Fate/Game Master   作:初手降参

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岩永さんが活躍しててうれしい……うれしい……(プレバトを見ながら)
彼が活躍することで自然と檀黎斗神の名も広まるはず、頑張って下さい



第五十五話 W-B-X

 

 

 

 

 

「……マスター」

 

「……どうしたラーマ、ここに来るのは暫くぶりだが」

 

 

太陽が、社長室の向こう側に昇ろうとしていた。ラーマは暗い顔を取り繕おうともせずに部屋に入り、真黎斗の前に立ち尽くす。

暫くラーマは何も言わずに真黎斗の仕事ぶりを眺めていたが、それから小さく呟いた。

 

 

「……マスター」

 

「……」

 

「……マスター。この戦いは、いつ終わるんだ?」

 

 

絞り出すような問いだった。彼は真黎斗の理想に口出しをするつもりはなく、どこまでも着いていこうと思っていたが……その意思を、取り下げるべき時が、とうとうやって来ていた。

黎斗神はラーマの顔を見た。それだけで、彼はラーマに何があったのかを察した。彼は別に社内の監視カメラの類いは起動させていなかったが、シータが鬱になっていることは理解していた。

 

 

「……シータだな?」

 

「……答えてくれ」

 

「何時終わるか、か。……まだ遠い。本州を完全に掌握したら、日本すべてを次に飲み込む。そこから段階的に範囲を広げ、この星全てを飲み込もう。そうすることで、命が失われることもない、希望が失われることもない、刺激溢れる理想郷が作られる」

 

 

ラーマは、その言葉に嫌悪を示すことはない。彼は真黎斗の才能も、その理想も知っているから、彼の計画は否定しない。

しかし、同時に、ラーマにとって譲れないものもある。

 

 

「余は……シータは、もう限界だ。一気にそれを終わらせることは出来ないのか?」

 

 

愛する女性(シータ)の意思だ。ラーマとシータは今や二人で一人のカップルのサーヴァント。片方を切り離すことは、出来ない。

 

 

「……」

 

「マスター、答えてくれ!! いつまで、いつまでかかるんだ!! 早く……早く、終わらせられないのか!?」

 

「……これはゲームだ。この世界はゲームだ。私は神の才能を持つゲームクリエイターなのだから、私の行いはゲームを通して行われなければならない」

 

「っ……」

 

 

それはつまり、真黎斗はまだまだ世界掌握に時間を掛けるという宣言で。

その言葉は、ある種の余命宣告に等しい。ラーマは、シータの心と真黎斗への忠義、その二つを天秤に乗せるように迫られている。

 

 

「ラーマ。君は、私のゲームに賛成していた筈だが。……君は結局何がしたい?」

 

「……っ」

 

 

ラーマは下を向いた。手はいつの間にか拳を形作り、その上で震えていた。やりきれない。何も出来ない。分からない。

 

 

「……すまなかった。一旦、余は頭を冷やしてくる」

 

 

そう言って真黎斗に背を向けるのがやっとだった。

 

───

 

   ガチャ

 

「……」

 

「お主もまた難儀じゃのう」

 

「信長……」

 

 

部屋を出たラーマのすぐ側に、信長が静かに立っていた。

きっと会話を聞いていただろう、ラーマはそれを確信して自嘲するように笑おうとする。……それも、上手くは出来なかった。

しかし信長は、ラーマの言葉は望んでいないようだった。

 

 

「お主が本当に望んでいるのは何なのか、この際じゃからよおく考えればよい。何せお主はまだ、天下のゲンムコーポレーションのサーヴァントなのじゃからな。時間はたっぷりある」

 

「……そうだな」

 

 

気がつけば、信長はどこかに消えていた。ラーマは、シータの元へと歩き始める。

 

かつて魔王ラーヴァナに奪われた愛する妃シータ。旅の果てに取り戻し、しかし幸せになることは出来なかったシータ。

それを思えば、ラーマは今の現状を真黎斗に感謝することしか出来ない。本来不可能なことを、真黎斗は可能にした。二度と幸せを分かち合えない二人を、彼は引き合わせてくれた。

