『ロケット オン』なんだろうけど『ブロージェット オン』にしか聞こえない
パラドクスが地を転がる。彼は既に傷だらけだった。ライフゲージは、もうとっくに赤かった。ギリギリで、彼は命を繋いでいた。
「……無益だな」
『伸縮化!!』
『パーフェクトノックアウト!! クリティカル ボンバー!!』
アヴェンジャーの腕が伸び、立ち上がろうとしていたパラドクスの首を強く薙いだ。パラドクスは回避も叶わずそれをもろに受けて吹き飛ばされ、それでもよろよろと立ち上がる。
『回復!!』
『回復!!』
「まだだ……まだだ!!」
その姿は、多くの人が見苦しいと感じるような物だった。泥だらけ。煤だらけ。傷だらけ。痛々しく、もどかしい。そんな感想を抱かせるような物だった。
BBは、その隣でクトゥルーと戦っていたが、彼女もまた苦戦していた。途中からパラドクスの援護も途絶え、今は両手両足を拘束されてもがいている。
「ちょっ……離してくださいぃ!! ヘンタイさんですかぁ!?」バタバタ
「それは聞けない話ですねぇ、神に逆らう者は、穢れて堕ちなければならない」
「っ……」
共に、限界だった。
そもそも、二人とも察していた。無理がある戦いなのだと。それでもパラドクスは止まれなかったし、BBはそれについていった。
……しかし、もう退き時を迎えていた。最後のチャンスだ。
BBがどうにかクトゥルーの触手を切断し、アヴェンジャーにやる気なくなぶられていたパラドクスの元へ駆け寄る。
「っ……」
「逃げますよ!! そうじゃないと、死にますよ!! マスターだって、今は人間と同じような状態なんですから!!」
そして彼女はパラドクスを背負い、走り出そうとした。
しかし、もう遅すぎた。BBの前にはもうクトゥルーが移動していて。疲弊したパラドクスは動けず、それを背負ったBBも速度は出せず。
「ふふふふ……供物が、また一人……」
『テール・オブ・クリティカル エンド!!』
「っ……」
そして、立ちはだかる男の向こうに、邪神が目を覗かせ──
『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』
「はあっ!!」
ダンダンダンダンッ
「なっ……」
黄色い閃光が走り込んだ。その手に握られた弓からは数発の矢が放たれ、邪神の眼球を射ち貫く。そして、閃光は二人を庇うようにして停車した。
「ふぅ、ギリギリだったぜ」
「レーザー……!!」
仮面ライダーレーザーターボ。彼が、全速力で駆け込んできていた。バイクゲーマに跨がったまま、彼はBBとパラドクスに目を向ける。
「早く乗れ。逃げるぞ」
「でも……」
「良いから!! 話は後で聞く」
クトゥルーとアヴェンジャーは一瞬視線を交差させ、そしてクトゥルーがバイクゲーマへと飛びかかっていく。避けなければ一堪りも無いだろう。
それでもレーザーターボは焦らず、後ろにBBとパラドクスが乗ったのを確認すると、キメワザスロットにときめきクライシスを装填した。
『ときめき クリティカル ストライク!!』
「……じゃあな」
ハートと星が、バイクを中心に巻き起こった。それはクトゥルーを受け止める壁となり、相手を撒く為の煙幕となって。
そして、彼らは撤退した。
───
「全く……無理ゲーだって分かってたろ?」
「……悪かった」
シャドウ・ボーダーと合流した貴利矢達は、座らせたパラドから事の顛末を聞いてやれやれと肩を竦めていた。
気持ちは分からないでもないが、良い選択とは思えなかった。彼の行為は、明らかに彼自身の命を粗末にしていた。
「にしても、命のルールなぁ……」
貴利矢は天井を仰いで呟く。いかにも檀黎斗という奴が言いそうな台詞だ、とぼんやり思った。そして……どこか、引っ掛かりを覚えた。
現在の命のルールとは何だろう。
死んだら復活できない。若返りができない。蘇らせることができない。パッと上げられるのは幾つかあるが、そのどれもが一方通行だ。
それを、私物化するのなら。何をするのだろう。……自分なら、何を望むだろう。
一つの仮説が、閃いた。
「……どうしました? ずーっとフリーズしてましたけど」
「あ……悪い。考え事してた」
「何をですか?」
話すべきか、一瞬迷った。しかし態々勿体振る理由も見当たらない。貴利矢は、少し小声で話し始める。
