Fate/Game Master   作:初手降参

135 / 173

この話を書くためにこの特異点を開始しました
でもいざ書こうとなると難産になる



第三十五話 Justice

 

 

 

 

 

「……マスター?」

 

 

テール・オブ・クトゥルフの開発も終わったので、久々に新ライダーの開発に戻ろうとしていたナーサリーは、モニターを確認してマシュの姿を見た。

モニターには、ゲンムコーポレーションへの道が写されていた。つまり、マシュは一人でゲンムコーポレーションへと歩いて来ようとしていた。

 

 

「……どうする、マスター? そのまま入れるわけには、いかないわよね?」

 

「……それも、そうだな。ああ、私が直々に出迎えてやる」

 

 

既に二人は、マシュがゲンムコーポレーションから離反したと知っていた。彼女はもう敵だと認識していた。

そして檀黎斗という男は、不快かつ不要な因子を排除することには躊躇いはない。

 

真黎斗は立ち上がり、ゲーマドライバーを掴んだ。外は暗く、雨がポツポツと降っていた。

 

 

「漸く、出番があるというものだな。私の神の才能が産み出した、この、発明の……!!」

 

───

 

 

 

 

「……あえて聞こう。何をしに来た?」

 

「……貴方を越えに来た」

 

 

真黎斗は、ゲンムコーポレーション玄関口でマシュを出迎えた。マシュはその目を赤く光らせながら黎斗を見つめる。黎斗はその視線を気にすることもなく不敵に笑った。

 

 

「私はもう、迷わない……!!」

 

 

マシュは、その腰にバグスターバックルを巻いていた。そして彼女は鞄からガシャコンバグヴァイザーⅡを取りだし、装備する。

 

 

「……貴方は狂ってる!!」

 

『ガッチョーン』

 

「私の手で、終わらせる!!」

 

『仮面ライダークロニクル!!』

 

 

そして、仮面ライダークロニクルを起動した。

 

 

「私が遊んでやろう。試運転も兼ねてな」

 

『マイティアクション NEXT!!』

 

 

対する黎斗はマシュに対して驚きも何も示さずに、マイティアクションNEXTを起動した。そしてそれをゲーマドライバーに装填する。

 

 

『『ガッシャット!!』』

 

「「変身……!!」」

 

『ガッチャーン!!』

 

『バグル アァップ』

 

 

二人は同時に変身した。雷が二人の姿を照らす。雨が強くなり行く黒い空の下で、彼らは同時に足を踏み出した。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『天を掴めライダー!! 刻めクロニクル!! 今こそ時は 極まれり!!』

 

───

 

「……ラーマ様」

 

「……」

 

 

ラーマとシータは、二人でゲンムとクロノスの戦いを見つめていた。彼らはただただ悲しかった。彼女が、自分達とは道を違えてしまったことは、もう火を見るより明らかだった。

 

 

「……どうしましょう」

 

「マスターだけで、彼女は倒せるだろう。僕らの出番はない」

 

「そう……ですね」

 

 

彼らの内心は複雑だった。しかしその中に、真黎斗に付き従うことへの迷いは一切無かった。ただ、これまで共に戦ってきた少女が消えるのだと考えれば、それは悲しいことだった。

 

───

 

『クリティカル サクリファイス!!』

 

 

クロノスの手から数個の光輪が飛び出した。それらは別々の軌道でゲンムに食らいつくが、ゲンムが足を振り上げ回し蹴りを行えば、それらは簡単に弾き飛ばされた。

 

クロノスはそれを潜り抜けながら、バグヴァイザーのボタンに手をかける。既に彼女は、バグヴァイザーⅡを使用したクロノスの戦闘方法を理解していた。

 

 

「まだまだっ!!」

 

『ポーズ』

 

 

……そして彼女は、ポーズを発動した。それにより周囲の時は止まる。彼女の周辺にあった光輪も、落ちてきていた雨粒も。例外はクロノスと、そして……ゲンム。

 

 

「私がポーズごときで止まると思ったかァ!!」

 

「まさか!! その程度で止まりはしないでしょう!! それでも!!」

 

 

