Fate/Game Master   作:初手降参

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本当はこの特異点二十話くらいで終わるつもりだったって言っても誰も信じないだろうなぁ……



第五十四話 Be the one

 

 

 

 

 

「っ、ゲホッ、ゲホッ……」

 

 

ガシャットを体の中に押し込んでから撤退した彼女は、誰の気配もしない川原にやっていていた。

頭が痛い。胸焼けがする。視界は揺れ続け脳も揺さぶられる。彼女はそんな感覚の中で、なるべく人に見られないであろう場所を探す。

 

 

「ゴホッ……少し、無理をし過ぎましたかね」

 

 

そして、橋の下の暗がりに入った彼女は腰を下ろし、橋の裏を見上げた。まだ体の節々が痛む。

 

 

「……頭が、痛い……」

 

 

意識が遠退いていくのを感じる。何かに引き寄せられるように、マシュの瞼が閉じていく。

 

───

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

 

次にマシュが意識を取り戻したのは、何もない白いだけの空間だった。0と1が所々に顔を覗かせる……丁度、ガシャットの内部のような。

 

そして彼女が自分の足元を見れば。

 

 

「これは……ちゃぶ台?」

 

 

……いつの間にか、小さな木製のちゃぶ台が現れていた。理由はさっぱり分からなかったが、何となく、座れと言われているようなそんな気がして、マシュはその場に正座する。

次の瞬間、ちゃぶ台を挟んだ彼女の左側に、見覚えのある金髪が現れた。

 

 

   シュンッ

 

「……え?」

 

「久しぶりであるな」

 

「……もしかして、貴方は……っ!?」

 

 

その名を忘れたことはない。マシュはその顔を見るだけで、かつての懐かしい旅を思い出して柄でもなく目の端に涙を覚えた。

金髪の少女はそんなマシュに満開の笑顔を咲かせ、かつて言ったような台詞を繰り返す。

 

 

「ふっふっふ、これは誰だ? 美女だ? ローマだ?」

 

「勿論、余だよ……!!」

 

「うむ!! 覚えていてくれて余は嬉しい!! 第五代ローマ皇帝ネロ・クラウディウス!! ずっとそなたの中におった!!」

 

「私の中……じゃあ、ここは……」

 

「うむ!! マシュ、そなたの中だ」

 

 

キャスター、ネロ・クラウディウスはそう言いながら手を伸ばし、マシュの頭を軽く撫でる。

どうやら彼女が今いるのは、マシュ自身の中のようだった。不思議な感じはしたが、嫌悪はなかった。

 

 

「って言うことは、もしかしたら──」

 

   シュンッ

 

「まさか、こんなことになっているとはな」

 

「やっぱり、ジークフリートさんも……!!」

 

 

今度は、マシュの右手側にジークフリートも現れていた。

そして彼女は膝の上に、長らく触れなかった暖かみを感じる。

 

 

「フォーウ」

 

「フォウさん……!!」

 

 

フォウが、第四特異点で倒されたビーストⅣ、プライミッツ・マーダーが彼女の膝の上で座っていた。

 

 

「本当に……本当に皆さん、私の中に、いてくれたんですね……!!」

 

「うむ。見ておったぞ? そなたの健闘をな!!」

 

「フォーウ」

 

 

フォウが静かに呟きながら、懐かしむようにマシュの太股に顔を擦り付ける。マシュはそれを撫で、溢れそうな涙を拭き……気づいた。

 

 

「……あれ、じゃあ、もしかして……」

 

「ああ、新入り(キアラ)か?」

 

「はい……彼女も、ここに?」

 

「うむ。入ってくるなり暴れたものだから、余が色々してみたが、流石にあれは手に余る。一先ず余の劇場に封印したが……ま、どうにかなるだろう。最悪、ジークフリートが望みを叶える」

 

「すまない……迷惑をかけてすまない……」

 

 

ネロがそう言いながら後方を指差せば、微妙に揺れている黄金劇場がマシュの目に入った。

それに危機感を覚えて、でも何故か笑えてきて、マシュの目尻にまた涙が浮かぶ。

それと共に、彼女の視界は少しずつ白く染まり始めた。

 

 

「……おっと、もう時間切れなのか!? 余は寂しい!!」

 

 

