Fate/Game Master   作:初手降参

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監獄塔に神は哭く
監獄を歩く嫉妬の産物


 

 

 

 

 

   ピッ  ピッ  ピッ

 

「ああもう、こう言うのは苦手なんだけど……やるっきゃない!!」

 

 

カルデア内に急遽作られた手術室。ロマンはそこに立って一頻り頭を掻きむしった後、寝台に寝かせられた瀕死の黎斗に向き合った。

 

意識も生気も見られない彼だが、少なくともマスターがいないことには人理修復は成らないのだ……彼の双腕に世界が懸かっていた。

 

 

「これより檀黎斗の修復手術を行う!! メス!!」

 

───

 

「エドモン・ダンテス……だろう?」

 

「……違う」

 

 

監獄塔の中で、黎斗は男の名前を予測し、告げた。

その言葉に男は首を横に振り、そして黎斗はその行動に疑問を覚える。

 

 

「……シャトー・ディフという単語が出た時点でお前以外は考えられなかったが?」

 

「否、否、否!! それは無辜の罪にて投獄された哀れな男の名!! そして恩讐の彼方にて、奇跡と呼ぶべき愛によって救われた男であり……」

 

 

黎斗の推測に、男は怒りを含んだ声で叫ぶ。その訴えに、黎斗は否応なく暫く考え込む様子を見せた。

そして男は続ける。

 

 

「決してこのオレではない。オレは英霊、悲しみより生まれ落ち、恨み、怒り、憎しみ続けた故にエクストラクラスを以て現界せし者。……アヴェンジャー。アヴェンジャーと呼べ」

 

「……分かった、済まなかったなアヴェンジャー」

 

「……案外素直に聞き入れるのだな」

 

「気持ちは分かるさ。私とて、黒いエグゼイドと呼ばれるより、普通にゲンムと呼ばれたい」

 

「……」

 

 

そうでは無いのだが、そういうことでは無いのだが……そんな曖昧な表情で沈黙したアヴェンジャーは、しかし彼を伴って歩き始めた。それが仕事だと言わんばかりに。

 

 

「……ついてこい」

 

───

 

「……終わったよ、マシュ」

 

「黎斗さんは……?」

 

「一応、命はとりとめた。でもまず、暫く変身は無理だろう。」

 

 

手術室から出てきたロマンは、駆け寄ったマシュに結果を伝える。

意識不明、戦闘力喪失。あまり芳しい結果とは言えないが、命はあるからましだと言うもの。

 

 

「……まあ、ここまでかなりのスピードで特異点を攻略してきたから、割と時間が余っているのが不幸中の幸いだね」

 

「そうですね。……黎斗さんが寝ている間に強くなってみせます」

 

「そのいきだ、頑張ろうマシュ」

 

 

マシュは意気込んでいた。黎斗との日々が、彼女のメンタルをかなり鍛えていた。

 

……そんな会話をしている二人の近くに、今日の今日までずっと工房に引きこもっていた存在が一人。

 

 

「フッフッフッ……そんなマシュちゃんにプレゼントをあげよう!!」

 

「「……誰だっけ」」

 

───

 

「死なぬ限り……ああ、お前は死んでいたか。……お前がお前でいられる限り、お前は多くを知るだろう。だが、オレは教えるつもりは無い」

 

「教えを乞うつもりは無い」

 

 

監獄塔の亡霊達を退けながら、黎斗はアヴェンジャーに連れられ歩いていた。

本来なら全て黎斗が変身して蹴散らしていたのだろうそれらは、しかし変身能力を無くした黎斗には明確な脅威で。彼は仕方無くアヴェンジャーに守られていた。

 

 

 

「そう言うと思ったさ。オレはオレの気の向くままお前を翻弄するまで」

 

「……成程な。さて、お前は私を何処かに案内しているが、どう翻弄してくれるんだい?」

 

「……最低限の解説はしてやろう」

 

 

首を傾げた黎斗にアヴェンジャーはそう言い、手短に説明を開始する。

……次のような内容だった。

 

黎斗の魂は囚われていること。

脱出には七つの『裁きの間』を超える必要があること。

カルデアとは通信できないこと。

裁きの間で負けても、何もせずに七日経っても、檀黎斗の意識は消滅すること。

 

 

「……それだけか?」

 

「……それだけだ。あぁ、一応言うが、ここの壁の破壊は不可能だぞ? 魔術の王がそう加工した。……あいつはかなり手酷くやられたらしいな。お前は何でもやりかねないから全てに対策をしなければならない、と言っていたぞ」

