ところでCMのマシュ何だったん?
並び立つ七騎のグランドサーヴァント、そしてエグゼイドとシールダー。ビーストとナーサリーはその二つに挟まれる形となって立っていた。
グランドセイバーは剣を構えた。グランドアーチャーは倉を開いた。グランドランサーは槍を向けた。グランドアサシンは剣を大地に突き立てた。グランドライダーは杖を向けた。グランドバーサーカーはピストルを構えた。そしてグランドキャスターは手をビーストに向ける。
ビーストは一つ舌打ちした。
「君達は本当に物分かりが悪い……私に、制作者に逆らうことなど出来ない!!」
彼はそう叫ぶ。ラーマとシータにしたように、彼は認識できる全てのサーヴァントを支配できる。その力がある。
……しかし、グランドサーヴァントの誰も、動きを止められることはなかった。
「──ッ、何故だ、何故拘束出来ない!!」
「当然だ。そのガシャットと我々との繋がりを断ち切った。最早我らはそのガシャットのサーヴァントではない」
そう答えたのは山の翁。Fate/Grand Orderガシャットと自分達との関係を殺した彼は突き立てた大剣を引き抜きながら呟き、狼狽えるビーストの姿を凝視する。
「そんなこと……あり得ない!! あり得る筈がない!!」
「全く、その力は貴様が与えた物だろう?」
そう言うのはギルガメッシュ。彼は倉から幾つかの剣を覗かせながらビーストを嘲る。全てを殺す剣、それが設計者を襲うのは皮肉な話だ、と。
そしてその隣でアルトリアが、己の剣に風を纏わせた。
「つけを払う時です。全部貴方が蒔いた種だ」
「私は神だ!! 私は不滅だ!! 誰にも私を止めることは許されない!! 私は勝利しなければならないっ!!」
飛び出すアルトリア。受け止めるビースト。ビーストが呼び出した数多のガシャコンウェポンは彼女のエクスカリバーに粉砕され、二人はエクスカリバーとガシャコンカリバーで鍔競りあう。
加えてオジマンディアスによる援護の光が降り注ぎ、ギルガメッシュの倉から複数の剣が飛び出してビーストに突き刺さった。
「っ……ふざけるなァっ!!」
ビーストのカルデアスが赤熱する。周囲に熱と衝撃が再現なく解き放たれ、周囲の大地は溶解し……それでもサーヴァント達は止まらず。
「ローマっ!!」
「消毒!!」
「シャアッ!!」
アルトリアの背後から、巨大な槍を振りかぶったロムルスが飛び上がる。それと同時にナイチンゲールと山の翁が両側から迫り、三方向からビーストを斬りつけた。
ザンッ
「っぐ……!!」
「マスター!!」
ナーサリーが声を上げ、彼を援護するためにエネルギー弾を放とうとする。
しかしそれは、ソロモンが彼女を取り囲むように展開したバリアで防がれた。
「っ……」
「悪いけど、ここは通せないや。ボクも彼には思うところがあるからね」
ナーサリーは顔をしかめてビーストを見る。ビーストは唸り声を上げながらどうにかグランドサーヴァントの攻撃を堪えていたが、かなり押されていた。
そして、彼に作られた者達が宝具を放つ。
「
「
「
「──
ビーストの上に、逆さまのピラミッドが現れた。同時に彼の足元を伸びてきた大樹が掬い上げ、眼前でエクスカリバーが光を纏う。全部纏めて食らえば一堪りもあるまい。
その中でビーストは、ガシャコンカリバーのトリガーを引いた。
『Noble phantasm』
「
……次の瞬間、ビーストのイメージに合わせて変型したキャメロットの城壁が彼を包んだ。
それを大樹が貫こうとし、ピラミッドが潰そうとし、エクスカリバーの光が飲み下す。
しかし倒れない。城壁は三つの宝具を受け止めて燦然と輝き、無事に降り立ったビーストは体制を整え始める。
その行いは、当然のように怒りを買った。
「貴方がそれを使うなぁっ!!」
『Noble phantasm』
「
元々それを託されていた、シールダーの。
彼女は自分でその宝具を棄てた。その持ち主を棄てた。しかし彼女は決してその宝具の持ち主への感謝を棄てた覚えはない。歪んでいるとは知っていたが、シールダーはビーストに我慢ならなかった。
さっきまで呆然とグランドサーヴァント達を見つめていた彼女はもう城壁に己の剣を突き立てていた。死角からのふいの襲撃に壁は砕け、その中をシールダーが突き進む。
バァンッ
「はああああっ!!」
「生意気な真似を……!!」
ガギンッ
そして二本のガシャコンカリバーが交差した。すぐにバルムンクがビーストの腹を削り、ビーストの拳がシールダーの腹に突き刺さる。本来ならこれで痛み分けになる筈だったが、そうではない。
