(タンクタンクフォームを見ながら)きっとタンクゲーマはあんな感じだったんだろうなぁ……レベル4になって欲しがったなぁ……
「っ、つ……」
「ぐはあっ……!!」
『ガッシューン』
『ガッシューン』
ゲンムとレーザーターボが地に転がる。その弾みでガシャットは外れ、変身が解除された貴利矢が見上げる先ではキアラが恍惚の表情を浮かべていた。
「痛いなこの野郎……」
「想定外だ……!!」
そう言いながら、二人は飛び退いて少しでもキアラから距離を取る。体の節々が痛んで、再び変身することは出来なかった。その反対側のラーマも、膝をついて呻いている。
現在のキアラは、本来のそれとは違っていた。本来彼女が操っていた魔神柱はガシャットの力によって変質しクトゥルーの使っていた触手になっていたし、彼女は体を一旦泥に戻すことで高速移動を可能にしていた。
「こんなものを産み出してしまうとは……やはり私の敵は私の才能!!」
「お前も想定してなかった存在じゃねえか!! 取り合えず引くぞ!!」
貴利矢はそう言いながら一先ず退散しようとし……自分達の向かおうとした道の先に、見慣れた姿を見る。
「……おい、あれ社長さんじゃね?」
「あ?」
「また、敵なのか……っ!?」
「おや? ……あらあら、貴方は……」
全員の、視線の先には。
胸を張って歩いてくるアルトリア・オルタと、その隣に立つ作がいた。
キアラは何でもなさそうに二人に向けて触手を放つが、それらはアルトリア・オルタの剣で斬り伏せられ、二人は歩みを止めることはなく。
「おい!! 逃げろ!! こいつはやべぇぞ!!」
貴利矢の声にも作は動じない。彼の肩は震えていたが、決意が彼の足を進めていた。
そして作とアルトリア・オルタは黎斗神と貴利矢の間を通り、キアラと相対する。
「どうして、こちらにいらっしゃったんですか?」
「……僕は、ここで貴女を倒します。僕が、けりをつけるんです」
「ふふ……そうですか。では……来てください?」
キアラは挑発的に両手を広げた。かつてキアラに洗脳されていた作は一瞬その姿に支配されそうになり、慌ててそれを振り払おうと頭を振る。
「……早く命令しろ、マスター!!」
「は、はい!! ……アルターエゴを倒してください、セイバー!!」
「了解した、マスター!!」
そして、アルトリア・オルタは瞬時にキアラに肉薄した。
───
「はああっ!!」
ザンッ
アルトリア・オルタは、キアラに対して有利に立ち回っていた。彼女の聖剣の質量は一撃でキアラの泥を多く吹き飛ばすことが出来た。
それらはすぐに元に戻るが、体の修復に気を取られるキアラは、アルトリア・オルタに反撃できない。
「もっと……もっと!!」
「……チッ、マスター!! 令呪だ、令呪を寄越せ!!」
しかしキアラに焦りは見えなかった。それに苛立ったアルトリア・オルタが、作に令呪を要求する。
作はそれに答えた。彼女の超火力の宝具ならキアラの泥を全て吹き飛ばせるだろう、彼は確信していた。
「令呪をもって命ずる!! 宝具を開帳し、アルターエゴを、討て!!」
「了解した!!」
作の手から、二画目の令呪が消滅する。そのエネルギーは作の元からアルトリア・オルタの聖剣に移行し、そのオーラを増幅させて。
「光を呑め!!