……しかし。その恩人が二人の中を引き裂こうとするのなら、己は、どうするべきなのだろう。

 

───

 

「……困ったわね」

 

 

ずっと黙って画面に向かっていたナーサリーが、席を立って朝日を眺めながら呟く。のんびりと紅茶の缶に手を伸ばす彼女は、それでも現状にほんの少しだけ違和感を持っていた。

 

 

「だんだん、メンバー減ってきたわよね……ラーマもいなくなるのかしら。ちょっと、ちょっとだけ寂しいわ」

 

「それも……まあ、確かにそうだ。クリエイターとは往々にして孤高なものだが、私だってかつての喧騒が恋しくなる時がないこともない。だが……人手に関して言うなら、問題はないさ」

 

 

真黎斗はナーサリーの言葉にそう答える。

それに対してはナーサリーは首を竦めるだけで。

 

 

「それはそうでしょう? 私達はゲームマスターなんだから。キャラの補充くらい何てことないわ」

 

「その通りだな……だが、それをすぐにする必要もない。……何しろ、種はもう蒔いてあるだろう?」

 

「……そうだったわね」

 

 

真黎斗の眺める画面には、最新のライダーの設計図が、以前よりさらに進んだ状態で映っていた。

 

───

 

永夢は人気のない街を散歩しながら、やや湿った朝の匂いを味わっていた。隣にはナイチンゲールが歩いている。

永夢の左手には、黎斗神から渡されたブランクガシャットが握られていた。

 

 

「……出来ませんか?」

 

「うーん……やろうとはしてるんですけど……」

 

 

永夢はここまでで何度もガシャットを加工しようとしていたが、どうにも上手くいかない。

 

 

「……何が足りないのでしょう」

 

「うーん……気合い?」

 

 

永夢はやや惚けた様子でそう言ってみる。マイティブラザーズXXもマキシマムマイティXも、強い感情に裏打ちされて発生したガシャットだから別に間違いではない。

しかし、それだけでもないような気がして。

 

 

「……サーヴァントの魂の量の問題、とかは」

 

「それは……」

 

 

ナイチンゲールはそう言った。ブランクガシャットにはここまでで、サンソン、カリギュラ、キアラ、ジル・ド・レェ、メディア・リリィの魂が入っているらしい。そして、本来聖杯が万全の力を発揮するには七騎の英霊の魂が必要だと聞いた。

 

 

「もし治療の助けになるのなら、私は自分を殺すことに異存はありません」

 

 

そして、ナイチンゲールは本当に何気なくそう言った。

永夢はあんまり自然にそう言われたから一瞬聞き流しそうになり、しかし気づいて慌ててナイチンゲールの肩を持つ。

 

 

「な、何てこと言ってるんですか!?」

 

「……私は看護婦で、マスター、貴方はドクターです。どちらが多く患者を救えるかを考えれば、ドクターの方が多いことは自明の理でしょう?」

 

 

そう言う彼女の目に、何の疑いもありはしなかった。永夢はそこに見覚えのある危うさを見て、思わず彼女を抱き締めた。

 

 

「仮に……そうだとしても、僕は貴女と共に人々を救いたい。ドクターだけでも、看護婦だけでも、患者は救えないんです……!!」

 

「……そうですね……申し訳ありません、マスター」

 

「ええ……これから、一緒に頑張りましょう」

 

 

……そこまで言ったところで、永夢は自分のしていることに気がつき、慌ててナイチンゲールから飛び退く。そして自分の顔を自分で叩いて己の挙動を恥じた。

そして前を向く。そこには、ナイチンゲールの笑顔があって。

 

 

「……あの、すいません」

 

「構いません。ドクターの健康を管理するのも、看護婦の仕事でしょう」

 

「っ……」

 

 

永夢はその言葉にまた俯く。

 

……ナイチンゲールの顔がまたこの前のようにブレていることに、彼は気づかなかった。

 

───

 

「……」

 

「……」

 

 

寒い空の下、ラーマとシータは太陽に照らされながらゲンムコーポレーションを出た。

目的はない。行き先もない。ただ、二人だけの時間が欲しくて。もう、彼らを見つめる目なんてこの都市にはない。

 

