Fate/Game Master   作:初手降参

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もう文庫本六冊分くらい書いてたんだなぁ……
いつの間にかFate/Grand Orderタグの文字数順だと1ページ目に入るようになってた



第四十七話 DIE SET DOWN

 

 

 

 

……その数秒後には、変身が解除された恭太郎が、永夢の足元に転がっていた。

目の前ではクトゥルーが震えながら、しかし確かに立っていて。

 

永夢は慌てて、恭太郎を抱き起こした。彼の手からガシャットロフィーが零れ落ちる。

恭太郎の体は、透け始めていた。

 

 

「恭太郎先生!! しっかり!! しっかりしてください!! 先生!!」

 

 

必死に永夢は呼び掛ける。恭太郎はぼんやりと永夢の方を見つめ、小さく笑った。

 

 

「ああ……間に合ってくれたか」

 

「先生!! どうしてこんな!!」

 

「……すまなかった。……皆を、頼むよ」

 

「先生!!」

 

 

恭太郎は笑っていた。彼は永夢の肩を擦り、そして彼の手から崩れ落ちる。

 

 

「先生──!?」

 

 

……日向恭太郎、消滅。己のスペックを超えた活動の果ての、崩壊だった。

同時に、誰も居なくなった病院の中でアルジュナも消滅していた。それは、恭太郎の命令に殉じて己の全てを使い潰して宝具を発動した為だった。

 

 

「先生を、先生をよくも……!!」

 

 

永夢は震えながら立ち上がる。視線の先のクトゥルーは、まだ動けるようだった。それは声にならない叫びを上げて、周囲に大量の落とし子を召喚する。

 

 

『マイティアクション X!!』

 

『ジュージュー マフィン!!』

 

 

それを見ながら、永夢はガシャットの電源を入れた。隣で何も言わず立っていた飛彩も、それに続いて電源を入れる。

そして更にその両隣に、各々のサーヴァントも並び立った。

 

 

「絶対に倒す……このゲームを攻略して、皆を取り戻す!! 患者の運命は、僕が変える!!」

 

『『ガッシャット!!』』

 

「……行くぞ、術式レベル3」

 

『『ガッシャット!!』』

 

「「……変身!!」」

 

───

 

「まだ追いかけてくるのか!!」

 

「まあ、仕方ないですよそれは……皆、焦ってるんでしょうしね?」

 

 

その時パラドは変身して、河川敷をバイクで駆け抜けていた。後ろを、沢山のサーヴァントが追跡していた。BBがそれらを食い止めようとするが、その努力は中々実らない。

 

 

「ああ、キリがない……!!」

 

『高速化!!』

 

『高速化!!』

 

 

パラドクスは苛立つ。本当なら彼も聖都大学附属病院への加勢に向かいたかった。

どれだけバイクに高速化をかけても、必ずそれに食らい付くサーヴァントが存在する。どれだけ透明化を行っても、それを見破るサーヴァントが存在する。

 

 

「残り1%です、精々頑張って耐えましょうね、センパイ?」

 

「分かってるよ……!!」

 

 

鬼ごっこはまだ終わってくれない。

 

───

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ちょっとタンマ、水、水……!!」

 

 

ランサーとイリヤは、エグゼイド達とは反対側で、クトゥルーの落とし子と戦っていた。ランサーが広範囲に宝具を発動すればクトゥルーの落とし子は対処できるが、彼女はそれをしすぎてもう疲れ果てていた。

 

 

「はぁ、はぁ……どうにかならないのルビー!?」

 

「無理ですよぉ!! 眼球が見当たらないのでルビーサミングの出番だってありませんし!! そもそもあんなグロいの触りたくないですし!!」

 

「私もだよぉ!!」

 

 

そうは言っても敵の勢いは止まない。増え続けるクトゥルーの落とし子は段々接近してくる。エグゼイド達の方をちらっと見るが、彼らはこちらを全く見ていなかった。

 

 

「うわわわわわ」

 

「きゃあぁぁああ!?」

 

 

そしてとうとう二人は迫り来る群れに押し倒されて……

 

 

 

 

 

『リスタート』

 

「──あれ?」

 

 

次に気がついた時には、それらは全て粉砕されていた。

前を見れば、二人を庇うように、クロノスが剣を構えていた。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「マシュ!!」

 

 

騒ぎを聞き付けたマシュが、漸くここまで辿り着いていた。真黎斗にバグスターとしての力を制限された彼女は、徒歩でここまでやって来るしかなかった。

 

 

「……ここは一旦引いた方が良いでしょう。行きますよ!!」

 

 

