Fate/Game Master   作:初手降参

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三十五話のJusticeはクロノスのテーマ
七十話のJusticeはEXTELLA LINKの主題歌



第七十話 Justice

 

『Britain Warriors!!』

 

「私達は……貴方を倒す」

 

 

マシュは真黎斗を見つめた。己の目標を見定めた。もう逃がさない。もう逃げない。自分は、自分を支えてくれた全てを引き連れてそれを倒す。そう決意を抱いた。

 

 

「さあ、決着をつけましょう」

 

 

アルトリアはエクスカリバーを構えた。強大な者との戦い、世界を救う戦い、それを前にかの聖剣(エクスカリバー)は光を解き放つ。

 

 

『Goddess breaker!!』

 

「……世界の行く末を賭けた戦い。これを決戦と言う。ならば我も、出し惜しみはすまい」

 

 

ギルガメッシュはかつて黎斗から受け取ったガシャットを、金色のドライバーに装填する。……それは使用すれば確実に消滅する死のガシャットだが、今さら気にすることはない。

 

 

「いざ行かん、この戦いの先にローマが待つ」

 

 

ロムルスはそう唱え槍を構える。大樹が如きそれは風を巻き込み、敵へ向ける牙を研いだ。この世界はローマなのであり、それを守るのはローマの神祖たるロムルスの使命。

 

 

「神託は下った。晩鐘は汝の名を指し示した」

 

 

山の翁は宣言と共に剣を構えた。最初にして最後のハサン、暗殺者を殺す暗殺者は今、偽りの神に狙いを絞る。全てを殺す剣に鈍りはない。

 

 

「太陽の輝きでもって貴様を焼き付くそう。今、ここで!!」

 

 

オジマンディアスはそう言い放ち杖を向けた。絶対の自信は彼から恐れを持ち去り、ただファラオは威光と共に立つ。

 

 

「全てを精算するときだ、カルデアのかつてのマスター、真檀黎斗」

 

 

ソロモンはそう告げて魔術式を展開した。黎斗が組み上げたそれは最早ソロモン自身の物であり、魔術なき世界において唯一無二。黎斗とそれに翻弄された少女を思い出しながら、魔術王は視線を固定する。

 

 

「最後の治療を始めましょう」

 

 

ナイチンゲールはそう呼び掛けた。拳を握り、敵の集団に飛びかかる用意を終える。この戦いが、地球と言う星の余命を決める戦いだ。延命を。治療を。あらゆる病に抗うことが、医療人の役割ならば。

 

 

「争いに終焉を。きっと、世界を救いましょうね」

 

 

マルタはそう唱え杖を握った。哀しみばかりの戦いに終わりを。振り撒かれた恩讐に結末を。あらゆる悪逆には理由があり、相応しい結末がある。それが今だと彼女は確信した。

 

 

『刀剣伝ガイム!!』

 

「……すまないマスター。それでも余は、貴様を倒す!!」

 

 

刀剣伝ガイムを起動したのはラーマだった。サーヴァントとしての攻撃が防がれるのなら仮面ライダーの姿を借りればいい。そんな単純で、でも確かに希望がある考え。彼は元々のマスターを裏切り、自分の正義と、自分に力を貸してくれた善き人々に殉ずる。

 

 

『カイガン ゴースト!!』

 

「私達は最後まで戦う!!」

 

 

そしてシータはカイガンゴーストを起動した。CRに頼めば、快く貸してくれた物だった。……もう迷いはない。ただ走り続けるだけでいい。自分も愛する人も、それだけで、自分達でいられる。

 

 

『ジャングル オーズ!!』

 

「審議官、一緒に戦ってください」

 

 

灰馬はそう言って、ジャングルオーズを手に取った。かつて患者を守るために消えていった勇気ある医療人達、彼らを救う為の希望となる戦いが幕を上げる。

 

 

『スペースギャラクシー フォーゼ!!』

 

「天才ゲーマーNの力、見せてあげる!!」

 

 

ニコは力強くガシャットロフィーを起動した。ここまでの戦いで多くの人を失った。それでも頼りになる仲間は隣にいて、それ故この後の戦闘を態々怖れる必要はなかった。

 

 

『ときめきクライシス!!』

 

「行くよ……!!」

 

 

