「我が無限の光輝、太陽は此処に降臨せり!!
「■■■■■■■ァァァァッッ!!」
空から降り注ぐピラミッド。その真下のビーストはそのピラミッドに熔解させたカルデアスを噴射する。二つは互いを融かしあい……ピラミッドが破壊された。
「チッ……小癪な真似を」
「あれは……近づくには熱すぎるのだろうな。先程よりも熱量が増しているように見える」
半身を分離したことにより意識を失い、敵を倒すプログラムに戻ったビーストは、今や人としての形を捨てつつあった。
より効率的な攻撃を。より効果的な攻撃を。それを突き詰めていった結果、ビーストの全身は熔解したカルデアスで包まれ、体からそのカルデアスの一部を切り離し、自由に動かすような攻撃をするようになっていた。
その温度は凄まじく、しかもさらに高温になっていく。もうブレイブのガシャコンソードは豆腐のように溶かし斬られるようになっていたし、スナイプのミサイルも近づいただけで勝手に暴発するようになっていた。
『無双セイバー!!』
『大橙丸!!』
『オレンジ チャージ!!』
ジュワッ
「やはり届かないか……!!」
形成した薙刀を投げつけてみた鎧武も、物理攻撃は届かないと受け入れる。しかしあの熱の前にはどんな冷気もどんな水も届かない。
「打つ手が、ない……」
そんな声を漏らしたのは誰だったか。少なくともそれは、全員の脳裏に首をもたげた感情で。
「■■■■■■■!!」
「っ、来るぞ!!」
「気を付けろ!!」
一際大きくビーストが吠えた。もうヒトガタではないそれは胸元がパックリと開き、そこが口のように動いていて。
そしてビーストは一つのサーヴァントへと超高速でカルデアスを伸ばした触手を向かわせる。
ソロモンだった。
「不味いっ!!」
バリン
バリン
バリン
「っ……」
展開した防御術式は紙のように砕かれていく。その一撃はソロモンに迫り、飲み込まんと口を開き──
……刹那。
「……■■■、■」
ビーストの動きが一瞬止まった。同時に少しの間グラフィックがバグを起こし、放っていた熱も段々と低くなっていく。
彼らは知るよしもなかったが、この瞬間に、もう片方のビースト、真檀黎斗が消滅したのだった。
「……今か!!」
『
次の瞬間、ビーストがどうにか押さえ込める温度まで低下したと踏んだバビロンが己の蔵を展開し、ビーストの体を金の煌めきを携えた鎖が縛り上げる。真黎斗によってゲーム上最高の神性を備えたビーストは、四肢を動かすことすら敵わない。
「お? 決まったか?」
「慢心をするな九条貴利矢。あの程度で私は倒せない」
「そうよマスター、ほら、カルデアスが伸びてくるわ、避けて!!」
しかしそれでも、ビーストはまだ自在にカルデアスを伸び縮みさせて操ることが出来て。熱量も減らされたとはいえどちらにしろ触れれば致命傷だ。
タラスクを失ったマルタは飛び退きながら光弾を壁のように展開して解き放ったが、その全てはカルデアスに飲み込まれて塵と消えた。
「……精々、切っ掛けは開けた、程度のものか。まああの獣に対してなら上等よ」
「ふん、口が大きいぞ太陽の」
オジマンディアスとバビロンがそう言葉を交わす。その隣ではロムルスと山の翁が伸縮するカルデアスをいなしていて。
「……彼女は、やったみたいだ」
体勢を立て直したソロモンはそれを眺め、また自分でも攻撃を続けながらぼんやりと呟く。再び彼に並び立ったアヴェンジャーがそれに小さく頷き、問った。
「そのようだな。……後はどうすればいいか、分かるな?」
「ああ、当然、分かっているさ」
そしてソロモンは手を握り締める。
今の彼は自分の魔術の威力を最大にでき、また大抵の魔術を扱うことも出来る。
そう、それは、あの自分から溢れ出たとされたあの獣の魔術に関しても例外ではなく。
「……あの子の決意を無駄にはしない。僕も彼を、倒すだけだ」
ソロモンの右手の回りに、小さな光帯が出現した。
───
「私は諦めない!! 私の才能は、不滅よ!!」
ナーサリーは悟っていた。もう真檀黎斗は斃れたと。彼は選択肢を間違えたのだと。……それでもまだ、自分が残っている。ナーサリーは諦めるという手段を持たなかった。