クロノスはランサーとイリヤの容態を見て、すぐにそう判断する。そして彼女は両脇に二人を抱え、その場から撤退した。

 

───

 

その時大我は、ニコの隙をついてベッドを脱出、患者の間をすり抜けて、病院の表まで出てきていた。

ジェットコンバットはフォーゼに奪われている為、空を飛ぶことは出来ない。

 

 

「どうしたマスター。体は治ったのか」

 

「ああ、アーチャーか……俺は聖都大学附属病院に向かう、ついてこい」

 

 

ずっと狙撃を行っていたエミヤが、大我の隣に降り立つ。大我はすぐに彼に指示を出し、エミヤもそれに従おうとして……突然フリーズした。

その目は、街道の向こう側に引き付けられていた。

 

 

「おい、どうしたアーチャー」

 

「……マスター、あれは……」

 

 

……その先には、見覚えのある仮面ライダーがいた。

 

 

「また、てめぇか……!!」

 

 

大我はそれを見てすぐにドライバーを装着し、痛みに一瞬歪んだ顔を誤魔化しながらガシャットを構える。

 

 

「フォーゼ……!!」

 

 

仮面ライダーフォーゼがまた、大我の前に現れていた。

 

そのタイミングで、ニコが大我の後を追って病院から飛び出してくる。

 

 

「何やってるの大我!! 戻ら──」

 

 

そして彼女も、すぐにフォーゼの存在に気づいた。それを見つけてしまえば、彼女は黙らざるを得なかった。すぐにフィンを隣に呼び出し、エミヤの側に向かわせる。

 

 

「……お前は下がってろ。こいつは俺が仕留める」

 

「大我、それは……」

 

「下がれ!! ここで止めねぇと、患者が危ないだろ……!!」

 

「……分かった。ランサー!! 大我、死なせないでよね……!!」

 

「分かっているさマスター」

 

 

そしてニコは、やむ無く病院の中に戻った。

大我はそれを見届けて一つ鼻を鳴らし、ガシャットの電源を入れる。それと同時にエミヤは近くの高所に移動し弓を構え、ランサーは槍を構えた。

 

 

「俺は急いでるんだ……!! ガシャット置いてとっとと消えろ……!!」

 

『バンバンシューティング!!』

 

「第弐戦術、変身!!」

 

『ガッシャット!! ガッチャーン!! レベルアップ!!』

 

───

 

「ここが病院よね!?」

 

「その通りだが……まさかこの様子じゃ、まさか間に合わなかったか……!?」

 

 

シャドウ・ボーダーが聖都大学附属病院に到達したとき、病院にはクトゥルーの落とし子が溢れていた。恭太郎によって深い傷を負ったクトゥルーは、もう自制することを止めてひたすらに落とし子を解き放ち、がむしゃらにエグゼイドとブレイブを吹き飛ばしていた。それは最後の悪足掻き。しかし、力は確かにあって。

 

 

「……しぶといな、やはり」

 

「どうするんだよ神」

 

「……切り札を切る」

 

 

その様子を窓から見ていた黎斗神は、ブランクガシャットをパソコンから引き抜きながらそう言った。ここ最近ずっとそのパソコンはメディア・リリィとも接続されていたが、黎斗はそれも切り離す。

そして彼は後部座席の扉を開けて、メディア・リリィに告げた。

 

 

「キャスター、最後の令呪をもって命ずる」

 

「はい!! 何でしょうか!!」

 

 

 

 

 

「……ジル・ド・レェを伴って自爆しろ」

 

 

そして告げられたその命令に、彼女は凍りついた。車内は皆凍りついた。

 

 

「……え?」

 

 

メディア・リリィは、震え始めていた。それを見届けながら黎斗神はブランクガシャットを起動し、彼女にかけた令呪の効果を最大限まで倍加する。

 

 

「たった今令呪を最大限強化した。安心するがいい。君の体はもう爆薬同然に書き変わっている」

 

「そんな、嘘、嘘です……!!」

 

 

彼女の足は、外の奥に見えるクトゥルーの元に走り出そうとしていた。メディア・リリィはそれが怖くて、必死に自分で自分の足を押さえつける。

 

 

「嫌、嫌です、私は……!! 怖い、怖い……」

 

「おいどういうことだ神、悪ノリが過ぎるだろ!! 第一彼女が居なくなったらライフどうするんだ!!」

 

 

これは不味いと考えた貴利矢が慌てて声を上げる。今メディア・リリィが消滅すれば、誰も黎斗神のライフを守れない。

しかし黎斗神は、もうするべきことを済ませていて。

 

 

「神の才能に不可能はない。私の残りライフは44、ここまでで、メディア・リリィの持つ回復能力と魂を捕捉する能力を解析し、加工して、このガシャットの中に落とし込んだ。だから──」