既に、ゲンムはハイパームテキを使用した黎斗神のゲンムの勝利している。最初から彼は、クロノスのポーズに対する対策も立てていた。この世界では、ポーズを使っても真檀黎斗は静止しない。

 

 

「それでも!! 私は!! 決着を!!」

 

『クリティカル ジャッジメント!!』

 

 

クロノスがゲンムの胸元にバグヴァイザーⅡの銃口を突きつけ、弾丸を放った。ゲンムは確かにそれを食らった筈なのだが、数歩分飛び退いた彼は動揺することもなくピンピンしていて。

 

 

「……効かないさ。君を作ったのは私なのだから」

 

「私は、負けない!!」

 

『リスタート』

 

 

クロノスがポーズを解除した。それによって再び動き出した光輪が、ゲンムの背中を捉えた。

 

 

   ガリガリガリガリ

 

「っ……」

 

 

しかしそれは容易く叩き落とされる。

 

それでもクロノスは、その隙にゲンムの懐まで接近した。

 

 

「ここで……決める!!」

 

 

バグヴァイザーⅡのチェーンソーが、ゲンムの鳩尾を抉る。ゲンムが勢いで少しだけ浮き上がった。

そして彼女は叫んだ。力を込めて叫んだ。胸の中に溢れる思いを力にしようとした。

 

 

「私には、三人のお父さんがいます!!」

 

 

それを切っ掛けに、彼女は連打を開始する。

左の拳でゲンムの鳩尾を突き上げた。右の足で脇腹を蹴った。左の腕で首を薙いだ。

 

 

「ずっと私を心配してくれて、側にいてくれた、お父さん(ロマニ・アーキマン)!!」

 

 

『ボクは言ったはずだ。死ぬな、と』

 

『……君は、本当に……本当に、今の自分を後悔していないのかい?』

 

『全員で帰ってこい。ボクらはそのためにここまでやって来たんだから』

 

 

クロノスの脳裏に、ロマンの泣きそうな顔が往来した。

チェーンソーでゲンムの右足を削る。左の肘を胸元に突き立てる。そして彼女は背中に差していたガシャコンカリバーを掴み、それでクロノスを切り裂いた。

 

 

「私を守ってくれて、戦ってくれた、お父さん(ランスロット)!!」

 

 

『……私は生前、全く父親らしい事は出来なかったが。息子を庇って死んだなら……少しは、それっぽくなったと思う』

 

『……私は戦うつもりはない』

 

『ここで君が終わるのは、私が悲しい』

 

 

今度は、ランスロットの悲しげな顔が往来した。彼らを悲しませることしか出来なかったことを彼女は後悔するが、今さら遅い。

よろけたゲンムの首筋に回し蹴りを敢行する。勢いのままに股間を蹴りあげる。そして再びガシャコンカリバーを背中に戻し、右腕のバグヴァイザーを操作する。

 

 

「そして、私を作ってくれた、お父さん(檀黎斗)!!」

 

『クリティカル サクリファイス!!』

 

 

黎斗の顔は、思い出すまでもなく目の前にあった。

チェーンソーの刃が緑の閃光を纏う。クロノスはそれをゲンムの首筋に添えて、斜めに降り下ろした。

とうとう、ゲンムは後ろに倒れ込んだ。クロノスは傾き行く腹を踏み倒し、大地に叩き付けられて浮き上がったゲンムを蹴り飛ばした。

 

 

「貴方のその、才能は確かなものです!! でも私は、認めない!! 貴方が作る世界を認めない!!」

 

「……ハ、ハ……ハーハハハハ!! 君の肯定など必要ない!!」

 

 

……しかしゲンムはすぐに回復した。起き上がった彼は舐め回すようにクロノスを睨み、宣言する。

 

 

「しかし……私の肩に泥をつけた代償は重い」

 

「……」

 

「……来い、私の産み出したバグスター。君を削除する」

 

『N=Ⅴ!!』

 

『マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『ドラゴナイトハンター!! Z!!』

 

───

 

「……っ」

 

 

ジークフリートは、苦い顔でクロノスを見つめていた。少しばかり本気を出したゲンムは近距離で彼女を切り裂き、中距離で彼女を炙り、遠距離で彼女を撃ち抜いていた。その姿は荒々しく、しかしその攻撃には恐ろしいまでに理性の存在を感じた。

