こんな予告をするんだから、きっとハートフルな物語に違いない
『コズミック オン』
『ステルス オン』
『ジャイロ オン』
フォーゼは苦戦していた。下からの宝具による砲撃と側面からの射撃に翻弄され、それらばかりに気を取られて何の反撃も出来ないでいた。ステルスモジュールによって一時的に透明化しても、何の躊躇いもなくサーヴァント達は攻撃を放ってくる。
当然だった。片や女子高生を終えたばかりの医療事務のバイト、片や戦闘のプロとして作られたキャラクターと、一つの神話の大英雄の再現。
「どういうことなの!?」
「私の体も、勝手に動く……!! まさか、こうなってしまうとは……」
フォーゼは声を張り上げる。返事と共に矢が帰ってくる。どうやら本当に、二人は望まぬままに敵になってしまったようだった。
フォーゼは大我のことが気にかかるが、そっちの方向に向かうことも出来ず。
「ああもう!! 何なのこれ!! アイツ絶対許さない!!」
「すまないが、耐えてくれマスター!!」
「今私はジャイロモジュールを狙っている!! 躱んだ!!」
「無理無理無理無理!!」
その瞬間、エミヤの狙撃によってジャイロモジュールが破損した。フォーゼは慣性に従って自由落下を開始する。眼下では、フィンがまた槍に水を凝縮させていて。
「っ──」
『シールド オン』
『コズミック ステルス シールド リミットブレイク!!』
衝撃に備えて、フォーゼはシールドモジュールに力を込めた。着地するのと同時に衝撃が体を襲い、二方向からの強力な攻撃が襲い掛かる。
───
「……っ」
その戦いを、大我は立ち上がろうとしながら見ていた。震える足を無理矢理動かし、ふらつく視界を押さえつけて、やっとの思いで携帯電話を手に取り、手近な棒を杖にして、最低限の荷物だけを持って、下のフロアに降りていく。
表での戦いは既に患者たちにも認知されているらしく、階下は阿鼻叫喚の図になっていた。
表玄関から出るのは命取りだ。しかし裏口の鍵は大我自身が持っている。きっと患者は自分を待っているだろう、大我はそう自分に言い聞かせながら、白い廊下を這うように歩く。
そのタイミングで、電話は通じた。
ガチャ
『どうした、体は大丈夫なのか?』
「……ブレイブ、か。体? 大丈夫な訳、ねぇだろ」
『なら休め!! 無理は命取りだ』
「そうも言ってられねぇ事態が、起きたんだよ……!!」
大我はそう言いながら階段の手すりに手をかけ、一歩また一歩と降りようとする。それだけで頭に電流が走り、手すりを握る手が滑りそうになった。
そんな中で、大我は現在の状況を解説する。
───
「そんな、どういうことだ……!?」
『俺も分からねぇ……っ、とにかく、早くこっちに来い……!!』
「分かった……すぐに向かう」
飛彩はそう言って電話を切った。近くにいたジャンヌとパラドが飛彩の顔を覗き込む。飛彩はガシャットとゲーマドライバーを掴んで席を立つ。
「スナイプからの電話だったよな? ……何があった?」
「アーチャーとランサーが、突然西馬ニコを攻撃し始めたらしい。今花屋医院のすぐ前で戦っていて、患者がパニックになっている」
「っ、何だって!?」
その言葉は、パラドを驚愕させるには十分だった。ジャンヌとパラドは一瞬顔を見合わせ、すぐに飛彩の後をついていく。
「今すぐ向かいましょう!!」
「当然だ。すぐに出るぞ」
「……待った、永夢は? あいつはどうした」
……しかし、パラドはすぐに立ち止まった。永夢は何処に行ったのだろう。暫く前に外に出たっきり戻ってきていない。
考え込むパラドに、飛彩がほんの少し苛立った顔をして振り返る。
「行くぞパラド!! 今は要救助者が優先だ!!」
「ええ、早く行きましょう!!」
「……分かった」
そしてパラドも、後ろ髪を引かれる思いをしながらも外に出た。
───
パァンッ
「っ、っ……」
その時永夢は──いやエグゼイドは、ナイチンゲールのピストルから放たれる弾丸を回避していた。
さっきまで並んで歩いていた筈のサーヴァントが、いつの間にか敵に回って襲ってきたから、エグゼイドはかなり混乱していた。
「どうしたんですかナイチンゲールさん!?」
パァンッ
「分かりません、体が、勝手に……!!」
ナイチンゲールの顔は、やはり、黒い何かに蝕まれ始めていた。エグゼイドはナイチンゲールに攻撃することが出来ずに、ただただ防戦に徹する。弾丸を弾き、拳を受け流し……そうするだけで、ダメージは少しずつ蓄積して。
「どうしてそうなったんですか!? 心当たりは!?」
「いえ、分かりません……!!」
パァンッ
「っ……」
また、銃撃を切り伏せた。
───
「車の手配は!!」
「それは出来ないが、レーザーのバイクゲーマは俺がまだ持ってる!!」
