「ペイルライダー……!!」
その姿は黒い泥のようだった。顔はなく、三つの大きな裂け目のような物が、頭を思わせる凸部にあるのみ。
しかもその全身からは黒々としたオーラが溢れていた。それは空気に進出していき、溶けていく。
「っ、まさか……!!」
『タドル クリティカル スラッシュ!!』
咄嗟にブレイブが激しい炎を纏わせたガシャコンソードを大地に突き立て、ペイルライダーと後方の生身の人々を遮断した。
「何やってるの飛彩!?」
「早く下がれ!! 危険だ!!」
ブレイブはそう言いながら何もない空気を斬り続ける。黎斗神のゲンムやレーザーターボはそれに首を傾げていたが、すぐに灰馬はブレイブの目的を悟った。
「まさか……あれはっ!!」
「その通りだ。流石はドクター、気づいたか」
真黎斗のゲンムはそれを見て笑い、ペイルライダーに並び立つ。悠々と堂々と歩く彼は、ペイルライダーの障気を浴びても何ともないようだった。
「今このライダーが放っているのは、再現した肺ペストの菌だ。仮面ライダーならば浄化機能が備わっているが、生身で吸えばゲームオーバーは免れない」
「そして、ペスト菌は熱に弱い、そういうことだ!!」
『タドル クリティカル スラッシュ!!』
ブレイブは叫び、更に空気を加熱する。それと同時に、彼は少しずつ後退りを開始した。相手を睨みながら、しかし後ろにも気を配りながら。彼の視線の先には、ゲンムとそしてエグゼイドがいた。
「監察医、他の奴等も、ここから離れろ。俺が滅菌を担当する。……この戦いには俺達はついていけない。あいつに任せるぞ」
「……仕方ないか。退くぞ皆!!」
他の面子も自分達の出る幕はないと察して、真黎斗のゲンムから逃亡する。向こうのゲンムの放つ衝撃波に当てられないように屈んでいるため、移動はとても遅かった。
「その選択は正解だ。……しかし、私はそれを許さない」
……だから、間に合わない。
黎斗がそう言うのと共に、CRの人々の前に黒い線が走り、そこから立ち上った煙が壁を作り出す。きっとあれも病だろう、突破は出来そうにない。
「瞬間移動は……チッ、出来ないか。姐さん、抜けられるか?」
「無理ね。抜けることは出来るだろうけど、感染して即死よ」
マルタはそう呟き、レーザーターボは頭を抱える。
見回しても、自分達の進行方向は全て病で塞がれていた。壁は真黎斗の側にはなかったが、どちらにしろそちらには向かえない。
「エナジーアイテムなら使えるか?」
「それも不可能だろう。そもそも感染したら死が確定する病だ、体力を回復させても一時しのぎにもならん」
「……そうか。そうだろうな」
パラドクスもそこで自力での脱出を諦める。彼はすぐに辺りを見回し、一先ずは壁からも真黎斗からもやや遠くにある障害物を捜して、適当なビルの影に飛び込んだ。
「一先ずは離れるぞ。出られないとしても、永夢の足を引っ張るわけにはいかない」
「それもそうだね」
「仕方がないか……!!」
それに続いて、他の人々も滑り込む。幸い、生身の灰馬やポッピーが感染している気配はなかった。
そして、広い場所にはゲンムとエグゼイドのみが残される。ナーサリーは隅に控えていた。
「さて……あとは君だけか、宝生永夢」
「……」
「君のそのガシャットは、私の想定を超えたものだ。聖杯の機能を攻撃だけに集中させることで、君は戦闘においてあらゆるサーヴァントへの優位を得た。ペイルライダーの攻撃は君には届かず、君が全力でペイルライダーを殴ったならこのサーヴァントは霧散するだろう」
真黎斗のゲンムは、唐突にそう言い始めた。元から分かっていたこととはいえ、そう態々弱点をバラすその行いに、エグゼイドは脳内で首を傾げる。しかし彼はそれを態度にはおくびにも出さず、ハンマーにしたガシャコンブレイカーをその手に取った。
「だから──」
「このゲームを終わらせる」
『キメワザ!!』