「自分等は、さっきまで仮面ライダー鎧武と交戦していた。倒せなかったがな……その中で、気になったことがある」
「……何だよ」
「鎧武が他のマスターを攻撃したら、そのマスターは
「確かに……」
「それは、死へのストレスでそうなったんじゃないのか?」
「いや……それは多分違う。……死へのストレスで前も見えなくなるような奴でも、ゲーム病で消滅はしなかった」
貴利矢は、かつて死んだ友を思い返した。ゲーム病だと聞いて、パニックになって呆気なく死んだ友。そんな患者でも、ストレスで消えた訳ではなかった。つまり、単純な死への恐怖は、決定的なゲーム病のトリガーにはならないのだろう……貴利矢はそう推測する。
「もしかしたら、の話だが……真黎斗の目的は、日本の全ての命をゲームオーバーにすることなんじゃないか、と思ってな」
「……何だって?」
「何のために、そんなこと……」
そして、その結論に辿り着いた。
「命の管理だ。真黎斗は世界のルールを、命の定義を塗り替えるつもりなんだと、な……そうだろ、神!!」
「……」カタカタカタカタ
「態々ゲームオーバーになる人間の病状を強制的に悪化させて、肉体の死を迎える前に消滅させている理由なんて、それしか思い浮かばないんだが?」
黎斗神は、ひたすらキーボードを叩いていた。その口元には、ほんの少し、笑みが浮かんでいた。貴利矢の言葉は、少なくとも黎斗神にとっては、無いだろう中々面白い物だった。
「君ごときが神の考えの一端に辿り着くとは非常に腹立たしいが……恐らく、外れてはいないだろう。私でもそれは、目的として考えたことがあったからな」カタカタカタカタ
「へー……ふーん」
「常世全ての命を管理する。争いを消去し死を消去し悲しみを消去した理想郷。確かに存在する、もう一つの天国。それは……私が目指すに足るものだろう」カタカタカタカタ
「黎斗……」
ポッピーが、黎斗神の後頭部を見つめていた。彼の言葉は不安を煽った。もしかすれば、黎斗神は真黎斗に同調してしまうのではないか、と。二人が手を組んだなら、世界は終わる。
「檀 黎斗神だ!! ……心配するな、あの檀黎斗と私は相容れない。私は、あの私を圧倒する」カタカタカタカタ
……しかし、その考えはすぐに払拭された。
「その為にはデータが必要だァ……もっとデータをかき集めろ、戦場に赴き、サーヴァントを倒し、魂のデータを集めさせろ!!」
「はいはい、煩ぇぞ神」
───
「
「
ライドプレイヤーが吹き飛ばされる。宙に舞うそれらは既にひしゃげていて、それらを吹き飛ばした二人のはぐれサーヴァントのレベルは着々と上昇していた。
片方の名はエリザベート・バートリー、もう片方はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。……ついでに、イリヤの手にはルビーというステッキが握られていた。
「ほえー、終わりました……疲れた……」
「そうですねー」
「……そうね。多分きっと、レベルはかなり上がったわ」
エリザベートは伸びをしながら腕を振る。力を入れずとも、簡単に速く動いてくれた。これがレベルアップか、と彼女は感心する。
「でも、まだ、多分足りないわね」
「……仮面ライダーって、そんなに強いんですか?」
些細な疑問だ。イリヤは、ほとんどの仮面ライダーを知らない……いや、それは全てのサーヴァントに対して言えることだが、イリヤは仮面ライダーウィザードすら知らない。故に、それがどのようなスペックを誇るか知らない。
エリザベートはそれを悟り、努めて淡々と説明した。
「……パンチ力40トン。キック力65トン。100m走5秒」
「ええええええええ!?」
「バケモノじゃないですかー!!」
驚愕する声が二つ。数字にすれば、これ程までに恐ろしい。確かに、仮面ライダーはバケモノなのだ。
「ええ、そうね……バケモノなのよ」
それでも、彼女は操真晴人を知っている。目の前の傷ついた人を、その希望を守ろうとする、男の姿を。仮面ライダーの中身を。
だからこそ、そのガワだけが勝手に動くなんてあってはならない。仮面ライダーウィザードは、操真晴人が変身しなければ意味がない。……勝手に彼の姿が使われるのは、我慢ならない。
だから倒す。最後の希望はこの手で守る。エリザベートは、そう再び決意した。
───
