きっと殺そうと思えば何時でもマスター殺せるんだろうなぁ……
「……分かった、すぐ向かう」
「どうしたのマスター?」
「アルターエゴ、生き残ってたらしい。今永夢やポッピーが向かってる」
シャドウ・ボーダーに戻ってくるやいなや、貴利矢はそう連絡を受けた。
マルタはそれを聞いて慌てて運転席に飛び乗り、エンジンをかける。
「分かったわ。どこで?」
「ちょっと待ってろ、BBがキアラ追跡プログラムを開発したらしいからな、インストールする」
貴利矢はそう言いながらカーナビと自分のスマートフォンを接続した。
ニ、三秒だけ画面が暗くなり、そして明るくなると共にカーナビに点が表示される。
「……ここね。飛ばすわよ!!」
そしてマルタはアクセルを踏み込んだ。
それを、ずっと作業に没頭していた黎斗神が引き留める。
「いや、ちょっと待った」
「何だ、神!!」
「……そこへ行く前に、寄り道するべき場所がある」
───
「まだ、生きていたのか」
「そうですね……お久しぶりです、ね?」
そして、とうとう永夢と飛彩とポッピーは、そしてそのサーヴァントは、キアラの前に立ち塞がった。パラドはこれから戦闘が始まるであろうエリアの周辺を走り回って、人々の避難に努めている。
キアラの姿は、前回交戦したときよりかは、はっきり言えば貧弱だった。前回のようなシルエットもない。
「今度ばかりは、きっちり倒させてもらう」
「ああ、何としてでも、倒す!!」
「ふふふ? なんて荒々しい……私、昂ってしまいます」
しかし、キアラには余裕が溢れていた。不気味だった。何が、彼女を余裕足らしめているのかは分からなかった。
……いや、次の瞬間に明らかになる。
「それでは……参りましょうか」
バチバチ バチバチバチバチ
「これは……?」
「すごく、嫌な予感が……」
ザッ
……キアラを中心に、ゲームエリアが展開された。真黎斗の敷いた世界の内側に、新たな世界が作られた。まるでエミヤの宝具のように。
……キアラは、作の部屋の部分のゲームエリアに干渉したことがある。今回もそれと同じこと。彼女はその要領で、彼女の周辺のゲームエリアを、自分の支配下に置いたのだ。
光が、溢れていた。空は金色に輝き、その果てに四角い何かの姿を見た。大地は蓮の花が咲き乱れ、柱が数本立っていた。
「それでは遠慮なく。天井解脱、なさいませ……?」
「っ……!!」
『マイティアクシシシシシシ53\1919<%(0』
キアラは自然体で両手を広げる。それを前にして、ドクター達は何故か戦おうという気力すら奪われかけていた。ガシャットの電源を入れようとしても、それすら出来ない。
『タドルルルルル#,,810/13\{;!**』
「っ、なぜ電源が入らない!!」
「それはそうでしょう? その小箱は恐ろしいですもの。ここは
「……ナイチンゲールさん!!」
「分かりました。迅速に治療します!!」
ナイチンゲールが永夢の指示で飛び出す。彼女は拳を振りかぶり、しかしまるでハエを叩き落とすかのように吹き飛ばされた。力の差がありすぎた。
「ふふふ? 楽にしていて下さいな。とても、気持ちいいのですから……」
キアラはそう言いながら近づいてくる。いつの間にか、服装まで金色になっていた。
ポッピーはすがるようにBBに目をやり……彼女が、ずっとパソコンを弄っていたことに気づく。
「……何やってるの?」
「ふっふふー、私は何でもできるラスボス系後輩ですよ? こんな奴の対策、出来ないと思ってたんですかぁ?」
「──!? それって」
「センパイがお願いするなら、どうにかしないこともないですよ?」
そう言って、BBは挑戦的な眼差しをポッピーに向けた。ポッピーはそれに対して嫌な予感はしたが、しかし今は彼女に頼るしかなかった。キアラはどんどん近づいてくる。
「……お願いBB」
「足りないですねぇ。もっとこう、惨めにお願いします」
「……令呪をもって──」
「BBちゃんに、お任せです!!『
ポッピーが令呪を切ろうとしたので、BBは慌ててパソコンのエンターキーを叩きつけた。
それと共に、彼女を中心にさらにゲームエリアが展開され──
ザッ
