ローグの変身音、クロコダイルの筈なのに明らかに
……というかコウモリボトルどうしたのさ
ナーサリーのアナウンスは、国会議事堂周辺を守っていた永夢と飛彩、ナイチンゲールの耳にも入っていた。パラドは現在さらに離れたところで戦っているが、きっと彼の耳にも入っているだろう。
「仮面ライダーが、敵になる……」
「勝てるのか……?」
仮面ライダー。自分達以外の仮面ライダー。永夢も飛彩も、彼らが如何に強いかはその眼で目の当たりにしたことがある。
希望の魔法使い、仮面ライダーウィザード。
神になった男、仮面ライダー鎧武。
市民を守る警官、仮面ライダードライブ。
可能性を信じた英雄、仮面ライダーゴースト。
それだけではない。W、オーズ、フォーゼ、そして響鬼といった仮面ライダーだって彼らは知っている。その戦いを知っている。
圧倒的な戦力だった、そう思っている。
「それでも、惑う暇はありません」
「……そうですよね」
しかし、勝たなければならないのだ。人々を守るためには。
彼らは、誰からともなく振り返って、国会議事堂を仰ぎ見た。ナイチンゲールが令呪を消費して発動した絶対安全圏は、もう既に崩れつつある。もう一度発動することも考えたが、今後のリスクを考えるとそれも厳しい。
「それまでに……少しでも、状況を改善しないと」
そう、呟きが漏れた。
───
放出された仮面ライダーは、各自自分のバイクを召喚して適当な所に散らばっていった。仮面ライダーWは千葉へ向かった。仮面ライダードライブは埼玉へ向かった。仮面ライダー鎧武は神奈川へ向かおうとする……といった具合だった。
彼らに意思はなく、現在の聖杯戦争のトップランカーの中から選んだ適当な一人を襲いに向かう機械のような物だった。
……そして、仮面ライダーオーズは聖都大学附属病院へと向かっていた。標的はアルジュナのマスター、日向恭太郎。
聖都大学附属病院の仕掛けたカメラにオーズの姿が写り込んだのは、ナーサリーのアナウンスから十五分後位のことだった。
それを確認した聖都大学附属病院内の多くの人々は動揺し、戸惑い始める。灰馬は慌てて、ナースステーションに設置された衛生省に駆け込んだ。
「しし、審議官!!」
「落ち着いてください!! 分かっていますから。誰が来たとしても、やることは決まっています」
恭太郎は灰馬を落ち着かせながら永夢に電話をかける。それと同時に彼は引き出しを開けて書類を開き、マニュアルを引き抜いて見直した。そしてそれをコピーして灰馬の後ろに控えていた彼のサーヴァント、織田信勝に差し出す。
「……分かりました、足止めを開始します。そちらも、第一段階を開始してください」
「ああ。健闘を祈る」
信勝はマニュアルを見つめながら踵を返した。恭太郎はそれを眺めながら、アルジュナと共に上の階へと歩いていく。
───
「えっ!? 聖都大学附属病院に仮面ライダー!?」
永夢は恭太郎からそれを聞き目を見開いた。まさか、もう攻めてくるとは。少しばかり早すぎるようにも思ったが、来てしまったのなら仕方がなかった。
永夢は恭太郎から相手がどんなライダーなのかを聞き出して、隣にいた飛彩と情報を共有する。
「上下三色……それなら、覚えがある」
「ええ。あの仮面ライダーですね」
「そうだ……俺が行こう。倒した経験があるからな」
飛彩がそう言いながら立ち上がった。ここを無防備にするのも怖いので永夢はそれに相槌を打ちながら送り出す。
「……最も、野球で倒した経験が役立つかどうかは怪しいがな」ボソッ
飛彩が漏らした独り言は、誰にも聞かれなかった。
───
エリザベートは、自分の部屋に戻って身支度を整えていた。最早サーヴァントであることを隠す必要はない。衣服も帽子も不要であった。
「……行かなきゃ」
そう、しきりに呟いていた。彼女は焦っていた。ついさっき取り逃した仮面ライダーウィザードを追わなければ、と。
……そんなエリザベートを、ラーマが悲しげに見つめていた。
「……何よ」
「……どうしても、行くのか?」
「悪い?」
ラーマは、エリザベートがこれからしようとすることを察していた。そしてそれは、真黎斗への裏切りに他ならなかった。
「私は行かなきゃいけないの。アイツに、誰かを殺させるわけにはいかない。例え良くできた偽物でもね……だから、私が止める」
「それは、マスターへの裏切りになるぞ?」
