い箱を手に取った。
「……ええと、差し出し人は……」
檀黎斗。そう、書いてあった。
「……えっ?」
箱を開ける。その中には手紙の類いは何もなく、ただ、何処と無く見覚えのある薄黄緑のガシャットだけ。
ニコはそれを手に取り、ソフト名を読み、呟く。
「新型の、仮面ライダークロニクル?」
仮面ライダークロニクル、のように見えた。
ゲーム名は前半部分が掠れていて、クロニクル、の部分しか読めなかった。
───
「はあっ!!」
ガンッ ガギンッ ガンッ
エクスカリバーが降り下ろされる。拳が空を突き上げる。戦闘を開始してから早一時間、キアラに弱る気配はない。
誰も路地に近寄らないことは幸運だったが、助けがないという点では同時に不運でもあった。
「……喝破!!」
ダンッ
「っぐ……!?」
キアラの平底が、マシュの下腹部を捉えた。マシュはすぐに壁まで吹き飛ばされ、しかし痛みに耐えて立ち上がる。
「まだ、まだ……!!」
「いいですわね、もっと昂ってしまいますわ……!!」
マシュはうんざりしていた。倒れないキアラではなく、倒せない自分に。あの時倒せなかった自分に。そして苛立ちは彼女の動きを大雑把で大振りなものにしていく。
「はああああああああ!!」
マシュは、一際大きく飛び上がった。エクスカリバーは銀の光を纏い、破壊力を一段と増す。
マシュの目は、キアラに止めを刺すルートを見据えていた。一撃目でキアラを袈裟斬りにし、二撃目でその腹を裂き、三撃目で串刺しにする。そのイメージは出来ていた。
どうにか勝てる、と思っていた。
……まさか、足の着地点が無くなるとは思わなかった。
「……ふふ、それでは皆々様、済度の日取りでございます」
「……!?」
「
キアラの腹に、穴が開いた。その中に、宇宙を見た。まだ力が足りないせいだろうか、スカスカに見えるその空間から伸びてきた白い手が、いよいよ剣を降り下ろそうとしていたマシュの足を捉え、掴み、取り込み、足から股、腰から胸、首から頭まで全てを飲み込んでいく。
「っ、あ……」
引きずり込まれる。マシュがそう認識した時にはもう遅い。彼女は剣を握っていても振るうことは出来ず。手は伸ばせても掴める物は最早ただの空気のみ。
そして、空間はマシュを飲み込んで、静かに閉じた。
次回、仮面ライダーゲンム!!
───嘘つきと聖女
「……アンタねぇ」
「あー、俺の見た夢?」
「……大事なことはもっと最初に言いなさいよ」
───ゲンムの新作
「クトゥルフ神話のデータ、探すぞ」
「おお神よ!!」
「マスター、一度に手をつけすぎじゃないかしら……?」
───天国の中の地獄
「ここは……」
「もう、ダメなんだ。僕らは死ぬんだ」
「私は……諦めません」
第二十五話 我ら思う、故に我ら在り
「私の、やりたいこと……」