ポッピーはそう言い、装着したバグヴァイザーに目をやる。昨日ようやく帰ってきたもの。久方ぶりの変身。せめて足を引っ張らないように……彼女はそう思いながら味方を意識する。

 

 

『The Strongest Fist!! What's the next stage?』

 

「心が……踊るなぁ……!! MAX大──」

 

 

パラドはガシャットをゲーマドライバーに装填して叫んだ。もう負ける訳にはいかない。かつて人々を苦しめた贖罪を籠めて、ここで悲劇に決着をつける。もう誰も、苦しめさせない。そう心に決めた。

 

 

『マイティアクション X!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「君を削除する。グレードⅩ-0」

 

 

黎斗神はそう呟いた。残りライフの犠牲は厭わない。自分の不始末で生まれでた怪物を、己自身(真檀黎斗)をここでデリートする。誰のためでもなく自身(檀黎斗神)の為に。それは彼の中での決定事項。

 

 

『爆走バイク!!』

 

『ジェットコンバット!!』

 

「最後までノリに乗って行くぜ? ──爆速」

 

 

貴利矢は余裕を崩さずにガシャットを装填する。既にガシャコンスパローも再生した。動かない理由はなく、戦わない言い訳もない。最後まで抵抗を。その末に勝利を。

 

 

『Bang Bang Simulation!!』

 

「ミッション開始だ……第伍拾戦術」

 

 

大我はガシャットのギアを傾けながら顔をしかめる。痛みは抜けきっていない。それでもこの戦いに乗り遅れる訳にはいかなかった。人類の未来を決める大切な一戦、きっと敗北すれば悔いが残る。手を貸す以外の選択はない。

 

 

『タドル レガシー!!』

 

「お前はこの世界の癌だ。……これより、ビースト切除手術を開始する。術式レベル100!!」

 

 

飛彩は敵を睨み付けた。そして、ここまでの戦いを思い出した。沢山のサーヴァントが消えていったのを想起する。それを思えば、ここで倒れる訳にはいかない。この人類の敵を討たなければ、全ての苦しみが無駄になる。そう剣を握り締めた。

 

 

『マキシマムマイティX!!』

 

『ハイパームテキ!!』

 

「世界の運命は……僕達が変える。ハイパー、大──」

 

 

そして永夢は、マキシマムマイティXにハイパームテキを合体させる。久々に変身する形態。油断はしない。一刻も早く、悪夢のゲームを終わらせる。全ての患者の為に、全力で戦い続けよう。それが、ここまで引き継がれてきた、医療の形だ。

 

そして、彼らは変身した。

 

 

『『『『『『変身ッ!!』』』』』』

 

 

轟音が響く。空気が唸る。ゲームエリアは衝撃に揺れ、意思と意思とが交差する。

 

 

『響け護国の砲!! 唸れ騎士の剣!! 正義は何処へ征く ブリテンウォーリアーズ!!』

 

『至高の王の財宝!! 黄金の最強英雄王!! 人の明日を拓け!!』

 

『オレンジイチゴにパイナポー!! バナナ!! ブドウ!! メロン!! ソイヤ!! ガイム!!』

 

『ゴッゴゴッゴゴッ!! カイガン!! レッツゴー!! ゴッゴゴゴゴッ!! カイガン!! カクゴースト!!』

 

『タトバガタキリバシャウタサゴーゾ!! ラトラタプトティラタジャドルオーズ!!』

 

『ぶっ飛ばせ!! 友情!! 青春ギャラクシー!! 3・2・1・フォーゼッ!!』

 

『ドリーミンガール!! 恋のシミュレーション!! 乙女は何時もときめきクライシス!!』

 

『赤い拳強さ!! 青いパズル連鎖!! 赤と青の交差!! パーフェクトノックアーウト!!』

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! X!!』

『デーンジャデーンジャー!! デス ザ クライシス デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『爆走独走激走暴走!! 爆走バイク!!』

『ぶっ飛びジェット トゥ ザ スカイ!! フライ!! ハイ!! スカイ!! ジェットコーンバーット!!』

 

『スクランブルだ!! 出撃発進バンバンシミュレーション!! 発進!!』

 

『辿る歴史目覚める騎士 タドルレガシー!!』

 

『マキシマームパワー!! X!!』

『輝け流星の如く!! 黄金の最強ゲーマー!! ハイパームテキ エグゼイド!!』

 