 

「僕は」

 

「……」

 

「僕は、君と一緒にいることが、何よりも幸せなんだよ。何よりも、君といたいんだ」

 

 

言葉に困ってそう言ってみても、聞くべき彼女が上の空である以上は言葉は空に溶けるだけ。

 

ラーマには、もう何が正しいのか判別できない。

 

───

 

 

 

 

 

「無事だな、マスター?」

 

「当たり前でしょ? ……アーチャー、大我の様子は?」

 

「良好だ。苦しんでいるのに代わりはないが、悪化はしていない」

 

 

そして、太陽がすっかり昇った頃になって。

ライドプレイヤーを一通り始末したニコとフィンは、エミヤのいる花屋医院に集合する。

ニコはガシャットロフィーを左手で弄りながら、戦利品を玄関先に置いた。大きく伸びをする。

 

そして再び前を見れば。目の前のフィンの顔が、一瞬歪んで見えた。

 

 

「……どうしたの、ランサー?」

 

「何がだ?」

 

「だって、今顔が……」

 

「……私の美貌が君を魅了してしまったのかい?」

 

「ふざけんな」

 

 

しかしフィンに心当たりはないようで、二人はもう何度やったか分からない軽口を交わす。

……しかし。次の瞬間、再びフィンの顔はぶれて……フィンは膝から崩れ落ちた。

 

 

「……ランサー?」

 

「っ……すまないマスター、体が、痛い……」

 

 

大地に踞るフィン。その体は、さっきよりも酷くぶれていて。まるで、ゲームのバグのよう。ウィルスに犯されたプログラムの挙動のよう。

 

そして。

 

 

 

 

 

……刹那、フィンは這ったまま槍を手に取り、ニコの足元を凪ぎ払った。

 

 

   ブンッ

 

「きゃあっ!? 何すんの──」

 

 

ニコがフィンの方を睨もうとする。

……しかし、そのフィンの顔は……黒く、欠けていた。

 

 

「すまないマスター、体が、勝手に……!!」

 

   ブンッ

 

 

フィンはおかしな挙動で立ち上がって、ニコの胸元を貫こうとする。ニコはそれを慌てて回避してフォーゼに変身した。そして、防戦を開始する。

 

 

「っ……変身!!」

 

『スペースギャラクシー フォーゼ!!』

 

『ぶっ飛ばせ!! 友情!! 青春ギャラクシー!! 3・2・1 フォーゼ!!』

 

「もしかして……」

 

 

これが、真黎斗の新たな作戦なのか、と考えながら。

 

 

『ロケット オン』

 

『ランチャー オン』

 

『シールド オン』

 

 

フィンの間合いに入るまいとフォーゼは空を飛び、激しい水流を回避しながらミサイルを放つ。その脇を、エミヤの援護射撃が通り抜けていった。

 

 

「マスター、止めてくれ!! 私だけでは、どうにも!!」

 

 

フィンはそう言いながら槍を振るい続ける。放ってみたミサイルは簡単に落とされてしまった。

フォーゼはそれを受け入れて、令呪のある手に意識を集中させる。

 

 

「令呪をもって命じる!! 私と戦うな!!」

 

「っ──」

 

 

その命令は確かにフィンに届いた。……届いた筈なのに、フィンはまだ戦い続けている。

 

 

「嘘、止まらない!? どういうこと!?」

 

 

フォーゼは驚きのままに、エミヤの方を見てみた。彼はどんな顔をしているのだろうか、とふと思って。

……その顔も、気づいていない内に、欠け始めていた。その矢は──フォーゼに向いていた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───フォーゼとサーヴァント

「どういうことなの!?」

「こうなってしまうとは……」

「すまないが、耐えてくれ!!」


───ブレイブとサーヴァント

「……ルーラー?」

「私は……どうして……」

「覚悟を決めろブレイブ!! 戦うしかないだろ!!」


───大我達の逃亡

「ゲンムの野郎……」

「この、惨状は……」

「あいつらに何があったんだ」


第五十六話 Dead or alive


「私を……殺してください」

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