ガリガリガリガリ
「なっ……!?」
シールダーの力が明確に上昇していた。
「……負けるな!! マシュ!!」
「──はいっ!!」
ガリガリガリガリガリガリ
ソロモンがシールダーの力を増強させていたからだった。
更にシールダーに加勢せんと、グランドサーヴァントがビーストを取り囲んで接近してくる。ビーストは腹立たしげにガシャットをドライバーから引き抜き、再びキメワザスロットに装填した。
「鬱陶しい……!!」
『Fate/Critical Strike!!』
そして、回し蹴りで周囲を凪ぎ払う。辺りを衝撃波が飛び交い、近くのビルに幾つもの亀裂が走った。
もっとも、全ての能力を最大に引き上げられたグランドサーヴァント達にとってはビーストの動きは読めていた。だから彼らは一旦ビーストから離れる。
ビーストも読まれることを分かった上で攻撃をしたからそれは問題ではなかった。
ソロモンの妨害からやっと抜け出したナーサリーが、ビーストに並び立つ。
「君達がそうまでするのなら……私も、手を打たなければならない……!!」
そしてビーストはそう言った。彼は肩で息をしていた。彼は武器を捨ててゆらりと立つ。……その赤黒い全身から、とても濃い黒い霧が溢れ始めた。
「君達は所詮システムだ、私には敵わない、それをここで教えてやる!!」
「あれは……」
「まさか!!」
「伏せて!! 菌が放出されていきます!!」
「私はゲームを加速させる!! 全てを喰らい私は勝つ!! 全世界を塗り替える!! 誰にも邪魔はさせないぃっ!!」
超高濃度の新種のウィルス……とでも言うべき代物か、そんなものがビーストから溢れ始めた。
元よりビーストはゲーム病の進行を自由に操作できてはいたが、今解き放っているものはライダーであろうと触れるだけで即ゲームオーバーになるような、そんな病。それは前線にいたサーヴァント達はすぐに理解できた。
「こんなかくし球もあったとはな……」
「何となくそんな気はしてたけどよぉ……!!」
放たれた霧の幾らかは空にとけ、幾らかは地に留まり……驚くべきことに、やや小ぶりなペイルライダーを形作る。一つではない。幾つもだ。触れたら即死、襲われても即死、そんな敵を、ビーストはいくらでも作り出せる。
「さあ絶望しろ、平伏しろ!! 君達はここで、ゲームオーバーだ!!」
「っ……」
「……ナイチンゲールさん!!」
ライダー達の消滅を防ぐ方法は、一つしかない。
「……お願いします!!」
「分かりましたっ──
グランドバーサーカー、ナイチンゲールのすぐ後ろに、白衣の天使が顕れた。
───
戦いは一先ずの収拾を得た。ナイチンゲールの宝具は病を打ち消すのと同時に敵味方関係なく武器を封印するもの、継戦は不可能だった。
ビーストは何処かに消えてしまった。彼が放った病は風にのって運ばれているらしく、ニュースが千葉県での被害を訴えていた。
「……」
そんな中、確実に安全であろう領域の中で、サーヴァントとドクター達は休んでいた。マシュは、ナイチンゲール以外のグランドサーヴァントに囲まれて座っていた。
「……」
「何故顔を上げない?」
「その、何というか……」
こうして対面すると、マシュは彼らの顔を見ることが出来なかった。戦っている間は気にしなかったが、そうではなくなるとどうにも申し訳なくなった。
「まさか、今さらになって牙が抜けた等と言うまいな?」
「いえ、そんなことはないんです。私は、この歩みが間違っているとは思いません。ですが……ドクターにも皆さんにも、迷惑をかけてしまった、と」
「ふむ……余は、貴様の歩みを否定する気は起こらぬが。余をあの獣と同類だと罵ったあの啖呵は、その信念は間違っていないのだろう? ならば、それでよいではないか」
「……!!」
マシュが俯きながら呟いた言葉に、オジマンディアスはそう言った。彼は、マシュが彼の神殿で彼に放った言葉を覚えていた。人の自由を守るべきだと、それが大切なのだという言葉を良しとしていた。だから彼は、マシュを否定しない。
「私は言いました。貴女はもう円卓の騎士ではありませんが、それでも側にいようと。それを変えるつもりはありません」
次に口を開いたのは、オジマンディアスの隣にいたアルトリアだった。マシュが彼女と対面するのは、かつてガシャットの内部でブリテンの英霊達と戦った時以来だった。
「……貴女を救う、という手立ては、とうとう見つかりませんでしたが」
「いえ……それは当然です。だって、こんなことになっているんですから」
「……貴女に辛い仕事を押し付けてしまって、申し訳ない」