飛彩とパラドはそう言葉を交わしながら、国会議事堂を転がり出た。コンクリートの道を踏み締め、二人は表の道路へと走り続ける。一刻も早く、大我の元へ向かいたかった。
そして、パラドが出したバイクゲーマに飛び乗った二人は辺りを見回す。
『爆走 バイク!!』
「取り合えず乗るぞブレイブ!! ……ルーラーは?」
「──そういえば」
ジャンヌがいなくなっていた。さっきまで、一緒に走っていたはずなのに。
大事な戦力だから置いていくわけにもいかない。飛彩とパラドは周囲に目をやる。
「……ルーラー?」
「どこにいったんだ?」
「迷ったか? いや、そんな筈は……」
──刹那。
「……」
「……っ!? 降りろブレイブっ!!」
「なっ!?」
ダンッ
パラドの声によって運転手を失ったバイクゲーマが、長い棒に貫かれて煙を上げていた。
……ジャンヌの旗だった。
そのすぐ後に、音もなくジャンヌが現れて旗を引き抜き、穂先を飛彩に向ける。その顔は黒く蝕まれていて、その向こう側に飛彩は涙の滴を見た。
「っ……そんな、私は……どうして……」
ジャンヌは戦いを望んでいない。彼女は裏切った訳ではない。飛彩はそれを即座に理解した。しかし、では何故彼女はこちらに武器を向けているのか。
飛彩の脳内を、さっき聞いたばかりの大我の報告が走り抜ける。蝕まれた体、保たれた意識、つまり。
「ルーラー、それは……」
「……離れてください」
もう既に、ジャンヌは己の身に何が起こったのかを理解したようだった。
「何をされたんだ」
「真檀黎斗の、介入です!! 彼らの開発した、最新の、ライダーの因子が、私達、サーヴァントの体を蝕んでいるようです……!!」
「っ……心が、滾る……」
「そんな、いつの間に……」
飛彩は考えを巡らせた。ルーラーが召喚された瞬間からこうなる定めだったとは考えにくい。では、檀黎斗が干渉する余地が何処にあったのか、大我達のサーヴァントとルーラーの共通項は何なのか……選択肢はあまり多くはない。
「……まさか、オーズを倒したときか?」
その答えに行き着くのも、不思議なことではなかった。ルーラーは自分の旗を抑えようと努力し、しかし抗えぬままにバイクゲーマを破壊しながら声を上げる。
「恐らくは……!! きっと、アーチャーとランサーも、フォーゼを倒したときに、感染したのかと、思われます……!!」
「っ……檀、黎斗め……!!」
「チッ……!! なら、倒すしかないのかっ!!」
『Knock out fighter!!』
パラドは大きく舌打ちをして、ガシャットギアデュアルのギアを傾けた。そしてそれを腰のスロットに装填して、これまで変身できなかった真紅の姿、仮面ライダーパラドクスファイターゲーマーに身を変える。
その隣にいながら、飛彩はガシャットの電源を入れることが出来なかった。
「変身!!」
『Explosion hit!! Knock out fighter!!』
「待てパラド!!」
「覚悟を決めろブレイブ!! 戦うしかないだろ!!」
咄嗟にパラドクスを引き留める飛彩を、パラドクスがたしなめる。ジャンヌの旗を受け止めながら。
敵に回ったジャンヌはその旗で自分の間合いを保ちながら、パラドクスの攻撃を回避していた。
「しかし……」
「お前は!! 患者を見殺しにするのか!! あの建物には、何人もの、ドクターに命を預けた患者がいるんだろ!!」
「っ……」
金属の打ち合う音が響く。飛彩は目の前での戦闘と自分の手元のガシャットを交互に見た。ゲーマドライバーを装着する手は、酷く震えていた。
「小姫……」
……いつの間にか、飛彩はジャンヌの中に、かつての恋人の姿を重ねかけていたようだった。
「これは元から聖杯を巡った戦争なんだ!! 生きるためには、生かすためには、ここで敵を倒さなくちゃいけないんだ!!」
「それでも!! 俺は、彼女を倒したくない!!」
それは本音だ。飛彩にとってジャンヌが何であるかには関わらずとも、彼女はこれまで共に戦った味方だ。それを斬るなんて出来ない。それは酷い裏切りになってしまう。もう、裏切りたくない。
そんな思いが飛彩を埋め尽くしていて。
「マスター!!」
「ルーラー……!!」
そんな、かつての己のマスターへ、ジャンヌは声を張り上げた。体は勝手にパラドクスと戦っているが、顔だけはまだ彼らの味方でいられた。
そんな状態で、言うべきことなんて一つしかない。
「私を、倒して下さい!!」
「……っ」
「それは間違ってはいません!! 正義です!! 正しい行いなのです!! だって……これは生きるか死ぬかの戦いですから!! 私は何時だって消える覚悟は出来ています!!」
