裏設定ゴースト編
大学一年生天空寺タケルはセイバー・宮本武蔵を召喚し、命を燃やして共に戦う。しかし途中でタケルが仲間を庇って負傷、消滅。
それを間近で目撃したキャスター・フーディーニのマスター深海マコトとキャスター・玄奘三蔵のマスターアランが彼を救うために奮闘中。
「……メディア・リリィとジル・ド・レェの魂の捕捉を確認。ふ、私の才能の成せる技だな」
黎斗神はブランクガシャットを弄りながら呟いた。彼はとても満足げだったが、彼を見る他のシャドウ・ボーダーの乗員の目は冷ややかだった。
「黎斗、酷いよ……」
「檀 黎斗神だァ!! 私は私のすべきことをしただけだ!! 何人にも否定することは許さない!!」
「ったく、本当にふざけてるな……!!」
ポッピーと貴利矢が彼を非難しても、黎斗神は全く動じない。彼とは逆に、ポッピーと貴利矢はかなりショックを受けていた。
先程まで、ここには永夢と飛彩もやって来ていた。状況の報告と、メディア・リリィに何があったのかの質問の為だった。貴利矢は二人に偽りなき真実を話し、また二人もシャドウ・ボーダーに恭太郎の消滅を伝えていた。
上司の消滅と仲間の死。二つが重なれば、彼らが苛立つのは当然で。
「そもそも、ここでジル・ド・レェを倒さなければ、彼は更に力をつけた上で戻ってきただろう。ここまでの彼の移動ルートを分析すれば、彼の目的が生存者の殺戮だということは明らかだ」
「それは……まあ、そうか」
しかし、黎斗神の言葉も間違ってはいない。仮面ライダークトゥルーが恐ろしいことは知っていたし、倒す方法として彼女の自爆が存在していたことは認めている。
「そして、今ならあれを倒すチャンスがあった。日向恭太郎の死によってもたらされたチャンスが。それを無駄にしても良かったのか!?」
「でも、他にも手があった筈だよ!!」
しかし心が受け入れられない。死者の犠牲を無駄にしないために別の命も消費するなんて、果たして日向恭太郎は望んだだろうか。ポッピーは、メディア・リリィを諦められなかった。
「私は神だ!! 私は正しい!! 私に命令するな!!」
しかし、彼女の命を気楽に使い潰したこの神を説得するなんて、出来るはずもなく。
「……これ以上こいつに何を言っても無意味、か」
貴利矢は座席を倒しながら呟いた。
しかし彼とて、メディア・リリィを諦めたわけではない。大事なサーヴァントだ。取り戻せるならそれに越したことはない。
「……おい神。そのガシャットの中に、メディアのデータはあるんだよな? そこから復元は出来ないのか?」
「可能だとも。しかし彼女がサーヴァントとしてこの中に収まっている以上、サーヴァントの再誕というイレギュラーは確実に向こうの私にも認識される。それをされたら、私達はゲームオーバーだ」
「……そうかよ」
だから彼女の復元を提案したのだが……却下された。しかも言っているのが黎斗神だから妙に信憑性があった。
「それから。このゲームでゲームオーバーになった命は、ガシャットを破壊するなりなんなりで強制終了すれば元に戻るか?」
そして、もう一つの問い。ガシャットの破壊という提案。
かつて仮面ライダークロニクルが起こったときは、一度ガシャットを破壊することでプレイヤーのゲーム病を治療することが出来た。……リセットされて、無かったことになってしまったが。恐らく今回もそれは出来るはずだと、彼は考えていた。
「日向恭太郎の命ということか?」
「そうだ。永夢は不安がってたからな……どうなんだ?」
それに対して黎斗神はキーボードから手を離して伸びをし、のんびりと返答する。
「……安心したまえ。ガシャットを破壊すれば、このゲームはなかったことになり、壁は消え、患者は戻る……理論上はな」
「ほう?」
「少なくとも。私が最初に作った段階から設定を弄っていなければ、Fate/Grand Orderの世界は本来私の作った異次元であり、そこに行っていない以上ゲームオーバー等あり得ない。だから、消滅した人間も戻ってくるだろう──しかし私個人としては、ゲームの破壊は避けたい」
