Fate/Game Master   作:初手降参

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第四特異点 死界魔霧都市ロンドン 生存を賭けたCivil war!!
殺戮者、檀黎斗


 

 

 

 

 

『バンバン クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はあああっ!!」

 

  バンッ  スゥッ……

 

「敵性サーヴァント、チャールズ・バベッジを回収完了」

 

「オートマタやらヘルタースケルターやらが機能を停止し始めていますよ我が主」

 

「やはり読み通り、このサーヴァントが操っていたらしいな」

 

 

ゲンムやそのサーヴァント(マシュを除く)達は、特異点であるロンドンにて……エネミー100体切りを敢行していた。

 

その空は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

何があったかは、暫く前に遡る。

 

───

 

数時間前。

 

 

「……霧が濃いな、それもただの霧じゃない。硫酸の霧……しかも、かなりの魔力を感じる」

 

「……そうですねクロスティーヌ。お身体に障りませんか?」

 

「問題ない。恐らく私が既に人を超えて(死んで)いるからだろう」

 

「おお我が主よ!! やはり貴方は神!!」

 

「……その、才能も……運命である……」

 

 

その時、黎斗とそのサーヴァント(マシュを除く)は、第四特異点であるロンドンにやってきたばかりだった。

時刻は夜、うっすらとさす月明かりは霧にぼかされ、彼らの輪郭すら明らかには出来ない。

 

 

「恐らく、この霧を経由して大気にまで魔術を流しているのだろう……まあ、明らかに探索には不向きだな」

 

「……女神が、おお、女神が見えぬ……」

 

「そうですねカリギュラ殿……これでは敵の接近にも気づけません」

 

 

辺りの警戒は怠らない。微かな音も逃してなるものかと、全員が耳を澄ましていた。

黎斗以外は。黎斗だけは……プロトガシャットを取り出していた。

 

 

「ジル・ド・レェ、ファントム、これを使え」

 

「これは……プロトタドルクエストですね我が主?」

 

「プロトドラゴナイトハンターZ……クロスティーヌ、これで、何を?」

 

()()()()、だ」

 

 

黎斗はジル・ド・レェとファントムに各々のプロトガシャットを手渡す。

そしてそれと同時に説明を開始した。

 

 

「そもそも、霧には消し方が存在する。辺りに吸湿剤やら何やらを撒いて粒を大きくし、霧を雨に変える、というやり方だ。既に飛行場などでは成功例が存在している。……よし、変身しろ」

 

「承知しました。変っ身っ……」

 

『タドルクエスト!!』

 

「それでは……」

 

『ドラゴナイト ハンター Z!!』

 

 

胸に刺さるガシャット。刺している二人に、最初の時のような苦痛は無い。すんなりと体が変質していく。まさしく、既に一体化していたように。

 

服に鎧の意匠が追加され、本を持つ手の反対側に剣が現れるジル・ド・レェ。そしてファントムは以前のように翼が生えるだけでなく、爪やら大砲やらも生やしていた。

 

 

「ほう……この剣は、また、懐かしい……いえ、何でもございませぬ我が主よ。して、何をすれば?」

 

「宝具だ。……ジル・ド・レェ、お前は触手を全て上に伸ばし、辺りに熱と炎をばら蒔け」

 

「了解しました我が主よ。螺湮城教本・騎士の巻(タドル・スペルブック)!!」

 

 

黎斗の指示で、鋼鉄で覆われ強化された触手が、建物の壁やら外灯やらを伝って上に伸び……炎を撒き散らす。

 

そして黎斗はそれを確認し小さく頷き、今度はファントムに指示を出した。

 

 

「ファントム。お前は上空で宝具だ。音と共に炎を撒くこと、なるべく遠くまでな」

 

「分かりましたクロスティーヌ」

 

   バサッ

 

 

そうとだけ言って、ファントムは背の翼をはためかせ飛び立った。

そして暫くの後に、上の方から熱と共に轟音が轟く。

 

 

「……炎は、何の為だ……?」

 

