Fate/Game Master   作:初手降参

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幻の夢、無限の戦士

 

 

 

 

『ガンバライジング!!』

 

 

水色の閃光をガシャットが放つ。ビーストⅣは彼を警戒し攻撃を浴びせ、しかしゲンムは吹き飛ばされる事はなく。

 

 

〔どうせ一時の力、もう限界は近いだろう!!〕

 

   グシャッ

 

「んぐぅ……だが、まだまだ!!」

 

 

鳩尾に拳を受けながらゲンムはそう言って、ビーストⅣから数メートル後ろへ飛び退いた。

そして未だこちらを睨む獣と距離を取って、彼は着地する。

 

 

   ミシッ

 

「っ!! ……チッ、体の限界が近いか」

 

『ガッシューン』

 

 

着地する時に、全身の骨が軋んだ。いくらゲンムが不死身だとは言えども、結局ダメージは食らうのだ。

ゲンムは苛立たしげな声を出して、ガシャットをドライバーから引き抜いて。

 

 

「……本来はこうして使う訳ではないのだがな」

 

『ガッシャット!!』

 

 

そして。変身が解けゲンムの姿から戻るより早く、その空いたドライバーに……普段ならデンジャラスゾンビ以外入れない筈のそのスロットに、ガンバライジングガシャットを装填した。

 

 

「……変身!!」

 

『バグル アァップ』

 

『ライドバースト!! バーストブレイク!!』

 

『ジェノサァイ!!』

 

『ガンバガンバライジング!!』

 

『ウォー!!』

 

 

ゲンムの姿は変わらない。力も変わらない。速さも変わらない。ドライバーに装填しているのがデンジャラスゾンビでは無いのだから、寧ろ不死身性はゾンビゲーマー時のそれに比べると数段落ちていて。

 

それでもゲンムは笑う。意地でも笑う。

 

 

〔……何だ、それで何をした〕

 

「……私は神だ。ゴホッ……ゲームを作る神の才能を持っている」

 

〔……突然何を語るかと思えば、また恥の上塗りか〕

 

 

ゲンムは折れそうな足に鞭打ち、その場にしっかりと足を踏ん張る。意識はちょっと気を抜けば飛んでいきそうだが、そこをぐっと堪える。

彼の語りを聞きながらビーストⅣは顔をしかめ、黙って傍観に徹していたソロモンは、ゲンムをやはり見下していて。

 

 

「私は神だ……だが、それはあくまで、ゲーム作りに限ってだ。少なくとも私は、ゲホッ、私よりもアイデアに優れた者(宝生永夢)や、私よりも冷静沈着な者(鏡飛彩)や、私よりも覚悟を決めた者(花家大我)を知っている。非常に癪だが、一面から見れば現在の私よりも、ゴホゴホッ……強い存在を知っている」

 

〔……で?〕

 

「……私は神だが、彼らの存在を認めないほどに腐ってはいない。だからそれを、私の知る最強達を。()()()()()

 

 

 ガッシャット!!

 

 

〔……!?〕

 

 

ゲンムの前方から……何も無かった筈のそこから。突然音声が響いた。

ビーストⅣ、そしてソロモンはそちらを見やる。

 

しかし。そこにはやはり何もおらず、しかし確実に何者かの存在は感じられて。

その上で、他方からも何かが聞こえてくる。

 

 

 カメンライド!! サイクロン ジョーカー!! タカ!! トラ!! バッタ!! 3!! 2!! 1!!

 

 

「何だ……何だこの音は!! どこから聞こえてくる!!」

 

〔……まさか、貴様は!!〕

 

 

音が鳴っているのはゲンムの前だけではない。

()()()。人類を滅ぼし得る異形の存在二体を囲み込むように、無数の音声が轟いていく。辺りを見回せば、その全てから音が弾けている。

 

 

「ガハッ……教えてやろう」

 

 

 シャバドゥビタッチヘンシーン!! ソイヤッ!! オレンジ アームズ!! ドラァイブ!! タァイプ スピード!! バッチリミナー!! バッチリミナー!!