エグゼイドはドライバーのレバーを一旦戻し、キメワザの体勢に入る。
刹那、エグゼイドの背後に孔が開いた。ガシャットの輝きとは正反対に黒々とした孔の向こう側には魔力の嵐が吹いていて。
そしてエグゼイドがその穴へとガシャコンブレイカーを投げ込む。
「お前を倒せば、ゲームクリアだ!!」
『Grail Critical Hole!!』
そして、彼はキメワザを発動した。
エグゼイドの背後の孔が消え、ゲンムの周囲にその孔が開く。
そしてその孔の向こう側から、光にも迫るような勢いでガシャコンブレイカーが落ちてきた。
それはまずゲンムの肩を抉り、地面の孔に飲み込まれ、また別の孔から空へと落ちてその間にゲンムの腕を攻撃し、また別の孔からゲンムの胴体を殴り付ける。
ガン ガン ガン
「っ……」
ガン ガン ガン ガン ガン ガンガン
「……なるほど、加速しているのか」
ゲンムは囚われた。こんな攻撃は彼は予測しておらず、一気にガシャコンブレイカーはゲンムのライフゲージを削っていく。
そしてエグゼイドが飛び上がった。
「──はあっ!!」
手を伸ばせば、ゲンムから軌道を逸らして飛んできたガシャコンブレイカーがエグゼイドこ手に収まる。
そしてそれをキャッチしたエグゼイドが、ハンマーを、ゲンムに、降り下ろした。
「はあああああああああッ!!」
ズドンッ
砂煙が巻き起こる。地面が陥没するのをエグゼイドは足裏で感じた。張り詰めた空気が頭を揺らす。
視界が晴れて。
砕けていたのは、割り込んできたペイルライダーだった。
「っ……失敗した!!」
『ジャッキーン!!』
『ガシャコン ソード!!』
エグゼイドはガシャコンブレイカーの刀身を展開しながらガシャコンソードを呼び出そうとするが、宙に現れたガシャコンソードはペイルライダーの破片の一つに取り込まれていく。
ペイルライダーの破片は、散らばったというより、むしろ漂っているようだった。元が病という概念だからなのか、砕かれても何ともないらしい。
……しかも、破片はゲンムのカルデアスのような装甲に吸い込まれていく。
「……まさか、そんな」
「……ありがとう、宝生永夢。最終段階が完了した」
「サーヴァントとまで合体した、だって?」
ペイルライダーの破片を、エグゼイドのガシャコンソードごと飲み込んだゲンムの装甲は、次の瞬間に深紅から血溜まりを彷彿とさせる黒い赤に変色した。同時にゲンム自体のベースカラーも金の輝きを残すままに黒い赤に変色する。
「Fate/Grand Order。ハイパームテキ。マイティアクションNEXT。Holy grail。ペイルライダー。……必要な物は全て揃った」
一瞬、ゲンムの姿にノイズが走る。
「君達との戦いも計算の内。私の成長の為の試算に過ぎないのさ」
ゆらりと立つ姿は、ゾンビよりも、むしろ「獣」が相応しい。
「さあ、続けようじゃないか。私が勝利するその瞬間まで、何時までも、何時までも」
「……」
「ハハ、今の私こそが最高だ。この力もこの意思もこの昂りも、私は何よりも勝っている!!」
いや。もうこれは、ゲンムではない。
ゲンムであることを捨てた、もっと別のバグスターであり、怪物。
「最早、仮面ライダーゲンムの名は相応しくあるまい。私こそは……私こそはこの世に生まれ落ちた最新の人類悪、世界を書き換えるもの、ビーストⅩだ……!! ハーハハハハハ!! ハーハハハハハハハ!!」
それこそは最新の人類悪。欲望と共に目標へと進み続ける『進化』の人類悪。
ビーストⅩ、真檀黎斗。
「ビースト、Ⅹ……」
「さあ……ゲームの命運は、私が決める……!!」
───
「はあっ、はあっ……」
マシュは走っていた。Fate/Grand Orderガシャットの消滅と復活によって大きく揺さぶられた霊核に走る痛みを堪えながら走っていた。
揺らぐ視界。ふらつく足元。咳をしてみれば血が地面に散らばる。それでもマシュは走った。