「……あら?」
周囲は、元の風景に戻っていた。
「何をしたの?」
「アイツの結界を打ち消しました。これよりここは絶対禁欲空間。面倒な不思議パワーは全部消え失せています!!」
頑張ったんですよ、と鼻を鳴らすBBを横目に、ポッピーはガシャットに手をかける。
『ときめき クライシス!!』
……今度はちゃんと、電源を入れることが出来た。これなら、変身できる。もう彼女への遠慮は失せていた。
『マイティアクションX!!』
『シャカリキ スポーツ!!』
「……よし、使える!!」
『タドルクエスト!!』
『ドレミファ ビート!!』
永夢と飛彩も、それぞれガシャットの電源を入れた。飛彩の回りをビートゲーマが、そして永夢の回りをスポーツゲーマが飛び回る。
「大 大 大──」
「術式レベル3、」
「「「変身!!」」」
そして、各々のドライバーにガシャットを挿入した。
『マイティジャンプ!! マイティキック!! マイティマイティアクション!! X!!』
『アガッチャ!! シャカリキシャカリキ バッドバッド!! シャカっとリキっとシャカリキスポーツ!!』
『辿る巡る辿る巡るタドルクエスト!!』
『アガッチャ!! ド ド ドレミファソラシド OK ドレミファビート!!』
『ドリーミングガール!! 恋のシミュレーション!! 乙女はいつもときめきクライシス!!』
変身が完了する。並び立った三人は各々ガシャコンブレイカーにガシャコンソード、そしてチェーンソーモードのバグヴァイザーを構える。
「……ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!」
───
グラグラッ
「……ん」
マシュ・キリエライトは、空間の揺れで目を覚ました。魔神柱から下を見下ろせば、彼女が眠る時の三倍ほどの人が惑っていた。
いつの間に、こんなに取り込んだのだろう。マシュはキアラを恨めしく思う。しかし、過ぎたことはどうしようもなかった。
また揺れた。マシュは、この揺れはキアラが戦闘していることが原因だと考える。いや、考えるのではない。確信めいた直感だった。
「……私は」
戦う。心にそう決めた。もう、逃げない。自分は、自分のために自分の世界を救うのだから。
だから、その為に、脱出をするために、彼女は魔神柱から飛び降りた。
スタッ
「お前は──」
「とうとう戻ってきやがった!!」
途端に辺りがざわつく。どうやら、この中の皆がマシュのことを知っているようだった。
しかしもうマシュは惑わない。彼らの罵倒など最早どうでもいい。ただ、この窮地から救えればそれで構わないのだから。だから、声を張り上げる。
「私は!! 貴方たちを苦しめたバグスターではありません!! だから、責任とか家族とか、知ったことではありません!!」
「な──」
「こいつ……!!」
人々はその声に怒りを露にした。戸惑いと絶望とやるせなさと、あと少しの納得の入り交じった怒りだった。
マシュは、それでも続ける。
「でも!! 今貴方たちを苦しめているこの殺生院キアラと!! 今貴方たちを苦しめている檀黎斗は!!」
「──」
「──」
「私が!! 命をかけてでも!! 倒して見せます!!」
それが答え。マシュの答え。ビーストⅣの選んだ答え。
人々は、ただただ気圧された。
「ですから!! まだ諦めないでください!! 私の指示を聞いてください!! 私が、道を、抉じ開けて見せます!!」
───
『タドル クリティカル フィニッシュ!!』
「はあっ!!」
ブレイブが剣で周囲を凪ぎ払い、ト音記号の形のエネルギーをキアラへとぶつけていく。しかしそれらはキアラの拳で叩き落とされてしまった。ブレイブは舌打ちをしながらキアラから距離を取る。
『高速化!!』
『シャカリキ クリティカル ストライク!!』
その隣を、エグゼイドが高速で駆け抜けた。彼は右手に高速回転する車輪を構え、直接キアラに押し付ける。
ガリガリガリガリ
「はああああっ!!」
「もっと!! 出来れば、もう少し下の方を!!」
「っ!?」
