Fate/Game Master   作:初手降参

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知って得する豆知識

ドア・イン・ザ・フェイス

ビジネス用語。最初に大きな要求をして断らせることで、その後の小さな要求を受け入れさせやすくすること。



第五十話 Missing peace

 

 

 

 

 

「ここで、倒す!!」

 

『バグル アァップ』

 

『辿る巡る辿る巡るタドルクエスト!!』

 

『アガッチャ!! ド ド ドラゴラーラララーイズ!! フレイム!! ウォーター!! ハリケーンランド!! オールドラゴン!!』

 

 

角から飛び出したエリザベートは、変身しながらウィザードに飛び掛かった。彼女が右手に呼び出した剣が、宝石の頭に振り落とされる。

 

 

『コネクト プリーズ』

 

   ガギンッ

 

 

そしてそれは、ウィザードが取り出したウィザーソードガンの刀身によって容易く受け流され、結果彼女の剣は空を斬った。

ランサーは勢いのままに左手の槍もウィザードに向けるが、それは飛び退かれて躱される。イリヤが後方から放った援護射撃も、簡単に斬り伏せられた。

 

 

「まだまだ!!」

 

 

ランサーはそう叫びながら壁を走り、ウィザードへと接近する。

 

───

 

その時、パラドは追っ手を逃れて走っていた。川の土手を離れ、畑の中で朝日を望み、太陽から逃げるように街中を走っていた。

 

そしてそんな風にしていた彼は──いつの間にか、真っ白な空間に立っていた。

 

 

「──ん?」

 

 

彼は自分の足元を見る。乗っていた筈のバイクゲーマは何処かへ消えてしまっていた。少し歩いてみても、平坦な空間が延々と続くばかり。丁度、何もオブジェクトを置いていないバーチャル空間のようで。

パラドは歩くのを止めて空を見上げた。ふと思い付いて、BBに対して念話を試みる。

 

……彼女の存在は、感じられなかった。

 

 

「そうか……彼女は、倒れたのか」

 

『その通りさパラド……!! 彼女の消滅によって、千代田区の聖杯は完成した!!』

 

「っ!?」

 

 

突然聞こえた声に、パラドは咄嗟に身構える。

真黎斗の声だった。しかし、見回しても人影は何処にもない。

 

 

『やはり君が来たか、パラド』

 

「ゲンム……!!」

 

 

また声が聞こえた。パラドは一人、真黎斗は自分をここに閉じ込めてそれを外から観測しているのだろうと解釈する。彼はドライバーを着けようとしたが、それは何処にもなかった。

 

 

『君は聖杯を手に入れた。望みを言うといい』

 

 

真黎斗はそう語る。パラドは天を睨み、出来る限り生意気に応答した。

 

 

「一応聞くが……もし今、このゲームを中止しろと聖杯に望めば、どうなる?」

 

『残念だけど、それは叶えられないわ』

 

「……ナーサリー・ライムか」

 

 

すると、今度は少女の声がパラドに言った。ここ数日毎朝聞く声だ。

パラドはどうせ拒否されるだろうと最初から考えていたから、ナーサリーに否定されても驚きはしない。彼はまた天に向けて問う。

 

 

「じゃあ、ゲームオーバーになった人間の復活は?」

 

『それも駄目』

 

「ゲーム病解除」

 

『駄目よ』

 

「ゲームエリア縮小」

 

『それも無理……私達は、ゲームを運営する存在。ゲームを衰退させることは不可能なの』

 

「なーにが万能の聖杯だよ、単語のチョイス間違えてるだろバーカ」

 

 

否定。否定。否定。ナーサリーは否定しかしない。運営側は、態々自分達の首を締め上げる真似はしない。パラドはこのやり取りは予感していたが、それでも苛立った。

 

 

『さあ、望みを言え、パラド。気張る必要はない、君個人の望みで構わない。ここには誰もいない。君を非難する者はいない!!』

 

「俺の望みは……」

 

 

しかし、本当の望みはそれらではない。

 

 

「生き延びることだ。仲間と。皆と」

 

『……強情だな、君は』

 

「俺だって成長したんだよ」

 

 

