Fate/Game Master   作:初手降参

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ド派手に行きましょう、先輩!!

 

 

 

 

比翼にして連理(カリビアン・フリーバード・アクト2)!!」

 

   ズギュウンッ

 

「■■■■■■■■■■!!」

 

「っく、効いてない!?」

 

「さっきは効いてたのに!!」

 

 

ヘラクレスと交戦を続けるゲンム達は、ヘラクレスに徐々に生じ始めた異変に気づいていた。

攻撃が効かなくなってきたのだ。最初に命を二つ分抉り取れた攻撃を敢行しても、一閃の元に吹き飛ばされてしまうのだ。

 

 

「っくそ、攻撃が効かなくなってきたよ黎斗!? カルヴァリン砲でもびくともしない!!」

 

「おそらくそういう能力なのだろう。相手の攻撃に耐性がつき、それでは死ななくなる……という物だと考えれば間違いあるまい」

 

 

そう唸るゲンム。

確かに命のストックだけをみればヘラクレスはゲンムに及ぶべくもない。……しかし、ゲンムはヘラクレスに何度も吹き飛ばされているのに対し、ヘラクレスの命のストックは残り4つから減ることは無かった。

 

 

「じゃあどうするって言うんだい!?」

 

「今考えている!! ……どちらにせよ、アルゴ船に乗っているサーヴァント達が聖杯を奪い取れば、こいつも勝手に消えていくだろう」

 

───

 

アルゴ船に突撃したゲンムのサーヴァント達。

マシュとカリギュラは沸いてくるシャドウサーヴァントをジル・ド・レェとファントムに任せ、ヘクトールを食い止めていた。

 

 

「よっ、ふっ、はぁっ!!」

 

「はあっ、はぁっ!!」

 

   カキン カキンッ

 

 

何度もつき出される槍。マシュは盾でそれらを受け流し、隙を狙ってはヘクトールに蹴りを入れようとする。

しかし、中々決定打を入れられずにいた。

 

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

   ズドンッ

 

「ぅおっとぉ!? 危ない危ない……」

 

 

そしてカリギュラは、己の狂気を弾に変換した強い砲弾を乱発していた。

一撃でも当たればかなりのダメージを与えられるが、そこはやはりバーサーカーと言うべきか、動いている相手には当たりにくくて仕方がない。

 

 

「くっ……隙がない……」

 

「……おら、もっと本気で来いよ、ガキ。おじさんを、嘗めるなよ……?」

 

 

まだ余裕のありそうなヘクトール。相対するマシュは、ガシャットによって力こそ増強されたが、未だそれを扱いきれずにいた。

 

 

「標的確認、方位角固定……」

 

 

そしてヘクトールはその槍を持ちかえ、それを投げる体制になり、マシュの盾へと狙いを定め──

 

───

 

「はーはっはっはっは!! 我が主の力をとくと見よ!!」

 

「ああ、ああ、助けてくれ可愛いメディア。あいつが来るあいつが来るあいつが来るぅ!!」

 

 

その頃。イアソンとメディアの元に、ジル・ド・レェがシャドウサーヴァントを破壊しながら寄っていっていた。彼の背後ではファントムが援護を行っている。

 

 

「はーはっはっはっは!! あーはははは!!」ズシャッ グシャッ

 

 

次々に沸いてくるシャドウサーヴァント。それらを禍々しい爪で切り払いながら、イアソンに接近していく二人。

 

 

「メディアメディアメディアぁぁ!! 早くっ、何とかっ、しろぉっ!!」

 

「分かっていますイアソン様!!」

 

 

泣き言の止まらないイアソン。すがり付かれたメディアはその杖を敵対する二人に向け、攻撃魔術を行使する。

 

 

「収束、発射!!」

 

   ズドンッ ズドンッ

 

 

閃光と共に、甲板に焦げ目がついた。エネルギーが周囲を炙る。……炙るだけだ。

 

彼女は基本、回復専門の魔術師だった。ポテンシャルはあるものの、何も知らぬ少女のままの彼女は、誰かを攻撃するということに、根本的に不慣れだったのだ。

 

 

「ふふふ……最高のcoooooooolをお見せしましょうっ!!」

 

 

