裏設定フォーゼ編
とある関東の学校にて新任の教師をしていた如月玄太郎は、バーサーカー・謎のヒロインXオルタを召喚する
妙に気性が荒くなった生徒やそのサーヴァントを鎮めて仲良くなりながら学校を纏め上げ、周囲を守る一大勢力を作り上げる。現在は学校に引きこもりながら安全圏を拡大している
その時、信勝はただ一人で、昨日オーズによって破壊された中庭を確認していた。塀などが崩れていないかを確かめていたのだ。
「うわー……酷い……」
崩れ落ちていたコンクリート塀を組み直しながら、思わずそう声が漏れた。
信勝だってサーヴァントなのだから、やろうと思えばこの塀を粉砕する程度訳はないのだが、それには躊躇いがある。……躊躇いがないと言う点で、あの理性のない仮面ライダーは恐ろしかった。
「……よく、あんなの倒せましたね……本当に」
「そうじゃな」
「ええ……──っ!?」
信勝は、独り言に返事をされたので相槌を打ち、一瞬遅れて縮み上がった。
聞かれていた。誰かに。この中に侵入してきた何者かに。信勝は火縄銃を呼び出しながら大きく飛び退き身構える。しかしその一連の動作の中で、声の主に懐かしさを感じていた。
「何じゃ、ずいぶんと大仰な反応じゃな」
「貴女は……」
「久しぶりじゃのう!!」
「姉上……!?」
ゲンムのアーチャー、織田信長。それが、信勝の前に立っていた。
「……一応、聞いておきます」
「……何じゃ?」
「貴女の、マスターは?」
「……真檀黎斗」
「っ!!」
信勝はその言葉に、一瞬下ろしかけた火縄銃を握り直す。彼のマスターは鏡灰馬。CR側の存在であり、真黎斗とは敵対している。
しかし信長は弟が此方を警戒していることを目の中に捉えながら、それでも何ともないといった振る舞いで信長に近づいた。
「いやー、一度会いたかったんじゃよ? と言うのもな、黎斗から定期的にガシャット掻っ払ってわしの知り合いの戦争具合を見てたんじゃがの?」
「……はあ」
「サルはマスター運が悉く悪かったのか本領を発揮する前に全滅するし、茶々もいつの間にか消えてるしで、いつの間にかわしが気にかけてる奴が物量作戦一辺倒の織田信勝しかいなくなっとったんじゃよ」
「なるほど」
「じゃから、一度近くにいる織田信勝の所に顔を出しておきたくてな。別にここで攻撃しようとかそういう話ではない」
そう語る姿は親しげだった。信勝はそこに懐かしさを感じて、安心と危機感を同時に抱く。彼女は織田信長だ。信勝がよく知る、第六天魔王織田信長だ。
「……にしてもそなた、わしの肖像権に真っ向から喧嘩売るような宝具しとるよなー」
「それは……まあ」
唐突にそんな話題を振られた。信勝はその言葉にはっとして自分の握っている銃を見る。
織田信勝にはこれといった逸話がない。ただ姉に刃向かい、散ったという事実しかない。武器になり得る幻想がない。……その埋め合わせなのか、サーヴァントとなった信勝には信長の力が付随した。信長の姿を模した分身、信長の宝具の断片展開、それらは信勝の中にある信長への幻想に他ならない。彼の力は、魔王との記憶だ。
「ま、実際サーヴァントの権利云々は黎斗が全て持っているじゃろうし、実際に文句をつけるならあやつなんじゃろうがなー」
「……ははは」
……身も蓋もない話をするのなら、信長も信勝も檀黎斗の作成したキャラクターなのだが。信勝自体はバグで能力を得た身だが、それでも生みの親が黎斗であることに変わりはなくて。
何か寂しくて、信勝の笑いは乾いていた。
「……一応、聞いておくかの」
ふと、信長のテンションが冷えきった。
信勝はまた解けかけていた警戒を復活させる。彼が観察する限り、先程まで朗らかだった彼女の姿はどういうわけだか今は危険を感じさせた。
「わしと共に来るか?」
「……っ、それは」
冷えきった信長から出てきた言葉はそれだった。
信長と共に行く、それはつまり真黎斗の、ゲンムコーポレーションにつくこと。信勝にとっては、元々従っていたマスターの元に戻ること。
「さて、どうするのじゃ?」
信勝は、一瞬迷った。一瞬だけ迷った。
……これまでの旅を思い出した。彼には、カルデアでの旅の記憶があった。戦った姉の記憶があった。その姉は、どう在っただろうか。
「……駄目です」
「ほう?」
「僕は、サーヴァントになりましたから。僕は、僕のするべきことをします」
それを考えた上での、結論だった。
今のマスターの元で、己の役目を果す。それが、信勝の結論だった。
信長は信勝の目をじっと見つめ、それからからからと笑った。彼女自身は満足げな目をしていた。実に面白い、そんな感じだった。
「……なるほどな。何、構いはせん。わしもわしのしたいことをするまでのことよ」
そして、信勝に背を向けながら告げる。その姿は掠れ始めていて。
「宣言したのじゃから、曲げるでないぞ。わしには構うな。迷いは燃やしてしまえ。そなたは第六天魔王の弟である。好き勝手に満足できる結末を掴んでみよ」
「……ええ」
そして、信長はその場から去った。
───
「愛を知らぬ哀しき竜よ、ここに……星のように!!