「……そうね。それでもよ」
ラーマは俯いた。溜め息を吐き──そして、瞬時に移動してエリザベートの首筋に刃を添えた。
「っ──」
「止めるんだ。余はお前を斬りたくない」
「ラーマ……」
ラーマは、真黎斗に忠誠を誓っている。自分を愛するシータと引き合わせてくれた恩人だから。例え全てが作られた記憶でも構わない。自分が彼に作られた偽物でも構わない。彼に心を救われたと、ラーマは思っているから。
しかしそれと同時に、彼は仲間が減っていくこの状況が心苦しいとも思っていた。ファントムが消え、カリギュラが消え、マシュは裏切り、ジークフリートと共に消去された。それは妥当な判断だったとラーマは考えるが、それでも辛かった。
「余は、止める。何としてでも」
「……っ」
エリザベートは息を飲んだ。目の前の男からは嘘の気配は感じなかった。彼は真剣だ。そう思わされた。
……しかし、ふと気がつけばその剣はエリザベートの首筋から外れていた。
アヴェンジャーが、ラーマの手を押さえつけていた。
「……行かせてやれ」
「アヴェンジャー!? 何故だ!? 何故、止める!?」
ラーマが動揺しながら飛び退く。エリザベートはよく状況を理解していなかったが、一先ず頭の中でアヴェンジャーに感謝しながら階段へと駆けた。
「ああ、少しだけ待て」
「……何よ」
しかしまた彼女は呼び止められる。エリザベートが怪訝そうに見たアヴェンジャーは自分の部屋の方角を振り向き、顔だけ出していたイリヤに声をかける。
「……お前も行くといい」
「……え?」
「ここにいるよりは、マシだろう」
「それは……でも……私は、サーヴァントだし……」
「あらあら、これお別れのシーンじゃないですか。おかしいですねー、まだろくにイベントこなしてないと思うんですけど?」
イリヤは俯きながら部屋を出てきた。ルビーもそれに追従する。アヴェンジャーはラーマの同行を見ながらも少しだけ後ずさり、イリヤの頭を撫でた。
「令呪を三画使って命じる。単独行動せよ」
「……っ!?」
アヴェンジャーは唐突に令呪を切った。彼の手が一瞬赤く煌めき、すぐに静まり返る。それと共に、イリヤはアヴェンジャーが離れていくのを感じた。
「……これで、お前は自由の身だ。お前の命は自由になった」
「アヴェンジャーさん……!?」
「オレは檀黎斗のサーヴァントだ。だがお前は違う……オレは好きにした。だから、お前も好きにしろ。そして、その中でやりたいことを探してこい。あのランサーと一緒にな」
アヴェンジャーはそう言いながらエリザベートを指した。エリザベートはそれなりに動揺したが、今は黙っているべきかと空気を読み、我慢して平然を装う。
「望むように運命に抗うがいい。得意だろう?」
「……分かりました」
「……では、さらばだイリヤ。オレのようなろくでもないマスターに対して気を使う必要はないぞ。するべきだと思ったのなら、何時でも殺しに来るがいい」
「……ありがとう、ございました」
そして、アヴェンジャーはイリヤをエリザベートの元に差し出した。そして、黙って立っていたラーマに向き直る。
───
「っ……!!」
飛彩が聖都大学附属病院に駆けつけたとき、そこは既に戦場となっていた。
中庭にオーズがいて、彼は黒い剣を振るう女と斬りあっていた。そしてその外から、何発もの矢が、弾丸が撃ち込まれていた。……しかし、オーズに弱る気配はなかった。
『サイ!! トラ!! チーター!!』
「むっ……また姿が変わったか。全く、こいつの相手は骨が折れる。後でハンバーガーを三倍程請求しなければ」
黒い剣の女セイバー、アルトリア・オルタがエクスカリバーを振りかざし、オーズの呼び出したメダジャリバーと斬り結ぶ。その衝撃は遠くの木すらも揺らし、地面はもうひび割れていた。
そして、アルトリア・オルタは押されていた。
『トリプル!! スキャニングチャージ!!』
「……」
「むっ……来るか」
オーズが虚空から銀色のメダルを三枚取り出して、メダジャリバーに装填した。そしてそれをスキャンし、剣を構える。
アルトリア・オルタはそれにあわせて剣に風を纏わせるが、彼女自体はかなり疲弊していた。
「……セイヤー!!」
「
刃と刃とが衝突する。二人の剣は、力は拮抗し……オーズがサイの角でアルトリア・オルタの足元の重力を0にしたことで、オーズが一方的に打ち勝った。