ビーストだってどうにかなる。ここでこのライダー達の、サーヴァント達の猛攻を堪えて撤退できれば、落ち着いた時間さえ手に入ればビーストの主導権を自らに移行できる。
自分には神の才能がある。例えマスターが居なくとも、堪えてみせる。
そう思えばこそ、ナーサリーの攻撃は益々勢いを増した。
『ときめき クリティカル ストライク!!』
「はあああああああああっ!!」
彼女は地面に手をつきキメワザを発動する。彼女の全力を注ぎ込んだその攻撃は地面から伸び上がった無数の薔薇の蔓に姿を変え、壁となり槍となり、周囲へと襲い掛かって。
「っ!! 下がって!!」
『シールド オン』
咄嗟にシールドモジュールを展開したフォーゼが前に出て、他のライダーを庇った。……しかし、荒れ狂う植物の波の前には、あまり長く持つようには思えなくて。
ガリガリガリガリ
「ニコちゃん、しっかり!!」
「分かってるって!!」
それを見つめていたイリヤは、再びナーサリーの敵となった彼女は、一旦目を閉じてここまでの戦いを想起する。
自分のことを考えて動いてくれたアヴェンジャー。
目的を果たして消えていったエリザベート。
最後の最後に役目を果たした信長。
二週間にも満たない短い戦いだった。
決して沢山のものを見たとは言えず、決して正しい答えを見つけたとは言えない。
それでも。
「……力を、貸してください!!」
もう、これ以上、これまで戦ってきたサーヴァント達を苦しませない。もう、戦わせない。
イリヤはそう心に決めて、まだ持ちこたえているフォーゼから数歩分後退り、あの時受け取ったランサーのクラスカードを地面に押し付けた。
「……やるんですねイリヤさん?」
「うん……インストール!!」
体が光に包まれる。目の前にはいよいよ限界なのかひび割れていくシールドモジュール。周囲には伸びていく薔薇の蔓。
……その全てを、断つ。
イリヤの右手に槍が現れた。エリザベートの槍。もう何回も使っているのを眺めた槍。そして衣装も、エリザベートの物に変化する。
ガリガリガリガリ
「もう……むりポ……!!」
「っ、どうしよう……」
……転身は完了した。
役者は交代する時間だ。
「……ここは、任せてください!!」
「主人公の参上ですよっ!!」
次の瞬間、イリヤはフォーゼの前に飛び出して、槍の一振りで全ての蔓を切り裂いた。
ザンッ
「……そんなっ……!?」
「貴女、その姿は……」
「……エリザベートさん、一緒に、戦ってください!!」
彼女は走り出す。槍を振り回して飛んでくる攻撃を斬り伏せ、薔薇の壁を貫き、ナーサリーの本体へと斬り込んでいく。
それを、他の人々が黙って見ている謂われもなく。
「戦いぬきましょう、最後まで!!」
そしてナイチンゲールも、ポッピーもフォーゼも、彼女に続いて駆け出した。
───
『ズズズッキューン!!』
「はあっ!!」
ガシャコンキースラッシャーから射撃を放つエグゼイド。それは確実にビーストを捉えたが、半ば液体になっていたビーストには大した痛手でもなく、開いた穴はすぐに塞がっていく。
「っ……なら、もっと吹き飛ばす範囲を増やすまで!!」
『ロボッツ!!』
『マフィン!!』
それでもエグゼイドは屈しない。今度は彼は一撃で破壊する範囲を増やそうと、巨大な腕パーツを特徴とする二本のガシャットをガシャコンキースラッシャーに装填して。
「宝生永夢ゥ!!」
「んっ!?」
……いきなり聞こえたその声に、エグゼイドは思わず振り返った。そこには、丁度近くにコンティニューしてきたゲンムが、昨日使ったガシャットを持って立っていて。
「残りライフ7……これを使え!!」
そしてゲンムは、そのガシャットを……Holy grailをエグゼイドに投げ渡した。
手に取ったエグゼイドはそのガシャットの異変に気づく。……加工されていた。丁度、ハイパームテキが合体出来るように。
「これは……」
「あのガシャットを改良した。マキシマムマイティXより、このガシャットの方がより効果的だろう」