「……人工消霧の方法の一つだ。炎を用いて、霧を水滴として落ちてくるサイズのレベルまで合体させる」

 

 

そう語る黎斗は当然ドヤ顔で、そして腕を組んでいた。

 

段々霧がしっとりとしてきた。少しずつもやが晴れ、代わりに黎斗のスーツが濡れ始める。

霧雨だ。既に霧は下に落ち、生成されていた魔力も彼らの足元に溜まっていた。

 

 

「……成功、だな」

 

 

こうして……ロンドンは魔霧消滅都市(ミスト/Zeroシティ)と化した。

当然、この特異点の黒幕が再び霧を出すだろうが……それと同時に、黒幕、少なくともその仲間は、ここにやって来るに決まっている。そうでもしなければ出して消してのいたちごっこの開幕だから。

 

またはぐれサーヴァントも、ここに大量に溜まった魔力を求めやって来るだろう。

既に……サーヴァントは寄せられてきていた。

 

 

「……よし、十分だ二人とも。宝具を解除しろ」

 

 

黎斗がジル・ド・レェを止め、ファントムを下ろさせる。彼の視線の先には……一人の少女と浮いている絵本。

絵本はまあ一目で異常性が分かる。少女にしても、この霧の中一人で出歩いているならばろくな存在ではない……第一、血のついた刃物を握っていた。

 

 

「おかあ、さん?」

 

「うふふ?」パラパラ

 

「……ロンドンでナイフを持った幼い子供のサーヴァント。そして、ロンドンで幼い子供に読まれていそうな本、ときたか。真名は……」

 

 

考え込む黎斗。しかし下を向くことはなく、その視線は二つの存在の一挙一動を逃すことなく。

 

 

「おかあさんの中に、帰りたいの、帰りたいの……」

 

「どうやって?」

 

「お腹を裂いて、裂いて、裂いて……還るの。おかあさんに、還るの」

 

「……成程、ロンドンの殺戮者、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)か。隣の本は……」

 

「楽しい時間にしましょう♪」

 

「……喋るのか、この状態で……まあ、何かのキャラクターとは思えない。とりあえず絵本、としておこうか」

 

 

そして黎斗は、ガシャコンバグヴァイザーを腰にセットする。何時ものように。それは彼にしか出来ないことだったが、彼にとってはごく普通のことで。

 

 

『ガッチョーン』

 

「まあいい。倒す。変身……!!」

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

何時ものように死を纏うゲンム。白と黒のアンダースーツが、月明かりに照らされる。

 

 

「私とカリギュラは本を始末する。ジル・ド・レェ、ファントム、ジャック・ザ・リッパーを捕まえろ。殺すなよ?」

 

「承知しました」

 

「分かりましたともクロスティーヌ」

 

 

4対2、状況はゲンムの一行が有利。ゲンムはガシャコンマグナムを呼び出し、本へと走り出した。

 

 

『ガシャコン マグナム!!』

 

「カリギュラ、これを使え」

 

 

走りながらカリギュラに手渡したのは、プロトゲキトツロボッツ。

絵本とは対照的……というかもし出てきていたら雰囲気ぶち壊しであろう機械の書かれたそれを、カリギュラは胸に突き立てる。

 

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

「へぇぇぇんしぃぃぃいんっ!!」

 

 

カリギュラの体が黒く染まり硬質化した。左腕は特に肥大化し、金属光沢をも放つ。

 

 

「お茶会の始まりね!!」

 

「戦闘、開始……!!」

 

───

 

「解体の時間だよ」

 

「残念、解体されるのは貴方ですよ」

 

 

ジル・ド・レェとファントムの任務は、生け捕りであった。決して殺してはならない。

二人は前回同様、ファントムを後衛に置いての二段攻撃を主としていた。

勿論、捕獲作戦の肝は、ジル・ド・レェの宝具である。

 

 

「最高のcooooolを!! 今!! ここに!! 螺湮城教本・騎士の巻(タドル・スペルブック)!!」

 