「てめぇの意見なんてどうでもいいんだよ」
黎斗神の意見を聞くだけ聞いて貴利矢は少し安心したのか、彼は窓の方に顔を向けて目を瞑った。
───
「よっ、と……大丈夫ですか?」
『ガッシューン』
適当な路地裏まで走ってきたクロノスは、周囲に誰も居ないことを確認して漸く変身を解くことが出来た。また聖都大学附属病院に戻ろうかとも思ったが、クトゥルーも大分弱っていたし、彼等ならきっと大丈夫だろうと思い直した。
彼女の手から離れたランサーも変身を解き、近くの壁にもたれ掛かる。体は傷だらけだった。
「はぁ、はぁ……水ある?」
「……温いですが、どうぞ」
「サンキュー……っていうか貴女生きてたのね。まあ、そうだと思ったわ」
「こんなところで死ねませんから」
そしてエリザベートは、マシュから手渡された水のペットボトルを一気飲みして大きく息を吸った。それだけで少し気が楽になった。
マシュはそんなエリザベートを見つめ、何気無く問う。
「……どうして、貴女は黎斗さんの元を離れたんですか?」
既に彼女は、エリザベートが真黎斗と袂を別ったのだと察していた。彼女はゲンムコーポレーションから離れたのだ。マシュのように。
勿論マシュは、エリザベートがマシュの仲間になるとは思っていない。そんな期待はしない。きっと彼女も、彼女のするべきことを見つけて動き始めたのだろうから。
「そうね……」
それを聞いて、エリザベートはぽつぽつと語る。ペットボトルをたまたま見つけたゴミ箱に放り込めば、妙に軽い音がした。
「貴女は、あの旅で己を信じて、己の理想を希望として、身を捨ててでも戦ったわよね」
「……そう、ですね」
「私は。私は……あの旅で、勇気を貰って、力を貰って……希望と出会って、戦ってきた。剣も魔法も貰い物。希望だって、彼のおかげで支えてもらった」
エリザベートは伸びをする。体は痛いが、心は澄んでいた。
「だから考えたのよ。そんな私はこの世界で何をするべきなのか。何をすれば、この幸運を返せるのか。……で、私は決めたの。……私は……彼に貰った希望で、私が守りたいものを守るの」
「……そうですか」
マシュはそこで少しだけ考えて、唐突に鞄の中に手を突き入れた。そしてそのすぐあとに、一つの袋を取り出してエリザベートに渡す。
「……これを」
「……何かしら、これ?」
「貴女にこれを。私より、きっと貴女の方が上手く使える筈です」
ここまで全く出番のない、かつてギルガメッシュから与えられた薬の原典。マシュはそれを、エリザベートに押し付けていた。
エリザベートはそれを悟って暫く黙り、そして黙ったままそれを受け取る。拒もうとはしなかった。
「……じゃ、ありがたく戴くわね?」
「ええ、どうぞ……ウィザード……仮面ライダーウィザードは、現在は神奈川県での目撃情報が多いそうです」
「……そう。ありがと」
マシュは更に、ウィザードの居場所の情報を伝える。彼女自体は現在鎧武を追跡していたため、ウィザードの討伐は後回しにしていたから、エリザベートの意思は好都合だった。
エリザベートは、聞くことは聞いたとばかりにマシュに背を向ける。
「……貴女も、頑張りなさいね?」
「……ええ」
最後に、彼女はマシュに振り向いてそう言った。そしてすぐに前を向き、歩き始めて。
「行くわよイリヤ。次のライブが待ってるわ」
「はい!!」
───
『ホッピング オン』
『スタンパー オン』
『チェーンアレイ オン』
フォーゼと遭遇したスナイプは、ステージを変更して戦闘を続けていた。最初からコズミックステイツで挑んでくるフォーゼに対してスナイプはレベル2、数ではスナイプが上回っているが、それでもフォーゼが有利だった。
フォーゼが跳ね回る。左足のホッピングで大地を跳ねれば、そのすぐあとに足跡が爆発していく。しかもフォーゼが構えるバリズンソードには現在チェーンアレイスイッチが装填されているため、フォーゼが柄を振るだけで、それと鎖で繋がった刀身がスナイプに襲い掛かった。