「……分かりました」
『ガッシューン』
エグゼイドはその言葉を信用して、一旦変身を解き、渡されたガシャットの電源を入れる。
『Holy grail』
『ハイパームテキ!!』
『ガッシャット!! ガッチャーン!!』
『ドッキーング!!』
確かに、ハイパームテキはHoly grailに合体した。後方を仰ぎ見れば、そこでは二つのゲームタイトルが融合し、白金の輝きを放っていて。
再び前を見る。鎖に縛られなお暴れるビーストが、それに立ち向かう人間とバグスターが目に入って。
今度こそ、本当にゲームを終わらせる時だ。
「ウルトラハイパー 大変身!!」
『パッカーン!!』
エグゼイドが光を身に宿す。
『輝け 黄金の聖杯!! 願い抱く最強ゲーマー!! ハイパームテキ エグゼイド!!』
「……戦いを終わらせて、皆を取り戻す!!」
それは、プラチナのように白金に輝くハイパームテキ。死のゲームになってしまったFate/Grand Orderを終わらせるドクター。
「はああああっ!!」
駆け出す。次の瞬間にはエグゼイドは風となり、ビーストの体に腕を捩じ込んでいて。
バキン
「──■■!?」
「ビーストが……固まった!?」
「何だありゃあ……」
その腕をねじ入れた周辺が急激に冷却され、個体となり、動かなくなった。ビーストの動きが鈍る。
エグゼイドにしか出来ないことだ。Fate/Grand Orderのプログラムに聖杯として直接介入できるエグゼイドにしか出来ないこと。ハイパームテキの力でのプログラムの一部破壊、そしてHoly grailによる剥き出しになった部分の変質。
今の彼なら、ビーストを弱らせられる。
───
『エレキ オン』
『クリティカル サクリファイス』
「「そりゃああっ!!」」
ザンッ ザンッ
「っぐ……ううっ……!!」
ナーサリーは後ずさった。雷を纏ったバリズンソードとチェーンソーモードのガシャコンバグヴァイザーⅡ、二つの刃をもろに受けた腹に痛みが走り、彼女は思わず膝をつく。ライフゲージは残り3つ。
横目では、体の各所を個体にされていって段々鈍くなっていくビーストを捉えていたのだが、そこに救援に迎えるようにも思えなくて。
「緊急治療!!」
「
ガンガンガンガンッ
余所見をしていたら、また大きな一撃を食らってしまった。大きくよろける。
「っ……酷いわ、もう……っ!!」
……ふと、ナーサリーの脳裏に、カルデアでの旅が蘇った。
初めは怖かったけれどすぐに馴れたマスター。何だかんだで協力的だったサーヴァント達。頼もしかったマスター。立ちはだかってきた敵。才能を開花させて、それを信じてくれたマスター。そのマスターを信じた自分。
「……ふふっ」
笑いが漏れた。丁度、目尻の向こう側にビーストの、真檀黎斗が抜け出した痕である裂け目が見えた。
あの中に飛び込んだなら、あるいはビーストと一体化出来るかもしれない。確証はない。自滅の可能性も高い。しかしこのまま足掻いても勝てるかは怪しかった。もうゲームマスターの優位はない。
ナーサリーは走り出す。ビーストへと。その裂け目へと。
「っ、逃がさない!!」
『ランチャー オン』
『ネット オン』
ミサイルが飛んでくる。躱す。
「まさか……!!」
『クリティカル ジャッジメント』
ビームが飛んでくる。直感で躱す。
この高揚感は何時ぶりだっただろう。走りながらそんなことを思った。バビロニアでグガランナを造った時だったろうか。ロンドンで黎斗と一体化してビーストⅣに立ち向かった時だったろうか。
とにかく、黎斗と共にいた頃で間違いはない。そして、ここに来てからは覚えたことがないものだ。
「マスター……マスター……マスター!!」
声を上げていた。
楽しい。
楽しい。
とても愉快だ。純粋に愉快だ。
……もう、それで彼女は満足していた。
ドスッ
「っ……」
「──治療の最中です。動かないで。……この世界は、何としてでも治療します」
不思議なことに、回り込んできたナイチンゲールに鳩尾を殴られ歩みを止められても、その満足感は消えなかった。
「ここで、決める!!
