Fate/Game Master   作:初手降参

151 / 173

裏設定ウィザード編②

キャスターを失った操真晴人は、予めキャスターにかけてもらっていた肉体強化でライドプレイヤーを倒しながら人助けの旅を続けていた
目的地はゲンムコーポレーションだったがなかなか辿りつけず、現在は神奈川の山道を歩いている。



第五十一話 Last engage

 

 

 

 

 

「……」

 

 

イリヤから離れたエリザベートは、透けた足で歩いていた。行く宛はない。目的だって、あまりない。

彼女はウィザードのガシャットロフィーを大切に抱えていた。透けた手から落ちないように。奪われないように。もう、誰かに悪用されないように。

 

どこか遠くへ。どこか遠くへ。この大切な力を、もう誰の手も届かない場所に。

 

そう思いながら歩き続けて。

 

そこで、一人の男を見た。三体のライドプレイヤーに囲まれたその男は、腰を抜かして倒れている少女を庇うように立ち、何処かで入手したのであろうガシャコンソードを構えて立っていた。

 

 

「君、大丈夫!?」

 

「は、はい!! でも、歩けなくて……」

 

「分かった。ここで待ってて!!」

 

 

そう声を上げた男は、ガシャコンソードに炎を纏わせ、その内の一体に飛びかかる。

 

それを眺めていたエリザベートは、確かに男の口が動くのを見た。声を聞いた。

 

 

 

「……さあ、ショータイムだ」

 

 

 

「……っ!?」

 

 

男の動きは、まるで舞っているようだった。ライドプレイヤーの攻撃を回避し、蹴りを入れ、斬撃を叩き込む。ライドプレイヤーの攻撃は一撃一撃が致命傷であるはずなのに、男はまるで怖れておらず。

 

そして、男はあっという間に一体目のライドプレイヤーを撃沈させた。彼は即座にドロップしたガシャコンマグナムを拾い上げ、残りの二体に弾丸を放つ。

そうしてまた二体と交戦して。

 

 

『ズッキューン!!』

 

「……フィナーレだ」

 

   バァンッ

 

 

最終的に、その男は三体を倒してしまった。そして男は、まだ動けない少女に駆け寄る。

エリザベートはそれにほんの少し腹を立てて──新たに現れて、男に剣を降り下ろそうとするライドプレイヤーに気がついた。

 

それに気がついた時には、走っていた。

 

 

「危ない!!」

 

 

少女が声を上げている。エリザベートはその中を駆け抜け、そして。

 

男に襲いかかろうとする刃を、その身で受け止めた。

 

 

   ザンッ

 

「っく……!?」

 

 

痛みが脳裏を駆け抜けた。

ライドプレイヤーのガシャコンソードは、エリザベートの肩に深々と突き刺さっていた。しかし彼女はそれを抜こうとはせず逆に押さえ込んで、左手に持っていた槍をライドプレイヤーに突き刺した。

 

ライドプレイヤーが消滅する。エリザベートは後ろに倒れ込み。……助けた男に、抱えられた。

 

 

「……君は」

 

 

助けられた男は、ぼんやりとエリザベートを見下ろしていた。彼は透けていくその体で、彼女がサーヴァントだろうと察していた。

エリザベートはそんな姿に少しだけ優越感を覚え、その手に温かみを感じ、すぐに自分には時間がないと思い直し、ガシャットを押し付ける。迷いはなかった。

 

 

「これ、アナタに返すわ」

 

「この、ガシャットロフィーは……何で、俺に?」

 

「アナタはアタシを知らないでしょうけど……アタシは、アナタを知ってるから」

 

 

男には、エリザベートとの記憶はさっぱり無い。でも、目の前の少女は彼に全幅の信頼を寄せているようで。

そんな少女を見ていれば、男の方もこの少女との関わりがあったような、そんな気にさせられた。

 

 

「……本当は、色々話したいことがあるんだけど」

 

 

そしてエリザベートは、いよいよ消滅の時を迎えていた。ここまで気合いと薬の力で実体を保っていた肢体が、先端から光になって消えていく。

 

 

「もう時間切れみたいね」

 

「……何で、これを俺に?」

 

「決まってるじゃない」

 

 

彼女に恐れがなかった訳ではない。それでも、彼女は最期まで耐えた。

希望を胸に抱えていた。そしてその希望を返還することが出来た。それが、最後の希望だった。

 