カッ
ガガガガガガガガガ
「これは……!!」
吐き出された闇は、泥を呑み、砕いて進む。令呪によって増幅された一撃は、人類の敵を吹き飛ばす。キアラの顔から、とうとう余裕が消えた。
彼女の周囲に幾つもの孔が開き、邪神の触手が盾として呼び出される。しかし攻撃の勢いを止めるには至らず。その一撃は、触手を細切れにしながら突き進み、全ての泥を吹き飛ばして、その中のガシャットを露にした。
そしてそのガシャットも闇に呑まれ──砕けた。
バリンッ
「やったか!?」
黎斗神が思わずそう声を上げた。冷たいコンクリートの大地に、砕けたガシャットが軽い音を立てて転がる。
攻撃を止めたアルトリア・オルタはそのガシャットの破片に歩みより、つまらなさそうに拾い上げた。
「何だ。こんなものか」
ガシャットは軽かった。アルトリア・オルタはそのガシャットから微妙に滑りを感じ、顔をしかめる。
──刹那。
ガチッ
ガバッ
「……んなっ!?」
粉砕されたガシャットは合体して元に戻り。
泥がまた吐き出されてアルトリア・オルタを飲み込む。抵抗は出来ず、手足から侵食されていく。
作が最後の令呪で彼女を逃がそうとするが、それも不可能で。
……そして、アルトリア・オルタはガシャットからの泥に覆い尽くされ、その胸元にガシャットも取り込み……泥の山は、キアラになった。
「そんなっ!?」
「ふふふ……ごちそうさま、でした」
まだピンピンしているキアラが、愉快げに舌舐めずりをした。もう、作はアルトリア・オルタの存在を感じることが出来なかった。彼女は……消滅し、キアラのリソースになっていた。
そして、そのキアラは、今度はラーマの方を向く。ラーマは咄嗟に立ち上がって剣を投げつけたが、それは簡単に回避されて。
「ッ、
「当たりませんよ」スルッ
「っ……」
キアラが出した触手を、ラーマは転がって回避する。そして彼は、手元に戻ってきた剣を握り締め、キアラと斬り結ぶ。
「……おい、立てるか社長」
「は、はい……」
その反対側では、貴利矢が作を支えて立ち上がらせていた。
シャドウ・ボーダーが彼らの元に停車し、ドアを開く。そして、貴利矢と作と黎斗神が、その中に飛び込んだ。
「おい、さっさと分析しろ神!!」
「今やっている!! しかし……どうやら、キアラ自体がテール・オブ・クトゥルフのゲームエリアと一体化しているらしい。ゲームエリアの面積は小さい代わりに、再生する力が異様に強い。コア……はガシャットだが、それすら破壊されても再生する」
「何だよそれ!! 倒せないのかよ!?」
「正攻法ではな」
黎斗神が少し調べるだけで、絶望的な状況が理解できた。貴利矢が黎斗神の後頭部に舌打ちする。
その隣で作は、頭を抱えていた。令呪を全て使いきった彼には、抵抗の手段は何もない。
マルタが、シャドウ・ボーダーのアクセルを踏んだ。
「あら……もう、終わりですか?」
暫くの戦いの結果。
キアラは、その触手でラーマの四肢を拘束していた。磔にされたラーマはキアラを睨むが、キアラはその視線に興奮するだけで恐れはしない。
「っ……」
「もがいても意味はありません。受け入れてくださいまし?」
キアラはそう言いながら、もがくラーマの脇腹に指を這わせる。
そして彼女は、ラーマに止めを刺そうと一旦離れて。
その瞬間、後方から放たれた矢によって、邪神の触手は切断された。
「ラーマ様!!」
「シータ!? 何故ここに!?」
それを放ったのはシータだった。彼女はラーマを解放し、立たせる。ラーマはそれに驚いていた。彼女は、もう部屋から出ないのではないかと彼はやや本気で思っていたから。
「ラーマ様、私は、私は……」
そして、シータはラーマを見上げ、言葉を紡ごうとする。