彼女が最後に見たのは──
───
『バンバン クリティカル ファイアー!!』
「はああっ!! ……はあ、はあ」
「まだ戦えるかスナイプ?」
『回復!!』
『回復!!』
スナイプはよろけながらも、パラドクスの支援で立ち上がった。それをするのはもう何度目か。……言えることは、ようやく攻撃が通るようになった、ということだった。
目の前ではタジャドルコンボのオーズとムゲン魂のゴーストが空を舞い、ビーストへとエネルギー弾を撃ち込んでいる。
「大我、大丈夫?」
「ああ。そっちこそ、大丈夫なのか」
「どうにかね」
そして、後から追い付いたフォーゼとスナイプが並び立った。
もう
そしてそのビーストも、ここまでの全ての戦力の努力によって、動くことも出来ず、攻撃も飛ばせなくなった。
あとは、決着をつけるだけ。
『キメワザ!!』
エグゼイドが、ドライバー上部のボタンを叩く。白金の光は足元に集まり、ますます輝きを増していく。
そのエグゼイドの横に立ったナイチンゲールは、何も言わずに、ただ静かに拳を構えて。
……次の瞬間、ビーストを囲むように孔が開いた。聖杯の孔、空間を繋ぐ孔。……その孔の其々は、ビーストを囲んで立つ全ての存在の前に開いていて。
この戦いは、バラバラでの戦いだった。
なら最後は、全員で。
「……フィニッシュは必殺技で決まりだ!!」
『Hyper Grail Critical Sparking!!』
最初に飛び出したエグゼイドは、ビーストの天辺に突き刺さった。続いてナイチンゲールは、その隣に拳を捩じ込んでいく。ビーストが呻いた。
『タドル クリティカル ストライク!!』
『バンバン クリティカル ファイアー!!』
『爆走 クリティカル ストライク!!』
『デンジャラス クリティカル ストライク!!』
『パーフェクト ノックアウト!! クリティカル ボンバー!!』
『クリティカル クルセイド』
ブレイブ。レーザーターボ。ゲンム。パラドクス。ポッピーの足が突き刺さり、スナイプのミサイルが継ぎ足されていく。比例するようにビーストの悲鳴が弱々しくなっていく。
『スキャニングチャージ!!』
『ロケット ドリル リミットブレイク!!』
『極 スパーキング!!』
『チョーダイカイガン!! ムゲン!! ゴッド オメガドライブ!!』
「……悔い改めなさい!!」
赤いオーズ、青いフォーゼ、銀の鎧武、白いゴースト、そしてマルタ。それらもビーストに突き刺さり、最後の一撃に加わる。
そして、並んだサーヴァント達もまた、この攻撃に加わった。
「……
光がビーストの内部に刺さっていく。
『ブレイカー クリティカル ストライク!!』
「
嵐がまた別の方向からビーストを壊していく。
「
「
「
大樹が刺さる。死が食らいつく。神殿が降り注ぐ。
「
「
誰もが、戦いの終わりを望んでいる。もう、これ以上の苦しみは望まない。もう、これ以上の試練は望まない。
そして最後は、ソロモンの番。
光帯が回転数を増していく。熱量を増加させていく。今の彼ならば、あの宝具を発動できる。
……あの日を思い出した。あの、ゲーティアの神殿にマシュと黎斗が突入した日。黎斗が正体を明かした日。全てが終わった日。
あの時自分は、管制室から見ることしか出来なかった。
でも今は、自分はゲーティアのように、黎斗に止めを刺そうとする。
……皮肉だなと、少し笑った。
そして、全力で、人理の砲撃を再現するー
「……
───
『ガッシューン』