 

「それはいいな」

 

「あいつは言っていた。お前がいくらその姿を変えられようと、魂だけになってしまえばどんな装備も意味を成さない、と。試しに聞くが……今、どんな気分だ?」

 

 

そう投げ掛けるアヴェンジャー。彼としては、黎斗はかなり怯えていると考えていたが。

 

彼は割と平然としていた。しかも何か余所事を考えているようにすら見える。

 

 

「今の気分……? 正直な話、全く不安は感じないな。というか……ちょっといいか?」

 

「何だ?」

 

「漸くイメージが固まった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の思考がやっと終わる」

 

 

そうとだけ言い、黎斗は壁にもたれ、ゆっくりと息を吐く。

 

 

「は?」

 

「ふぅ~……」

 

 

すると。彼の体から無数のオレンジ色の粒子が吹き出してきて、そして……人の形を取った。

 

 

「……はー!! やっと解放してくれたわねマスター!!」

 

「!?」

 

「あ、ちゃんと(アリス)になってるわ!! すごいわ!!」

 

「ふっ、神にしてみれば容易な仕事だった」

 

 

現れたのは、ロンドンにて黎斗が自分に感染させたバグスター……自称アリス、真名をナーサリー・ライム。

彼女は久々に得た己の体を楽しみながら、監獄塔にて走り回る。

 

アヴェンジャーはその姿に一瞬呆気に取られ……そして、笑った。

 

 

「ハ、ハハ……クハハハハ!! まさか、まさかこの監獄塔に童女をつれてくるか!! この規格外め!! 魔術の王の言った通りのイカれた野郎だ!!」

 

「クリエイターとは、他には理解されないものなのだよアヴェンジャー。きっと文化人のサーヴァントがいるなら、皆イカれているに決まっている」

 

 

そう言って、再びアヴェンジャーに案内を促す黎斗。歩いている監獄塔の道は、一歩毎にますます暗くなる。

それでも黎斗は臆することなく、ただ歩いていた。

 

───

 

「「……誰だっけ」」

 

「酷いなあ!? ダ・ヴィンチちゃんだよダ・ヴィンチ!!」

 

 

ロマンとマシュの前に現れたのは、モナリザを彷彿とさせる容貌の女のようなナニカだった。

 

 

「……ずっと工房に閉じ籠って何してたんだい?」

 

「フッフー……よくぞ聞いてくれました!!」

 

 

そう言って彼女は……後ろ手に持っていた()()()()()()()()()()()()()()()()()()を取り出す。

 

 

「それ、は?」

 

「……檀黎斗は強敵だった。彼の神の才能は確かに本物だった。ダ・ヴィンチちゃんが言うんだから間違いない。でも……とうとう理解したよ!! ガシャットとバグヴァイザーの全てを!! そして……私なりに新作を作った」

 

「その、新作が……それ?」

 

 

そのバグヴァイザー擬きをマシュは覗きこむ。

メタリックなシルバーのボディに、ガシャット二本分のサイズのスロット、そして赤青緑の三色のボタンがついていたのが目についた。

 

 

「うん。名付けて、『ガシャコンバグヴァイザー L(レオナルド)D()V(ヴィンチ)』!!」

 

───

 

監獄塔を歩き続けて数時間。

アヴェンジャーは突如現れた部屋の扉を開けた。

ギ、ギと重い音がする。中に入るものを拒むように……しかし、三人は止まらない。

 

 

「さあ、第一の裁きの間だ。七騎の支配者がお前を待つ……誰も彼も、お前に会いたがっていたぞ」

 

「人気が出るのは良いことだ、ゲームにしろ、その作り手にしろな」

 

 

中に入ると、アヴェンジャーが語り始めた。黎斗は彼の言葉に返事を入れる。

 

 

「そうか。……例えそれがお前を殺そうとしていても?」

 

「殺し愛、なんてものもあるらしいぞ?」

 

 

黎斗がそう嘯くと、アヴェンジャーは肩を竦めた。そして、何者かのシルエットが浮かんでいる部屋の中に目を向ける。

 

 

「……さて、第一の支配者は……才能を求め、醜きもの全てを憎み、嫉妬の罪を以てお前を襲う化け物……ファントム・オブ・ジ・オペラ!!」

 

「……ほう」

 

 

その名は、黎斗にとっては割と身近なものになりつつあった物だった。

今日か昨日か、少なくともほんの少し前まで、ロンドンでビーストⅣに殺されるまで仲間だった存在。

 