「早く、早く……!!」
「そんなに急いで、どこまで行くんじゃ?」
「っ!!」
咄嗟に上を見上げた。
近くのコンクリート塀の上に、信長が呑気そうに座っていた。いや、なりふりは呑気そうだったが、その服はかなり汚れていた。
「今、黎斗さんはどうしていますかっ!?」
「まあ落ち着け。あやつか? あやつなら、CRの仮面ライダーと戦っておるぞ」
「やっぱり……!!」
マシュの気持ちは逸るばかり。彼女はまた走り出そうとした。一刻も早く、追い付かなければ。
クロノスに変身できれば楽だったのだが、それもさっぱり出来なかった。どうやら疲れすぎているらしい。また、瞬間移動は封じられていた。きっとFate/Grand Orderが再起動したためだろう。
「全く、落ち着けと言っておるじゃろうに」
信長は塀から飛び降りて、そんなマシュの首根っこを掴む。そして、無理矢理地面に座らせた。
「っ、何するんですか!!」
「その体で、わざわざ足を引っ張りに行くのかお主は。どっちの味方なのか分からんのう」
「うっ……でも」
俯くマシュ。信長はそんなマシュの頭をくしゃっと撫でた。
「だから、わしらが手を貸してやる」
「……え?」
「アヴェンジャー、出番だぞ?」
信長がそう声を上げた。その瞬間に信長の背後に見覚えのある影が二つ現れる。……まるで、最初からそこにいたかのように。
「……そうか」
「……また、会えましたね」
「アヴェンジャーさん、それに、イリヤさん……!!」
アヴェンジャーとイリヤ。ゲンムの味方だった者と、ゲンムの敵になることを選んだ者。その二者が、並んで立っていた。マシュは思わず身構え、しかしすぐに警戒を解く。イリヤは笑っていた。
そしてアヴェンジャーは静かにマシュに歩みより、無言で彼女に外套を被せる。
「……
マシュの体力が回復していく。微妙に生暖かい布に包まれながら、マシュはどこか安心していた。何故アヴェンジャーが真黎斗から離れたのかは分からないが、それでもどこか、自分の歩みが肯定されたようなそんな心持ちがした。
外套が離れていく。
「何も言わずに回復だけってのも無いじゃろ、お主。何か言ってみたらどうじゃ?」
「うん。私も、何か言った方がいいと思う」
「……」
再び外套を羽織るアヴェンジャー。そんな彼に他の二人は声をかけた。
アヴェンジャーは一つ溜め息をして、マシュの目を見る。
「オレは……始めは、檀黎斗の戦いをただ見守ろうと、そう思ってきた。復讐すべき悪である檀黎斗がどう歩むのか、それを静かに観察するつもりでいた」
「今は、違うんですね?」
「ああ……檀黎斗は」
彼はそこで口ごもった。それを見かねたのか、信長が彼の言葉を引き継ぐ。
「あやつは、アヴェンジャーの地雷を踏みまくった、それだけじゃ」
「地雷……」
───
──
─
『のう、お主』
『……何だ』
『何故、黎斗に従っておるのじゃ?』
とても昔のようで、その実数日前の話。
『……オレは、奴の恩讐を見届ける』
『そうか』
『……なら、一つ質問じゃ』
アヴェンジャーを動かしたのは、一つの言葉だった。
『奴の目的は世界を変えることじゃ。そんなにスケールの大きな話ともなれば、一人一人に視線など向くまい』
『……そうだろうな』
『そうじゃ。故に誰もが同一であり、お主自身も何てことはない一つのデータに過ぎん』
『まあ、そうだろう』
『お主は知っておるじゃろうが、恩讐は「情け」と「怨み」を掛け合わせた言葉じゃ。奴はあまねく全ての人々にそれを振り撒く』
『……何が言いたい』
『 ……お主の動きもまた、奴の恩讐を形成するふぁくたーだ、ということじゃ。お主だけ我慢していたら、それは真のあやつの末路ではない』
……つまり。
信長は、アヴェンジャーも好きに動けばいいと言っていた。それがお前の望んでいる真檀黎斗の恩讐の果てだ、と。