 

並び立つは二十の戦士。七のサーヴァントに十三のライダー。標的は一つのビーストと四体のサーヴァント。もう後はない。進むことしか許されはしない。後戻りは出来ない。その未来は獣を越えた先にある。

 

 

「君達は、君達はここまで抗い続けるのか!!」

 

『マイティアクション NEXT!!』

 

『Fate/Grand Order!!』

 

 

獣は吠えた。自らの産み出したバグに。反逆者に。敵に。それは腰にゲーマドライバーを装着し、浮遊させたガシャットを二本装填する。

 

 

「ならば……全てを受け止めて、捻り潰してみせよう!! 神の力の前に絶望するがいい!! 変身!!」

 

『ガッチャーン!! レベルセッティング!!』

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『それは、未来を取り戻す物語──Fate/Grand Order!!』

 

「ゲームの命運は、私が決める!!」

 

 

病める獣。進化する獣。人類を強引に進歩へと引きずり込むビーストⅩ。その鎧は変わらず熱を纏い、病を纏う。

 

 

「私達がこのゲームを達成するわ!! 何が何でもよ!!」

 

『ときめきクライシスⅡ!!』

 

「……変身!!」

 

『ガッチャーン!!』

 

『ドリーミーンガール!! 恋のレボリューション!! 乙女はずっとときめきクライシス!!』

 

 

そしてその隣で、ナーサリーも変身した。これが、この騒動の最後の戦いとなる。誰もがそれを理解していた。

 

ガシャコンキースラッシャーを構えたエグゼイドと、ガシャコンブレイカーを構えた黎斗神のゲンムが、一番槍として飛びかかる。

 

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!」

 

『マイティ アクション クリティカルフィニッシュ!!』

 

「もう貴様の時代は終わった、真檀黎斗!! ここからは、私の時代だ……!!」

 

『デンジャラス クリティカル フィニッシュ!!』

 

───

 

 

 

 

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「残りライフ、16……流石は私か、最後まで粘りが強い」

 

「当然だ!! そして最後を迎えるのは君達だ!! 神である私には何人たりとも敵いはしない……そうでなければならないのだ!!」

 

「そんなことには、させない!!」

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

戦いは難航を極めた。数の差は圧倒的、しかしビースト一体だけで、ライダー全員を圧倒して余りあるだけの力があった。どうやら一晩の間にパワーを強く調整したらしい。ビーストと斬りあうブレイブはそう一瞬考え、すぐにまた戦いに集中する。

 

いつの間にか、戦場は三分割されていた。

 

エグゼイド、ブレイブ、レーザーターボ、ゲンム、鎧武、ゴースト、オーズ、シールダー、アルトリア、バビロン、山の翁、マルタがビーストを取り囲み。

 

スナイプ、パラドクス、ロムルス、オジマンディアス、ソロモンが信長、アヴェンジャー、イリヤと刃を交え。

 

ポッピー、フォーゼ、ナイチンゲールがナーサリーと戦い続けていた。

 

 

「これで……」

 

「どうだぁっ!!」

 

『クリティカル クルセイド!!』

 

『コズミック ランチャー リミットブレイク!!』

 

 

そのポッピーとフォーゼが、ナーサリーへと必殺技を放つ。ポッピーはナーサリーの周囲を回転しながらエネルギー弾を乱発し、フォーゼはフリーズスイッチの力を付随させたミサイルをナーサリーの周囲に解き放つ。

 

 

「あらあら、怖い怖い。でも、私も同じことが出来るのよ?」

 

『ときめき クリティカル ストライク!!』

 

 

しかしその攻撃の中心にいたナーサリーは慌てることもなく、自分を軸にしてさらに強力なエネルギーを振り撒き、自分を付け狙う攻撃を無力化した。

 

 

「っ……」

 

「そんな!!」

 

「フフ、私たちだって、この戦いに備えてきたの。マスターも強いし、私達だってさらに強くなった。簡単に倒せるなんて、思わないでね?」

 

 

ナーサリーはそう微笑む。

立ち竦むフォーゼの横をすり抜けてナイチンゲールが彼女に拳を突き出したが、その一撃はナーサリーが呼び出した薔薇の蔓に絡め取られて。

 

 

 

 

 

『高速化!!』

 

『マッスル化!!』

 

