Fate/Game Master   作:初手降参

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裏設定ウィザード編

日本を旅していた操真晴人は、自らを大魔女と名乗るピンク髪のキャスターと遭遇し、共にゲンムコーポレーションへと向かう。
しかしその途中で他のプレイヤーとの戦闘でキャスターは消滅、バイクも故障し、彼は麻痺した交通機関をどうにか使用して旅を続けることを余儀なくされた。



第四十二話 Just the beginning

 

 

 

 

 

I am the born of my sword(我が骨子は捻れ狂う)──偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!」

 

 

矢が奔る。それは音すらも置き去りにし、空間は抉り取り、フォーゼの左腕のプロペラを捉えていた。

 

 

「……!!」

 

「勝負あった、って所か」

 

 

スナイプとエミヤは、フォーゼと戦闘を続けていた。仮面ライダー二人はゲームエリアを縦横無尽に飛び回りながら互いに互いを撃ち合い、そしてエミヤがスナイプを援護する、そんな形だった。

 

フォーゼは既に、炎を吐き出す真紅の銃を取り落としていた。左足のガトリングもエミヤの援護で故障し、左手のプロペラもたった今半分が弾けとんだ。

 

今なら倒せる。スナイプはそう踏んで、ガシャットをキメワザスロットに装填する。

 

 

「これで決める」

 

『キメワザ!!』

 

 

スナイプは、ゆっくりと落ちていくフォーゼに照準を合わせた。後はトリガーを引くだけで、ミサイルがフォーゼを破壊する。

そうなるはずだった。

 

 

「止めだ」

 

『ジェット クリティカル フィニッシュ!!』

 

「……」

 

『ウインチ オン』

 

『ステルス オン』

 

 

……しかし、スナイプがトリガーを引いたその瞬間に、フォーゼはスナイプの視界から消え失せた。

瞬間移動の類いではない。フォーゼは、ランチャーモジュールを解除してステルスモジュールを装着していた。……効果は単純。フォーゼは五秒間、完全に透明化する。

 

 

「っ、消えた……?」

 

 

そして、その五秒間があれば、フォーゼがスナイプに接近するには十分だった。

 

ミサイルはあらぬ方向へと飛んでいく。攻撃を外したスナイプは慌てて辺りを見回し、それと同時に左翼に重量を感じた。

次の瞬間。

 

 

『ガッシューン』

 

『ガッチョーン』

 

「まさかっ!?」

 

 

フォーゼはジャイロスイッチを抜いて代わりに装填したウインチスイッチの力でスナイプの背中まで舞い戻り、キメワザスロットからガシャットを奪った上でスナイプをレベル1に戻していた。

 

翼を失った戦闘機が飛んでいられる道理はない。スナイプはフォーゼと共に、きりもみ回転しながら落下していく。

 

───

 

 

 

 

 

「本州が、飲み込まれたな」

 

 

議事堂のスカイウォール監視室、その中で誰かが淡々と呟いた。

車の速度で拡大していたスカイウォールは突如その速さを変更し、本州の全てを、そして四国を飲み込んだ所で静止した。それと同時に壁としての機能を復活させた。

 

その様子は、永夢も眺めていた。何も出来ずに。

 

 

「どうするつもりなんですか?」

 

「……どうも出来る訳無いだろう……!!」

 

 

問いをかければそう返される。その顔には焦燥と絶望しか浮かんではおらず。……それでも、誰もが動き続けていた。

 

 

「マスター、体調はどうですか?」

 

「ああ……大丈夫です。もうそろそろ、外の方に行きましょうか」

 

 

永夢は、立ち上がりながら部屋を見回した。そして、どうにかして溢れ落ちそうな希望を握り締めた。

 

遮断する壁は再び落ちた。

他国からの信号は途絶え、大地はゲームエリアと化し、この日本は、ひとりぼっちの国となった。

それでもなお、このゲームを投げることは出来ない。足掻かないという選択肢は、残されていない。誰もが皆、死を恐れているから。命を繋ぐには、戦うしかないのだから。

 

諦めるな。そんな声が、何処かから聞こえたような、そんな気がした。

 

───

 

「受け入れの動きが、加速している……のか?」

 

 

スカイウォールが動きを止めたのに対して、あるものの動きは激しくなっていた。それを、恭太郎は観測していた。

 

人の心の動きだ。

 

 

『FGOとかいう神ゲー』

 

『戦争楽しすぎワロタ』

 

『俺のアーチャー宝具射たせたら爆死したんだけど』

 

『正直早く参加したい』

 

『可愛い女の子と毎日過ごせる良作』

 