フワッ
「なっ──」
ザンッ ガガガガガガガガ
アルトリア・オルタが吹き飛ばされて地面を転がる。本来なら空間すら切り裂く一撃をその身に受けたのだから、実態を保てているだけ幸運なレベルだった。
しかしオーズは彼女を取り逃がすつもりはないらしく、チーターの脚力で彼女に迫り──
カキン
「……危なかった、か」
「……貴様」
「下がっていろ。救援に来た」
そのタイミングで、ブレイブに変身した飛彩が割り込んだ。
アルトリア・オルタと視線を交わしたブレイブはそれだけ告げて、オーズに向かって斬りかかる。対するオーズはメダジャリバーを放棄しトラの爪を展開して、ガシャコンソードを受け流し始めた。
───
「……強い」
恭太郎は、オーズとブレイブの戦闘を眺めながら呟いた。彼の横ではアルジュナが狙撃を行っているが、どうにも効いている様子がなかった。
ブレイブがオーズに斬りかかっても、空振りしているようにしか見えない。恭太郎は気を揉むのに疲れていた。
「現在の姿は……サイ、カマキリ、タコ、といった感じですね」
「そうだな……矢を放っても、重力で叩き落とされてしまうのだろう」
「恐らくは。……令呪は、使いますか?」
「まだだ。まだ、使わない」
そうしている内に、またオーズの姿が変わる。変わらないのは、ブレイブが苦戦しているということだけだった。
───
『プテラ!! トリケラ!! ティラノ!! プ!! ト!! ティラノザウルース!!』
「……」
「っ……不味い」
ブレイブは今になって、あの時のオーズが如何に弱かったのかを理解した。本気になれば、災害級に恐ろしいなんて誰があの戦いで理解できただろうか。
オーズは、全身紫の姿になって斧を構えていた。ブレイブはその姿を見るだけで気圧され、逃げ出したい衝動に駆られる。
「だが……まだだ」
『タドル クリティカル フィニッシュ!!』
しかしブレイブはそれを堪えて、ガシャコンソードにタドルクエストを装填した。そしてそれを構え……再びブレイブが顔を上げた時には、オーズの姿は見えなかった。
「……何だと?」
ブレイブは辺りを見回す。しかし姿はどこにもなく。……そして彼は、天空からの羽ばたきの音を聞いた。
「……っ、まさか、上か──」
ザンッ
彼が上を向いたときにはもう遅い。プテラノドンの翼を展開し空に舞い上がっていたオーズはその斧をブレイブの肩に突き立て、降り下ろしていた。ブレイブは地面に押し付けられ、さらにオーズに蹴り飛ばされる。
「っぐ──」
『ゴックン!!』
オーズはブレイブが動けなくなったのを確認して、何処からともなくまた銀色のメダルを取り出し、それを斧に食べさせた。そしてそれを持ち変えて銃のようにし、ブレイブに向ける。
ブレイブは痛みを堪えながらどうにか立ち上がろうとしたが、いつの間にか足が膝上から凍りついていた。逃れられない。
『プ ト ティラノヒッサーツ!!』
エネルギーがチャージされていく。周囲が揺れるような錯覚をブレイブは覚えた。せめてもの抵抗として彼は剣を構えるが、体勢が固められていてはそれすらも不格好で。
そして、光が彼の視界を奪った。
「っ……」
カッ
「
……ブレイブは恐る恐る顔を上げた。彼は無傷だった。……目の前に、一人の女性が立っていた。見覚えのある立ち姿だった。見覚えのある、旗だった。
忘れもしない。彼女こそはジャンヌ・ダルク。CRのセイバーだったはずの、消滅したはずのサーヴァント。
「お前は……」
「……貴方に会えて、本当に良かった!!」
ジャンヌは、振り返りながら微笑んだ。そして、まだ動けないブレイブに膝をつき、告げる。
「千代田区のルーラー、ジャンヌ・ダルク!! 職務を放棄してここまで馳せ参じました、マスター!!」
次回、仮面ライダーゲンム!!
───ジャンヌの帰還
「千代田区の、ルーラー?」
「共に戦いましょう」
「令呪をもって命ずる」
───絶対安全圏、消滅
「間に合わなかった……」
「ここは俺達に任せろ」
「何でまだ終わらないんですか……!?」
───仮面ライダーとの戦い
『今朝のニュースよ!!』
「おいおい、あれ、どう考えても仮面ライダーだろ」
「私のクリエイティブな時間の邪魔をするな!!」
第三十八話 Fellow soldier
「行きましょう、マスター!!」