 

 

そこまで言った所で、黎斗神は既に助手席から後部座席に滑り込み、メディア・リリィの隣に立っていた。そして彼はニヤリと笑いながら彼女の手を膝から外し、彼女の目を見つめていて。

 

 

「……君はもう用済みだ」

 

 

そしてそう言った。メディア・リリィの目はもう絶望に染まっていた。彼女はふらふらとシャドウ・ボーダーを出ていこうとし……その手をポッピーに掴まれる。

 

 

「止めて黎斗!! メディアちゃんは今日まで一緒に戦った仲間でしょ!?」

 

「彼女は私のサーヴァントだ。最後まで私は、彼女に仕事を与えただけだ」

 

「そんなの酷いよ!!」

 

「そうだ!! 姐さん、こいつからガシャットを奪い取れ!!」

 

 

そして、貴利矢の指示で運転席から降りてきたマルタが、黎斗神からガシャットを奪い取ろうとした。ガシャットを奪って令呪の力を弱体化させれば、メディア・リリィへの命令を消すことが出来る。

 

 

「大人しく寄越しなさい!!」

 

「フハハハハハ!! ゲームマスターに逆らうな!!」

 

「黙れ!! 今のゲームマスターは真檀黎斗じゃないか!!」

 

 

しかし黎斗神はそれを躱す。易々と躱す。

メディア・リリィは、黎斗神の足にすがり付いていた。

 

 

「マスター、私は……怖いんです、怖い……!! 嫌です、嫌……!! 私は、信じているのに……!!」

 

「……煩い!! 早く行くんだ!!」

 

 

……しかし黎斗神は容赦なく、祈るメディア・リリィの手を掴み、彼女をシャドウ・ボーダーから突き落とした。

 

その衝撃で、完全にメディア・リリィから主導権は失われた。彼女は虚ろな目でクトゥルーを捉え、そこに走り出す。

 

 

「止めろ!! 戻ってこい!!」

 

「戻ってきて!! こっちに来て!!」

 

 

その声は届かない。

 

───

 

「うらぁぁあっ!!」

 

『ジュージュー クリティカル ストライク!!』

 

 

エグゼイドが力任せに右腕でクトゥルーを殴り付ける。確かにそれはクトゥルーに命中して、クトゥルーの体はあらぬ方向に曲がっているのに、クトゥルーは倒れない。

 

クトゥルーの体はもう崩れかけていた。しかし、まだ彼の心が折れていない。彼の狂気が、彼を生存させていて。

 

 

「まだ……まだで御座います!! 彼方の神よ!! 我が涜神をとくと見よ!!」

 

『テール・オブ クリティカル エンド!!』

 

 

そして、またクトゥルーの背後に、邪神の瞳が現れた。

 

エグゼイドは右腕に力を込め、ブレイブはガシャコンソードのBボタンを連打する。

二人はクトゥルーに向かって共に身構え……

 

……その瞬間、二人の間を一人の少女が走り抜けた。

 

 

「……えっ?」

 

 

メディア・リリィだった。

彼女はクトゥルーに簡単に捉えられ、無抵抗に飲み込まれていく。

 

 

「あれは……まさか」

 

「と、とにかく助けないと……」

 

 

その瞬間、彼女は音を立てて炸裂した。

 

 

   カッ

 

   ドゴガァァアアアンッ

 

「──え?」

 

 

……それによって、とうとう拮抗は崩れ去った。

 

クトゥルーのガシャットは破壊され、変身が解けたジル・ド・レェが崩れ落ちる。

メディア・リリィは既に消滅して、その魂は黎斗神の手元のガシャットに吸い込まれていた。

 

 

   バタッ

 

「おお……神よ……偉大なる、我が神……ご覧、戴けたでしょうか……!! これにて私もまた、供物の、一人に……!!」

 

「……やった、のか?」

 

「ハハ……ハハハハハハハハ!!」

 

 

……そして、とうとうジル・ド・レェも光となって消えていく。

ゲンムのキャスタージル・ド・レェ、消滅。





次回、仮面ライダーゲンム!!



───CR分裂の危機

「酷いよ……」

「私は私のすべきことをしただけだ」

「ふざけてるな……!!」


───エリザベートとマシュ

「私は……希望を守るの」

「これを貴女に。私より、きっと貴女の方が上手く使える」

「行くわよイリヤ。次のライブが待ってる」


───大我、消滅!?

「っ、クソ……!!」

「駄目、死んじゃう……!!」

「マスター、すまない……!!」


第四十八話 Life is beautiful


「お前に、これを託す」

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