本当の望みは、この地獄のゲームをハッピーエンドに導くこと。命を救い、人々を守ること。それがゲームキャラであるパラドがしたい最大のタスク。

そしてその為には、取るべき選択は絞られる。

 

 

「……ゲンム。ゲームを衰退させることは出来ないんだよな?」

 

『そうだ』

 

「なら……駒を前に進めようぜ」

 

『……』

 

 

彼は、笑っていた。パラドの目の前に聖杯が現れ、眩く光る。

 

 

「ムーンキャンサーのマスター、パラドが聖杯に望む!! ……使用可能ガシャットの、レベル上限の解放を!!」

 

───

 

『ドレミファ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はあっ!! ……ん?」

 

 

聖都大学附属病院近くのライドプレイヤーと戦っていたブレイブは、何故か腰の辺りに違和感を感じた。

ガシャットギアデュアルβからだった。それが、鈍く煌めいていた。

 

 

「……まさか」

 

   ガコンッ

 

『Taddle fantasy』

 

「──っ!!」

 

 

パラドの望みによって、ゲームエリアの制限が弱まった。レベル上限は20から50まて上昇した。

 

 

「マスター!! もしかして──」

 

「ああ……行くぞ、術式レベル50!!」

 

『デュアル ガッシャット!!』

 

───

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

戦闘開始から一時間。ランサーは、ランドドラゴンスタイルのウィザードと向き合っていた。

ランサーは奮戦に奮戦を重ね、防戦一方ではあったがウィザードとまともにやりあっていた。剣は砕け槍は折れ、それでも心だけは折れなかった。

 

……しかしウィザードはこれ以上の継戦を良しとはしなかったようで、その左手に最強の指輪を嵌める。

 

 

「……」

 

『インフィニティー!! プリーズ!!』

 

 

ウィザードも、ここでランサーを始末するつもりのようだった。

ウィザードの姿が、希望の宝石を全面に湛えた白銀の形態に塗り替えられていく。……それは偽物ではあったが、確かに最強の防御で。

 

 

「……アハハ」

 

 

それでも、ランサーの口からは笑いが漏れた。ここまで付き合ってくれた、何処かにいる操真晴人への笑いだった。彼女は、ボロボロになった剣を握り締める。

 

勝算は、ある。

 

 

「やってやるわ……アタシの全てを掛けてでも!!」

 

 

そして唐突に、ランサーは真正面から駆け出した。防御なんて考えていないようだった。ただひたすらに走る彼女の目の前では、ウィザードが最硬の斧剣の刀身を構えていて。

 

 

『インフィニティー!!』

 

   ザンッ

 

「っあっ──」

 

『ガッシューン』

 

 

そして、瞬間移動したウィザードが、ランサーの腹を二分した。

 

 

「ああっ!?」

 

「そんなっ!?」

 

 

変身が解除される。イリヤとルビーが悲鳴を上げる。遠巻きに見ても明らかに、彼女の胴体は切断されていて。そして傷口からエリザベートは消滅し始めていた。

それでも、エリザベートの目には光があって。

 

 

 

 

 

   カリッ

 

「──避けちゃダメよっ!!」

 

 

……その刹那、ランサーは再生して、ウィザードを押し倒した。

 

彼女の口の中には、マシュから渡された薬の原典が入っていた。彼女は死に瀕したその瞬間にそれを発動し、ウィザードの懐に入ることに成功していた。

 

もがくウィザードを押さえつけるエリザベート。ウィザードは彼女の腹をアックスカリバーで突き刺すが、それでもエリザベートはそれを止めない。

そして彼女は、ウィザードの指輪の中の一つをもぎ取り、ウィザードの右手に強引に嵌めて。

 

 

「これで……終わりっ!!」

 

『スリープ プリーズ』

 

 

……その魔法が、発動した。

 

ウィザードの魔法は強力だ。だからこそ、彼自身もそれに囚われれば抜けられない。エリザベートはウィザードにスリープ(睡眠)の指輪を使わせ、そうすることで彼の動きを封じ込めた。

 

 

「……やった、わね」

 

 

彼女はふらふらと、動かなくなったウィザードから立ち上がる。至近距離で何度も攻撃を食らった彼女は、今度こそ消え始めていて。

 

 