彼が、裁きの間の中に立っていた。

 

 

「……久しいな……というには、流石に早すぎるか、ファントム」

 

 

鋭い爪。仮面に隠された顔。唄うような言葉。それらが一度に、黎斗に向けられる。

 

 

「クロスティーヌ……クロスティーヌ、クリスティーヌ、クロスティーヌ!! 我が同胞、我が同士!!」

 

「先程は、死なせてしまって済まなかったなファントム。だが……」

 

 

黎斗には、ファントムは狂乱に身を委ねているようにも、冷酷な感情を無理に高めているようにも見えた。

取り合えず……黎斗とクリスティーヌ、二つの存在の区別もつかない程には、彼は既にイカれていた。

 

 

「ああ妬ましい!! 妬ましい!! 神に恵まれた才能が妬ましい!! その声、そのセンス、その才、全て全て私の理想!! ああ妬ましい!!」

 

   シュッ

 

 

叫びながら黎斗へと飛びかかるファントム。それを阻むはアヴェンジャーとナーサリー。

 

 

   ガキンッ

 

「もう!! 乱暴はメッ、よ!!」

 

「ははは!! こいつはお前を殺そうとする化け物だと言った!! 例え先程まで轡を並べていようとそれは変わらない!!」

 

「我が顔を見るなクロスティーヌ、クリスティーヌ、いや、それ以外の誰であろうと、私は、私は許さない」

 

 

阻まれながらも唄うファントム。かれの口を突き動かすのは、嘆きか、それとも苦しみか。

 

 

「クロスティーヌ、我が主、クリスティーヌ、我が愛。ああ、その喉に爪を立てさせておくれ、引き裂いて赤い色を見せておくれ」

 

「この人怖いわマスター!!」

 

「クハハハ!! この監獄塔に優しい人がいると思うか童女よ!!」

 

 

「残念だったな、ファントム……お前の望みは果たされない」

 

 

二つの味方の向こうへと、黎斗はそう返事を飛ばした。ファントムにその言葉が届いたかは微妙な所だが……

 

……突然彼は飛び退いて、敵対者から距離を取る。

懐から何かを取り出しながら。

 

 

「……ああ、クロスティーヌ。私は、あまねく全ての人々が、妬ましい!!」

 

『ドレミファ ビート!!』

 

「!?」

 

 

ファントムの懐から、モノクロの物体が顔を出した。それは元々彼には無かったもの。

プロトドレミファビートガシャット(黎斗の才能の欠片)

 

 

「何故だ……?」

 

「……成程、ファントムは余程、お前との旅を喜んでいたらしい。サーヴァントは、現界時の記憶をある程度持ち帰るが……まさか、まさかお前の装備を持ち帰るとは!!」

 

 

笑うアヴェンジャー。ファントムは胸にガシャットを突き立て、その両肩や背中に沢山のパイプを生やす。

 

黎斗は一瞬逡巡し……そして、顔を怒りに歪めて彼に怒鳴った。

 

 

「……お前が私の才能を喜ぶのは私としても喜ばしいが……だがあえて私は言おう。私以外の存在が、ガシャットを作ることは許さない!!」

 

「ははは!! お前もまた嫉妬の具現か、檀黎斗!! 良いぞ、良い!! さあオレの手を取れ!! あれに、死の舞踏を見せてやる!!」

 

「……出来れば、楽しい舞踏会が良いのだけれど」

 

───

 

『それじゃあ、変身してね。やり方は……分かるよね?』

 

「はい!!」

 

 

マシュは訓練室に一人立っていた。その腰には、黎斗に惨敗した……まだ一週間も経っていない、それでもとても遠いものに思えた過去のあの日のように、バグスターバックルが巻かれていて。

 

 

「……じゃあ、行きます」

 

『ガッチョーン』

 

 

腰につけると、ダ・ヴィンチの声が響いた。どうやら自分で録音していたらしい。

 

 

『取りあえず、変身にガシャットはいらない。腰につけたら、変身ボタンを押すんだ』

 

「……変身します!!」

 

 

変身ボタンを押し込む。マシュの体は一瞬浮遊感に包まれ、そして。

 

 

『Transform・Shielder』

 

───

 

地獄にこそ響け我がラブソング(ドレミファ・クリスティーヌ)!!」

 

 

地面から、ファントムを中心にして無数のパイプが生えてきた。そしてそれと同時に重苦しい音楽を放つ。

 

 

   ブォオォォンッッ

 

「きゃあっ!?」

 

 