……そして彼女は、誰かを涜す、誰かを穢すという一心に動くジル・ド・レェとは対称的で、そして相性が悪かった。

 

 

螺湮城教本・竜の巻(ドラゴナイト・スペルブック)!!」

 

───

 

「標的確認、方位角固定……」

 

「っ、宝具が来ます!!」

 

 

マシュは、その槍の強さは理解していた。ついさっきコンバットゲーマが大破させられていたから、それが何かを貫くものとして最強の一角であると理解できていた。

 

だが、彼から逃げるわけには行かないのだ。マシュは甲板に盾の刃を突き立て、受け止める体制を整える。

 

 

「……不毀の極槍(ドゥリンダナ)!! 吹き飛びな!!」

 

「これで受けますっ……!!」

 

   ガキンッ

 

 

マシュが盾で槍を受け止める。全体重と、強化されたフルパワーをもって槍を食い止める。

 

 

「ぐ、ぐ……」

 

   ガリガリガリガリ

 

「ああああああっ……」

 

 

 

金属音と共に衝撃が襲い、盾はガリガリと抉れていき……それでも、マシュはその槍を受けきった。

 

 

「っ……はぁっ!!」

 

   カランカラン

 

「……何だって!?」

 

「今です!!」

 

 

地に落ちる槍。マシュはそれを奪い、その場から転がるように退避する。

……そして、元々の彼女のいた場所の後ろからは、宝具のチャージ音が聞こえていた。

 

 

我が心を喰らえ、月の極竜(ドラゴナイト・ディアーナ)!!」

 

   ズドンッ

 

カリギュラの左手から、ガシャットによる変質によって産み出された狂気の竜が放たれた。

体は細く、されど刺々しく。翼は小さく、されどパワフルで。まさしく弾丸のようにヘクトールに掴みかかる。

 

当然、槍を無くしたヘクトールに出来る抵抗はろくになく。

 

 

「……おいおい……そんなのもあるのかよ……」

 

   ガリッ

 

「……ははっ、こりゃだめだね。悪いなキャプテン……」

 

   ボチャン

 

 

竜が腸を抉り抜いた。ヘクトールは体に穴を開け、血を撒き散らしながら海に落ちる。

最後に見えた彼の顔は、どこか呆れているようだった。

 

───

 

「ああ、ああ!! ヘクトールが死んだ!! ヘクトールが死んだ!!」

 

「ああっ、落ち着いて下さいイアソン様!! きゃぁっ!! 私が守って見せますから!!」ブラブラ

 

 

ヘクトールが消えていく光を遠目に見て叫ぶイアソン。彼を守るものが一人、また一人と減っていく。

……それが彼の采配ミスだと気づけないのが、イアソンの敗因なのだが。

 

そして、彼の隣にいたメディアはと言うと。

 

 

「守る守るって言っても、あのタコ出してくる魔術師に捕まってるじゃないかぁ!?」

 

「タコではありませぬ。海魔にございます」

 

 

イアソンが空を見上げると、メディアは海魔に逆さ釣りにされていた。ただの海魔ではない……漏れ無く竜の爪がついている。

触手はメディアの抵抗を潜り抜け、素早く彼女の無力化を成し遂げていた。

 

 

「どっちでもいいだろ!? ほら早く降りてこいメディア!! 私を守れ!!」

 

「は、はいっ!! でもっ……きゃあっ!?」ブラブラ

 

「いやー何かを穢すのは実にいい!! ……ファントム殿、イアソンをお願いします」

 

「分かりました」

 

 

じりじりと近づいてくるファントム。

イアソンは腰を抜かし、最早シャドウサーヴァントを呼ぶ精神力すら残っていない。

 

 

「来るな来るな来るな来るな!? ……そうだ、そうだ!! 来てくれ、というか来い、ヘラクレス!!」ガタガタ

 

───

 

「■■■

 

   シュンッ

 

「ヘラクレスが……消えた……?」

 

 

黄金の鹿号に乗っていた面々は、突然消えたヘラクレスに面食らった。

何があったのか。まさか残り4つの命の火が勝手に吹き消えたなんてことはあるまい。

 

 

「……恐らく、イアソンが呼び寄せたのだろう。いや、そうとしか考えられない」

 

