(獣国の皇女全部見て)
あぁ……あ"ぁ"……!!
ヤバイ……尊い……ヤバイ……
ネタバレしたいぃ……何時からならネタバレ前提の感想言っていいのぉ……?
「……チッ」
貴利矢はシャドウ・ボーダー内で一つ大きく舌打ちをした。手に握った端末の中には、幾つもの聖杯のゲージが並んでいた。
千代田区の聖杯、完成。
新宿区の聖杯、完成。
墨田区の聖杯、完成。
渋谷区の聖杯、完成。
中央区の聖杯、完成。
港区の聖杯、完成。
江戸川区の聖杯、残り1%。
台東区の聖杯、残り1%。
荒川区の聖杯、残り2%。
他も全て、似たような状況。何処の聖杯も、例外なく完成寸前。
全て、この東京で起こっていること。
全て、このゲームエリアで起こっていること。
「東京都23区での戦争が、もうすぐ終結するようだな」
「……そうだな。全く、どうなっちまうんだよ……」
不意に黎斗神から声をかけられても、貴利矢はこれといって驚きもせずになげやりな言葉を返した。
ポッピーは何も言えずに、静かに外を眺めていた。
既にこのシャドウ・ボーダーにも、サーヴァントか突然敵対してきたという情報は流れていた。……しかし、今彼らはそこへは向かっていない。
「このあとどうなるか、か……そんなものは分かっているだろう九条貴利矢。……次のステージが、始まるということだ」
「次のステージ?」
助手席に座る黎斗神はのんびりと語る。彼は不思議と、焦燥を抱いている様子はなかった。寧ろ、鼻唄でも歌いそうなくらいには機嫌よさげにすら思えた。
「……ナーサリー・ライムは言っていただろう。聖杯が完成した後にサーヴァントと生き残っていたプレイヤーは、ゲンムコーポレーションへの挑戦権を手に入れる」
「……でも、パラドは……BBちゃんは、もういない」
話を聞いていたポッピーが口を挟む。
千代田区の聖杯を手に入れたのはパラドだ。そして、パラドのサーヴァントだった……また彼女のサーヴァントでもあったBBは、消滅してしまった。
だから、自分達にはもう聖杯戦争に干渉する手段がない。ポッピーはそう思っていた。
「違う」
「……何がだ」
しかし黎斗神はそれを否定した……隣でハンドルを握るマルタを眺めながら。
「参加するのは君だ、九条貴利矢」
「……何だと?」
───
『ブドウ龍砲!!』
「イリヤさん、撃てますか!?」
「は、はい!!」
パァンッ
ダンデライナーに跨がった鎧武、極アームズは、後ろを追跡してくるエミヤと、彼の放った
ルビーの補助を受けながら、イリヤがブドウ龍砲の引き金を引く。しかし放たれた弾丸は簡単に回避され、エミヤの体に鈍りはなく。
「っ……」
『影松!!』
『ドンカチ!!』
『ドリノコ!!』
また、鎧武が槍や鈍器を後方に投げつけた。それらはエミヤの放った矢と打ち消しあい、エミヤには届かない。
「私が、魔法少女になれれば……」
「この状況で転身すると私もあっという間に汚れちゃいまからねぇ」
「無理はしないで下さい。ただ、射撃は続けてくれると助かります!!」
「は、はい!!」
パァンッ
また、エミヤが弾丸を回避した。
───
その時、エミヤが残していった彼のマスター達は、近くの塀にもたれて、フィンとラーマの戦いを眺めていた。
槍と剣が交差し、火花が散る。
「……どうして君は、私の『味方』をしてくれるんだい?」
「……」
フィンは刃を交えながらもそう質問した。……彼にとっては、マスター殺しは望んで行うことではない。ならば、それを強制的に止めてくれるラーマは、自分の味方だ……フィンはそう考えていた。
「……余は……かつて、民を守る王、偉大なるコサラの王ラーマであった」
「……今は違うのかい?」
「……今日までの余を、王とは呼べまい……!!」
ラーマは歯を食い縛っているように見えた。噴き出しそうな迷いを噛み殺そうとしているようにも、恩人に言い訳を始めそうな己を律しているようにも見えた。
ガキン ガン ガン
「余は、間違えていたのだろう……少なくとも、かつて人間を守った王であった者として、余の行いは正しくないのだろう」
