現在の作とアルトリア・オルタ
真黎斗はグランドオーダークロニクル始動時にドクター達には追加のサーヴァントが現れないように手を加えていたが、その中には作は入っていなかった。故に作だけには令呪が追加されサーヴァントが現れた
また、グランドオーダークロニクル開始前に召喚されたサーヴァントは、グランドオーダークロニクル開始後も追加で召喚はされていない。つまり、ナイチンゲールもマシュも信長もナーサリーもゲームエリアに一人しかいない。
「千代田区の、ルーラー?」
聞き慣れない取り合わせに、ブレイブは問い返していた。同時に足に力を込めて、氷を砕いて立ち上がる。少しばかり脚は冷えたが、凍傷にはなっていないようだった。
「ええ。戦争が激しいエリア……具体的には、聖杯完成達成率50%を経過したエリアには監視役としてルーラーが召喚されるんです」
「つまり……千代田区の聖杯は半分完成したのか」
「そうですね……」
ブレイブの声は曇っていた。
忘れてはならないことは、国会議事堂は千代田区にあるということだ。千代田区の聖杯は千代田区役所に設置されている。そして国会議事堂は、そこから皇居を挟んで反対側にある。……とても近い。きっと、パラドも聖杯の近くにいるだろう。
……そこまで考えたところで、オーズがまたドライバーに手をかけているのが目に入った。二人は視線を交わし、オーズに向き直る。
「……と、よそ事は後にしましょうか。共に戦いましょう」
「そうだな……行くぞ、セイバー……違ったな。行くぞ、ルーラー」
「ええ!! 行きましょう、マスター!!」
───
アヴェンジャーとラーマは、暫く見つめあった後にどちらからともなく警戒を解き、屋上にやって来ていた。共に屋上の端に腰掛け、遠くの方に見えるスカイウォールを眺める。
「……吸うか?」
「……じゃあ、一本」
アヴェンジャーは、ラーマに煙草を一本差し出した。態々アヴェンジャーが遠くまで行って何ダースも買ってきた箱の内の一つだった。
「……」スパー
「……」スパー
屋上から見る世界はちっぽけだった。少なくとも、彼らがかつて旅した世界とスケールは変わっていないように感じられた。
「アヴェンジャー」
「……どうした」
「お前は、構わなかったのか? ……あの少女は、あの時の少女なのだろう?」
「……構わない。オレは再会など望んではいなかったしな」
ラーマは、アヴェンジャーがイリヤを手放したことを気にしていた。度し難く思っていた。彼は慕われていて、彼女は想われていたのに。互いに相手のことを悪くなく思っていて、それなのに態々対立しようとするなど、全く分からなかった。
もう、ここから彼女らの姿は見えない。エリザベートが何処に行ったのか、イリヤが何処に行ったのか、それはさっぱり分からない。
「……檀黎斗に珍しく怒りを覚えた。物語より生まれた存在なら、物語の中で終われば幸せだということは、やつにも分かっていただろうにな」
「アヴェンジャー……」
「……しかし、だからといってオレはあいつに手を出しはしない。誰も、檀黎斗には勝てはしない」
アヴェンジャーはそう言い、上を見上げる。妙に腹がむかむかした。
煙草の灰が風に溶けた。ラーマは煙草の火を指で磨り潰しながら立ち上がり、アヴェンジャーに背を向ける。
「……余は行く」
「良かったのか? オレは今無防備だ。斬るなら今だぞ?」
「そんな気分ではない」
アヴェンジャーは、背中越しにラーマが去っていく足音を聞いた。そして彼もまた煙草の火を揉み消して、屋上から飛び降りた。
───
ブレイブとジャンヌは、一時間程の間ずっとオーズと戦闘していた。
遠距離からの攻撃にはジャンヌが旗で対応し、近距離からの攻撃にはブレイブがガシャコンソードで対応して、どうにか一時間凌いでいた。
『サイ!! ゴリラ!! ゾウ!! サゴーゾ……サゴーゾ!!』
「また姿が変わった!!」
「きりがありません……!!」
オーズの姿がまた変わる。しかし、
ブレイブの限界は近かった。既に彼のライフゲージは残り2つ程だった。隣に立つジャンヌも、肩で息をしていた。
……しかし、まだブレイブは絶望していなかった。
「……いや、諦めるな。今までより、確かに相手の動きは遅くなっている。相手のシステムに疲労が生じている」
彼の目は、オーズの肩を見つめていた。その動きを。仮面ライダーを模倣したプログラムに蓄積した疲労を。
「本当ですか、マスター?」
「ああ……見たところ、今度の相手は打撃中心のスタイルだろう。だが、あえて俺は接近する」