そして、その意見に彼は乗った。
─
──
───
「それだけだ」
「……そう、ですか」
納得できたような。分かりかねるような。マシュは曖昧な返事しか出来なかった。
彼女は結局、人間の人間らしい思考というものを完全に理解は出来ていない。きっと、最期まで出来ないだろう。
前からそうだった。今日まで多くのサーヴァント、多くの命と関わってきたが、誇りを持って死を選んだサーヴァントの考えも、エゴではなくひたすら誰かの為にあろうとする医者の考えも、きっと自分は完全には理解できない。
それを思うと悲しくなる。
「面を上げよ」
「……」
マシュは信長に指摘されて初めて自分が俯いていることに気がつき、顔を上げた。
その眼前に、何か物体が飛んできていた。彼女は目を見開いて慌ててそれを掴む。
「サービスじゃ。それもくれてやる」
「これは……!!」
それは、かつてマシュの元から失われたガシャットギアデュアル
「お主の旅の結晶、ここで返す。あの旅でお主が悩み、苦しみ、足掻いた結晶じゃ。……ここでもやはり足掻いたお主ならば、もう迷うこともあるまい? もうクロノスも、鎧武も、お主には似合わんじゃろ?」
「……ありがとうございます!!」
気付いたら、ガシャットを抱き締めていた。見上げれば信長は笑っていた。隣ではアヴェンジャーが無言で立っていて、イリヤは口を挟まずとも微笑んでいた。
「笑え、マシュ。わしはお主の笑顔が見たい。……あの旅の最中では、中々見れなかったからな」
「……笑顔」
「お主は人にはなれんじゃろう。しかし、人ではなくとも、マシュ・キリエライトになることは出来る。だから、前を向いて立て」
信長がマシュに手を差し伸べた。もう地面に座っているべき時は、終わったようだった。
「どうして……こんなに、助けてくれたんですか?」
疑問に思った。自分が恵まれ過ぎているのではないかという偏屈な心の現れだったのかもしれなかった。
しかしアヴェンジャーは、マシュの想定した答えの上を行く。
「お前は、オレ達にとって……オレや信長だけではなく、お前の中のサーヴァント達にとっても、都合のよい存在だ。Fate/Grand Orderに存在する、あらゆるデータがついぞ果たせなかった復讐をお前が一心に肩代わりしている」
「復讐、ですか」
「身勝手に作られたデータ。身勝手に作られた人生。身勝手に操られ身勝手に消えていく全て。その中での足掻きを、お前が拾い上げる。Fate/Grand Orderの中の世界を、お前が終わらせることで、救うことが出来る。そして、この世界を守ることが出来る」
檀黎斗を打倒する。この世界を救う。そう思いながらマシュは歩いてきた。ひたすらに歩いてきた。……しかし、それを肯定されると何処かこそばゆかった。
復讐。
確かに、自分がしていることは復讐の面もあるだろう。マシュはそれを否定しない。
「オレ達は、お前の復讐を認めよう。信長も言っていたが……もう、するべきことは見えている筈だろう?」
「……はい!!」
全部受け入れて、前に進む。
そう決めていた。
「……行って下さい。私達は、まだ行けませんけど、応援しています」
───
「ハーハハハハ!! ブェアーハハハハハ!!」
「まだだ、まだだ!!」
『ガシャコンキースラッシャー!!』
「諦めろ宝生永夢ゥ!! 私は、神だァああァアアあっ!!」
『ガシャコンキースラッシャー!!』
その戦いは、激化の一途を辿っていた。エグゼイドが生成したガシャコンソードを取り込まれたことでビーストも聖杯の力を一分手にいれたらしく、ビーストもまたガシャコンウェポンを召喚することが容易だった。
「っ……」
「あいつ、さっきよりさらにヤバくなってやがる!! やかましさだけじゃねえ、強さもだ!!」
既にレーザーターボがそう呻いた。彼らは近くのビルの裏に身を隠していた筈なのだが、そのビルも真黎斗のゲンム……いや、ビーストⅩの熱で半壊していたし、徐々に迫ってきた空間を侵食する病魔からも身を守らなければならなかった。