 

「アナタが、最後の希望だったからよ」

 

「最後の、希望……」

 

 

そして、ゲンムのランサーだった少女は、本当の本当に消滅する。

 

───

 

「……」

 

 

その時、マシュは人気のない公園のベンチにもたれ掛かって、鎧武から回収したガシャットロフィーを眺めていた。『刀剣伝鎧武』、その力は、今はマシュの手の内にある。

 

 

「後は、ウィザードだけ……」

 

   ブルルル ブルルル

 

「……でも」

 

 

そう思った瞬間に、拾い物のスマートフォンが小さく揺れる。

イベントの終了を告げる文が、黒い画面に浮かんでいた。

 

 

「それは、ちゃんとエリザベートさんがやったみたいですね」

 

 

マシュはまた天を仰ぐ。

今、彼女には気にかかることがあった。彼女は、何故自分が鎧武を倒せたのか、ハッキリと分かってはいなかった。

 

───

──

 

『……』

 

『無双セイバー!!』

 

『大橙丸!!』

 

『バナスピアー!!』

 

『イチゴクナイ!!』

 

『影松!!』

 

『ッ──』

 

 

あの時。鎧武がマシュに向けて多くの武器を解き放ったあの瞬間。

両手の剣を握り締めていたマシュは、体の内側に炎のような物を感じていた。その瞬間は、きっと気分が高揚しているのだろうと思っていたのだが、そうではなかった。

 

迫り来る刃、斬られていく大気、それらを前にしたマシュは──

 

 

   ボッ

 

『──はああああっ!!』

 

 

──その時、確かに、マシュは両手の剣の刀身に燃え盛る業火を纏わせていた。それらの火力は鎧武の武器を溶かし、その炎が、鎧武の鎧を切り裂く支えとなった。

何処かで確かに見た炎だったと、今でも思う。

 

──

───

 

「……何だったんでしょうか」

 

 

マシュは太陽に己の白い手を透かしてみた。力を込めてみても、炎は出てこない。

 

暫くマシュは炎を出してみようとしていたが、諦めてベンチを立った。

 

───

 

「……困ったな」

 

 

シャドウ・ボーダー内にて、パソコンに向き合っていた黎斗神は静かに呟いた。彼に向けられる視線はまだ冷たくて、しかし彼は動じずに作業を続けていた。

 

 

「ガシャットに意思が宿りかけている」

 

「……はぁ? おいおい何の冗談だよ」

 

 

そしてそんな彼から溢れた言葉に、ここまで無視を決め込んでいた貴利矢が思わず声を上げた。

ガシャット、それは彼の産み出した機械であるはずだ。意思など宿るわけがない。それが貴利矢の、同時にCRに属する全ての存在の考えで。

 

しかしそんな常識は、神の前には通じない。

 

 

「前例はある。私がかつて産み出した仮想空間内にて、あるガシャットに英霊のデータを詰め込んだところ、それら英霊の意思がガシャットの支配権を得たことがあった」

 

「英霊……もしかして」

 

「そう、サーヴァントだ。サーヴァントのデータを詰め込めば、ガシャットはサーヴァントに乗っ取られる。そして、このガシャットも」

 

「サーヴァントが詰まってる……」

 

 

黎斗神はやれやれと首を竦めながら、ブランクガシャットを眺めていた。これ以上の英霊がガシャット内に入れば、ガシャットは確実に力を持つ。そうでなくても、いつ意思が発現するかは、黎斗神にすら分からない。

 

 

「で? どんな意思が生まれるんだよ」

 

「もしかして、メディアちゃんの……?」

 

「その可能性もなくはないが、最も濃い可能性は──」

 

 

そこまで言って黎斗神は、ゆっくりとポッピーを指差した。

 

 

「ポッピー。君から切り離した、サーヴァント・アルターエゴ──殺生院キアラの意思が目覚め、他の英霊の力を奪い、再び再生する可能性だ」

 

「っ……」

 

「おいおいおいおいマジかよ!? アレまた戻ってくるのかよ!? 自分もうアレの相手したくないんだけど!?」

 

 

貴利矢が嘆く。もうCRは二回殺生院キアラと戦って、その二回ともにピンチを迎えていた。今度こそ完全に倒して、二度と戦うことはないと思っていたのに。

 

 

「防止する策は無いのかしら?」

 

 