もう彼女は、ここが消え時だと察していた。戦いを長引かせて粘っても、仮面ライダーは疲弊するだけで、自分にも自分の治し方は分からず、人々を危険に晒す。ジャンヌはそれを望まない。自らの死で人々が救われるなら、それで構わない。
「マスターは!! 世界で一番のドクターになるんでしょう!? だったら!! 私を……殺してください……!!」
「はああああっ!!」
『Knock out Critical Smash!!』
パラドクスの燃える拳を旗で防ぎながら、彼女は殺されることを望んだ。その内心は、彼女の過去の中にある火刑の風景と変わらない。
ままならぬ体の中で、ジャンヌの心は強く叫ぶ。
「──マスター!!」
「ああ……ああああああああ!!」
『Taddle fantasy!!』
そして、飛彩はとうとうギアを傾けた。
「変、身……!!」
『デュアルガッシャット!!』
余裕はない。悲しみで潰れそうな心を意地で保ちながら、ドクターは残酷な魔王に変身する。
『ガッチャーン!! デュアルアップ!!』
『辿る巡るRPG!! タドールファンタジー!!』
「俺の……俺のメスが、正義だ!!」
───
ガチャ
「っ、ゲホッ、ゴホッ……あの、ゲンムの野郎……!! おい、こっちだ!! 着いてこい!!」
「外だ……!!」
「助かったのか……!?」
「いや、でも何処に行けばいいの……!?」
「あっちだ。この先に進めば、いつか、聖都大学附属病院の連中と合流できる……早く行け。俺は後で向かう」
大我の先導で裏口から転がり出た花屋医院の患者達は、我先にと戦火から逃げ出していった。大我はそれを見送って少し笑おうとし、顔面にも走る痛みでそれすらも出来ず苛立ちを募らせる。
大我が薄れかけの視界でフォーゼの方を振り向けば、そこではブロック塀まで追い詰められたフォーゼが、砂煙の中でフィンの猛攻を堪えていた。
「ったく、逃げればいいのによ……」
そう言いながら舌打ちした大我はまっすぐ立とうとした。杖に体重をかけ、体幹を気合いで保つ。
そして一歩踏み出そうとして──後ろの方に現れた気配に気づいた。
赤い髪の男女が立っていた。……ゲンムコーポレーションを出た、ラーマとシータだった。彼らは破壊された住宅街を眺めて愕然としているようだった。
「お前は、ゲンムの所のサーヴァントだっただろう。何の用だ」
「この、惨状は……」
「ゲンムのサーヴァントなら見慣れてるだろ」
「そんなっ、余は……」
大我が特にこれといった嫌味を込めずに煽ってみれば、ラーマは怒りに顔を歪め、しかし大我に手を出すことはなく爪先で大地を踏みにじる。
大我はそんな彼を見て、聞いた。身の危険は最早どうでもよく思えた。
「教えろ。あいつらに何があったんだ」
「……何があったのか、それは余にも分からぬ。さっぱりだ……マスターは、余達には何も教えてくれなかった。マスターの中には、己しかない」
「そうか、もういい」
そして望むような返答が得られなかった大我は、短く言葉を遮って、再びフォーゼの方を向く。
「愚痴を聞いてる余裕はねぇんだ。テメェらが何も知らないならどうでもいい、とっとと失せろ」
『Bang Bang Simulations!!』
そして、ゲーマドライバーを装着しガシャットギアデュアルβのギアを傾けた。
それを後方で見ていたゲンムのサーヴァント達は、目を見開いて互いに互いを見つめる。あり得ない。彼らは、大我が疲弊していると理解していた。これ以上戦ったら本当に消えるだろうと察していた。
「……まさか、変身するつもりなのか? その体で?」
「死んでしまいます……!!」
だから声をかける。ラーマもシータも、大我を引き留めずにはいられない。……しかし大我はそれには耳を傾けず、杖を放り捨てて歩き始めた。
「当たり前だろ。目の前で患者が戦ってるのに、投げ出して逃げる医者がどこにいる」
『デュアルガッシャット!!』
「第伍拾戦術、変身」
『ガッチャーン!! デュアルアップ!!』
ガシャットを装填する。大我の全身にダメージが更に上乗せされ、彼は堪らず膝をつく。
それでも大我はまた立ち上がり、戦場に歩き続けた。
そして、彼は再び、仮面ライダースナイプに変身する。
「っ……!!」
『スクランブルだ!! 出撃発進バンバンシミュレーションズ!! 発進!!』
「……行くぞ」
次回、仮面ライダーゲンム!!
───スナイプの戦い
「大我!?」
「離れるんだマスター!! 私が、貴方を殺してしまう!!」
『バンバン クリティカル ファイヤー!!』
───マシュの探索
「これは……」
「私、どうしちゃったのかな……」
「治療が出来るとすれば……」
───ニコの危機
「こんな形で別れるとは思わなかった」
「サイテーよ」
「さようならだ、マスター」
第五十七話 輝
「ミッションはまだ、終わってない……!!」