ザンッ
「っ、クソ……!!」
スナイプのライフゲージは残り三つほど。ただでさえ疲弊しているスナイプに、もう抵抗の術はなく。
「っ、下がれマスター!! ──
「私も続こう──堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃」
流石に不味いと察したエミヤが狙撃を中止して、両手に投影した一対の夫婦剣
そしてもう一対の干将・莫耶を構えたエミヤと、槍を構えたフィンがスナイプを庇うように並び立つ。花屋大我は、失うには惜しい人間だった。
「
「その身で味わえ!!」
エミヤが二対目の干将・莫耶を投げつけた。一対目共々その攻撃は弾かれていたが、エミヤは気にせず三対目を両手に投影する。
対するフォーゼは一応警戒して、左腕にシールドモジュールを展開した。
『シールド オン』
「
そしてエミヤは駆け出した。フォーゼは未だにスナイプを狙っているため気づかなかったが、ここまでで弾いた二対の干将・莫耶も、フォーゼの背後から飛んできていて。それに合わせて、フィンも槍に高圧の水流を集中させる。
「
「
そして。三方向からのエミヤによる斬撃と、フィンの遠距離からの刺突が、同時にフォーゼに襲い掛かった。戦闘が始まってこの方傷をほとんど負わなかったフォーゼの背中を剣が裂き、高圧の水流がシールドモジュールを貫いた。
しかし、フォーゼはまだ倒れない。彼に命はない。胸を穿たれた所で、まだ倒れない。
「まだ、倒れないのか!!」
『ネット オン』
『スモーク オン』
「っ!?」
フォーゼはその右足にネットモジュールを展開し、エミヤの一瞬の隙をついて彼を拘束する。彼は虫取網のような電磁ネットに捕らわれると同時に勢いよく煙幕を浴びせられて、上手く身動きが取れず。
『エレキ オン』
『フラッシュ オン』
更にフォーゼはバリズンソードにエレキスイッチを装填し刀身に電撃を纏わせ、更にフラッシュスイッチの力を合体させ、スナイプとフィンに閃光を浴びせた。
二人は唐突に光を目に受けたせいで視界が白く染め上げられ、何も見えなくなる。
『ホイール オン』
車輪の駆動する音が聞こえた。
フォーゼは左足にセグウェイを思わせるホイールモジュールを装備し、こちらに向かってきているようだ……フィンはそれを理解した。しかし、見ることが出来ない。槍を振るってみても空振りする。
不味い。そう思った。刃が風を切る音がした。
「伏せるんだ!!」
そう声を上げた。次の瞬間──
『オーダー クリティカル フィニッシュ!!』
バァンッ
……視界が晴れたフィンが見たものは、首を撃ち抜かれたフォーゼと、スナイプのすぐ横でガシャコンマグナムを構えるライドプレイヤー……ライドプレイヤーニコだった。
「マスター!!」
「ふぅ……危なかった」
どうやら、彼女の一撃がフォーゼへの止めとなったらしく、フォーゼはスナイプの足下に転がったまま、ガシャットロフィーを残して消滅していく。
スナイプはよろよろとそれを拾い上げて……倒れ伏した。同時にゲームエリアも消滅し、彼らは花屋医院の玄関口に戻ってくる。
「っ……」
『ガッシューン』
「大我!?」
ニコが彼に駆け寄った。彼の姿はもうかなり透けていた。単純に過労だろう。ニコはこれまでの経験で、今の彼が最もゲーム病が進行している状況だと理解できた。
「ああ、駄目、死んじゃう……!!」
慌てて彼女は周囲を見回す。そして近くにあった水道に手を伸ばし、ホースに繋いで、フィンに投げ渡した。
「……マスター、すまない……!! 私の水は、彼には──」
「それしか無いでしょ!!」
彼女はフィンの制止も無視して腕を天に掲げた。令呪が光を放ち、一画消滅する。
「令呪をもってランサーに命じる!! 何がなんでも大我を治療して!!」
「っ──了解した、全力を尽くそう!!