唐突にネロが慌ててそう言う。

どうやら、もうマシュの意識は現実に引き戻され始めているようだった。

 

 

「……落ち着け」

 

「しかし寂しい……久々に会えたと言うに……ま、そう言っても何も始まらぬな」

 

 

そこでネロはちゃぶ台越しに大きく体を乗り出して、マシュの上半身に抱きついた。そして、彼女の瞳に言葉を投げる。

 

 

「マシュ」

 

「……はい」

 

「そなたは、そなたのしたいこと、するべきこと、そなたにしか出来ないことを、一生懸命やっておる。それが、余は嬉しい」

 

 

マシュはその言葉が嬉しかった。どこか、報われたような感じがした。そして、また戦いに赴く決意を新たにする。

 

 

「やりたいことを諦めるな。胸の誇りを忘れるな。そなたの物語が例え偽物であったとしても、そなたはあの世界を救った英雄だ。窮地にあれど、孤高になれど、意思を捨てず、感謝を捨てず、その上で胸を張れ」

 

「……」

 

「そのように、在れるな?」

 

 

その問いに答えることに、迷いはない。

 

 

「……はい!!」

 

「ならばよし!! 我が宝剣、原初の火(アエストゥス エストゥス)の炎をそなたに託す!! 最後まで、ローマを忘れるな!!」

 

 

そう言いながら、ネロはマシュから離れた。マシュが手にバルムンクを持ってみれば、思うように蒼い炎を滾らせることが出来るようになっていた。

そしてマシュは、今度はジークフリートの方を見る。しかしジークフリートは、微笑むだけで何も言わなかった。

 

 

「俺は、もう言いたいことは言った」

 

「そう言うな!! この際だから何か言うがよい!!」

 

「フォーウ」

 

「……なら」

 

 

しかし、ネロがやや強引にそう言うことで、ジークフリートの口も開く。

 

 

「悔い無き戦いを。悔い無き命を。俺は俺の正義を託したお前の味方でいよう。……生きろ。お前が、満足する結果を掴み取るまで。お前の正義が、成し遂げられるまで」

 

「……はい!!」

 

 

マシュはバルムンクを納め、ジークフリートの手を握る。そうすれば、ジークフリートは握り返してくれた。横からネロも割り込んで、更にその上に手を被せる。

三人は、確かに今、マシュの中で一つだった。

 

意識はいよいよ薄れてきた。何時まででも目の中に捉えておきたい笑顔が、遠ざかっていく。

 

 

「……フォーウ」

 

 

最後に聞こえたのは。寂しげなフォウの鳴き声だった。

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

「……夢、ですよね」

 

 

目を覚ましたマシュは、やはり橋の下にいた。まだ体は痛むが、大分楽だった。外はもう暗い。

マシュは試しに両手にエクスカリバーとバルムンクを持った。

 

 

「……」

 

   ボッ ボッ

 

 

炎は、確かに灯った。

 

───

 

「……ラーマ様」

 

「……」

 

 

暗い暗い、ゲンムコーポレーションのラーマ達の部屋にて。日が沈み月も照さない、電気すらつけられない部屋の中で、ラーマとシータは向かい合って座っていた。闇に阻まれて、互いの顔ははっきり見えない。

 

 

「私は、もう、疲れたんです」

 

「……シータ」

 

「……かつて、私は決めました。貴方の道に準ずると。私達の恩人の道を、理想の道を、私達で切り開こうと。どれだけ、命を奪っても」

 

 

シータがラーマに言っていることは、さっきキアラに阻まれて言えなかった本音。

 

彼女は疲れていた。彼女は、人を殺すには優しすぎた。悪意をはね除けるには素直すぎた。

 

 

「でも……でも……」

 

 

シータは過呼吸のような症状を起こしていた。離別の呪いが消されても、それでもラーマと幸せが共有できないことが辛かった。

彼女は椅子から崩れ落ち、ラーマの膝にすがる。

 

 

「好きに貶してください、ラーマ様……!! 私はもう、人を、苦しめたくない……!!」

 

「しかし……」

 

「私は、貴方がいればそれで良かった!! それだけで、良かったのに!! 良かったのに……!!」

 

 

そこからは、もうラーマは鳴き声しか聞こえなかった。彼は天を仰ぐが、冷たい天井が彼を見下ろすだけ。

 