……しかし、キアラに攻撃が効いている様子はなかった。押しきることは出来ず、逆に跳ね返されて車輪はあらぬ方向へと飛んでいく。しかもエグゼイドはその反動で尻餅をついてしまった。
「っ──」
即座に彼は飛び退こうとするがもう遅い。エグゼイドに隙が出来たと見たキアラから飛び出した魔神柱は彼を掴み、数メートル地面を引き摺って、近くの壁へと押し付ける。
「マスター!!」
「永夢!!」
ナイチンゲールとポッピーが、彼に駆け寄った。エグゼイドのライフは、もう半分を切っていて。
───
「またやってるのね……どうする、マスター?」
「放置で良いだろう。あの程度、やろうと思えばどうにでもなる」
「それもそうね」
その頃、キアラに痛め付けられたエグゼイドを眺めながら真黎斗とナーサリーはそう言っていた。彼らにキアラに対する危機感はない。ただ、少し面白いだけ。
「……で、既に誰か向かっているのか?」
「そうね……あ、エリザベートは屋根の上で見てるわよ?」
「……そうか」
そうとだけ言って、彼は再びキーボードを叩く。
誰が何をしようが、彼らのやることは変わらない。彼らのパソコンには、そろそろ始まるゲームが描かれていた。
───
「あと少しでつくわよ!! 変身して!!」
「了解姐さん、んじゃ、0速……変身」
『ガッシャット!!』
『爆走バイク!!』
シャドウ・ボーダー内で貴利矢はレーザーターボに変身した。
レーザーターボはガシャコンスパローを取り出してシャドウ・ボーダーの窓を開け、何時でも奇襲が出来るようにする。
そして振り向いて、態々寄り道をしてまで連れてきた一人の男に声をかけた。
「……大丈夫なのかい? 社長」
「……はい。やってみせます」
小星作だった。黎斗神は、彼を現場に連れていくと言ったのだ。貴利矢は反対したが、黎斗神は連れていくと言って聞かなかった。そして、作自身も、キアラに飲まれてしまった責任を感じてしまっていたこともあって、参戦に賛成したのだ。
「無理しなくても良いんだぜ?」
「いえ……キアラさ、あっ、アルターエゴには、僕も決着をつけないといけませんから」
「……なら止めねえよ」
キアラへと近づいていく。もう、何時でも射てるようにしなければならなかった。チャンスは、一度きり。
「マスター!! もう用意して!!」
「了解!!」
『ガッシャット!!』
そして、レーザーターボはガシャコンスパローにギリギリチャンバラを装填した。それを外に向けて構え──
───
ポッピーとブレイブは、エグゼイドを残して二人でキアラと戦っていた。どれだけの人を内包しているか分からない以上思いきり斬りつけるのは戸惑われるが、しかし遠距離攻撃は弾かれてしまう。攻めあぐねていた。
「っ……飛彩、大丈夫?」
「大丈夫、だ。ここで、こいつを倒す」
飛彩の脳裏に、ジャンヌの姿が甦った。あの時は彼女を犠牲にしてどうにか辛勝出来たのだが──もう、誰も犠牲にしたくはなかった。
「ふふふ……? もう、終わりですか?」
「まさか……!!」
剣を振るう。弾かれる。剣を振るう。躱される。
チェーンソーを振るう。弾かれる。ビームガンを放つ。弾かれる。
キリがなかった。勝ち目は、どこまでも薄かった。
そして。
「それでは、こちらから参りましょう……」
キアラは一際勢いをつけて駆け出して。
「──喝破!!」
ダンッ
「っあ……!?」
ポッピーの腹を、貫いた。
「ポッピー!?」
「ポッピー!!」
キアラに刃を向けていたブレイブが、そして慌てて立ち上がったエグゼイドがポッピーに駆け寄ろうとする。
しかし遅い。遅すぎる。ポッピーの肩を掴んだキアラの腹には筋が走り。
「──
穴が、開いた。手が伸びた。それはポッピーを包んで優しく持ち上げ──
『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』
ダンッ
ビルの角から突如現れ出たシャドウ・ボーダーが、キアラの背後を走り抜ける。そしてその中でガシャコンスパローを構えていたレーザーターボが、キアラの後頭部を撃ち抜いた。
「な──」
何本もの矢が、キアラの後頭部に突き刺さっていた。近くにいたブレイブが被弾していないのが不思議なくらい。