何度か口を動かし、今まで思っていたことを言おうとする。言えなかったことを。
そして。
……その一秒後には、シータはキアラに掴まれて拘束されていた。
「っ、シータ!?」
「それでは、気を取り直して。
天国の釜の蓋が開く。そこから伸びた漆黒の手が、シータの体を鷲掴みにし、躊躇いもなく取り込んでいく。ラーマの手はそこへは全く届かず。声を上げても意味はなく。
そして。
『パインアイアン!!』
『極 スカッシュ!!』
……シータが飲み込まれるとラーマが確信したその瞬間、上空からキアラの頭に巨大なパイナップルが覆い被さった。
死角からの突然の攻撃にキアラは対処できず、増えた重量を支えることも出来ずに彼女は後ろに倒れ込む。その反動で、シータはどうにか抜け出すことが出来た。
そして、ラーマとシータの前に、銀の鎧の仮面ライダーが降り立った。
仮面ライダー鎧武、極アームズ。
「……大丈夫ですか」
「その声、まさか──」
「マシュ……!! マシュなのか……!?」
「……」
『無双セイバー!!』
『大橙丸!!』
『バナスピアー!!』
ラーマとシータは、顔を見合わせながらそう言った。鎧武はそれには答えずに、両手にガシャコンカリバーとバルムンクを持ち、己の周囲に数本の刀を浮かべて臨戦体勢を整える。
目の前では、一旦体を泥に戻したキアラがパインアイアンの拘束から抜け出し、鎧武の姿を認めていた。
「貴女は……ふふふ、また、会いましたね」
「ええ。そしてこれが最後です……私は、貴女を超える」
鎧武は、その中身のマシュはそれだけ告げて。キアラに向けて刀を放出する。それらはキアラの触手に打ち落とされたが、鎧武はその隙にキアラの懐まで飛び込んでいた。
獣と獣が、殺し合いを開始する。
『クルミボンバー!!』
「はあっ!!」
続けて鎧武はクルミボンバーでキアラを大きく吹き飛ばし、泥と泥との隙間に見えたガシャットをガンド銃で狙撃する。
確かにガシャットは砕けたが、すぐに再生して。
「ここまで焦らされると……私……ますます昂って参りました……!!」
そして、再生したキアラは頬を朱に染めて、その右手に……アルトリア・オルタから奪ったエクスカリバーを呼び出した。
「それはっ!? どうして貴女が、その剣を!!」
「貰い物ですわ。それでは次は、私から……」
鎧武は一瞬手元のガシャコンカリバーに目をやり、すぐに顔を上げる。その瞬間には、キアラはエクスカリバーを眼前で振り上げていて。
「っ!!」
『メロンディフェンダー!!』
咄嗟に出した盾は斬り伏せられた。鎧武は横に転がって回避するが、マントの端が切断されていた。
鎧武はそれをちらっと見て、すぐに両手の剣でキアラに斬りかかる。
───
「……あの鎧武は誰だ?」
「ガシャコンカリバー……? でも……いや待って……おかしいわおかしいわ、ガシャットが自立して動いてるわ!?」
その時、ずっと様子を観測していた社長室の二人は顔を付き合わせながらキーボードに手を伸ばしていた。
どのデータを辿っても、ガシャットの使用者の特定が出来なかった。ガシャットが勝手にここまでやって来て、勝手に変身して戦っているなんてあり得ない。
それでも、データ上はそうなっていた。
それはあり得ないことだ。ならば、鎧武に変身しているのは全ての監視をすり抜ける存在であり、真黎斗の予測していなかった存在になる。
「……落ち着け。落ち着けナーサリー。逆に考えろ。こんなこと状況を作り出せる存在は、誰だ?」
「誰って……」
そう考えれば。
当てはまる存在なんて一人しかいない。
───
ガギン ガギン ガギン
「はあ、はあ……!!」
一撃一撃が重い。力任せだが、その力だけで他を補って余りある。鎧武がキアラと斬り結んでまず思ったのはそれだった。乱暴な剣には腹が立つが、勝たないことには何も言えない。彼女はバルムンクを一旦仕舞い、ガシャコンカリバーのトリガーを引く。
