Fate/Game Master   作:初手降参

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段々プロットから脱線してきました、練り直さないと

物書きの天敵にして相棒はノリと勢いってそれ一番言われてるからね



第二十六話 Brake the chain

 

 

 

 

 

「バグスターは死ね!! 消えろ!!」

 

「お前たちのせいで!! お前たちのせいで、俺たちは!!」

 

「返して!! 元の生活を返してよ!!」

 

 

キアラの中に、いつの間にやらそんな怒号が飛び交うようになっていた。

始まりは何時だったか。誰かがマシュの姿を見て、バグスターのようだと言ったのが始まりだった。

色の抜けた白髪、妙に露出度の高い鎧、そして背負っている剣。正しくゲームの世界から抜け出たような格好は、とてもバグスターらしかった。

 

マシュは否定しなかった。それは事実だった。彼女はサーヴァントであると同時に、Fate/Grand Orderより現れたバグスターだ。

人々は、マシュの沈黙を同意と受け取った。そして、彼女への、バグスターへの怒りをついに露にした。

 

 

「お前たちのせいで、娘が死んだ!!」

 

「あの子はまだ小さかったのに!!」

 

 

夫婦とおぼしき誰かが叫ぶ。

人々にとって、ドクターの間ではゲーム病での消滅はただ見えないだけの症状だという認識になっていることなんてどうでもいい。何よりも大切な事実は、彼らの目の前から大切な人がいなくなったという事実だけ。

 

 

「妻を、アイツを返してくれよ!!」

 

 

青年がすがり付く。

人々にとっては、バグスターにも種類があるなんてことはどうでもいい。良性だろうが悪性だろうが、どのゲームから出てきていようがバグスターはバグスターであり、憎き敵で、誘拐犯だ。

 

 

「俺の人生お前らのせいで滅茶苦茶だ!! 責任とれ!!」

 

「アタシの!! アタシの友達返してよ!!」

 

「会社が潰れたんだ、俺はどうすればいい!!」

 

「何でもするから!! 何でもするから、元に戻してよ!!」

 

 

彼らはバグスターの中にいて、バグスターに人生を乱されて、バグスターにすがり付く。

彼ら自身、今の自分が可笑しいことは察している。しかし、もうそれしかないのだ。

 

沸々と涌き出る怒りが、普通なら快楽に解され消える彼らの自我を補強して彼らの命を繋いでいるという事実が、何よりの皮肉だった。

 

 

「私は……私が、救いたかったのは……」

 

 

マシュは段々魔神柱が溢れていく天を仰ぐ。

何で、人理を守ろうとしたんだっけ。そんな問いが、溢れ出た。

 

ここに来て、彼女は直視させられていた。人間の醜さを。人間の愚かしさを。人間の残酷さを。

それは、特異点を修復していた時にもう何となく察していたことだった。第七特異点のウル市の時点で、確かに触れていた、それでも無視したことだった。

 

 

「私は……」

 

 

……マシュは、人々を振り払うために大きく飛び上がった。そして、高くにある魔神柱に飛び乗り、人々から身を隠す。

下から聞こえる怒号から身を守ることは、出来なかった。

 

───

 

外は、もう夕方だった。

作の自宅から戻ってきて、作にパソコンやその周辺機器を渡してから業務に戻ろうとしていた永夢は、その途中でナイチンゲールと合流する。

そして彼は、ナイチンゲールに新しく手に入れたガシャットを見せた。

 

 

「これは?」

 

「作さんから貰ったガシャット、何ですけど……」

 

 

先程作にパソコンを渡した所、彼は試運転とばかりに一つのブランクガシャットに作りかけのデータを挿し込み、今回の礼と言って永夢に差し出したのだ。それが今永夢の手元にあるガシャットだった。

カラーリングは、薄いベージュをベースに、茶色と黄色の差し色の入った半透明のガシャットだった。ラベルに描かれているイラストは、何となくかつて消滅したバガモンを彷彿とさせた。