今でも、檀黎斗に感謝している。ラーマの中のその思いは真実だ。それでも彼は、その恩に仇で酬いようとしていた。それは……外道の行いかもしれない。それでも。
「……シータを見て、世界を見て、己の正義を省みて、その上で余はそう思った」
「……」
「だから。余は、戻ろう。人間を守る、王に……彼女の為に。余は、正義を謳うべきなのだ」
その行いは、ラーマの正義だった。
「良いことだよ。妻の為に戦う人間は好ましいと思う」
ガン ガン ガン ガン
「……ッ」
「さあ、私を倒してみろ。この状態の私よりは、君はきっと強い筈だ」
激しく二人は入れ替わり立ち替わり、互いに致命傷を負うこともなく武器を交え続ける。マスターを裏切ったラーマとマスターを裏切らされたフィンによる、立場の逆転した戦いに、まだ決着はつかない。
───
『無双セイバー!!』
『大橙丸!!』
『火縄大橙DJ銃!!』
「これでも、駄目なんですかっ!?」
鎧武が悲鳴を上げる。エミヤは倒れず、赤原猟犬はどれだけ叩き落としてもしつこく鎧武を付け狙う。
遠くに、一際大きな建物が見えた。……ゲンムコーポレーションだった。
「マシュさん、どうしてあそこに──」
「撃って下さい!! 攻めを切らさないで!!」
鎧武の声には余裕はない。足音だけで、エミヤが健在なことは理解できた。また武器を飛ばす。
『スイカ双刃刀!!』
『バナスピアー!!』
『クルミボンバー!!』
どこかの壁に刺さったようだ。当たっていないのは音で分かった。鎧武はガンド銃を手に取り、振り向き様にエミヤを狙う。
……その瞬間。
「っ……!?」
「ああっ!?」
空中分解するダンデライナー。鎧武もまたそれと共に赤原猟犬に切り裂かれ、耐えきれずに変身が解ける。それでも彼女は咄嗟に落ちていくイリヤを庇い、怪我が無いように着地して、離した。
そして彼女は上から降ってくる赤原猟犬をまた弾き飛ばし、後方のゲンムコーポレーションを見る。
「……どうにか、ここまでこれましたね」
マシュの目の前に、エミヤが立った。
「……私はここまでです」
「……マシュ、さん?」
「ゲンムコーポレーションに。……アヴェンジャーさんなら、きっと治せるでしょう」
「でも……」
マシュの言葉に、イリヤは顔を曇らせる。アヴェンジャーは……敵だ。
「早く。私は……ここで、彼に、とことん付き合います」
しかしマシュはイリヤの表情の変化に気づかない。気づこうとしていない。それよりも彼女は、エミヤに集中を向けていて。
マシュが牽制にガンド銃を放った。回避される。
「……早く!!」
「……行きますよ、イリヤさん」
「っ……」
「ええ……気を付けて」
「……そっちも、気を付けて……下さい」
ルビーに小突かれて、イリヤはゲンムコーポレーションに足を向けた。マシュはやはり彼女の方を向くことはせずに、手に持つガシャコンカリバーとバルムンクに青い炎を纏わせる。
足音が遠くにいく。マシュはそれを把握して、また弓を引く敵に声を上げた。
「……エミヤさん」
「……」
数発の矢が放たれた。マシュはその一つを切り捨て、一つを弾き、一つを回避する。それに合わせて、何回もマシュは引き金を引いて。
パァンッ パァンッ パァンッ
「かつて貴方は言ってくれました。物語が無いのなら、作り上げればいいと。私の目指す場所を探せ、と。何もない場所から、私を自力で作り上げろと」
「……そうだな」
「だから」
エミヤはそれを躱すと共にその手から弓を消去して、代わりに白黒の双剣を握った。
そして二人は急接近し、互いに両手の剣を衝突させる。金属音が辺りに響いた。
「私は決めました。私は、檀黎斗を超える。そうすることで私は、私の手の届くこの世界と、私と共にいてくれた皆さんを救う」
「……」
「私は私の為に、私の大切な全ての為に、誰も、もうあの檀黎斗に怯えずにすむ世界を作るっ……!!」
ガンッ
「……フッ」
マシュの力に押し負けたのか、エミヤの手にあった干将が砕ける。エミヤは追撃を躱すように後方に飛び退きながら、もう片方の剣も消去していた。