『伸縮化!!』

 

「今度こそ本気を出してもらうぞ」

 

「オレは乗り気じゃないんだがな」

 

 

それを横目に、パラドクスはアヴェンジャーと殴りあっていた。いよいよ変身すら放棄したアヴェンジャーにパラドクスは怒りを覚え、しかしどうやら強化を施されたらしい敵に苦戦する。

二人は高速化し、右へ左へと飛び回りながら敵の弱点を狙い続ける。

 

 

 

 

『トリプル!! スキャニングチャージ!!』

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「「「はあっ!!」」」

 

 

そして、ビーストを攻略しようとする面子も手を休めることはない。

上からメダジャリバー、前からガシャコンスパロー、後ろからガシャコンソードが同時にビーストへと降り下ろされる。それぞれは並大抵の金属なら羊羮よろしく両断出来た筈の斬撃。しかし、ビーストはそれらを己から放った衝撃波で打ち消して、逆に吹き飛ばした。

 

 

「うわあわああっ!?」

 

「親父ッ!?」

 

 

そして、上から剣を降り下ろしていた灰馬が変身するオーズはあえなく飛ばされて、近くのビルの壁に衝突する。

 

 

原罪(メロダック)!!』

 

絶世の名剣(デュランダル)!!』

 

『方天画戟!!』

 

「……チッ、流石にこの程度ではくたばらぬか……生き汚い奴だ」

 

 

ギルガメッシュの変身した仮面ライダーバビロン、それがビーストへと真名解放した宝具を雨のように落とす。しかしそれはビーストの頭上を捉えた段階で回避されて。

 

……並の方法ではこれは倒せない。そう誰もが思った。戦場は息切れ気味だ。

 

 

「当然だ!! 私は檀黎斗、神の才能を持つ男!! 誰にも敵わない、皆恵みを受けとるのみぃ!!」

 

 

 

 

 

「さて、本当にそうかな?」

 

 

……その発言を待っていた。そんな声色で、レーザーターボが呟いた。

ビーストはそれに耳を傾ける。傾けてしまう。それは全能さ故の慢心か、自分が完全だと言う自信からか。

 

 

「……どういうことだ、九条貴利矢!!」

 

「ここまできたんだ、出し惜しみは必要ない……真檀黎斗、お前のちょっとした嘘を当ててやる」

 

 

そしてレーザーターボは宣言した。

 

 

「お前は、完全な檀黎斗じゃない」

 

「……何だと?」

 

 

レーザーターボは両手を無防備に広げ、努めてゆったりとビーストの周囲を回る。誰もそれを邪魔しない。ビーストは怒りを籠めて不届き者へと怒鳴った。

 

 

「ふざけるな!! 私は神だ!! この状況がそれを証明している!!」

 

「別に自分はお前が別人だとは言っていないさ」

 

「なら何だ!!」

 

 

それに答えるように、今度はゲンムが前に出る。引き付けるように、見せつけるように。檀黎斗は己だと。

 

 

「ああ、君は確かに私だとも。私が認めよう。……しかし残念ながら、君は最初の最初、情報体として電脳空間に潜伏した際に、余計なものと混ざってしまった」

 

「そんなことは……そんな……」

 

 

即座にビーストはそれを否定しようとして……漸く、ずっと心の内にあったような違和感に気づく。自分は檀黎斗だ、そう思っていた筈なのに。檀黎斗だと思っていたのに、何か、決定的に違うような。

 

 

「それが君と私の差だ。故に君は、私でありながら私らしからぬ作戦を行ってきた」

 

「……」

 

「そして今も、こちらだけに集中している」

 

 

ビーストはそこまで聞いて。

 

これが体力回復までのちょっとした時間稼ぎなのだと気がついた。そして、そのちょっとで戦況は変わるかもしれない。

周囲を見渡す。誰も、襲ってくる気配はなく。

 

何気無く上を見上げて。

 

ビーストは目を見開いた。

 

 

「……もう遅い!! 姐さん!!」

 

「ええ、最後まで付き合いなさい!! ……逃げ場は無いわ!! 荒れ狂う哀しき竜よ(タラスク)!!」

 

 