「……ふぅ」
永夢は変身を解いた。手に取ったHoly grailはもう黒ずんでいた。電源は起動しない。他のガシャットロフィーも同様に起動しないようだった。彼はハイパームテキを懐に閉まって振り返る。ナイチンゲールがたっていた。
「……お疲れ様でした、マスター」
「はい……ありがとうございました」
ビーストは消滅した。Fate/Grand Orderは砕けた。もう起動しない。ソロモンが誰よりも早くガシャットを回収して、熱で燃やした後に粉砕してしまった。
テッテレテッテッテー!!
「フゥッ!! ……残りライフ、2……差し引きでライフの増減は0か。まずまずの結果だな」
「黎斗さん……」
「檀黎斗神だ!!」
土管から現れた黎斗神は、裾を払いながら周囲を見渡す。……周囲全てのサーヴァントの姿が、透け始めていた。
マルタと向かい合った貴利矢が、分かっていたような、悲しいようなそんな曖昧な顔をする。
「何て顔してるのよ、マスター」
「ああ、いや、な……」
「はぁ……情けないわね」
マルタはやれやれと首を竦めて、少し背伸びをして貴利矢の頭を撫でた。
「……姐さん」
「私は楽しかったわよ? それで良いじゃない。……いいマスターだったわよ、貴方」
「そうかい……ありがとな」
「ええ……ありがとう、ね」
……そして、マルタは消滅した。
CRのサーヴァントは、これにて全てが消え去った。
「我はここに興味はない」
「気があったな、余も同じことを思っていた」
「どこか腹立たしいですが、私もです。この世界の未来は、この世界の住民が決めることでしょう」
「
「……我はただの骸だ。最早ここに役目はない」
ギルガメッシュ、オジマンディアス、アルトリア、ロムルス、山の翁が次々と退去していく。ガシャットという依代のないバグスターはあまり長持ちしない為だった。……ギルガメッシュはどちらにしろ変身の反動で消滅する定めだったが、この世界に未練はさっぱりなかった。
この世界に、この世界ではない場所の住民の口出しは不要だ……その考えに相違はなく。全てが金の光として消えていく。
「……オレは行くが、どうする?」
「あ、私も行きます。あんまりいると、迷惑になっちゃうでしょうし」
「お二人共ハードボイルドですねぇ。もっと名残惜しそうにはしないんですか?」
「まさか……これでいいんだ。ああ……酷く、疲れたな」
アヴェンジャーとイリヤ、そしてルビーも消えていった。真黎斗に作られた物語は、もうこれ以上の改悪は望まない。安らかな眠りだけあれば十分だ。
「行くぞ、シータ」
「うん……行こっか」
「……最後まで、君が僕の側にいてくれて、本当に良かった」
「私も。……本当に、ありがとう」
「ありがとうを言うなら、彼らにだ」
ラーマとシータも退去を選ぶ。互いの手を握りながら、一つCRの人々へと深々と礼をして。……もう、苦しむ必要はない。
「……ふぅ」
そしてソロモンは一人誰からも離れ、ロマニ・アーキマンに戻って、見つけた手頃なベンチに腰かけて辺りをぼんやりと眺めた。
街が直っていく。割れた大地も崩れたビルも消えた人々も、そうあるように改編したFate/Grand Orderが消滅したことで元に戻っていく。……人々の中のFate/Grand Orderでの記憶はかなり薄れたようで、周囲は混乱しているようだった。
「うん、満足満足。ボクの役割はここで終わりだね」
そしてロマニの体も、足先から消え始める。もう、自分達が呼び戻される心配はない。