 

 

「……仮面ライダーの、連鎖召喚……それこそが、ガンバライジングガシャットの真髄」

 

 

音だけの存在が、ある瞬間を起点に、その全てが実体を持つ。

 

先程まで高らかに変身音声を掻き鳴らしていた者。そうでなくとも、確実に変身していた者。

全く違う姿の者、鏡写しのように同じ姿の者、色違いの者。

敵対する者、憎みあう者、信頼しあう者。

そして、ゲンムの前には三人の存在。

 

並ぶ、並ぶ、並ぶ。その数は軽く見積もってもまず確実に50は越える。

 

 

「馬鹿な、これだけの数の御使いだと!?」

 

「ゲホッ……御使いとは心外だな。……言っただろう? 彼らは」

 

 

 レッツゲーム!! メッチャゲーム!! ムッチャゲーム!! ワッチャネーム!?

 

 

現れるのは、焼き尽くされたこの世界には存在しない筈の英雄達。子供達に好かれ、そして守る者。

 

人間の夢と自由と平和を守り、彼らの正義を貫く戦士。

 

 

「彼らは、皆、仮面ライダーだ」

 

 

 アイムア カメンライダー!!

 

 

ゲンムの前で、三つの仮面ライダーが変身を終えた。

そう、仮面ライダーが、並んでいた。

 

 

〔まさか……まさか、全員貴様と同じ仮面ライダーだと!?〕

 

「ふっ……成程、カルデアのマスター、これがお前の切り札か。中々だが、しかし愚かだな。結局、数を幾ら重ねようと……!!」

 

 

嘲笑うソロモン。しかし彼らを囲む戦士達は決して怯まず。

何故なら……その力は無限。その勇気は無限。

……彼らを無条件に信じることが出来る、守るべきものが、焼けたこの世界にはいない誰かが、この世界にしてみれば最早あり得ない幻でしかない誰かが……しかし彼らの中にはいたのだから。そして……彼らはきっと助けを求めているから。

 

 

「ここは……?」

 

 

ゲンムレベル1と同じ体型、同じ髪型の戦士が呟いた。辺りを見回し……そして、眼前の二体が倒すべき敵なのだと認識する。

 

 

「……ゲンムか」

 

「貴様、説明しろ!!」

 

「……悪いが、今の敵はあの化け物だ」

 

 

水色と藍色のレベル1はゲンムに反応したが、指摘を受けるとすぐに目の前の敵対者に向き直る。

 

 

〔……行くぞ〕

 

「……ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!」

 

 

ビーストⅣに向かって、ゲンムの色違いはそう言った。そして、ドライバーのレバーを解放する。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マイティマイティアクション!! X!!』

 

 

世界の命運を決める戦いが、今ここに。

 

───

 

「あれは……サーヴァント、でしょうか?」

 

「いや、他分違う。平均して見るとその強さこそは一体一体がサーヴァントと同等、そのうちの幾らかはそれ以上のポテンシャルを持っているが……あれは寧ろ、檀黎斗の出すゲーマに近い」

 

 

ロマンとマシュは画面を食い入るように見つめながらそう言葉を交わした。画面の向こうでは、丁度ゲンムの色違いがビーストⅣの攻撃を回避していた。

……使い魔の超連続召喚。これまで沢山の予想外を引き起こしてきたゲンムだったが、まさかこんな事までやってのけるとは。

 

だが、見ているだけでゲンムの体にガタが来ていると言うことは伝わってきた。

ビーストⅣとソロモンに朗々と語っていながらも、彼は肩で息をし、定期的に……恐らく血でむせていた。

 

 

「……ドクター。私、やっぱり黎斗さんが分かりません」

 

「……そうだね」

 

「残酷で冷血漢で、人を殺しても何の躊躇いも見せず、仲間を道具と切り捨てて。なのにこんなときでも逃げ出さず、叫びながら身を削って相手に挑んでいく……分かりません。黎斗さんが、分かりません」