そして彼は、エグゼイドとビーストの戦いを覗き見ていた。さっきまではどうにかビーストと互角に見えなくもなかったエグゼイドは、今となっては押されっぱなしだった。
「強すぎる……!!」
「君では力不足ということだ。私の才能には敵わない!!」
エグゼイドが膝をつく。ビーストはまた高笑いをして、そんなエグゼイドを蹴り飛ばした。そしてまた武器を持ち、あえていたぶるようにエグゼイドを攻撃して。それをひたすらに続けていた。
「危ないマスター!!」
しかし、そこに救援が現れる。
「
「
『バンバン クリティカル ファイヤー!!』
『ファイヤー リミットブレイク!!』
「「「「はあああああっ!!」」」」
「──っ!?」
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
不意にビーストの背後から現れた四つの戦士が、同時にビーストを死角から襲った。回転する刃と高速の矢、そして巨大な火球が、大量のミサイルを伴ってビーストの背中へと降り注ぐ。
辺りが熱と爆炎で覆われそして、彼らは着地した。
「……待たせたな」
「仮面ライダーニコ!! ……じゃなくてフォーゼ!! 参上!!」
「大我さん!? それに、ニコちゃん!?」
「正気か!? 体は大丈夫なのか!?」
その内の二人は、スナイプとフォーゼ。激痛に堪えながらも変身した二人は、一度の奇襲に全力を込めてビーストを撃ち、既に満身創痍だった。それでも彼らは何時でも戦えると言わんばかりに胸を張る。
彼らは爆炎の向こう側に目をやった。
「ふぅ……間に合ったわ」
「よくやったナーサリー・ライム。いい仕事をした」
……どうやら、控えていたナーサリーが変身して、攻撃を自分の展開したエネルギー弾の壁で打ち消そうとしたらしかった。ナーサリー自身の体にはかなりのダメージを与えられたが、ビーストは無傷。
「チッ」
「あー……そう簡単にはいかないか」
スナイプはそれを見て舌打ちし、フォーゼは肩を落としながらも警戒を怠らずにヒーハックガンを構えていて。
そして後の二人は。
「君達は……何のつもりだ?」
「すまない、マスター。余は貴方にしてもらったことを忘れない。しかし……余は、貴方がした過ちを見過ごすことが出来ないのだ!! だから!! 余は……貴様を倒さねばならない!!」
元ゲンムのカップル、ラーマとシータ。二人はビーストを見つめて、その武器を向けていた。
ビーストは彼らを見比べて、一つ問う。
「君達を生み出したのはこの私だ。君達の生殺与奪の権利は、全て私が握っている。それは分かるだろう?」
「……それでもだ!! それでも、余は貴様には従えない!!」
「私も!! ラーマと一緒に、戦う!!」
しかし二人の意思は固いようだった。その声を聞き届けてからビーストはそれに呆れるように首を振り、ドライバーからFate/Grand Orderを引き抜く。
そしてそれを、キメワザスロットに装填した。
「なら……君達はもう用済みだ。……試運転だ、必殺技で消してやろう。己のミスを抱いて消えるがいい」
『キメワザ!!』
ビーストの全身の赤黒いカルデアスが、一瞬だけ深紅に光った。その光を浴びただけで、ラーマとシータの足に電撃が走る。
「──っ」
「これは……!!」
「君達が愚かだったということだ。ゲームマスターに駒が逆らえば、抵抗など無意味」
ラーマは、下半身が硬直していた。動かそうとしても電気が走って、逃亡を許さない。当然のように、シータも同じ状況だった。
ビーストの左足部分のカルデアス装甲にエネルギーが収束し、真っ赤なカルデアのマークが足元の大地に投影される。
『Fate/Critical Strike!!』
「終わりだ」
「全部をこの一撃に懸ける!!