「じゃあ、僕達もアルゴ船に乗り込めば……」

 

「……そう言うことになるな。行くぞ」

 

 

触手は少しずつ薄れ始めたが、未だ残っている。ゲンムと女海賊達は、それを渡ってアルゴ船へと乗り込んだ。

 

───

 

「■■■■■■!!」

 

「ヘラクレス……来てくれたか……!!」

 

「っ、呼ばれてしまいましたかっ!! この匹夫め!!」

 

 

アルゴ船に現れたヘラクレス。それはイアソンを庇うように立ち、吼える。

ジル・ド・レェは宝具を解除し、ファントムを伴って飛び退いた。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「おおマシュ嬢、私達は無事ですぞ」

 

「間に合ったか」

 

「おおクロスティーヌ!!」

 

 

ゲンムとサーヴァント達が、船の上に、ヘラクレスの前に並ぶ。今ここに、この特異点での全戦力が集中した。

 

まず動いたのはゲンムだった。

 

 

「……ここで終わらせる。まずは止まってもらおう」

 

『クリティカル デッド』

 

 

甲板から無数の死霊が湧き出てくる。それらはヘラクレスにひたすらしがみつき、何度吹き飛ばされてもそれに集って、強制的に動きを遅くさせた。

 

 

「■■■■!!」ブンッブンッ

 

「……派手に決めていくぞ、宝具だ」

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

「分かりました」

 

「共に歌いましょう」

 

「大男が……大男が見えるぅ……」

 

「決めますわよメアリー」

 

「うん、行くよアン」

 

「ここが命の張り所ってね!!」

 

「この盾でどうやって攻撃するんですかね?」

 

 

ヘラクレスを取り囲む全員が彼一人に狙いを定める。ゲンムはガシャコンスパローにギリギリチャンバラをセットして。サーヴァント達は各々の遠距離宝具を構えて。

 

ヘラクレスが攻撃に耐性をつける以上、チャンスは一度きり。一度に四つの命を奪おうという無謀な賭け。

全ては波に揺られる船の上で、一瞬の静寂の後に。

 

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

螺湮城教本・竜の巻(ドラゴナイト・スペルブック)!!」

 

地獄にこそ響け竜の愛の唄(ドラゴナイト・クリスティーヌ)

 

我が心を喰らえ、月の極竜(ドラゴナイト・ディアーナ)!!」

 

「「比翼にして連理(カリビアン・フリーバード・アクト2)!!」」

 

黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)!!」

 

 

   カッ

 

   ズドゴゴゴゴォォォォオォォンッッッ

 

 

その、無数が束になった一撃は強力だった。

焦げ臭い爆風が辺りを焦がす。たちまちアルゴ船は、一部が砕け一部が炎上する。そこかしこから船員の悲鳴が聞こえてくる。

 

……宝具の群れによるジャイアント・キリングは、ここに成立した。

 

 

「■■……■……」ドサッ

 

 

炎の中で崩れ落ちるヘラクレス。膝をつくのも厳しいのだろう、力なくうつ伏せになっている。

ゲンムが叫んだ。

 

 

「止めだ、マシュ・キリエライト!!」

 

「はあああああああっ!!」

 

 

マシュが弾かれたように飛び出し、駆け込む。

行うのは、この振るうには大きすぎる盾の刃が最も得意とすること。……ヘラクレスの背中に、盾の刃を突き立てた。

重い一撃はヘラクレスの胴体を両断し、……当然、止めの一撃と化していた。

 

 

   ズシャッ

 

「はぁ、はぁ……」

 

「■■■……、……■……」

 

 

ヘラクレスが粒子に変換されていく。

……命のストックの残りを、削りきった。

 

 

「……■…………、……」

 

「あaaAaああああaaあああああAあaああ!?」

 

 

ヘラクレスが完全に死に、恐慌状態に陥るイアソン。彼を守るものが無くなってしまっている今、彼がすがることが出来るのはメディアしかいない。

 

 

「皆さん、あとは二人です!! どちらかが聖杯を……!!」

 

「くっ!! 早く、早く守れメディア!! 何とかしろ!!」ガタガタ

 

「……はい、イアソン様」

 

 

囲み込まれた二人。怯え震えるイアソン。そして未だ幼い少女メディアは……

 