花家医院には、再び人が集まり始めていた。聖杯戦争の脱落者、戦いを求めない者、ここに来て怖くなったものは皆、保護を求めて聖都大学附属病院か、もしくはここに逃げ込んでいた。カリギュラの撒いた狂気は、とっくに鎮まっていた。
ニコは増える人々をほんの少しだけ不満に思いながら、増えてくる人々を受け入れるために設備を整備する。暫くの間外で戦っていたフィンもまた、今はまたひたすら癒しの水を作っていた。
「何よあいつら、勝手に病院から居なくなったら今度は何倍にもなって押し寄せてきちゃって……」
「まあそうかっかするなマスター。良いことじゃないかい?」
「それはそうだけど……」
何か気にくわない。大我は彼らを守るために戦っているのに、守られるべき人々が勝手に傷ついてしまっては彼に安寧はない。休む暇なく戦えば、いつか……死ぬ。
そこまで考えて、ニコはかってにはっとした。大我は今も外で戦っている。周囲のマスターと戦っている。それがふと怖くなった。
ニコは慌てて外に飛び出そうとして──
ゴンッ
「痛ぁっ……っつつ……」
「……どうした」
「大我……」
いつの間にやら戻ってきていた大我と正面衝突した。ニコは安心すると共に気恥ずかしくなって咄嗟に俯く。
「アーチャーは何処だ」
「まだ上で狙撃中……というか、念話使えるでしょ?」
「慣れなくてな……そうか、上か」
「……どうしたの?」
「仮面ライダーだ。仮面ライダーフォーゼが近づいている」
どうやら大我は、近くに仮面ライダーフォーゼというものが近づいていると知り、援軍を求めに来たようだった。ニコはそのフォーゼとやらがどんなものかは知らないが、仮面ライダーの名を冠するからにはそれなりには強いのだろうと思っていた。
大我が上の階へと上っていく。
───
そうして大我は、エミヤを引き連れて病院を出た。ニコも一応ついていく。
そうしていれば、すぐに誰かの声が聞こえた。戦っているのが声だけで分かった。
「……フォーゼか。下がっていろ……第参戦術」
『ガッチャーン!!』
『バンバンシューティング!!』
『ジェットコーンバーット!!』
大我は変身しながら飛び出して、声の方へと飛んでいく。ニコとエミヤが慌てて追いかけて町の角を曲がってみれば、そこではもうスナイプと白いイカみたいな頭の存在が向き合っていた。それが、仮面ライダーフォーゼだった。
「よお。久しぶりだな……御託はいらねぇ、ガシャット寄越せ」
「……」
『ファイヤー オン』
フォーゼの方もスナイプを捉え、拳を作って二回胸を叩き、その拳をスナイプに突き出した。丁度、何かの挨拶のようだった。
それと同時にフォーゼは炎に包まれて、右手に銃を持った真っ赤なカラーに変身する。
「……見たことねぇ姿だな」
「……」
『ジャイロ オン』
そしてフォーゼは、左手に緑色のプロペラを呼び出して宙に舞った。スナイプもそれに合わせて飛び出す。
「空中戦か。援護するぞ、マスター」
目を離していた隙に近くの家の屋根に上っていたエミヤがそう声を上げる。
「頼んだ……悪いな。タイマンは張ってやらんぞ」
「……」
『ランチャー オン』
『ガトリング オン』
フォーゼはそれに反応して、両足に青い機械を装着、右足からミサイル、左足のガトリングから弾丸を乱発し始めた。フォーゼに感情は無い筈なのだが、両足に更にモジュールを展開して飛び回る姿はニコには怒っているように思えた。
スナイプもまたそれに合わせて弾を放ち、エミヤも矢を放ち始める。周囲に硝煙の臭いが漂い始めた。周囲が破壊に満たされる。
「離れて!! 危ないから!! 病院が壊れる!!」
「おっと……そうだったな」
『ステージ セレクト!!』
「じゃあ、後でな」
ニコが慌てて声をかければ、スナイプはフォーゼとエミヤと共に何処かへと消えた。ニコはそれを見送り、病院へと戻っていく。
次回、仮面ライダーゲンム!!
───エリザベートの冒険
「とうとう見つけたわ」
「倒してガシャットを剥ぎ取りましょう!!」
「貴方は、私が止める」
───世論の動き
「本州が、飲み込まれたな」
「どうするんですか?」
「受け入れの動きが、加速している……」
───フォーゼ対スナイプ
『コズミック オン』
『ドラゴナイト ハンター!! Z!!』
「I am the born of my sword──」
第四十二話 Just the beginning
「不味い、避けろマスター!!」