二人は何度だって互いに攻撃する。遠くで殴りあい、近くで斬りあい、かと思えば瞬間移動をしてもっと遠くにいたりした。

 

 

「……どちらを持つのじゃ? ジークフリート」

 

「……マスターだ」

 

 

唐突に現れた信長が隣の窓枠に腰掛け、抹茶オレを飲み始めた。ジークフリートは冷めた目で彼女をちらっと確認し、すぐにクロノスに目線を戻す。

 

 

「そうじゃろうなぁ。わしもそう思う。きっと誰も、マシュに賭けはしまい」

 

「……何が言いたい」

 

 

信長は、ジークフリートを見た。彼女は窓枠から飛び降りてジークフリートに歩みより、その目を見つめる。

 

 

「……そうじゃのう」

 

「……」

 

「もう、迷っている暇はないぞ、と言いに来た。お主はどうする」

 

「──」

 

 

下の方では、ゲンムがキメワザを発動していた。少し前までは善戦していたクロノスは、もう傷だらけでホコリだらけ。見る影もなかった。

 

 

「俺は……」

 

「……わしらに気を使っておるのか?」

 

「……そうだな」

 

 

ジークフリートは信長から目を逸らした。クロノスはもう、負けかけていた。

 

 

「……そうじゃな。お主に一つ、いい解答を与えてやろう」

 

───

 

 

 

 

 

『ポーズ』

 

 

クロノスがまたポーズを発動する。もう本降りになっていた雨粒が空中で足踏みし、強くなりかけていた風も消え失せた。

その中でクロノスはゲンムを撃ち抜こうとする。

 

 

『クリティカル ジャッジメント!!』

 

「はああっ!!」

 

「狙いが甘い!! どこを見ている!!」

 

 

しかしゲンムはそれをすり抜け、クロノスの足元まで滑り込んだ。そして彼はその場で体を捻り、クロノスの胸元を蹴り上げる。

 

そして、クロノスを抑え込んだ。

 

 

「……君は私を見くびっている。君は私が作った。君の全てを!! その身体も、その過去も!! だから──」

 

『ガシャコン カリバー!!』

 

「……これも、もう再現できる」

 

 

ゲンムはその手に、もう一振りのガシャコンカリバーを掴んだ。それはクロノスの背中にあるものと何ら変わりはなかった。唯一違いがあるとすれば、クロノスが発動できる宝具が彼女自身の剣だけであるのに対して、彼は全ての宝具を使える、ということか。

 

 

「君の全てをデリートする」

 

『Noble phantasm』

 

 

ゲンムの口から笑い声が漏れていた。ガシャコンカリバーはクロノスの首筋に添えられていて。

 

 

「私は……」

 

 

……脳内で、過去が蘇った。走馬灯のように思えた。

あの日、火の中で黎斗と出会って。

旅をして。黎斗の残酷さを知って。

変身して。守護者になって。

戦い抜いて……絶望して。

 

ロマンの顔が見えた。ダ・ヴィンチの顔が見えた。カルデアの皆を見た。

今でも彼らの姿はマシュの中にあった。偽りの命の偽りの過去。彼女に物語はなく彼女は壊れていて。

 

それでも。譲れないものがある。

 

 

「嫌です……私は、諦めない!! 貴方を……越える!!」

 

 

それらを思い返せば、何としてでも目の前の敵を倒さなくてはならないと思えた。彼を倒せなければ、自分が、苦しいから。

故にクロノスは最後まで諦めなかった。彼女はゲンムがガシャコンカリバーのトリガーを引くのと同時に、彼の抑え込む力が少しだけ弱くなったことに気づいていた。だから。

 

クロノスは背中のガシャコンカリバーに手を伸ばしながら、全力で上半身を起こした。それによってガシャコンカリバーの剣先も浮き、それは地面を指し示す。クロノスの目は、赤く赤く光っていた。

 

 

「何を──」

 

『Noble phantasm』

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

 

宝具を発動したのは、クロノスが先だった。ガシャコンカリバーの剣先から光が溢れ、それは剣先にあった地面を打ち砕く。そして、クロノスは反動で大きく後方に飛び退いた。

 