ゲーム名をナイチンゲールが読み上げる。

 

 

「ジュージューマフィン……?」

 

「ええ……ジュージューバーガーのリメイクですかね……?」

 

 

ジュージューマフィン。その名前を聞けば、ラベルに描かれていたバガモンの姿も、バンズをイングリッシュマフィンにした新キャラクターに見えてくる。

 

 

「……取り合えず、持っておけばよいかと」

 

「そうですね。機会があったら、使わせてもらいましょう」

 

 

最後にそう言って、永夢はガシャットをしまった。そして、ナイチンゲールと並んで診察を再開する。

 

───

 

マシュを責める声の中、安全地帯までやって来たマシュは鞄に手を伸ばす。

仮面ライダークロニクルはやはり起動しない。かつてウルクで貰った何かも用は為さない。アヴェンジャーの名の入ったライターを見つけたが、今度はタバコの方をなくしてしまった。

 

結局、今の彼女は何も出来ない。考えることしか出来ない。

 

 

 

 

 

──だから、マシュ・キリエライトは考え、そして()()した。

かつての自分と、今の自分を比較した。

 

自分は守護者だった。今は違う。

自分は人理を守りたかった。今は守るものを見失った。

自分は過去を駆けた。今は彼女に過去はない。

自分は人々を救おうとした。今は人々を救えない。

自分はビースト(ゲーティア)と戦った。今はビースト(キアラ)と戦えなかった。

 

 

「私はもう、何も……」

 

 

もう、何も出来ない。何も、ない。

 

そうとしか、思えなかった。

比較する度に、意識は沈んでいく。

比較する度に、自分が惨めになる。

でも、それだけではない。

変えたくて。越えたくて。このまま、諦めたくなくて。

 

黎斗の顔が脳裏に閃く。憎いと思った。越えようと思った。

ゲンムのサーヴァント達を思い出す。決着をつけないといけないと思った。越えようと思った。

ブリテンウォーリアーズの中のサーヴァントを回想する。期待に答えないとならないと思った。越えようと思った。

ロマンの顔を追想する。会いたいと思った。越えようと思った。

 

 

 

 

 

……思い出す度に、眼が痛んだ。右の目が酷く痛んだ。頭もガンガン鳴っている。苦しい。辛い。でも、記憶は今までになく明瞭だった。

思わず目を押さえた手に、血がこびりついていた。

 

マシュはそれから目を離して、今眼下にいる人々を思った。

それらを見て、自分が何をしたいのかを考える。

 

倒したいだろうか。殺したいだろうか。彼らは敵だろうか。

そうは思わない。彼らだって、苦しみ、悩み、その過程でマシュに怒っただけだ。

放っておきたいだろうか。無視したいだろうか。

そうは思わない。彼らを放っていくことは、彼らを苦しめ続けることだ。それを出来るほど彼女は非情ではない。

なら──

 

 

「……」

 

 

どうしたいのだろう。

今でも、下では人々が怒っている。嘆いている。果たして自分は、救いたいのだろうか。彼らを。何故、そう思うのだろう。

 

──見下ろす。その瞬間、マシュの脳裏に一つの過去が浮かび上がった。霧の失せた街、外へ出る人々、そして迸る血液──

 

 

 

 

 

───

──

 

そうだ、あの時。

 

 

『そっちこそそんな仰々しい鎧を着けながら、名乗りすらも行わないのか』

 

『……チィッ!! ……モードレッド。オレはモードレッド』

 

『そうか』

 

   ブァサササッ

 

 

あの時、黎斗がロンドンを攻略していたのを眺めていたとき、画面の向こうで、マシュに見える範囲内で、沢山の人達が苦しんでいた。

マシュの隣で、大切な人が苦悩していた。

 

 

『酷いです黎斗さん、あんな……モードレッドさんを……』

 

『……英霊モードレッド殺害、後から救援に来たヘンリー・ジキル氏を殺害……あれじゃあ、通り魔と変わらない……!!』

 

『邪魔な通行人も皆殺していく……なんで、なんであんな……』

 