『↑俺のサーヴァント筋肉なんだがどうしてくれる』

 

『↑女性マスター捕まえればいいだろ』

 

『↑↑筋肉最高じゃないか!! いい加減にしろ!!』

 

 

人の心の動きとは不思議なものだ。初めのうちはゲームエリア外の皆誰もがこの現象を危ぶんでいたのに、いつの間にか一人、二人と受け入れる姿勢を示し、それは伝染し広がっていた。

始まりが誰だったのか、もしくは真黎斗が自分で広めた風潮だったのかは、今となっては知るよしもないが、少なくとも今なら日本の半分はこのゲームを受け入れている。上のような意見は、とっくに多数派を占めるようになっていた。

 

人々は死を恐れなくなった訳ではない。この非現実的な状況下において人々の中には根拠のない自信が溢れるようになっていた。

秩序は失われた。ゲームエリアに自ら侵入する人々も増えた。ニュースは肯定的な意見を流すものと否定的な意見を流すものとで二分され、情報は錯綜するようになった。

 

 

『あの社長なら北の国とかでも簡単に黙らせられそう』

 

『↑ゲームによって世界が平和になる可能性が微レ存……?』

 

『↑微レ存どころか十分にあり得るだろ。一度掌握すれば全ての国の兵器が機能停止だぞ?』

 

『現に自衛隊は機能停止してるしな』

 

『正直抗うより受け入れた方がずっと楽しいと思う』

 

 

その声を、恭太郎は苦々しい顔で見つめることしか出来ない。彼に、人々を守る力はない。政府は、未だに死んでいる。

 

 

「マスター、これは……」

 

「ええ……不味い。とても、良くない状態だ」

 

「……どう、するんですか?」

 

「さて……どうしようか」

 

 

恭太郎は横にいるアルジュナを見ることもなく天井を仰いだ。

日本を守ろうと思ってはいるがそればかりで、彼には何も出来ないのだから、そうすることに意味はなかった。ふいに、己が情けなくなった。それでも、全てを投げ出すことは出来なかった。

 

───

 

 

 

 

 

「うーん……困ったわね。まさかこんなにやるなんて……」

 

 

ナーサリーはモニターから目を離し、もうすっかり暗くなった窓の外に目を向けて大きく伸びをした。

モニターの向こうでは、スナイプとフォーゼが戦っていた。スナイプはレベル2であるにも関わらず、戦況はスナイプに傾いていた。

 

真黎斗はやれやれと溜め息をついてマウスに手をかける。

 

 

「フォーゼは、開発する上で最も私を手こずらせた仮面ライダーだ。ただでさえ他のライダーより強さが見劣りする上に、友情などという不安定な物がないと変身すら危うくなる。強化を加えるのも一苦労だった」

 

「だから、今も苦戦してるの?」

 

「恐らくはな。……しかし、ただの仮面ライダーだけに倒されるのは、流石に私とて面白くない」

 

「じゃあ、どうするのかしら?」

 

「……不快だが、少しばかりバフを盛らせて貰おう」

 

 

そう言って彼は、フォーゼのデータを開き、キーボードを叩き始めた。

 

───

 

フォーゼの動きが変わった……スナイプがそう感じたのは何時だったか。スナイプは、フォーゼの攻撃を受け流しながら考える。

 

 

『クロー スモーク シザース リミットブレイク!!』

 

「チッ、またか!! こいつ、急に強くなりやがった……!!」

 

 

恐らく必殺技なのであろう、リミットブレイクをやけに多用するようになった。しかも疲れも見られない。

 

スナイプが、フォーゼの足から吹き出した煙に包まれた。スナイプはそこから抜け出そうと後ろに飛び退くが、その瞬間にはフォーゼの両手の刃物で切り裂かれていた。

スナイプのライフがまた減少する。彼は一つ舌打ちした。

 

 

「まさか、ゲンムの野郎……何か支援してるのか?」

 

『ズッキューン!!』

 

 

フォーゼに狙いを定めて引き金を引く。さっきまではそれは普通にフォーゼに命中していたのに、今はそれすら躱される。明らかに反応速度が上がっていた。

 

 

「それなら……」

 

『ドラゴナイト ハンター!! Z!!』

 

「……」

 

『コズミック オン』

 

 

出し惜しみはしないと、スナイプがドラゴンゲーマを身に纏う。その反対側で、フォーゼが赤い姿から、剣を持つ青い姿に変身する。……フォーゼ、コズミックステイツ。大剣バリズンソードを扱う仮面ライダーフォーゼ最強の姿であり、本来ならば仲間との友情が無ければ成立しない形態。それを、真黎斗は外身だけでも再現していた。