 

「っ、成功した!!」

 

『リスタート』

 

 

クロノスはガシャコンカリバーを左手に持ち替えて逆手に持ち、再び宝具を発動する。そしてその反動で一気にゲンムに接近し、右手のチェーンソーで切り裂いた。

 

 

『クリティカル サクリファイス!!』

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!! はああああああああっ!!」

 

   ザンッ

 

 

初めて行う戦い方だった。余りにも燃費が悪すぎた。クロノスの体力はただでさえ少なかったのにますます消耗していく。

構わなかった。ここで、ゲンムを倒せるのなら。

 

飛び回る。飛び回る。壁を蹴り、電灯を掴み、大地を駆ける。そのスピードは光速にすら至るかと思われるほどで。ゲンムにそれの攻撃を回避する術はなく。

 

 

「全部、終わりにしましょう!!」

 

『ポーズ』

 

『クリティカル クルセイド!!』

 

『Noble phantasm』

 

約束する(エクスカリバー)──」

 

 

クロノスが足を突き出した。その足裏はゲンムを捉え、その場から連れ去り、ゲンムコーポレーションの壁に押し付ける。

 

 

人理の剣(カルデアス)!!」

 

   ダンッ

 

 

そして、強く強く押し込んだ。

力の限り押し込んだ。

それは奇しくも、かつてゲンムがシールダーを殺した時と似通っていて。

 

 

 

 

 

「っ、が……」

 

『Game over』

 

 

そして、ゲンムは消滅した。

 

クロノスは止まった時の中で膝をついた。全身の力が抜けていく。

 

 

『リスタート』

 

『ガッシューン』

 

 

マシュは変身を解除して寝転がった。空から叩きつける雨粒が彼女の体を撫でた。

マシュは、満足していた。今にも体は崩れ去りそうだったが、構わなかった。ポッピーに手渡しでバグヴァイザーⅡを返せないことだけが、心残りだった。

 

止まった時の中で倒したなら、その死は永遠の物となる。バグスターであろうと復活は不可能。ゲンムは、倒した。

他のサーヴァントの殲滅までは無理だったが、マシュはそれは妥協した。彼女は、幸福だった。

 

 

「ああ、良かっ──」

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「──え?」

 

 

その音を、聞くまでは。

 

マシュは、雨の中で一人の男を見た。殺した筈の、男だった。

雷が彼の顔を照らす。真檀黎斗は、復活した。

 

 

「何で、確かに──」

 

「……私を甘く見るな。私は神だ。あの程度の対策、三分もあれば出来る。ああ──君を潰すことなど、指一本でも可能」

 

 

マシュは逃げようとした。出来なかった。どういうわけだか、彼女はその場から霊体化して逃げることが出来なかった。恐怖で肩が震え始める。

 

 

「あ、あ、あ……」

 

「……では、終わりだ。君を削除する」

 

『Noble phantasm』

 

「……縛鎖全断(アロンダイト)過重湖光(オーバーロード)

 

「っ……」

 

   グサッ

 

 

ゲンムの手のガシャコンカリバーが、マシュの胸元に突き刺さり。そして、ゆっくりと引き抜かれた。

 

 

「……あ」

 

「霊核を破壊した。長くは持つまい……私としたことが、少しばかり汚い戦いをしてしまったな」

 

 

マシュの意識は、朦朧としていた。悲しい。悔しい。苦しい。痛い。辛い。感情が傷口で掻き回され、曖昧になっていく。

そしてゲンムは、止めとばかりにガシャコンカリバーを振り上げて──

 

 

 

 

 

   カキン

 

「……ほう?」

 

「ジークフリート、さん?」

 

 

その剣を、ジークフリートが受け止めていた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───ジークフリートの決断

「これを、お前に」

「駄目です!! 要りません!!」

「俺が、こうしたいんだ」


───真黎斗の作戦

「一応処理、しておきましょうか」

「次のイベントを始めよう」

『ガンバライジング!!』


───エリザベートの確信

「子ブタ……!?」

「あの人は……」

「……そう。そうだった、のね」


第三十六話 TIME


「セイバーとシールダーの消去が完了したわ」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。