「……止め、刺すわよ」

 

───

 

 

 

 

 

「……やれやれ。パラドも、いつの間にか思考ルーチンが変化したらしいな」

 

 

真黎斗はのんびりと呟きながら伸びをした。隣ではややしかめ面をしたナーサリーが紅茶を啜っていた。

 

 

「まあ、良いか」

 

「でも本当に良かったかしら? 使用できるレベル、50まで上がってしまったけれど」

 

「何……イベントの幅が広がったと捉えよう。何れ通る道さ」

 

 

真黎斗はそう言いながら、再びパソコンに向かい始める。丁度そこに、ウィザードが倒されたという連絡が入ってきていた。

倒したのはゲンムのランサー、エリザベート・バートリー。

 

 

「さて……」

 

「……エリザベートが、裏切るとはね」

 

「兆候はあったがな。……全く、操真晴人は最後まで気にくわない」

 

 

暫く二人はエリザベートを見つめたが、しかし何もせずに目を離した。

今更彼女を消去するまでもない。真黎斗はそう決めて彼女を放置する。……もう、エリザベートは消滅し始めていた。

 

そして二人は、鎧武が倒された時のデータを参照し始める。運悪く鎧武は監視カメラの無いエリアで倒されたようで、鎧武が倒れたときの情報を二人はあまり知らなかった。

 

 

「ウィザードは彼女が倒したとして……何故鎧武は倒れた? サーヴァントの反応は映っていなかったが」

 

「……バグかしらね? 一応、倒れる一時間ほど前に鎧武はイスカンダル、スカサハ、ロムルスの連合軍を倒しているわ。その時のダメージが響いたと考えれば……」

 

「成程、その線が濃いな。……それなら、何もせずとも構わないか」

 

 

しかしそれもすぐに止める。同じ才能を持つ二人の間に、多くの会話は必要なくて。

すぐにナーサリーは、次のイベントについて考え始めた。もう、仮面ライダー攻略イベントは終了してしまったから。

 

 

「次のイベントはどうしようかしら?」

 

「……よりゲームを活発にする為には……やはり、人々の復活の権利を賞品にするべきか?」

 

「いや、それは最後の最後まで取っておきたいわね」

 

「何れにせよ、次のイベントはもう少し先にしよう。……何、全部ここから始めることに変わりはないのだから、今焦る必要はない」

 

───

 

「……やったわね」

 

 

エリザベートの手元には、マジックザウィザードのガシャットロフィーが握られていた。

彼女は、目の前のイリヤにバグヴァイザーとガシャット二つを渡し、ガシャットロフィーを起動する。

 

 

「エリザベートさん……」

 

「……ちょっと待ってね」

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

 

そして、エリザベートは仮面ライダーウィザードになった。しかし、ここに戦う相手はいない。そしてウィザードは、足の先から消えかけている。

ウィザードは、イリヤの手を握った。そして魔法を発動する。

 

 

『プリーズ プリーズ!!』

 

 

……それが、彼女の目的だった。ウィザードが変身を解きながらイリヤの手を離せば……そこには、ランサーのクラスカードのような物が残っていた。

 

 

「これって……」

 

「……アナタにあげるわ。泣いて喜んでいいのよ?」

 

「でも……」

 

 

エリザベートは、消滅しかけの体でイリヤに背を向ける。ガシャットロフィーだけを持って。イリヤはクラスカードを見て、涙を溢した。

 

 

「……アタシは、やりたいことをやったわ。アナタも、したいことをしなさい」

 

「やりたいこと……」

 

「……そう。例えば……これ以上、大切な人を戦わせない、とか」

 

「……っ!!」

 

 

その言葉に驚いて、イリヤは再び顔を上げる。

 

そこには、もうエリザベートはいなかった。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───ガシャットロフィーの行方

「アナタはアタシを知らないでしょうけど」

「……君は」

「アタシは、アナタを知ってるから」


───黎斗神の計画

「ガシャットに意思が宿りかけている」

「おいおい何の冗談だよ」

「目的地を決めよう」


───パラドの帰還

「パラド……!!」

「ただいま、永夢」

「……治療は、必要ありません」


第五十一話 Last Engage


「最後の、希望……!!」

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