『……分からない。でも……彼は……酷すぎる』

 

 

……ああ、そうだ。ずっと忘れていた。見失っていた。守護者になって記憶が薄れたのもあったが、その前からきっと忘れていた。

──自分はただ、人が苦しんでいる姿を見たくなかったのだ。

 

誰かが苦しんで、別の人がそれを見て苦しんで、それを知って苦しんで……目の前で広がるその連鎖を、断ちたかったのだ。その中に居たくなかったのだ。

 

いつの間にか忘れていた。いつの間にか、勘違いしてしまっていた。自分は人理を守る以前に、ただ、結局は自分と自分の回りの人々を、苦しみから守りたかったのだ。そうすることで、自分が、回りが苦しみに巻き込まれないようにしたかったのだ。

 

ドクター。ダ・ヴィンチちゃん。フォウさん。スタッフの皆さん。自分は、きっと、ただそれらと、ずっと笑顔で一緒にいたかったのだ。

苦しみをはね除け死を超越し、世界より何よりも、きっと、カルデアと、自分自身を守りたかったのだ。

 

──

───

 

 

 

 

 

「ああ……そうです」

 

 

彼女は人理を守る機械である前に、大切な誰かを守る機械でありたかったのだ。

確かに、黎斗は、己のマスターはそれにはならなかった。でも、守りたいものは、確かにあったのに。

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

声が漏れた。マシュに泣いてくれた、ドクターへのものだった。そして、これまで傷つけてきた黎斗以外の全てへの贖罪だった。

 

 

「それでも私は、諦めたくない……!!」

 

 

そして、マシュは血の混じった涙を乱雑に拭き取り、再び下を見た。

 

未だマシュに対して叫ぶ人々と、カルデアの皆を比較する。マシュにとっては、今叫んでいるのは何の思い入れもない人だ。それでも、救いたかった。誰かのため、ではない。自分のために救いたいのだ。彼らを助けなければ、自分が助かれないのだ。

 

信勝を思い出す、そして己と比較する。自分のために姉を救おうとした信勝と、自分のために人々を救おうとした己を。

 

比較した。そして、辿り着いた。彼女の存在しなかった物語の、その原点に到達した。

 

彼女の根本は、ただただ『純粋無垢』に『何かを守る』ことにある。そして、守りたいものは自分の居場所(カルデア)だった。また、今目の前で苦しんでいる人間だった。だって、目の前で誰かが苦しんでいたら、自分が辛いから。大切なものが苦しんでいたら、自分も辛いから。

 

結局、マシュのすることは変わらない。

自分勝手に、目の前の人々を救って見せる。強欲に、傲慢に、不遜に。信じるかどうかは関係ない。守護者もサーヴァントも人理も関係ない。彼女は、ただ救いたいから、救うのだ。

 

それを受け入れた刹那、彼女は鞄の中に振動を感じた。

 

 

「これは……」

 

 

……鞄の中で、一枚の紙が震えていた。

マーリンの手紙だった。

 

それを手に取る。元々黒く塗り潰されていたように思っていた部分は、今では簡単に読むことが出来た。

 

 

『道を見失うな。君にしか救えない世界がある』

 

 

その下に、続く文は。

 

 

『君がこの文を読んでいるとき、君はきっと自分の体に異常を覚えているだろう。それは、君の中の獣だ。ああ、そうだとも。私が君の中に入れた比較の獣、ビーストⅣの因子は、とうとう君と完全に融合し覚醒しようとしている』

 

 

マシュは、咄嗟に鞄の中の手鏡を見た。真紅の瞳は輝き、右の目の下には血涙のように一本の赤いラインが走っていた。

 

 

『その力をどう使うかは君次第だ。破壊に使ったって構わない。救命に使ったって構わない。そもそも、私が口出しを出来ないところに君はいるんだからね。君が頼れるのはもう君しかいないし、君を真の意味で縛れるのも、もう君だけだ』

 

 