アルトリアはやや目を伏せる。しかしそれでもマシュからは視線を外さなかった。マシュはもう、彼女を拒絶しようとは思わない。二人はかなり落ち着いていた。
「それでも私は、貴女に希望をもって最後まで生きてほしい。その信念を大切にして戦い抜いてほしい。私は貴女の強さを信じている」
そしてアルトリアは、そう言葉を締めくくる。
……ちらっと彼女が隣を見れば、ロムルスが目に入った。二人はアイコンタクトを交わし、すぐにロムルスが話し始める。
「
「神祖……」
「その
すぐに、ロムルスはそう短い言葉を残して沈黙した。マシュは、彼が何を言いたいのかははっきりと分かった。
マシュは胸の中に何か暖かいものを感じた気がした。きっと、己の中のネロの感情なのだろうと思えば、ほんの少し嬉しくなった。
そしてロムルスは己の隣を見る。ギルガメッシュが腕を組んでやや冷ややかにマシュを見つめていた。
「鼻先に人参をぶら下げた暴れ馬。我慢の効かない狂人。自分のことしか見えない幼児。そのような精神性は変わらなかったようだな」
「……うう」
的確に指摘されて、マシュの肩幅が狭まる。そうであることはマシュ自身自覚していた。今思えばこの世界でも随分と勝手なことをしてしまったと思う。今さら詫びることも出来ず、マシュは曖昧な顔をする。
「しかし、ここでそれを言っても詮なきことよ。だから、我は別のことを問う」
「別のこと……とは」
「かつて、魔獣戦線が終結したあの時。お前は、消え行く我を見て激昂し、檀黎斗に襲いかかろうとしたことを覚えているな?」
「……はい」
しかしギルガメッシュはそれについては掘り下げず、別のことを問った。
バビロニアでの出来事。ティアマトを葬り、その反動で消えていくギルガメッシュを受け入れられずに怒ったマシュ。そしてそんなマシュを止めたギルガメッシュ。…… マシュはあの時の自分を思い出す。
「お前は、あの時の我と同じ立場にいる。それを分かっているな?」
「……ええ」
一つ頷いた。ギルガメッシュはマシュの目を覗き込む。マシュもまた、彼の瞳を見ようとした。
「今なら、我が何を思ってあの結論を選択したのは、分からないとは言うまいな?」
マシュは口を固く結んで、なるべく力強く頷いた。答えは……はっきりとした物は、本当は見つかっていない。きっと見つけられない。……でも、これまでの旅で、彼が何を思って動いたのかくらいは、何となく分かるようになった。それでよかった。
「で……次は貴様の番だが」
ギルガメッシュは話を止めて、隣にいた山の翁をちらと見る。オジマンディアスからギルガメッシュまで続いた流れに乗せて考えるのなら、次に発言するのは彼だろう。マシュはつい顔を伏せた。
「……」
「……私は、堕落したでしょうか」
そう口走っていた。
山の翁が忌み嫌うのは怠惰、堕落、劣化だ。……マシュは自分が間違った道を選んだつもりはない。しかし自分がかつて旅を始めた頃の自分に比べて劣化していない、と言い切るのは、何処か良心が咎めた。
「再び問おう、マシュ・キリエライト」
「……」
それを見抜いたのだろう、山の翁は言葉を紡ぐ。
「汝の、その明日を目指す道に未来はあったか。悲しみしかない在り方に希望は見えたか。信念の劣化、決意の腐敗、論理の崩壊……それらに苛まれ、敗北したのならその時には我は汝の首を断つと、かつて我は言った筈だ」
懐かしい言葉だった。バビロニアで山の翁に命令して、ケツァル・コアトルを倒したときのものだった。今なら、顔を上げて自信をもって返答できる。
「私の道には、明日があります。希望があります。それを私は確信しています」
「……では、ここで我が、首を出せと言えば、どうする」
「……!!」
気づけば、思ったよりも翁の顔は近くにあった。蒼い炎が爛々と、その骸骨の中で燃えていた。
……ふと、黎斗が首を断たれた風景がフラッシュバックした。翁の向こう側であたふたしているソロモンが見える。……それでも、自然と恐怖はない。
「そうなったなら……」
マシュは一つ、深々と礼をした。
……それは首を差し出す行いではない。
顔を上げた彼女は、山の翁を強く見つめて言い放つ。
「それでも、私は貴方に命令する最後の権利を消費して、思い止まってもらいます」
「……ほう。……ああ、そんなものもあったな」
「私は劣化したかもしれません。それでも掴みたいものがあるんです。もうすぐなんです。もうすぐで、私は彼に手が届く。明日を守れる。希望を繋ぐことが出来る。ですから……協力して下さい」