「どうしてですか? 一応、ドレミファビートの力を使えば遠くからでも戦えるのでは……」
「相手の武器があの腕ならば……俺が注意を引き付けていれば、相手の動きは封じられる」
ブレイブはガシャコンソードを構え直して、少しだけ病院の方を仰ぎ見た。その中で戦いを見つめている、恭太郎の目を見た。
───
「……頃合い、だな」
恭太郎は、オーズと超至近距離で取っ組み合うブレイブを眺めながら、呟いた。今なら、相手が少しばかり疲弊した今ならば、倒せる。そう思えた。
恭太郎は、後方に待機していた作とアルトリア・オルタの方を少しだけ見やる。
「……作さん」
「は、はいいっ!?」
「……やりますよ。ここで決着を」
その言葉だけで、作も何をするべきか察した様だった。アルトリア・オルタは、もう幾らか回復していた。現在はチーズバーガーを五個ほど平らげている。
「わ、分かりました!! ……セイバーさん?」
「……仕方ないな」モッキュモッキュ
そして二人は階下へと降りていった。上空からアルジュナが、玄関口からアルトリア・オルタが同時に攻撃する手筈になっていた。
恭太郎は灰馬に連絡を取り、今でも攻撃を続けているちびノブを引き上げさせる。
「……マスター」
アルジュナがブレイブを指差した。もう、いよいよ限界に見えた。余裕はもうない。
「……それでは。二つの令呪をもって命ずる」
恭太郎の手から、令呪が二画消滅した。
「宝具、
「……了解しました」
それを聞き届けたアルジュナの手からは弓が消滅し、代わりにその掌の上に光の球が練り上げられる。
それと同時に、玄関口から出てきた作もまたその令呪を消費していた。彼の横に立つアルトリア・オルタは、未だブレイブと戦うオーズを睨む。
「じゃあ、二つの令呪をもって命じます。宝具、
「良いだろう。決着をつけてやる」
アルトリア・オルタのエクスカリバーに、魔力が漲った。
その気配には、ジャンヌも気づいていた。彼女は自分の旗でブレイブとオーズの間に割って入り、二人を引き剥がして大きく飛び退く。
「……マスター!! 早く下がって!!」
「分かっている!!」
『ドレミファ クリティカル フィニッシュ!!』
そして、ブレイブもそれに続いて飛び退きながら大量のト音記号型のエネルギー弾を精製、オーズへと飛ばした。
オーズはそれを易々と相殺するが、それに気を取られた為に後方でチャージされる宝具には気付けず。
「神性領域拡大、空間固定。神罰執行期限設定、全承認」
「『卑王鉄槌』、極光は反転する」
「シヴァの怒りをもって、汝らの命をここで絶つ 」
「光を呑め……!!」
アルジュナの手元から、光の球が消え失せた。次の瞬間にはそれはオーズの頭上に現れ、力の断片を解放する。
それと同時にオーズの背後にいたアルトリア・オルタの聖剣は黒々と輝き、その光を解き放った。
「
「
「……っ!!」
ガガガガガガガガガガガガ
オーズは動けない。攻撃に気がついたがもう動けない。
黒い光が、無防備なオーズを飲み込んだ。
「……やった、か」
ジャンヌの旗の後ろから、変身を解除した飛彩がよろよろと出てきた。
既にオーズの姿はそこにはなく、緑と黄色のガシャットロフィーが転がっているだけだった。
「これが、討伐報酬のガシャットですか……」
「……そのようだな」
飛彩がそれを拾い上げ、しみじみと眺める。周囲に目を向ければ、中庭はもうがらんとした野原になっていた。
恭太郎と作が、飛彩の元に駆け寄ってきていた。二人は確かに二画の令呪を消費したのだが、それらは討伐報酬の二画で補われていた。
「審議官、これを」
飛彩が、恭太郎にガシャットロフィーを差し出す。恭太郎はそれを手に取り、書かれていたガシャット名に目を通した。
「ジャングル、オーズ……か」
「審議官が持っていてください。何かの役には立つでしょう」
「……分かった」
彼は頷く。
もう、空は暗くなっていた。
───
空を夜が覆い、そして再び朝になる。ゲームエリアは聖杯戦争十三日目を迎え、国会議事堂にいた永夢とナイチンゲールは、不安げに天を仰いでいた。
結界は崩れかけていた。今もまた端から崩壊していた。二人はどうにか完全に崩壊する前に少しでも周囲の状況を良くしようと一晩奔走したのだが、仮面ライダーは倒せず、力をつけてきているマスターの説得にも失敗していた。
「……悪い。間に合わなかった……」
パラドが、そう言いながら議事堂の敷地内に入ってきた。彼もまた満身創痍のように見えた。