ポッピーはもう半分程キアラに飲まれていた。それを車内で見た作が、窓から身を乗り出して叫ぶ。
「令呪を三画全て使って命ずる!!」
「──マスター!?」
キアラの動きが、止まった。
「そのまま動くな!!」
──本来ならば。キアラは既に作の支配からは逃れている。主従関係は既に過去の物である上に、今のキアラはサーヴァントの枠からは思いきり外れている。
しかし、キアラの動きは、止まっていた。腹を開いたまま。ポッピーを飲み込みかけたまま。そして、内側と外側を繋げたままで。
「なん、で……」
ウィーン
「流石、私の才能!! 神の才能に不可能はない!!」
シャドウ・ボーダーの窓を開けて、黎斗神が叫んでいた。その手では、サンソンとカリギュラを取り込んだブランクガシャットが起動している。全ては、そのガシャットの展開したゲームエリアの働きだった。
「……今なら!!」
『ガッシューン』
エグゼイドが、シャカリキスポーツを引き抜いた。次に装填するガシャットは、もう決まっている。
『ジュージュー マフィン!!』
「作さん、借ります!! ──
『ガッチャーン!! レベル アップ!!』
エグゼイドの回りを、バーガーゲーマを思わせる肌色の機械、マフィンゲーマが飛び回っていた。そして次の瞬間にはそれはバラバラになり、エグゼイドに纏わりつく。
『マイティジャンプ!! マイティキック!! マイティマイティアクション!! X!!』
『アガッチャ!! マフィンにパティとチーズ挟んで ジュージューマフィン!!』
足には、ローラースケート。頭には、バイザー。そして右腕には、マフィンを模した巨大な腕パーツ。それこそが、エグゼイドの新形態、マフィンアクションゲーマー。
そして彼は静止したキアラの腹の中に、その中のポッピーに手を伸ばして。
───
「ああ!! 空だ!!」
「あれは………!!」
……ずっと、キアラの内で外へと攻撃を続けていたマシュは、漸くその時青空を見た。マシュの指示で右へ左へと逃げ惑っていた人々も、共に抱き合い喜んでいる。
最初ははその穴は小さなものだったが、すぐにそれは詰まっていた誰かが抜けると共に広がった。
マシュは、鞄から仮面ライダークロニクルを取り出した。天へと掲げる。端子越しに光を見た。
──電源を入れる。
「……変身!!」
『仮面ライダークロニクル!!』
『Enter the game!! War riding the end!!』
姿が変わる。その仮面ライダークロニクルは、クロノスへの変身条件を満たしたニコの物。つまり、ただのバグスターは、世界を救う戦士になる。仮面ライダークロニクルの救世主。ゲムデウスを倒し世界を救う仮面ライダー、クロノスへと変身する。
……彼女は、クロノスへの変身条件を満たしていた。既にバグスターである彼女は、己のいたゲームで世界を救う旅をする間に、何度も何度も、何種類ものプロトガシャットを直に挿入してきていた。その時に、クロノスに変身し得る程度の抗体は出来ていたのだ。
「あれは……」
「まさか、もしかして──」
人々がざわつく。
彼女はクロノス。かつて人々を恐怖の底へと陥れた悪人。
彼女はバグスター。かつて人々を恐怖の底へと陥れた病。
彼女はビーストⅣ。相手よりも強くなる比較の獣。
それでも、彼女は。人々を救う。
『Noble phantasm』
ガシャコンカリバーのトリガーを引きながら、彼女は空を睨んだ。未だ間抜けに開いた口を睨んだ。その向こうにいる黎斗を睨んだ。
絶対に、越えて見せる。その希望と熱を籠めて、叫んだ。
「
その剣には銀の光と、そして、金の光が走っていた。
「──
次回、仮面ライダーゲンム!!
───ポッピーの命運
「治らない、のか?」
「当然力は尽くすとも」
「私の新しいセンパイになってください」
───マシュの命運
「──クロノスだと?」
「何で貴女が……」
「……ごめんなさい」
───そして、世界の命運
「私は……」
「始めるか。最高のゲームを……!!」
「ええ。きっと皆喜ぶわ!!」
第二十八話 People game
「Fate/Grand Order Chronicle……!!」