マルタの背後から、弾丸のようにタラスクが飛び出した。その目的は、眼前にいる鎧武のみ。
現在レーザーターボとマルタは、仮面ライダー鎧武と交戦中だった。初めは他のマスターの援護もあってやや優勢だったのだが、鎧武がかの武田信玄を思わせるオレンジの鎧の形態……カチドキアームズになってからは、彼らは防戦一方だった。
飛んでいったタラスクが、無双セイバーと火縄大橙DJ銃の合体した体験によって受け止められ、斬り飛ばされる。
「タラスクっ!?」
「マジかよっ……やべぇ、こいつ、強い!!」
『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』
レーザーターボがガシャコンスパローから矢を放つ。それは確かに鎧武を捉えていたが、今度は銃の形態に変化した火縄大橙DJから出る多くの弾丸によって悉く打ち落とされた。
流れ弾が、多くのマスターを撃ち抜いていく。
ダダダダダダダダ
「やっべぇ、皆伏せろ!!」
「駄目、間に合わない……!!」
「っがぁっ……!?」
「っ──」
「痛い痛い痛い痛い痛い!!」
誰かは胸を撃たれて膝をついた。誰かは足を撃ち抜かれて崩れ落ちた。誰かは右肩を抑えて踞った。
それを何とも思わずに、鎧武は今度は銃を天に向ける。
「不味いっ……!!」
『スッパーン!!』
レーザーターボが止めようと駆け寄ったが、鎧武が引き金を引くよりも速く移動することが出来るわけもなく。
バァンッ
ダンッダンッダンッダンッ
宙に放たれた一撃は空中で分解し、周囲に降り注いだ。動けない人々はそれをもろに受け、そして光になって消滅していく。
レーザーターボはその直後に斬りかかったが、鎌は鎧を貫通することもなく弾かれ、彼は蹴り飛ばされた。
「っくそ……!!」
「どうなってんのよ……!!」
レーザーターボが見回せば、もう周囲には誰もいなかった。サーヴァントもマスターも、彼らしかいなかった。
しかも鎧武は生き残った彼らを警戒したのか、何処かから更に新たなアイテムを取りだし、ドライバーに装着する。
『フルーツ バスケット!!』
「今度は何だ……!!」
『ロック オープン!!』
その音声と共に、空に孔が開いた。孔が開いて、そこから沢山の果物のような物が現れ出てきた。
そしてそれは鎧武の回りを周遊し、一つになる。
『極 アームズ!! 大!! 大!! 大!! 大!! 大将軍!!』
「今度は……何だよ」
「明らかに不味いわよ、あれ……!!」
それこそが極アームズだった。仮面ライダー鎧武の、最強の姿だった。
『影松!!』
『ドンカチ!!』
『ドリノコ!!』
鎧武がドライバーをほんの少し触るだけで、レーザーターボとマルタの周囲に槍が、槌が、刃物が召喚され、勝手に飛びかかっていく。
戦いはまだ、始まったばかりで。
───
永夢は、議事堂の中に設けられた即席の避難スペースの中で目を覚ました。仮眠を取ろうと思ったのだが、ろくに眠ることは出来なかった。
「……どうされましたか、マスター」
「ああ、その、眠れないだけですから」
「……私に任せてくれるなら、快眠を提供しますよ?」
永夢の枕元にいたナイチンゲールは、至って自然そうに握り拳を作る。永夢は一瞬だけ頭に疑問符を浮かべ、すぐに申し出を断った。
「大丈夫ですから!! 大丈夫ですから!!」
「そうですか……」
麻酔が無かった時代は、治療中に患者が暴れたら殴って気絶させていたという。当時看護師に求められていたのは腕力でもあった。
永夢は、ナイチンゲールから逃げるように部屋を出た。外の空気でも吸おうと考えたからだった。その途中で彼は幾つかの扉の前を通過する。
「これをどう説明するんだ!!」
「明らかに拡大しているじゃないか」
「私達は終わりだ!!」
……そんな声が、ふと永夢の耳に入った。彼が声の方向に目を向ければ、そこはゲンムの敷いたゲームエリアの境目、スカイウォールを監視する為の部屋だった。