 

ジル・ド・レェの声と共に、周囲のマンホール等から海魔の触手が伸びた。それはジャックを取り囲み、今にも彼女を捉えんと蠢き……

 

しかし、それは少女を捕縛することは叶わず。

理由は簡単。相手の宝具だ。

 

 

「……此処よりは地獄。私達は、炎、雨、力……殺戮をここに。解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!」

 

「……おや?」

 

 

ジャックもただで殺られるつもりは無かった。ここには霧も無く相手は女でも無いが……こんな至近距離で触手の群れ一つも斬れなければ殺人鬼の恥さらしである。

 

ジャックはその場でナイフを構え……こちらへ向かってくる触手の群れへと、自ら飛び込んだ。

 

───

 

その頃。

 

 

『バンバン クリティカル フィニッシュ!!』

 

我が心を喰らえ、月の機械(ゲキトツ・ディアーナ)!!」

 

   ズドンッズドンッズドンッズドンッ

 

「楽しいわ楽しいわ楽しいわ!!」クルクル

 

「……ふむ、攻撃が通らないな。恐らく……あれは本ではなく、別の何かと捉えるべきか」

 

 

弾丸とロケットパンチの、必殺技のダブルアタックを受けても平然と舞う本を相手に、ゲンムはそう考えた。

恐らく、これはまだ実体が無いのだろう。

……ならば実体を与えればいい。

 

 

『ガッシューン』

 

「……何を、するのだ……?」

 

「実体をプレゼントするんだよ」

 

   ブァサササッ

 

「きゃあっ!?」

 

 

ゲンムは変身を解き、そして本の至近距離でバグスターウィルスを散布した。

当然それは本に感染し……

 

 

「えっ……?」

 

 

本は姿を変える(名前を付けられる)。しかしそれは、その名前は……

 

 

「何よこれ……何よこれ……!?」

 

「成程……意思を持った魔力にウィルスを撒くと、まさか雑魚バグスターに精神が乗り移る、という結果になるとはな」

 

「私はどこ? 一人ぼっちのありすはどこ?」

 

 

その名前はバグスター。さっきまでの絵本は、黒いからだにオレンジの頭、そしてひらひらとしたドレスを纏った、一介の雑魚バグスターと化してしまった。

 

そして、バグスターであるならば、バグヴァイザーに回収される。

トリックに気づいてしまえば、ただ呆気ない結末部(おしまい)だった。

 

───

 

ジャック・ザ・リッパーは、ジル・ド・レェに呼び出された触手の群れの中に飛び込んでいた。

海魔は侵入してきた来客を捕まえようとするが、その刹那。

 

 

   スパンッ

 

   ボトボトボトッ

 

「……!?!?」

 

「……解体したよ」

 

 

海魔は細切れと化した。驚くべきことに、全て、ナイフで両断されていたのだ。これでは暫くは宝具は使えまい。

ジル・ド・レェはそれに猛り狂い、タドルクエストの力で生まれたかつての愛剣を持って斬りかかる。

 

 

「このっ、匹夫、めがぁっ!!」

 

「うん。殺しちゃおう」

 

   カキンッ

 

 

打ち合いが始まる。ジル・ド・レェも元々は武人の身、そう簡単には力負けしない。だが……速さが圧倒的に足りなかった。

 

 

   カキンッ カキカキンッ  

 

「遅いよっ」

 

   グサッ

 

「ふぐぅ!? くうっ……この、匹夫が……!!」

 

 

手早く回り込まれ、背中を突き刺されるジル・ド・レェ。ジャックはもう片方のナイフを掲げ、彼の首もとに突き立てようとする。

 

 

「解体するよ!!」ブンッ

 

 

 

   カキンッ

 

「……猛るジル殿に、私は訝しんだ、彼女は男ではないと」

 

「ファントム殿……!!」

 

 

後衛に徹していたファントムが、ジル・ド・レェの救援に入った。ジャックのナイフをドラゴナイトハンターによって生じた爪で受け止め、もう片方の手で彼女の鳩尾に大砲を放つ。