ナーサリーが吹き飛ばされ、黎斗のもとまで転がってきた。ただの音であるはずのそれは、ガシャットの効果が上乗せされたのだろうか、質量すら持っているように感じられる。

しかし、アヴェンジャーは耐えていた。しかも、歯を剥いて笑っている。

 

 

「……見ていろ檀黎斗。あいつに慈悲無き復讐を見せてやる」

 

 

轟音の中で、しかしはっきりと声が聞こえた。そして次の瞬間には。

 

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

   ズバンッ

 

 

それは時間、空間すら脱獄してのける精神力の賜物。超高速思考を肉体に反映させる離れ業。

アヴェンジャー、エドモン・ダンテスは、宝具名を叫んだ次の瞬間には、演奏を続けていたファントムの胴に拳を貫き通していた。

 

 

「……!?」

 

 

ガシャットが体から抜け落ち、力なく倒れるファントム。アヴェンジャーは彼に言う。

 

 

「脆い、脆いな……醜き殺人者。お前はシャトー・ディフには哀しすぎる!!」

 

「……おお、クロスティーヌ、我が友。……おお、クロスティーヌ、我が輝き。……おお、クロスティーヌ、貴方との日々は、忘れない……」

 

 

アヴェンジャーと入れ替わるように、倒れ伏したファントムの側に黎斗は歩み寄った。

……既に彼の元サーヴァントは、爪先から消え始めている。

 

 

「……そうだな。お前は、失うには惜しい道具だった」

 

「……ふふっ。これで、我が唄も、終演(おしまい)ですね……」

 

 

そうとだけ言い、ファントムは完全に消滅した。

 

 

「……チッ。嫉妬を見届けようと思ったが、これでは中々に興醒めだ」

 

「まあ!! 切ないシーンに水を差すなんて、悪いおじ様ね」

 

 

遠巻きに見ていたアヴェンジャーは舌を打った。それを咎めるナーサリーは、彼がこちらに歩いてきているのを確認する。

 

 

「……嫉妬成分が足りないか? なら、私が話をしてやろう。己の才能を信じ、そして他者に敗北し嫉妬を覚え、拙いながらに凶悪な復讐を行った少年の話だ」

 

「……聞いてやろう」

 

 

唐突に、黎斗はそう語り始めた。語り出しは上々、アヴェンジャーは簡単に興味を持つ。

 

 

「その少年は、あることにかけては随一の腕を持っていた。自他共に、それは神の才能だと認めていた」

 

「ほう? ……誰の話か、容易に想像がつくな」

 

「だろうな。……神の才能を持った少年は、多くの人気を勝ち取っていた。それは少年のモチベーションを向上させる重要なファクターだった」

 

 

それはとある男の昔話。夢を追う男の妄執の始まり。

余程思い入れがあるのだろう、言葉を紡ぐ度に、語り手の、黎斗の声量は大きくなっていく。

 

 

「……ある日、少年より幼い子供から、ファンレターと共に、よりにもよって少年の誇っていた分野についてのアイデアが送られてきた!!」

 

「……それで?」

 

「少年は絶望した!! そのアイデアは、己のものには無い輝きを持っていた!! そして少年は嫉妬し、妬ましく思った!! ……そして。その子供を実験台にした」

 

「……子供はどうなった?」

 

「彼は数奇な運命に振り回される。これまでも、これからも!! そして少年は……永遠に、彼を妬み、そして殺そうとするのだ!!」

 

 

……そこまで言い、黎斗は大きく息を吐いた。

纏めてしまえば、たった数行の短いテキスト。それが男の根幹に未だ残っているとはなんたる皮肉か。

 

最後の纏めを黎斗は語る。

 

 

「……今は大人になったその少年の持論だが。嫉妬は悪ではない。……それは嫉妬を覚えた己の才を刺激し、そして新たなるステージへと誘ってくれる」

 

「故に、嫉妬は悪ではない、と?」

 

「そうだ。覚えた嫉妬、抱いた苦しみ、そしてその果てに行った理不尽な復讐!! それらは……嫉妬を抱いた人間( 檀黎斗 )の糧となった」

 

 

……そして。全てを聞いて、復讐の権化は、やはり笑った。

 

 

「はは、はははははははは!! 成程な。芝居としては二流だが、だがいい!! 誇れ当時少年だった者よ!! 誇りと妬みを持って、しかし笑え!! お前こそが人間だ!!」

 




全話PV数が96100(クロトォ)を超えたのでサーヴァントを増やします。
皆さんから募集したいので、詳しくは活動報告にどうぞ
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