永夢は迷いなく部屋のドアノブに手をかけた。そして中に入り、モニターを覗き込む。……そうして、彼は知った。
「スカイウォールが……拡大している……!?」
明らかに、範囲が拡大していた。スカイウォールは、丁度愛知県を飲み込もうとしていた。
「またお前か。あっちへ行け!!」
「今私達は忙しいんだ!!」
「離れなさい!! ほら!!」
苛立ちを隠そうともしない役人達が声を荒げながら永夢の肩を掴む。永夢はそれらを振りほどきながら、機密データを片っ端から確認した。
スカイウォールの拡大。
国交の中断。
大国からの警告。
勢いに乗じた言いがかり。
日本に起こっている重大な事実だった。しかしそれは、この議事堂にいない人々には全く知らされていない物だった。彼らは、情報を隠ぺいしたのだ。
「……どういうことですか」
「お前には関係のないことだ」
「そんなことない!! これは!! 全員で共有すべき事柄じゃないんですか!? 隠してたんですか!?」
「これは必要なことだ!!」
永夢は数人がかりで押さえ付けられていた。羽交い締めにされ、動きを封じられる。そして、抵抗虚しく追い出されようとしていた。
そこに、鏡飛彩が入ってくる。
「……待て」
「お前は……!!」
「飛彩さん!?」
聖都大学附属病院から戻って直接パラドの援護をしていた飛彩は、たった今議事堂に戻ってきた所だった。
その手には、一枚の紙を握っていた。
「日向恭太郎審議官からの連絡だ」
役人の一人が、飛彩からその紙を苛立たしげにもぎ取り、読む。それは、永夢に対して、CRのドクターに対しての最大限の配慮をするように、という内容の書類だった。
役人は力任せにそれを地面に叩きつけて、一つ深呼吸し……眉を潜めたまま、永夢に現状を説明し出した。
「……チッ。報告する。現在スカイウォールは一時的に壁としての機能を停止、ただの半透明の光となった。そして同時に、時速50km程で拡大している」
「時速50kmって……」
車のようなものだ。それはつまり、この脱出の機会を生かすのは難しいということ。電車も飛行機も死んでいる今、車の速さで壁が広がっているなら、それを追い抜く術はあってないようなもの。
「遠からず、本州は飲み込まれるだろう。四国もだ。北海道や九州も危うい」
「そんな……」
「……日本は今、決断を迫られている」
役人はそう言いながら、永夢に更に書類を見せた。
「これは……自衛隊……?」
自衛隊への連絡用の書類だった。
───
「……マスター? どうする?」
「ふむ……入間、霞ヶ浦、習志野……近隣の自衛隊基地、分屯からそれなりの隊員が動き始めたな。……嫌がらせだ。戦闘車両の類いを全てフリーズさせてやろう」
自衛隊は動き出した。それを、ゲンムコーポレーションは真っ先に捉えていた。
真黎斗はそれを必死になって止めようとは思わなかったが、建物が壊れたらデータの修復がほんの少し手間だと思い戦車や戦闘機の類いを全てフリーズさせてしまっていた。
「全く……無駄なことを」
マップ上に、自衛隊の車両の姿が表示される。一先ずこちらには数千人が先行部隊としてやってくる様だった。
彼らの命もまた、真黎斗が左右できる。
「手慰みに遊んでやろう。何、もう、どんな手段を使おうと結果は変わらない」
「そうね、分かったわ。……誰か出す?」
「ジル・ド・レェ辺りでも出しておけば良いだろう。データが集まるからな」
彼らの前には、命など幻の夢のようで。一刀にて斬り伏せられる儚い存在で。
次回、仮面ライダーゲンム!!
───鎧武の猛攻
『ソニックアロー!!』
「ヤバい、逃げるぞ!!」
「大丈夫ですか!?」
───自衛隊対ゲンムコーポレーション
「大したことはないな」
「帰ってくれ!! 帰らないのなら、余はお前たちを射つ!!」
「神の前には皆等しき供物に御座います」
───その果てにあるもの
「これは……」
「何でだよ……何でお前ら、こんなことが出来るんだ!!」
「残酷な話だ」
第四十話 Circle of life
「命のルールは神の物となった!!」