また顔を下げた。
山の翁は何も言わずにただ頷くのみ。彼は、マシュの意思を一先ずは認めたようだった。
そして、ソロモンの順番が回ってくる。しかしソロモンはキッパリと言葉を言うことは出来ず、照れ臭そうに笑った。
「……えーと、うーん……この姿を見せるの、初めてだよね」
「……はい」
「じゃあ、一回戻るかな……っと」
刹那、ソロモンは光に包まれて、慣れ親しんだロマニ・アーキマンの姿を取り戻す。そしてロマンはゆっくりとマシュに歩みより、彼女の頭を優しく撫でた。
「……っ!!」
「僕は君を誇りに思う、マシュ」
「……ドクター」
……いつの間にか、マシュはロマンに体を預けていた。ここまでは緊張していたから体は強張っていたが、見覚えのある体温に、とうとうロックが外れたようだった。生暖かい物が頬を伝った。
「お疲れ様、だね」
「……ごめんなさい、ごめんなさい……悲しませて、ごめんなさい……!!」
謝罪が漏れる。彼女は、ロマンが自分の姿を見て苦しんでいたのを知っている。自分の道は間違っていなくとも、彼を悲しませたことは失敗だ。
白衣が濡れていくのを感じた。ロマンは彼女を、強く抱き締める。満天の星空のみが、それを照らしていた。
───
深夜にも関わらず、臨時聖都大学附属病院の人々は皆起きていた。ついているテレビには、ビーストの解き放ったペイルライダーの情報が流れていく。
……どうやら、もうここの人々に逃げ場は無さそうだった。周囲にはペイルライダーが囲むように分布しているらしい。触れれば即死、近づいても即死、それが徐々に辺りを埋め尽くす。
「……あれは……!!」
そして、外を見ていた誰かが、窓の外を指差した。
ペイルライダーが佇んでいた。残留していた最後のちびノブのグループがそれに突撃し、呆気なく消滅していく。そしてペイルライダーらは、病院への進軍を開始した。
「終わりだ……」
「怖いよぉ……」
そんな声が聞こえ始める。今日まで生き足掻いてきた自分達もとうとう終わりだと。もう逃げ場はないのだと。
その中にいた作もまた、恐怖に頭を抱えた。
「あ、ああ……!!」
『私が好きなものは、強いものだ。私のマスターは体は貧弱だが、少なくとも心の強さは中々だ。だから、その強さを折るな』
「……!?」
ふいに、脳裏にそんな声が聞こえた。作は頭を上げて辺りを見回す。確実に、アルトリア・オルタの声だった。
当然、回りに彼女はいない。どんなサーヴァントもここにはいない。幻聴だ。
……それでも、その声は作を奮い立たせた。彼は震える足に鞭を打ち、咄嗟にマスクを何十にもつけ、手袋をつけ、ヘルメットを被り、自転車を引っ張り出した。
「……安心して下さい!!」
「え?」
「何してるんだ?」
「正気かあんた!? 死ぬぞ!!」
「……僕が、皆さんを、守ります!!」
そして、作は自転車で外へと乗り出した。
ペイルライダーらの視線が作に集中し、それら全てが作を追いかけ始める。
───
「……マスターは……眠られましたね」
ナイチンゲールは、ライダー達の体調を気遣って少しでも仮眠を取らせようとしていた。やや強引にでも眠りに誘って、この後の戦いで生きられるように。
もう永夢は眠りについた。飛彩も大我も泥のように眠っている。……しかし、バグスター組は起きていた。
「おい、ゲンム」
「どうしたパラド」
「本当にあいつに勝てるのか? あんな、化け物に」
パラドと黎斗神はそう言葉を交わす。黎斗神は、先程溶けてしまったガシャットを修復しながら。パラドの顔は険しかったが、黎斗神はそう深刻でもなさそうだった。
「私は神だ!! 私に不可能はない……!!」
「そうは言っても、あいつは装備を融かしてくるんだぜ?」
「私が二度も同じ手を食うと思うか?」
黎斗神はそう言いながら修復し終えたガシャットを引き抜き、パラドに投げ渡す。同時に、ゲーマドライバーも差し出して。
「……どういうつもりだ?」
「ここまでの戦いで、あの私には余裕がなくなった。プログラムへの侵入はぐっと簡単になったさ……もう、レベル制限は解除した」
黎斗神は淡々とそう言い、また作業に戻る。
夜はまだ長い。
次回、仮面ライダーゲンム!!
───夢の中の邂逅
「フォーウ」
「貴方は……」
〔美しいものを見た〕
───最後の希望
「何でここにいるのさ」
「僕は、まだ諦められない!!」
「……最後の希望か」
───反撃の始まり
「僕は貴方を諦めない」
「貴方達に会えてよかった」
「変身するんだ」
第六十九話 Wish in the dark
「これは、愛と希望の物語」