彼は青い空を見上げた。どこまでも広い空。きっとマシュも見上げただろう空。
「……お疲れ様」
そして、カルデアにいた一人の職員、ロマニ・アーキマンは、戦いの終わりを見届けて消滅した。
「私もそろそろ限界ですね」
「……ナイチンゲールさん」
永夢は、ナイチンゲールの手を握っていた。もうその手には令呪はなく、もうナイチンゲールの体温も感じられない。空気を握っているような感触だった。
それを実感して、永夢は妙に泣きそうになった。
そんな永夢を、ナイチンゲールが抱き寄せる。
「……マスター」
ギュッ
「え、あ……」
「これからも、戦い続けて下さい、マスター。貴方なら、人々を病から救うことが出来ます。貴方なら、人々を恐怖から救うことが出来ます……私は信じています」
「……はい」
「私は側にいます。貴方が戦う限り。……それを忘れないで」
感触が薄れていく。体重が感じられなくなっていく。
寂しくて、よりいっそう強く抱き締めて。
「……ありがとうございました。貴女が僕のサーヴァントで、本当に、良かった」
「ええ……私も、貴方がマスターで良かった」
最期に、ナイチンゲールは永夢の顔を見る。その顔は、泣きながらも笑っていた。希望を確かに抱いていた。
……それに安心して、彼女も空に消えた。
───
「ああ、作さん。体は大丈夫ですか?」
「お陰さまで何とかなってますよ。いやー、戦いが終わって本当に良かった」
その数日後。復旧が済んだ聖都大学附属病院にて、永夢は作と並んで話していた。ここ数日は連日の騒動の対処としてCRでゲーム病の一斉検査を行っている為かおちおち眠る暇もなく、これが永夢にとって暫く振りの休憩だった。
「で、その時助けてくれた魔法使い……彼は、何処に?」
「それが何処かに行っちゃいまして……足取り掴めないんですよね」
「そうですか……」
「……あ、僕ここから放射線科行くので」
「あ、お気をつけて!!」
そして永夢は作と離れて、一人で廊下を歩く。と言っても廊下は静かではなく、何処に行っても、ゲーム病から解放された人々の笑い声が聞こえていた。
戦いは終わったのだと、漸く自覚出来た気がした。
黎斗神は再び収容され、今はパラドに頼まれて新作を作ることに熱中しているらしい。もうこの前のような事件は、きっと起こらないのだろう。
灰馬も飛彩も医者として復帰したし、花家医院を再開した。全てが元に戻りつつある。
「……ナイチンゲールさん」
ふと呟く。そうしないと、うっかり彼女のことを忘れてしまうような気がした。……あの戦いを、あの出会いを忘れない。永夢はそう強く心に決めた。
窓の外を見れば、青い空がどこまでも澄んでいた。
「……僕は、頑張りますからね」
その言葉は空に溶けた。
檀黎斗神へ
貴方は我々に沢山のことを教えてくれました。
不屈であれ。己の才能を信じよ。自信を持て。常に上を向き続けろ。果たすべき仕事なら命も賭けよ。自らの行いを信じよ。笑顔を忘れるな。ユーモアを持ち続けろ。
貴方の教えを心に抱き続けたからこそ、こうしてこの物語を完結させることが出来ました。
我々は貴方の才能を持っていません。ですが、それでも我々には別の才能がある筈です。我々はその各々の才能を信じて、いつか貴方の御座に辿り着きます。
偉大なる檀黎斗神。
高笑いと共に、見守っていて下さい。
仮面ライダーシリーズと、Fateシリーズと、ここまで見てくれた読者の皆様に無上の感謝を。
初手降参