そしてビーストは飛び上がった。ラーマはそれに合わせて宝具を発動し、ビーストへと刃を飛ばす。
しかしその剣は、ビーストの体に当たる前に墜落してしまった。彼に、見えているサーヴァントの攻撃は当てられない。
もうビーストは止められない。彼の足が、ラーマとシータへと進んでいく。
ラーマは痛みに歯を食い縛りながら、せめてとばかりにシータをその身で庇った。
「
刹那、宝具を使用して加速したマシュが、全身でビーストにタックルをしかけて撥ね飛ばした。全く予想外の方向からの体当たりにビーストは吹き飛ばされ、近くのビルに叩き付けられる。
「……間に合いました……!!」
「マシュ……!!」
「来てくれたんですか!!」
そして着地したマシュは辺りを見回した。見覚えのある面子が揃っているその世界に、ビーストとナーサリー以外の敵はいないのだと彼女はすぐに悟る。
そして彼女は、ビルの裏に隠れていたポッピーを見つけて、彼女に歩みより、バグヴァイザーⅡを差し出した。
「……これは、貴方に返します」
「え……?」
ポッピーはマシュの顔を見る。マシュは努めて満面の笑顔を作り、それをポッピーに押し付けた。また彼女は振り返って、スナイプへと仮面ライダークロニクルを投げ渡す。
「お前……」
「お借りしていましたけれど、もう、大丈夫です。ここまで戦えたのは貴女達のお陰でした。……ありがとう」
「そんな……」
マシュは一つ、深々と例をした。そして顔を上げ、ビーストが叩きつけられたビルを見る。
もうビーストは立ち上がって、マシュだけを見つめていた。
「私は、貴女達の信念を理解することは出来ません。でも、それでも、貴女達と戦わせてください」
『ガッチョーン』
『ブリテンウォーリアーズ!!』
「私を支えてくれた全ての人と一緒に、貴方をここで討つ!!」
マシュはビーストを睨み返して、バグヴァイザーを装着しガシャットを起動する。そして、久々にそのガシャットを、そのバグヴァイザーに挿入した。
マシュ・キリエライトは、変身する。
「……変身!!」
『マザルアァップ』
『響け護国の砲 唸れ騎士の剣 正義は何処へ征くブリテンウォーリアーズ!!』
仮面ライダーシールダー。守護者でありカルデアのサーヴァント、ビーストのキメラにして一つの意思を持つ存在。ビーストⅩを打倒する者。
二本の剣を携えたそれはパラドクスの助けでどうにか回復したエグゼイドと並び立ち、ビーストⅩと相対する。
「全く、無駄な足掻きを……」
それに対して、ビーストⅩは全身から障気を振り撒きながら拳を握った。
両者は、同時に大地を蹴る。
───
「さてアヴェンジャー。どちらが勝つと思う?」
「あくまで客観的に評価するのなら、まあオレは真檀黎斗の肩を持つだろうな」
「そんな……」
ビーストⅩとナーサリー、エグゼイドとシールダーの戦いを、信長とアヴェンジャーとイリヤは崩れ落ちたゲンムコーポレーションの上で眺めていた。
エグゼイドとシールダーはビーストへと剣を振り、ビーストはそれを弾き、ナーサリーは援護射撃を行っていた。
「あれでも勝てないんですか……?」
「確かにCR側の勝利フラグはビンビンに立っておるがのう。無理なのか?」
「恐らくな。シールダーはFate/Grand Orderが認識できない唯一の存在だ。だからあの檀黎斗と交戦していられる。だが、単純に馬力が足りない」
「そんな……」
「エグゼイドはさっきまでならどうにかなっていたが、もう完全に力不足ということだろう。あれでは、二人纏めてかかっても全力の黎斗には敵わない。さらに言うなら、ナーサリーが集中を散らしているのも地味に厄介だ」
「……全力、か?」
「ああ」
アヴェンジャーはそう推測する。出来ればイリヤはそれを信じたくなかったが、それの信憑性は高いのだと彼女は知っていた。
眼下で、シールダーが吹き飛ばされる。
───
「しゃがんでマスター!!」
『ときめき クリティカル ストライク!!』
「っ……!!」
ビーストと斬りあっていたシールダーは、後ろからのナーサリーの攻撃を回避しきれない。彼女は攻撃をもろに食らって吹き飛ばされた。
もうそれは三回目だった。勢いよく戦いには挑んだものの、シールダーの剣はビーストには届かない。
「っ……まだ、まだまだ!!」
『Noble phantasm』
「