 

「……ボクもだよ。ボクには彼は信じる気に

はなれないが……それでも、こうして戦う彼には頼もしさを感じてしまう」

 

 

画面の向こうでは、ゲンムと、そして彼の呼び出した無数の仮面ライダーが戦っていた。

 

緑色をした、バッタみたいに跳ねる戦士がいた。赤いクワガタみたいな戦士もいれば、赤いカブトムシみたいな戦士もいて。隣に目を向ければ、数十秒毎に人格が変わる戦士もいた。

緑と黒の半分こ怪人は突然左右の境目をこじ開けるし、ルビーを彷彿とさせる宝石の頭の男はその体をダイヤモンドに置換する。

 

滅茶苦茶だった。

 

でも、マシュはそれを不快には思わなかった。

 

 

「……頑張れ、仮面ライダー」

 

 

思わずそう呟いていた。勿論、相手がフォウだったので、結局どうなっても辛いのだが……

 

……己の正義を掲げ人々の為戦っているのだろう彼らには、負けてほしくなかった。

 

───

 

 フル チャージ マキシマムドライブ!! オメガ シュート!! 

 

   ズガズガスガンッ

 

「がぁっ……!? ……予想外だな、ここまでの威力とは……」

 

 

ソロモンは、多くの魔神柱で仮面ライダー達をを凪ぎ払いながら、しかし全ての攻撃を防ぐことは出来ず、その土手っ腹に幾らか攻撃を受けた。

……正直な話、ソロモンにとっては、ただ第四特異点を攻略しようとする黎斗を脅しに来ただけのつもりだったが……それにしては、ビーストⅣや仮面ライダー達との戦闘で、痛すぎるダメージを負っていた。

 

そして、ビーストⅣとゲンムは未だに殴りあっている。

ゲンムは既にいつ倒れてもおかしくなかったが……それでもスペックをフル活用して意識を保つ。しかし持った強い意志を力に変換することで攻撃を受け止めていたゲンムは、だんだんと再びビーストⅣに圧倒され始めていた。

 

 

   グシャッ

 

「ぐふうっ……!!」

 

 

対するビーストⅣは、ゲンムを数メートル吹き飛ばし、辺りを見やった。

縦横無尽に駆け回る仮面ライダー達。その半数ほどは自分に武器を向けている。本来なら歯牙にもかけない程度のダメージではあったが……

 

 

 アタックライド スラッシュ!! ロイヤルストレートフラッシュ トリプル スキャニングチャージ!!

 

   ガギィンッ

 

〔ぐぅっ……ははっ、檀黎斗、これが、お前にとっての美しいものか!!〕

 

「そんな訳が無いだろう!! この世で最も『美しい』物は私の才能に決まっている!! だが……私は彼らにも目を置いている、それだけだ!!」

 

 

攻撃をその尻尾でどうにか受け流すビーストⅣ、そしてそれに吠えるゲンム。不死身の彼は、しかし既にボロボロだった。顔面は凹み、バイザーは砕け散り、腕は既に複雑骨折に近い。

 

だが。

 

 

〔……何時まで立つつもりだ?〕

 

「決まりきった事を……お前達が倒れるまでだ!! 私は、何としてでも、このゲーム(人理焼却)をクリアする!!」

 

〔……何故?〕

 

「私の才能を腐らせないため……そして、私の恵みを受ける全てのプレーヤーの為!! そう、私こそが!! 誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)!!」

 

 

ゲンムが叫ぶ。それどころか、体内のバグスター(サーヴァント)の力を引き出し、再び全身に力を籠める。

本来、体の形を保っているのが精一杯の筈の彼のどこにそんな力があったのか、それは誰も知りようが無いが……

 

……それでも。腐っても彼もまた、人間の為に戦う人間(仮面ライダー)だった。

 

 

『クリティカル エンド!!』

 

「はあっ!!」

 

 