第四の獣は、再誕しようとしている。かつて黎斗が倒したビーストは、ビーストとなった黎斗に抗うために甦る。

 

 

『でも、最後に言わせてくれ。……道を見失うな。迷っても悩んでも、その果てに君の行く道を取り戻せ。君の歩んだ旅が未来を取り戻す物語だったように、今度は、君が君の未来を取り戻すんだ』

 

 

唐突に、眠くなった。本能が、この眠りは蛹になるのと同じことだと訴える。変性の最終段階だと。

マシュは、ロマンの顔をはっきりと思い浮かべた。もうもやはかかっていない。

 

 

「……ええ、きっと」

 

『この手紙を破り捨てた時、君の封印は完全に解かれる。幸運を祈るよ。ビーストⅣ、君が世界を救うんだ』

 

「きっと、世界を救いましょう。そして──」

 

   ビリビリッ

 

 

手紙を、破った。それと共にマシュの意識は眠りにつく。

 

結局、世界とは認識の中にある。最早マシュにとっての世界とは、彼女が知っている世界のみ。彼女が触れて知っている、彼女の目の前に広がる、苦しむ人々に溢れた世界のみ。

──ならば、救える。知識だけで知っている無限に広がる『マシュの中にない』世界には届かない手も、このマシュ・キリエライトの世界の中でなら、どこまでも、届く。

 

漸く彼女は、『世界』を救う偉業に手を掛けたのだ。

 

───

 

 

 

 

 

聖杯戦争は、とうとう九日目に突入した。

シャドウ・ボーダーは未だに路地裏に止まっていたが、貴利矢はマルタと連れ立って、散歩と称して外へと出ていた。

 

本来は賑わっているはずの大通りであっても人通りは少なく、静かだった。しかし、人がいない訳ではない。

 

 

「皆、ゲーム病なのよね?」

 

「そうだな。マスクも目立つしな」

 

「じゃあ、どうして病院に行かないのかしら」

 

「行けないんだよ」

 

 

大都市には、人が集まるものである。特に日本に置いては、東京を始めとする都市部の人口の集中具合は凄まじい。

東京だけで、900万人もの人口があるのだ。ニューヨークの人口すら、850万人なのに、900万人もいるのだ。そしてその全てが、ゲーム病に感染している。

 

 

「病院が足りる筈がねぇんだよ」

 

 

自分は大したこと出来ねぇしな、と貴利矢は付け足して、それきり黙った。

人々のストレスは、最高潮に達している。ゲーム病での消滅者がいないのがいっそ不思議なくらいだった。

 

───

 

「……どうしたのBB?」

 

 

その時、BBは通りがかったポッピーを捕まえて、パソコンの画面を見せつけていた。既に真黎斗の支配下に入ったそれには、東京の地図と、一つの点が。

 

 

「これ、何?」

 

「BBちゃんの開発したキアラ探知システムです。この前の戦闘データから開発しました。で、この点がキアラ」

 

 

その点は、聖都大学附属病院から1キロ程離れた所で、ジワジワと移動しているように見えた。

 

 

「これって……もしかして、この近くに」

 

「そういうことです。放っておいたら、不味いですよね?」

 

 

何故キアラがまだ生きているのかとか、他にも何か作ったのかとか、そういうことは聞きたかった。しかし、何よりも、キアラを倒すことを優先しなければならないのもまた事実。

 

ポッピーは永夢と飛彩とパラドとの連絡を試みながら、急いで身支度を整えた。

 





次回、仮面ライダーシールダー!!


───キアラとの決戦

「まだ、生きていたのか」

「今度こそ、止めを!!」

「BBちゃんに、お任せです!!」

───目覚める新装備

「『Wisdom Hold Intelligence Powered』、発動!!」

『ジュージュー マフィン!!』

「何としてでも、倒す!!」

───そして、覚醒

「助けに来たぜ!!」

「私は、今度こそ貴女を倒す!!」

「変身!!」


第二十七話 Bright burning shout


『仮面ライダークロニクル!!』

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