 

「どうすればいいんだ……!!」

 

 

答えは、誰も教えてくれない。彼の膝には、何よりも愛する女性が、涙を流しながらすがり付いていた。

 

───

 

「向こうも辛いのう」

 

「……」

 

 

信長とアヴェンジャーは、何も言わずに二人の部屋の隣室で聞き耳を立てていた。アヴェンジャーは複雑そうな顔だったが、信長はそうでもなかった。

 

 

「黎斗は、聞いていたか?」

 

「それは大丈夫だ」

 

「ならよい」

 

 

それだけ小声で言って、彼女は部屋から出ていく。残されたアヴェンジャーは手近にあった窓を開け、煙草に火をつけた。

 

───

 

「ハハ……ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「煩せぇよ神!! 黙れ!!」

 

 

灰馬達が根城にした公民館に作を下ろしたシャドウ・ボーダーは、もうすぐで永夢らのいる国会議事堂につこうとしていた。

そんなシャドウ・ボーダーの中で、黎斗神がノイズを放出したブランクガシャットを掲げる。

 

 

「ついに、ここまで来た……!! 流石は、私の神の才能だ……!!」

 

「何だよ、まだ未完成じゃねぇか」

 

 

貴利矢が黎斗神のガシャットを覗き込みながら呟く。まだそれはブランクガシャット、ゲームとして成立していない。しかし黎斗神は、これで満足していた。

 

 

「どういうことだよ神──」

 

 

と言ったところで、シャドウ・ボーダーが停車する。車の外には永夢とナイチンゲールが立っていた。もう、国会議事堂についたようだった。

 

───

 

『ロケット ドリル リミットブレイク!!』

 

「ニコ ロケットドリルキーック!!」

 

   ズドン ザザザザザ

 

 

その時、ニコの変身するフォーゼは一人花屋医院近辺のライドプレイヤーと戦っていた。エミヤは医院の防衛、フィンは別の場所で戦っている。

どうやら真黎斗はライドプレイヤーに手を加えたようで、ライドプレイヤーは生存者を積極的に襲うようになっていた。

 

彼女はロケットモジュールとドリルモジュールを解除して空を見上げる。今日までずっと戦い続けてきた大我に、改めて敬意を抱いた。

 

顔を前に戻せば、またライドプレイヤーは現れていた。この地域の聖杯が完成するまで、ライドプレイヤーは増え続ける。そして、まだそこの聖杯は89%までしか完成していなかった。

 

 

「……まだまだ!!」

 

『エレキ オン』

 

『ウインチ オン』

 

───

 

「貴方のしたことは人々を危険に晒すことでした」

 

「必要だったことだ。こうしなければ私の神の才能は発揮されず、結果君も患者も長く苦しんだだろう」

 

「でも……!!」

 

 

永夢は、キアラを解き放った黎斗神にいい顔は出来なかった。彼自身あの恐ろしさが分かっていた以上、素直に黎斗神に頷けなかった。

 

しかし黎斗神は、永夢の態度などどうでもいいといった感じでブランクガシャットを手に取り──永夢に投げ渡す。

 

 

「そうだ……君に、これを渡しておこう」

 

「……ガシャット……これは?」

 

「そのブランクガシャットは私が手を加えたものだ。君が完成させろ」

 

「え……?」

 

「ここからは君の出番だ、宝生永夢。敵が私である以上、私だけが対策を練っても向こうの私は対処するだろう。だから、ここからは君の力を利用する。私と君の才能を、一つにする」

 

 

永夢はそれを意外に思ったが、ガシャットを受け取る。黎斗神は不愉快な様子などおくびにも出さずに笑っていた。後ろで黙っていたポッピーが思わず声を漏らす。

 

 

「黎斗……」

 

「勘違いするなポッピー。私は、何としてでも私を越える。それだけだ」

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───ラーマの迷い

「マスター、答えてくれ!!」

「君は結局何がしたい?」

「お主もまた難儀じゃのう」


───真黎斗の計略

「メンバー減ってきたわね……」

「何、問題はないさ」

「種はもう蒔いてある」


───サーヴァントに異変?

「……どうしたの、ランサー?」

「体が、痛い……」

「もしかして……」


第五十五話 W-B-X


「申し訳ありません、マスター」

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