 

   グサッ

 

「……え?」

 

 

イアソンの胸に穴を開けた。

囲んでいたサーヴァント達は思わず目を見開き、何が起こったと困惑を隠せない。

 

 

「あ、が、ぎ、が、ぎいあいいいいいいいいい!!」

 

「顕現せよ。牢記せよ。これに至るは……」

 

「一体何を……!?」

 

「っ不味い!!」

 

 

何かを唱えるメディア。一言加えていく度に、その度にイアソンが変質していく。

何とかしてメディアを止めなければ、ナニカが目覚めてしまう。

今すぐ止めなければ……

 

 

 

……その為の手段は、存在していた。

 

 

「ファントム、スキルを使え!! 早くしろ!!」

 

「微睡む君へ私は歌う……」

 

 

スキル、魅惑の美声、発動。それは女性の気を奪い暫く動きを止める力。

メディアの聖杯を持つ手が、一瞬だけ静止した。

その隙を、ゲンムは逃がさない。

 

 

「っく……!?」ピタッ

 

「これで終わらせる……!!」

 

『クリティカル エンド!!』

 

「はぁぁっ!!」

 

 

その場から駆け出し、メディアに低姿勢からの飛び蹴りを食らわせるゲンム。

 

鳩尾に足裏を叩き込まれ、体をくの字に折り曲げた彼女は堪らず聖杯を取り落とし……そのまま、海へと落ちていった。

 

 

「きゃあぁぁぁ……!?」

 

   ボチャン

 

「……聖杯、回収完了」

 

『ダッシュゥー』

 

───

 

「……ガシャットを回収する。体調に異常は?」

 

 

全ては終わった。アルゴ船はイアソンを巻き込んで崩れ去った。

 

 

「特にありませぬぞ」

 

「問題ないですクロスティーヌ」

 

「おkぇぇえ!!」

 

「えっ、これ何か不味いものだったんですか?」

 

 

黎斗はサーヴァント達の反応を聞きながら、各々からプロトドラゴナイトハンターZガシャットを引き抜き、静かに唸る。

 

 

「ふむ……何故だ……? いや、そうだとすれば……ああ、それもそうか」

 

「何言ってるんですか黎斗さん?」

 

「あ、いや……君が知る必要はない」

 

『おつかれ皆。じゃあレイシフトを……』

 

「……待ってくれ。少し話がしたい」

 

 

黎斗はそのように通信をかけてきたロマンに言って、ドレイクの元へと歩み寄った。今までに無いことだった。

 

 

「なんだい? まだ話すことでも?」

 

「……太陽(スペイン)を落とし、祖国(イギリス)に巨万の富をもたらした大英雄、フランシス・ドレイク」

 

 

マシュはその姿を好ましく思った。ようやく、彼も人とまともにコミュニケーションを取ろうとしている、それがたまらなく嬉しかった。

 

……その時までは。

 

 

「……貰った!!」

 

   ブァサササッ

 

「っがあっ!?」

 

「黎斗さん!?」

 

 

その時までは。黎斗がバグヴァイザーを振りかざし、ドレイクに攻撃を仕掛けるまでは。

 

 

「何やってるんですか黎斗さん!? 彼女は味方ですし、もう聖杯は手に入れたんですよ!? 止めてください!! ドクター、今すぐレイシフトを!!」

 

 

訳が分からないままそう叫ぶ。

黎斗はマシュの動向など気にする様子もなく、変身した。

 

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

「え……えっ……? 何が、何だい……?」

 

 

膝をつくドレイク。ゲンムは彼女の首に鎌を添える。

 

 

「止めてください!! 止めてくださいよ!! ほら、皆さんも!!」

 

「……私は、主の望むことなら止めようとは思いませぬ」

 

「クロスティーヌにも考えがあるのでしょう」

 

「……」

 

「そんなっ……」

 

 

レイシフトが始まる。マシュの視界が青に染まる。

最後に見たものは、凶刃の前に倒れる誇り高き女海賊で──

 




今回の三つの出来事

・触手担当ジルドレ
・お家芸になりつつある魔神柱キャンセル
・マシュの前でドレイク消滅

サーヴァントがまだゲーム病にかかっていないのは今後の伏線、まだ気にしないでね

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