空には、高く高く飛び上がったマルタが、(タラスク)と共に落下していている姿があった。

タラスクはマルタの下へと回り込み……重力のままに、ビーストを押し潰す。あえて側面で、ビーストの体を露出させるようにしながら。

例えサーヴァントとしての攻撃が届かなくとも、重力は無視できない。ビーストが後からそれを操作しようと試み始めた頃には、もう準備は整っている。

 

 

「決めるぞ!!」

 

『爆走 クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

そしてレーザーターボが、弓にしたガシャコンスパローから、高速回転するバイクの車輪を撃ち出した。

 

 

『バナスピアー!!』

 

『影松!!』

 

『極 スカッシュ!!』

 

「合わせろシータ!!」

 

『イノチダイカイガン!! タノシーストライク!!』

 

「うんっ!!」

 

 

続けて鎧武とゴーストがビーストの頭の方に刃と矢を高密度で放ち命中させる。足の方には、バビロンが同じように宝具を降らせていて。

 

 

「合わせて行きましょう!!」

 

「はい!!」

 

『Noble phantasm』

 

 

そしてそこから間を開けずに飛び上がったシールダーとアルトリアが、同時にビーストに聖剣を降り下ろした。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

   カッ

 

 

光の柱が二本立つ。周囲の大地が割れ、岩盤が揺れ、タラスクは砕け、空の上にあった雲が弾けとんだ。

 

 

 

 

 

「……ここまで、やるとはな。しかし届かない。私は神だ、誰がどう言おうと、私が私を神にする。この世界の最高の神。君達はその礎になればいい!!」

 

 

……それでも。それでもビーストは倒れなかった。それは意地か、それとも妄念か。

 

結局の所、この獣にとっては、自分が檀黎斗なのかどうかは、ある種些細な問題だった。名前などどうでもいい、大切なのは己にあるこの才能と、それを使うキャンバスたるこの世界のみ。

 

そう思えば、本当にレーザーターボの発言は足止めでしかなかった。そのあとの攻撃を堪えた以上もう問題はない。もう動揺はない。もう止まらない。今度こそ止まらない。一息の元に捻り潰す。

 

……そこまで考えて。

 

 

 

 

 

   グサッ

 

「……」

 

 

ビーストは、背中に一瞬冷たいものを感じた。すぐに熱さと痛みがそれを塗り潰し、彼は苦痛の声をあげる。……丁度、刃物で刺されたときの痛みだ。

振り向いた。全く警戒させない攻撃。しかも、自分の装甲を破れるだけの強化が施されている。

今自分を刺したのは誰だ?

 

 

「……何のつもりだ?」

 

「さて、何じゃろうなあ」

 

 

……振り向けば、信長がしたり顔で密着していた。彼女の愛刀が、ビーストによって強化された愛刀が、ビーストを貫いていた。

 

 

「わしは最初から最後まで、徹頭徹尾やりたいようにやるだけじゃ──いざ、三界神仏灰燼と帰せ」

 

 

次の瞬間、信長の周囲に紅蓮の焔が巻き起こる。信長と、その刀が貫いたビーストが燃え上がる。それは篝火のように、空へと駆ける竜のように。

抵抗の術はない。それをするには、ビーストは動揺しすぎた。援護の術はない。ナーサリーを押さえ込むために……イリヤが乱入していた。

 

 

「我が名は第六天魔王波旬、織田信長なり!!」

 

「っ、何故だ……!!」

 

 

宝具、第六天魔王波旬。信長の有り様が具現化した炎の世界。

ビーストは呻く。何故、自分が宝具を食らっているのか。何故、神仏を燃やす炎が己の身を焦がしているのか。

信長はフリーズするビーストを逃がすまいと更に深々と刀を突き立て、笑った。

 

 

「全く、お主はほとほと、可哀想なくらいに他人の考えを見抜く目というものがないのう」

 

「何、だと……」

 

「わしが()()()()()()()()()()、と言ったのも、毎日ガシャットを持ち出したのも、全てはこうするためじゃったというのに」

 

「なっ──」

 

 

……そして思い出す。これまでの信長の行動を。

 

自分を持ち上げて神性を獲得させたのは、宝具を効果的に使う為だった。

毎日ガシャットを持ち出したのは、好きなように手を加えるため。

 

しかし。しかし、信長にそれが出来る能力はない。そんな力は与えていない。ビーストは炎の中で考える。

……その疑問は、すぐに晴れた。

 