ハンドルを握っているマルタが問う。黎斗神はその問いには答えず、カーナビを弄り、目的地を設定した。

 

 

「今後の目的地を決めようか」

 

   ピッ

 

『ゲンムコーポレーションを、目的地に設定しました』

 

 

カーナビの無機質な音声が響き渡る。

 

───

 

 

 

 

 

昼過ぎの頃。永夢はナイチンゲールと共に、国会議事堂の前に座っていた。もう、この周囲には人通りはない。戦いを望まないプレイヤーは議事堂の中にいて、戦いを望むプレイヤーは他の聖杯の元に向かっている。

千代田区はゴーストタウンとなった。他の市も、もうすぐそうなるだろう。

 

永夢は支給されたスマートフォンの画面を見る。渋谷、大阪、横浜、名古屋……もう既に、幾らかの都市は聖杯完成へのカウントダウンを始めているようだった。

 

 

「……焦らないで下さい、マスター」

 

「ナイチンゲールさん……」

 

「冷静さを欠いてはいけません。戦場において、ドクターが冷静でなくて誰が患者を救えるでしょうか」

 

 

永夢は彼女に指摘され、知らず知らずの内に握っていた拳を解く。この頃疲れが溜まっているのか、前よりも頭に血が上るのが早くなったように思えた。

 

 

「大丈夫、マスターは今でも医師としての務めを果たしています」

 

「……そうですか?」

 

「ええ。だから──」

 

 

……その瞬間。永夢には、ナイチンゲールの姿が一瞬酷く歪んだように見えた。まるで、バグを起こしたゲームの画面のように。

それはすぐに直ったが、永夢は慌てて彼女に駆け寄る。

 

 

「今の何ですか!?」

 

「……私は、特に何も」

 

「本当ですか!? 僕には、その、バグを起こしたみたいに見えたんですけど」

 

「ええ。私の体には、何も」

 

 

ナイチンゲールはそう言いながら両手を振った。普通に動いている。

 

 

「……治療は、必要ありません」

 

「……そうですか」

 

 

それを見て、永夢も元の立ち位置に戻った。こんなこともあるのだろう、程度に思いながら。

そして彼は前を見て。

 

見覚えのある姿を捉えた。

 

 

「パラド……!!」

 

 

パラドだった。彼の頭の上には、聖杯を象ったマークが静かに浮かんでいた。

 

 

「ただいま、永夢」

 

「……BBは?」

 

「……」

 

 

その無言で、永夢は彼女の最期を悟った。彼女の犠牲が、目の前のパラドを聖杯の主にしたのだと察した。

永夢の顔が暗くなる。複雑そうに俯く彼の隣を、パラドがすり抜けていって。

 

風が、永夢の隣を吹き抜けた。

 

───

 

『目的地、周辺です』

 

「なあ、本当に何考えてるんだよ神!!」

 

 

シャドウ・ボーダーは、ゲンムコーポレーションの近くまでやって来ていた。ギリギリ探知されないエリアに停車したその中で、貴利矢は黎斗神に問う。

 

 

「……これより、ガシャットの浄化作業を開始する」

 

「はぁ?」

 

 

問われた黎斗神は、そう返すだけだった。彼はまだブランクガシャットを弄り続けていたが、その作業は佳境に入ったらしかった。

 

 

「意思の目覚めかけているガシャットから、意思の成分を放出する作業だ。そして今回は、これを攻撃に転用する」

 

 

黎斗神は付け加えてそう言い、鞄の中から一つのガシャットを取り出す。

 

 

「それは……」

 

 

テール・オブ・クトゥルフ。黎斗神が回収した物だった。

彼はブランクガシャットを引き抜き、テール・オブ・クトゥルフも持って、助手席のドアを開ける。

 

 

「九条貴利矢!!」

 

「ンだよ神!!」

 

「私のアシスタントをしろ」

 

「やなこった!!」

 

「……ゲンムコーポレーションから、サーヴァントを誘き出せ」

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───始まった作戦

「あれは、何だ?」

「余が向かおう」

「明らかな挑発行為じゃのう……」


───目覚めた意思

「おいおい失敗とかじゃないよな!?」

「まさかここまでとは……」

「逃げないと!!」


───再戦の行方

「あれは、どうして……!!」

「流石は私だ」

「僕が、決着を……」


第五十二話 サクラメイキュウ


「それでは、参りましょうか」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。