 

 

   バァンッ

 

「いたっ!?」ゴロゴロ

 

「……ゼェ、ハァ……助かりましたぞファントム殿」

 

「お気になさらず。それより……背中は……?」

 

 

勢いよく吹き飛ばされるジャックを確認しながら、ジル・ド・レェに肩を貸すファントム。

そして二人の視線の先では。

 

 

   ブァサササッ

 

「うっ……!?」

 

 

一瞬の無防備の隙をつき、黎斗がウィルスを浴びせていた。ジャックは反射的に彼を殺そうとするが、カリギュラに阻まれる。

 

 

我が心を喰らえ、月の機械(ゲキトツ・ディアーナ)!!」

 

   ズドンッ

 

「かはあっ!! ……ひどいなぁ、もう」

 

 

宝具を喰らってまた吹き飛ばはれた彼女は、丁度サーヴァント三人に囲まれる形になっていて。それでは流石に逃げられる訳もなく。

 

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ガシャコン マグナム!!』

 

「お前たち、逃がすなよ?」

 

 

そして、サーヴァントに包囲されたジャックは、無防備なまま胴体に穴を開ける事となる。

 

 

『バンバン クリティカル フィニッシュ!!』

 

───

 

その後に黒幕の仲間だったのであろう自称蒸気王チャールズ・バベッジと仲間のオートマタやら何やらを相手したが、割りと些細な事だった。

 

エネミーを倒して倒して倒して……そして、冒頭へと時間は進む。

 

 

「……お前ら、随分派手に暴れていたが……何者だ?」

 

「旅の者だ、と言っておこう」

 

「あ?」

 

 

鎧の女が、こちらに走ってきた。突然名乗りを求められた黎斗は、しかし返すことは無かった。

さらにこう続ける。

 

 

「そっちこそそんな仰々しい鎧を着けながら、名乗りすらも行わないのか」

 

 

そう言われた彼女は、恐らく騎士の誇りなんか等を考慮したのだろう、黎斗にその真名を告げる。

 

 

「……チィッ!! ……モードレッド。オレはモードレッド」

 

「そうか」

 

   ブァサササッ

 

───

───

───

 

「嘘、名前を聞いただけで……?」

 

「容赦ないね……丁寧にあの粉を巻いている辺り、彼女も回収するんだろう」

 

 

……美しいものは、確かに見た。

 

 

「酷いです黎斗さん、あんな……モードレッドさんを……」

 

「……英霊モードレッド殺害、後から救援に来たヘンリー・ジキル氏を殺害……あれじゃあ、通り魔と変わらない……!!」

 

 

だが、それ以上に私は、美しくないもの(人類最後のマスター)に触れてしまった。

既に我が身は怪物に成り果てようとしている。この小さな獣の体に収まりきらない悪意が、勝手に体を巡っている。

 

 

「邪魔な通行人も皆殺していく……なんで、なんであんな……」

 

「……分からない。でも……彼は……酷すぎる」

 

 

おのれマーリン。美しいものなんて、結局は汚いものに塗り潰される運命なのだ。

ここで泣いている元々穢れの無かった少女(マシュ・キリエライト)は、人類最後にして最大の汚いもの(檀黎斗)に塗り潰され、消えていこうとしている。

 

ああ、私も望んではいないのだ。出来れば彼女の側にいたいのだ。

……それは叶わない。私は結局人類悪(ビーストⅣ)なのだ。

ならば、せめてここ(カルデア)ではなく、彼の居場所(ロンドン)に行こう。

 

 

「……檀黎斗、人類最後のマスター、ボク達の希望だったはずなのに……どうして、そんなことを……」

 

「黎斗さん……止めて、止めて下さい……」

 

 

さようなら、カルデアの善き人々。

獣は、あいつを殺しにいく。例え特異点が壊れようと。例え人類が途絶えようと。

 

あいつを、生かしては、おけないのだ。




次回、カルデアのやべーやつ、覚醒

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