フィンはそれを聞き届けた。彼はホースの出口の部分を両手で挟み、それを大我の上からかける。
大我の服が濡れていく。大我は露骨に嫌な顔をしたが、ニコは無視した。
フィンの水では、ゲーム病は直せない。それはニコも知っている。だから彼女も、この病状の完治までは期待しない。ただ、生き延びてくれさえすればいい。
彼女は無意識のうちに、大我の隣に膝をついて、彼の手を握っていた。
「死なないで……!!」
───
「……随分、遠くまで来たな」
「そうですねセンパイ」
パラドとBBは、何処かのトンネルに身を潜めていた。困ったことに、まだゲージは99%のままだった。
「……早く、戻りたいな」
「もう少しの辛抱ですよ。私もこんな寒いところは嫌です」
「だよな……」
二人は闇の中。姿も見えず、互いの声と吐息しか聞こえない。
早く仲間の元に戻ろう。パラドの意思はそれだけだった。早く、仲間の危機を救わなければ。
「……暇ですね」
「そうだな」
「……そうだ、何か面白いネタ話して下さいよセンパイ!! 何かありますよね? BU☆ZA☆MA!! な感じの面白いやつ」
「あぁ!?」
……しかし、すぐに行くことは出来ない。
仲間に敵を増やさないためには、我慢するしかない。
「……じゃあ、一つ」
「おおっ!! どんな話しですかぁ!?」
「俺が永夢に殺されてからガクブルして土下座して泣きじゃくる話だ」
「──あ、マジな感じの無様だコレ」
───
「……どうにか、なったようだね」
フィンが地面に座り込みながら、小声でそう言った。十分ほど水を浴びせ続けられた大我は、肉体の消失という現象を治療され、どうにか消えずに止まることが出来ていた。
「良かった……!!」
ニコが呟けば、大我は大きくくしゃみをする。そして立ち上がろうとしたが、激痛に顔をしかめた。
彼はあくまで肉体の消失を防いだだけだ。本来ならゲーム病で消える傷を負っていることに代わりはない。
エミヤがゆっくりと、なるべく痛くないように大我を持ち上げた。
大我はニコを見て、彼女の手に物を持たせる。
「……お前に、これを託す」
「大我……」
スペースギャラクシーフォーゼ。大我はフォーゼから回収したガシャットロフィーを、ニコに渡していた。ニコがそれから顔を上げたときには、彼はもう病院の中に戻っていて。
もう大我は治るまで戦わせない。彼の命を自分で守る。ニコは、ギリギリ峠を越えられた大我の手を握ったまま、静かに誓った。
次回、仮面ライダーゲンム!!
───灰馬らの逃亡
「こっち!! こっちですよ!!」
「ノッブ!!」
「……どうして君は、私に付き従ってくれているんだ?」
───追跡との決着
「行きますよセンパイ!!」
「お前の願いは、俺が叶えさせてみせる」
「
───ウィザードとの因縁
「……見つけたわ」
「面白そうじゃのう!!」
「……私が、最後の希望よ!!」
第四十九話 月と花束
「貴方との旅も、そこそこ楽しかったですよ」