ビーストⅣとソロモンを囲んだ体制のまま一斉に飛び上がるゲンム、そして無数の仮面ライダー達。

 

 

「くっ……まさかお前にここまでやられるとはな檀黎斗!!」

 

〔……そうか、これが仮面ライダー(お前の正義)か……はは、成程な。これはこれで、また、美しい……かもな〕

 

 

ビーストⅣはどこか達観したような、満足した顔でそれを受け入れようとし、そしてソロモンは魔神柱で壁を作って防御を固める。

 

そして、全ての仮面ライダーが、全方位から、最高の威力で。

 

人間の敵を貫いた。

 

 

「「「「「はああああああああああああ!!」」」」」

 

   ズギャアンッ

 

〔……ああ、少し……安心した〕

 

 

……敵の中から出てきたのは、ゲンムだけだった。ガンバライジングガシャットは無理な使用の影響だろう、既に腐敗してしまっている。きっと二度とそのままには使えないだろう。

 

ゲンムは敵を仰ぎ見た。

……ソロモンはいつの間にかいなくなっていて、そして。

 

 

〔……頼むよ、カルデアの善き人々。全ての人間に、自由と平和を……〕

 

 

……そしてビーストⅣは光に呑まれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───

 

「……うん、聖杯回収完了だね。今から戻ってきてもらうよ」

 

 

ロマンが通信でそう言いながら、キーボードを叩いている。ロンドンの異常は、こうして解決した。……マシュはその隣で俯いてはいたが、流していた涙はもう止まっていた。

 

 

「フォウさん……」

 

「……マシュ。彼は……最後は、少し笑っていたよ」

 

「……はい」

 

 

マシュはそうとだけ返事をして、席を立とうとした。ロンドンから戻ってきたであろう黎斗を今度こそ……

 

 

「お、おお、お、おい!! 誰か、誰か!!」

 

「!? どうしましたかミスター・ムニエル!?」

 

 

コフィンの方から、担当職員の悲鳴が響く。

マシュは慌てて駆け出し、コフィンの内部を覗いて……そして、絶句した。

 

 

「……えっ?」

 

 

コフィン内の黎斗は。

 

大破していた。

 

文字通りの大破……骨はあらぬ方向に折れ曲がり、全身から血が吹き出している。

 

ゲンムであったときには、その不死身性でもって体の形を保ってこそいたが……今の彼は、言ってしまえば、呼吸する肉塊に近かった。

 

 

「黎斗さん!? 黎斗さん!?」

 

「が、あがぁっ……!?」

 

 

声を出すのも儘ならないのだろう、黎斗は唸ることすらろくに出来なかった。

 

人の身で一瞬でも人類悪に肉薄したのが原因か、もしくはゲーム病の状態で戦闘したのが障ったのか……いや、おそらく、単純にビーストⅣの攻撃で破壊されていた、という事なのだろう。

 

元々死者であった彼だが、その体すらも、最早灰に還ろうとしていた。そしてその意識は、既に何処かに失せていて。

 

 

定礎復元。

 

マスター、重症。

 

───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……問おう、カルデアのマスター……人を羨んだ事はあるか?」

 

「……」

 

 

黎斗は意識を取り戻す。見たことの無い空間で。

己は闇の中にいた。そして、何処からか声が聞こえた。

 

 

「他者に己に無い才能を見出だし、その事実に狂ったことは? 己では届かない領域の存在を妬んだことは?」

 

「……当然、あるに決まっているだろう?」

 

 

そう答えれば、声の主は愉快そうに笑う。

 

 

「ハハ、クハハハハ!! ……やはりお前は、とんでもない奴だ。面白い……ここは地獄。恩讐の彼方たるシャトー・ディフの名を関する監獄塔!! そして俺は……」

 

「……エドモン・ダンテス、だろう?」

 

 

監獄塔に復讐鬼は哭く。そして、死体も。




出番のほぼ無い既存ライダーs
まあ仕方無いね

誰も他ライダーに出番が無いとは言っていない

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