「パラド……」
「かなりのサーヴァントは倒したんだがな。それでも駄目だった。強い奴は、本当に強くなってる。もう何人も殺してる」
BBの姿は見えなかった。彼女はあまりのダメージのせいで実体化を保つことすら危うく、霊体化してパラドの側に控えていた。
千代田区は激戦区だった。ライドプレイヤーを狩りに狩って鍛えた強いサーヴァントを従えたマスターが、安全圏を目指してきた温和なマスターを片っ端から狩り聖杯を目指していた。
パラドは戦意のないマスターを守るために何人かのそういった凶暴なマスターと戦っていたのだが、それはもう限界だった。
……刹那、どこかからミシミシと音が響いた。
ミシミシ ミシミシ
「この音……」
「──マスター」
ナイチンゲールが空を指差す。
「……あ」
パリン
彼女が張った結界が、人々を守った絶対安全圏が、音を立てて崩壊した。ここの人々の安全は潰え、再び危機にさらされ始めた。
「……きっと、あいつらはここを襲ってくるだろうな……ここは俺達に任せろ」
「パラド……BBは?」
「大丈夫だ。一応、ここまでの戦いでの戦果がある……お前は人間だ。休息取らないと、死ぬぞ」
パラドはそう言いながら妙にトゲトゲした虹色の塊を取りだし、それを宙に放り投げた。どうやらそれは回復アイテムだったらしく、BBがそれを消費して再び実体化する。
永夢は後ろ髪を引かれる思いをしながら、議事堂の中へ戻っていった。
「何でまだ、終わらないんですか……!?」
堪らず、弱音が溢れ落ちた。
───
『ナーサリー・ライムが八時をお知らせするわ!! 今朝のニュースよ!!』
「……ずっと思ってたが、向こうの神は可愛い声の女の子侍らせてるよな。姿は知らねーけどよ」
シャドウ・ボーダーから外を眺めながら貴利矢が呟いた。彼らは現在、神奈川を走っていた。
貴利矢は既に、見かける店が悉くシャッターを下ろしていることに気づいていた。当然のことだった。暴徒に店を荒らされては堪らない。……しかしこれは、近い将来に食糧難が起こりそうだ、とも思わせた。
『現在、仮面ライダーオーズが討伐されたわ!! 仮面ライダードライブもかなり弱ってるわよ!! 頑張ってね!!』
「……頑張ってるわよね、あっちも」
「そうだな姐さん。まあ、俺達も頑張ってるけどさ」
「……そうね」
貴利矢はそう言いながら車内を見回した。運転席にはマルタが座ってハンドルを握っている。その隣では黎斗神がガシャットを弄っている。後ろの方ではメディア・リリィが休んでいて、ポッピーが眠っていた。
「……ま、あの二人は昨日遅くまで雑魚狩ってたし仕方ないか」
貴利矢はそう言いながら、車内で大きく伸びをした。鼻に入る空気だけは爽やかだった。
『それから、渋谷区の聖杯が完成度82%になったわ!! 江戸川区が次いで80%、千代田区が79%よ!!』
「……やっぱ首都圏は凄いな」
「元々不満が燻ってたんでしょ」
「……永夢が心配だな」
「そう簡単にはやられないでしょ」
彼らは、今現在の東京の様子は知らない。飛彩が再びジャンヌと合流してオーズを倒したとか、国会議事堂の安全圏が消滅したとか、その程度しか知らない。
……しかし、人々の様子は推測できた。土地は変われど、人の有り様に変化は起こらないから。貴利矢が眺めてきた、介入してきた人込みは皆、やっぱり酷く荒れていた。
……そこまで貴利矢が回想したところで、彼はここにも人だかりが出来ていることに気がついた。
サーヴァントやらマスターやらが吹き飛ばされていくその塊の中に、彼は鎧のシルエットを見た。
「……おいおい、あれ、どう考えても仮面ライダーだろ。姐さん!! 車止めて!!」
シャドウ・ボーダーが停車する。貴利矢は白衣を掴みながら立ち上がり、ついでとばかりに黎斗神に声をかけた。
「ほら、行くぞ神」
「私のクリエイティブな時間の邪魔をするな!!」
「そう言うと思ったよ!!」
そしてその返事を聞くと共に黎斗を連れていくことを彼は諦め、マルタと共に飛び出していく。
立ち向かうは仮面ライダー。仮面ライダー、鎧武。
次回、仮面ライダーゲンム!!
───信勝の出会い
「久しぶりじゃのう!!」
「姉上……!?」
「さて、どうするのじゃ?」
───鎧武との戦闘
「やべぇ、こいつ、強い!!」
「どうなってんのよ……!!」
『極 アームズ!!』
───拡大する壁
「スカイウォールが……」
「あれは……自衛隊……?」
「無駄なことを」
第三十九話 一刀繚乱
「日本は今、決断を迫られている」