そして彼は、マシュの顔を、その目を見て笑う。
「君は、その未来を作るのか」
「はい。……私はこの意思を貫くことで、貴方に恥じない私でありたい。私を育ててくれた全てに、恥じない私でありたいのです」
「……そうか。では……来るがいい、マシュ・キリエライト。私の全てが、君を倒そうとしている。するべきことは一つだ……私を乗り越えろ」
「……はい!!」
エミヤの体に、魔力が走った。
「──
「……っ」
「
風が起こる。マシュの髪が揺れる。またガンド銃を撃ってみても、それはエミヤの盾に弾かれて。
「
『刀剣伝ガイム!!』
「……変身」
「
それで、マシュは再び変身を決めた。二連続は後が怖いが、ここを生き延びることが先に必要だ。
エミヤの詠唱がどんなものか、マシュはもう知っている。それが宝具である以上……マシュはそれに全力で答える。
「
『オレンジイチゴにパイナポー!! バナナ!! ブドウ!! メロン!! ソイヤ!! ガイム!!』
「
鎧武は極アームズだった。彼女は自分の背後に幾つもの武器をスタンバイし、これからエミヤが繰り出してくるであろう何本もの剣の群れに備えた。
エミヤはそんな鎧武の姿にどういうわけだかデジャヴを覚えて、小さく鼻を鳴らす。
「
そして、世界は塗り替えられた。
───
「「はあああっ!!」」
『タドル クリティカル スラッシュ!!』
『Perfect critical combo!!』
「っ……」
ブレイブとパラドクスは、エグゼイドが立ち竦む前でジャンヌと戦っていた。何回もキメワザを発動し、何回も防がれて、互いに疲弊した。
……それももう、終わろうとしていた。
ジャンヌは、己の旗の宝具を使うことで敵の攻撃を防ぐ事が出来る。──しかし、上からのパラドクスの拳と、足下を払うブレイブの剣を同時に防ぐことは、出来なかった。
ザンッ
「んきゃあっ……!!」
ジャンヌが吹き飛ばされる。足首に、深い傷が刻まれていた。
それでも彼女は立ち上がり、旗の先端をブレイブに向ける。
……その時には、全てが終わっていた。
「やれ、ブレイブ!!」
「……分かってる!!」
グサッ
ガシャコンソードが、ジャンヌの胸に突き立てられていた。
「……あっ……」
「……」
ブレイブが剣を引き抜き、ジャンヌから旗を奪って……変身を解く。
そして飛彩は、糸が切れたように崩れ落ちたジャンヌを抱き抱えた。
二人は一瞬見つめあい、寂しげに笑う。
「今度こそ、終わりですね」
「本当に……済まなかった」
「ふふっ……」
ジャンヌの体は、もう動かない。手にも足にも力は入らない。もう治ることもない。……故に、彼女はもう人間の敵ではない。
体が透けていく。飛彩の目尻を、一滴の滴が駆けた。
「マスター」
「……何だ」
「マスター……貴方は間違っていません」
ジャンヌの指が少しだけ動いた。彼女は一瞬だけその手を動かしてみようと努力したが、すぐに諦めて、飛彩の足に指を添わせるだけに留めた。
聖女は軽くなっていく。消滅していく。今度こそ、かつてのマスターの前から消える。
「これからも、人々の為に在ってください。世界で一番の、ドクターに」
「……分かっている。俺は、世界で一番のドクターだ」
「ええ、その通りです」
飛彩は、ジャンヌの手を取った。取ろうとした。……もうそれは出来なかった。飛彩の手は空を切る。
「ああ……貴方に会えて、本当によかった」
そして。
千代田区のルーラー、ジャンヌ・ダルクは、希望を託して今度こそ消滅した。
それを、パラドと永夢は遠巻きに眺めることしか出来なかった。
次回、仮面ライダーゲンム!!
───イリヤの再会
「……そうか。戻ってきたか」
「私は……」
「檀黎斗め……」
───フィンの決着
「
「……満足いく結果、だったよ」
「本当、ムカつく奴ね……」
───剣の世界の戦い
「君が挑むのは無限の剣だ」
「私は、貴方を乗り越える」
「貫いてみせろ」
第五十九話 Rise up your flag
「