 

 

「──赤原猟犬(フルンディング)!!」

 

 

それを何となく察しながら、エミヤは遠巻きから、40秒分かけてチャージした矢を放つ。スナイプが注意を引き付けてくれた為にチャージは万全、フォーゼの背後から放たれたその矢はどこまでもフォーゼを追いかけ続ける……筈だった。

 

しかし、その矢はフォーゼに当たることなく弾かれる。二度、三度と矢はフォーゼを狙うが、近づく度に吹き飛ばされる。

スナイプはそれを呆然と見ることしか出来ず。

 

 

『ビート オン』

 

『フリーズ オン』

 

 

そして、フォーゼの右足に赤いスピーカーのような形のビートモジュールが展開された。それと共にフォーゼは振り向き様にそこから大音量で音楽を流し──その音が赤原猟犬を捉えた瞬間に、その周囲の空気ごと矢は凍りついた。

 

 

「なっ……!?」

 

「嘘だろ!?」

 

 

更にフォーゼは振り返り、ビートスイッチをドライバーから引き抜く。

 

 

『ランチャー オン』

 

『ペン オン』

 

 

そしてフォーゼの右足に再びランチャーモジュールが呼び出され、そこからミサイルが四発打ち出された。しかし今度は先程までとは別物──ミサイルの軌道の後ろから黒い筋が走っていた。

 

コズミックステイツの最大の特徴は、能力の重ねがけにある。フォーゼは四十のスイッチを扱うが、その能力を別のモジュールに加算することが出来るのだ。

さっきはビートモジュールにフリーズスイッチの力を加算して、音を浴びせた物を凍らせた。そして今はランチャーモジュールにペンスイッチの力を加算している。能力は……

 

 

「何だこれっ……」

 

 

スナイプは、飛び回るミサイルから吐き出された黒い筋にがんじがらめにされていた。

その黒い筋がペンモジュールのインクだ。ペンモジュールは瞬時に硬質化するインクを持つ。今回、フォーゼはそのインクをミサイルに含ませることで、スナイプの動きを封じていた。

 

 

『スコップ オン』

 

   ザクッ

 

「っ、私の方にも来たかっ!!」

 

 

更にフォーゼは、バリズンソードにスコップスイッチを装填、振り向き様に大地を抉り、射撃を行っていたエミヤに向けて沢山の岩を投げつける。

エミヤはその全てを破壊したが、視界が晴れたその時にはもうフォーゼはその剣をスナイプに添えていた。

 

 

「っ、逃げろマスター!!」

 

「な──」

 

 

バリズンソードにはコズミックスイッチが入っていた。刀身には青い光が満ちていた。

避けられる筈もなく。

 

 

『リミット ブレイク!!』

 

「っあ……!?」

 

   ザンッ

 

───

 

 

 

 

 

「とうとう、見つけたわ……!!」

 

 

夜は終わりを迎えようとしていた。殆ど沈みかけた月の下でエリザベートは、そしてイリヤは、とうとうそれを見つけた。逃げていくプレイヤーの向こう側に、宝石の頭を見た。月に照らされたルビーのような体を見た。

そうなれば、もう戦うしかなかった。

 

 

「良いわね、行くわよ?」

 

『タドルクエスト!!』

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

「はい、行きましょう!!」

 

「倒してガシャットを剥ぎ取りましょう!! コンパクトフルオープン!! 鏡界回廊最大展開!!」

 

「「変身!!」」

 

 

二人の少女は姿を変える。一人は仮面ライダーに、一人は魔法少女に。立ち向かうは魔法使いの仮面ライダー……その、模造品。

戦いはここから始める。エリザベートの戦いは、ようやっと始まった。

 

 

「……」

 

『コネクト プリーズ!!』

 

 

ウィザードは、エリザベートにとって見慣れた手つきで銀の銃を取り出した。エリザベートはその手に剣と槍を呼び出して、ウィザードへと斬りかかる。





次回、仮面ライダーゲンム!!


───ウィザードの猛攻

「その剣も!! その銃も!! 全部、知ってるんだから!!」

『フレイム ドラゴン!!』

「これで決めるわ──」


───聖杯の行方

『今日のニュースよ!!』

「俺が……聖杯を?」

「あいつを倒せ!! 聖杯は俺が取る!!」


───BBの望み

「お前は、何がしたいんだ」

「そうですねぇ……」

「望むのならば、何だって叶うのだろうな」


第四十三話 Mystic Liquid


「会いたい人がいます」

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