『Noble phantasm』
「
そして、銀の光の奔流をキアラへと撃ち込んだ。砂煙が上がる。前方は見えないが、確かにキアラを捉えていた筈だ。鎧武はそう思いながら足を踏ん張る。
「それでは私も──」
……しかし、次の瞬間には、砂煙が鎧武の方へと返ってきた。
キアラは奪った聖剣を無理矢理起動し、マシュの聖剣に張り合っていた。
「っ……!!」
「はあああああああああ!!」
銀と黒の聖剣が交わる。光と闇が交わり、押し合い、反動に耐えながら持ち主も互いに距離を詰めて。
そして二人は剣をぶつけ合わせる。互いに持ち手に力を込め、足を踏ん張り、歯を食い縛り──共に、吹き飛ばされた。
ガンッ
「っあ……ぁ……!!」
勢いよく壁まで吹き飛ばされた鎧武の変身が解け、マシュの姿が露になる。
エクスカリバーはもう手元にない。見回してみれば、かなり遠くのコンクリートに突き刺さっていた。さっきの衝撃で飛んでいったのだろう。そしてキアラが強奪した方のエクスカリバーも、また別の場所の壁に突き立っていた。
「まだ……まだ……!!」
震える足に鞭を打ち、マシュはそれでも立ち上がる。背負っていたバルムンクを右手に持ち変える。キアラにはもう得物はない。
全身を揺すぶられたせいだろう、奮い立つマシュは遠くに幻聴を聴いた。
『何故、そなたは剣を持つ?』
「ネロさん……」
彼女の袂の内からの言葉に思えた。
目の前ではキアラが立ち上がり、マシュに触手を向かわせる。
マシュはそれらを斬り飛ばし、キアラへと接近した。
「私が戦うのは!!」
そして叫んだ。
「檀黎斗を越えるため!! 私の世界を救うため!! それが私の、私達の誇りを守ることで!! 私の、やりたいこと!!」
『それは、正義か!!』
次に聞こえたのは、ジークフリートの声だった。
マシュの口元は綻んだ。ああ、確かに、彼らは自分の中にいるんだと、確信できた。
そして、バルムンクを一層強く握り締め、キアラへと振りかぶる。
バルムンクから、青にも近い銀の光が溢れた。
「これは、正義です!! 私は、私の正義を、成し遂げる!!」
そう叫べば。
いつの間にか、バルムンクの刀身には炎が、蒼い炎が滾っていた。どういうわけだか、力が湧いた。
「
そして。
マシュは、バルムンクをも己の武器とした。
降り下ろした剣は半円状に剣気を放ち、触手を、キアラの泥を振り払い、コアのガシャットを露にする。
すぐにまた回復するだろう。マシュはそう察していた。だから何よりも早く、ガシャットを拾い上げる。
「……ダメだマシュ!! それはガシャットだけになっても再生する!!」
遠巻きに見ることしか出来なかったラーマが叫んだ。彼はもうマシュは仲間ではないと、真黎斗に敵対する者だと悟っていたが、シータを助けてくれた彼女の恩には酬いたいと思っていた。
「知っています……だから、私がすることは決まっている」
しかしマシュはガシャットから手を離さなかった。彼女はその端子を見つめ──
「……貴女にされたことを返してあげます」
──一言呟いて。ガシャットを、その胸に突き立てた。
次回、仮面ライダーゲンム!!
───マシュの変質
「これは……ちゃぶ台?」
「久しぶりであるな」
「まさか、こんなことになっているとはな」
───シータの本音
「私は、貴方がいればそれで良かった!!」
「しかし……」
「どうすればいいんだ……!!」
───ブランクガシャットの浄化
「私の神の才能だ……!!」
「貴方のしたことは人々を危険に晒すことでした」
「ここからは君の出番だ」
第五十四話 Be the one
「うむ!! 余は嬉しい!!」