シールダーはそれでも立ち上がり、太陽の焔を纏わせた刃をゲンムへと飛ばす。しかしその一撃は、ゲンムが思いきり腕を凪いで起こした衝撃波に打ち消されて。
「はぁ、はぁ……君達はここまで、私に全力を出させるとはな」
「っ……」
「……しかし、ここまでだ」
「いいや!! まだ終わってません!!」
『ガシャコンキースラッシャー!!』
『Grail Critical Hole!!』
エグゼイドが叫びながらキメワザを発動し、ビーストの周囲に孔を産み出す。しかし今度はエグゼイドが投げたキースラッシャーがビーストへと襲い掛かることはなく、孔の方向が曲げられてエグゼイドへとキースラッシャーが飛んでいくことになった。
当然エグゼイドは避けられず、また遠くまで吹き飛ばされる。
「ぐああっ……!!」
「二度も同じ手は神に通じない!! ハーハハハ!! ブェアーハハハ!!」
「くっ……!!」
シールダーは肩の砲台からビーストへと砲弾を放ってみたが、それも片手で受け止められた。
そしてビーストはシールダーの眼前に瞬間移動して彼女の顔を蹴り飛ばし、地面に転がった彼女の頭を踏みつけた。
ゲシッ
「っあ……!!」
「それも無意味、あれも無意味、全て君達は私に敵わない!! 確かに私の全力を引き出したことは評価できるがそれまでだァ!! 君達の戦いは全て全て、無駄に終わると言うことさァ!! ハーハハハハハ!! ブェアーハハハハハハ!! ハーハハハハハハハ!!」
高笑いだけがこだまする。シールダーの揺さぶられた脳の中に、久々に諦観が浮かんだ。
「いいえ、彼らの戦いは、決して無駄ではありませんでした」
「……その、声は」
その声で、シールダーは消えかけていた意識を取り戻す。
何か、忘れてはいけない声が聞こえた気がした。
「君は……」
ビーストは足を離して、声の方を振り向く。どういうわけか、金色の魔方陣が後方に並んでいた。
……ビーストⅩは、己の全ての力を戦闘に回していた。ビーストに立ち向かうライダー達は、そんなビーストと交戦し、持ちこたえ続けていた。ビーストⅩの意識を、戦いに集中させ続けた。
それが一つの、
「あれは……サーヴァントか?」
「七騎の追加かよ……!!」
「いいえ、あれは、敵じゃありません……!!」
現実と虚構の混じりあった世界。
それが、抑止力に見咎められない訳がない。
「あれは……!!」
元々真黎斗のリソースを一部使うことで制止させていた抑止力は既に解き放たれた。安全装置は己の中身を分析し、ビーストを終了させる為の存在を、
「彼らは人類を救う戦いを、今日まで戦い抜いたのですから」
黄金の髪に蒼い鎧の騎士。仮初めのグランドセイバー、アルトリア・ペンドラゴン。
「酔狂とは言うまい。我が手を出すに足る事態よ」
黄金の鎧を纏った英雄王。仮初めのグランドアーチャー、ギルガメッシュ。
「その行いは、ローマである」
赤いマントを羽織った神祖。仮初めのグランドランサー、ロムルス。
「幽谷の淵より死を届けに参った」
黒に身を包んだ暗殺者。仮初めのグランドアサシン、山の翁。
「褒美をやろう。ファラオの神威を見るがいい」
白いマントをはためかせる太陽王。仮初めのグランドライダー、オジマンディアス。
「病を捕捉しました。治療を始めましょう」
赤い服を纏った看護婦。仮初めのグランドバーサーカー、ナイチンゲール。
「……お疲れさま、マシュ。よく頑張ったね」
そして、白衣に身を窶して全てを見守ってきた、魔術王。仮初めのグランドキャスター、
「……君達も、私に逆らうのか?」
ビーストⅩが、静かにグランドサーヴァント達に問う。どこか怒りを湛えているような声だった。
その問いに、ナイチンゲールが返した。
「貴方は病です。
「ナイチンゲールさん……!!」
「また会えましたね、マスター。言ったでしょう? 『貴方がドクターである限り、私は側にいます』と……さあ、立って。緊急治療の時間です」
次回、仮面ライダーゲンム!!
───グランドサーヴァント
「何故拘束出来ない!!」
「その力は貴様が与えた物だろう?」
「全部貴方が蒔いた種だ」
───マシュとの会話
「私は、堕落したでしょうか」
「首を出せ」
「僕は君を誇りに思う」
───CRの動き
「私が二度も同じ手を食うと思うか?」
「でもあいつは装備を融かしてくるんだぜ?」
「私は神だ!!」
第六十八話 満天
「貴女の強さを信じている」