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

「っが……!?」

 

 

紅蓮の火に、青い炎が継ぎ足される。当然、その炎を放ったのはアヴェンジャーで。

 

ああ、そういうことか。ビーストはいっそ冷静になって思った。

アヴェンジャーならば、ガシャットに手をつけられる。その思考能力は、場合によっては神の想像を越えるもの。信長とアヴェンジャーがやけに親密だったのはそういう訳だったのか、と。

 

 

「信長さんっ!!」

 

 

シールダーが声を上げる。この火力だと、信長の霊基まで焼き尽くされてしまうと。既に日中だった筈なのに、信長の炎は周囲から影という影を取り払った。

……信長は当然のように忠告を無視する。そして、炎の中で大声で独白した。

 

 

「何故わしがこうしたのか解るか、マスター!!」

 

「……」

 

「あの旅は、よいものじゃった。人類史を駆け世界を救う旅。わしは、とてもカッコいいと思うぞ? それが本物でも、そうでなくても」

 

 

それは信長の本心。今日まで暗躍し続けたゲンムのアーチャーの原動力。

 

 

「しかし、後始末がいけなかった。お主、あろうことか派手にバラしてそれで終わりじゃったからな!! 何のフォローもなく、虚無だけ残して全てを終らせ、そして突然覚醒させた。お主に散々引っ掻き回されたマシュの内心が穏やかじゃなかったことは言うまでもあるまい?」

 

 

彼女は、才ある者を愛する。当然、檀黎斗も。しかし同時に、認められる働きには恩賞を与えるべきであり、身内にはなるべく甘くなければならない、という考えもあった。だからこそ……黎斗のやり方が気に食わなかった。

 

 

「わしはな、活躍した部下には然るべき恩賞を与えるべきだと思うのじゃ。去るのなら、満足と納得の上でなければならない。じゃが、お主はそうではなかった」

 

「っ……」

 

「だから、わしが代わりにやったのじゃ。全てのサーヴァントが、笑顔で退場出来るようにな」

 

 

ゲンムのセイバー、ジークフリート。マシュ・キリエライトに正義を託して消滅。

ゲンムのランサー、エリザベート。最後の希望を回収して、その希望を繋いで消滅。

ゲンムのキャスター、ジル・ド・レェ。アサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラ。バーサーカー、カリギュラ、各々、檀黎斗に希望を託して消滅。

 

ここまでは、どうにかこうにか、皆が笑顔で終われるようにやってきた。彼女自身があの旅に価値を認めていたから、各々のサーヴァントの命を悲劇で終わらせるわけにはいかなかった。

命はいつか終わる。なら、幸せに逝くべきだ。それが、信長の正義だった。

 

 

「私は君を……君達を、侮っていたらしいッ……!! はああああああっ!!」

 

   バチン バチンッ

 

 

……そこまで聞き届けたビーストは全身に力を籠めて、己の装甲、燃え盛るカルデアスの外装を勢いよくパージした。

周囲に破片が弾丸にも勝る勢いで射出され、もろに食らった信長はビーストから引き剥がされシールダーの元まで飛ばされる。

 

 

   グシャッ

 

「信長さん!?」

 

「っつ……流石にやりすぎたのう。こんなにバーニングしたんじゃから、是非もないよネ……!!」

 

「そんな……」

 

 

その体は、消滅を始めていた。信長はふらふらと立ち上がって、透けた手足でシールダーへと歩み寄り、弱々しく、でも力強く抱き締めた。

 

 

「っ……」

 

「先に逝って待っておくぞ、マシュ」

 

「……ありがとうございました」

 

「……楽しかったか?」

 

「ええ……とても」

 

「なら、良かった」

 

 

そして……シールダーは刹那の間感じていた信長の重量を見失う。

 

ゲンムのアーチャー、織田信長。笑顔で死す。

 




次回、仮面ライダーシールダー!!



───神の暴走

「溶け出してる……」

「神に人のカタチなど必要あるまい」

「あれは、私達に任せてください」


───駆け抜ける少女

「あの時の答えを見つけました」

「君は私に敵わない」

「私だけの戦いは、もう止めました」


───最後の決意

「最後まで、付き合ってください」

「これが旅の終わり」

議決開始(ディシジョン・スタート)


第七十一話 色彩


「私が見ている未来は一つだけ」

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