Fate/Game Master   作:初手降参

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特異点F 炎上汚染都市冬木 He's a 仮面ライダー!!
Game start


 

「私の才能が必要になったかァ……」

 

 

煌々とただ燃え盛る特務機関カルデアの管制室にて、その男は小さく呟いた。

先程突如起こった大規模な爆発に呑まれたその部屋には、最早生者の気配はない。静まり返った室内に、ただ非常事態を告げるサイレンが鳴っているのみだ。

……例えば小児科研修医とかならば絶望して崩れ落ちそうなその空間で、その男は恍惚の表情を浮かべ舌なめずりをした。

 

 

「あはァ……」

 

 

そして男は導かれるように辺りを見回し、目をつけた瓦礫の一つを押し退け、眼鏡の少女(メインヒロイン)を引っ張り出す。

 

 

   ガラッ

 

「先……輩……?」

 

 

ピンクブロンドの髪と眼鏡が特徴的な彼女は、虚ろな目で彼を見つめていた。まるで、にわかには信じられないもの……それこそ、神を見るような、そんな目だった。

管制室の扉が閉まっていく。その中で男は焦りも怯えも震えもせずに、彼女の声に薄ら笑いを浮かべながら軽く首を振り、少し大袈裟なくらいに名乗る。

 

 

「フフ……先輩、先輩……否!! それは違うぞ……覚えておけ、私の名前は檀黎斗ぉっ!! ゲームマスターで……神だぁっ!! ハーハッハッハッ!! ハーハッハッハッ!!」

 

そんな高笑いと共に二人は透き通った青い光に飲まれ、その場から消滅……そして、特異点に転移していく。

……ゲームマスター、檀黎斗。彼の、最初のレイシフト開始の瞬間であった。

 

***

 

カルデアの48人目のマスター、檀黎斗。彼の際立った異常性には、目を見張る物があった。

日本の東京のゲーム会社、ゲンムコーポレーションにて、若くしてCEOを務めていたのだ。大ヒットを次々と産み出し世界に提供するその姿は、一部では神の異名を持っているという。

もちろん彼の人気はカルデアでも健在で、彼にレイシフト適性があると分かった日には、カルデアのスタッフが皆してサイン色紙を用意したとか。

 

そんな彼は、説明会の時も非常に優秀であった。

勉強家だったのだろう、レイシフトについてもサーヴァントについても、怖いほど理解していた。カルデアの所長を務めるオルガマリーが思わず舌を巻くレベル……と言えば、彼の優秀さが伝わるだろうか。

 

……そして、レイシフト前に何者かによって起こされたテロにも、彼は冷静に対処した。爆発に巻き込まれないように咄嗟に体制を整え、トラブルに出くわした多くの……いや、48人のレイシフト適性者の中で唯一、五体満足で生き延びたのだ。

 

まるで、運命(Fate)が彼を導いているようだった。

そしてここから、人理修復は始まっていく。

 

***

 

……黎斗は、燃え盛る街の中に立っていた。

遠くで骨と骨が擦れる音を立てながら、骸骨があてもなく蠢いている。彼のすぐ近くでは焼け落ちた家がまた一つ倒壊した。

最早悲鳴すら聞こえないこの世の地獄……そんな表現が相応しい、そんな都市だ。

 

 

「先輩……いや、黎斗さん、無事でしたか」

 

「……ああ、マシュ・キリエライトか。その格好は?」

 

 

興奮を一旦冷まし、冷静さを取り戻したた黎斗は、先程引っ張り出した少女に質問を投げ掛ける。彼女の格好が、明らかに痴女のそれだったからだ。

まあ、彼の作ったゲームでも、『ドレミファビート』とか『ときめきクライシス』とかなら似たような物を作ったが……三次元で見るのならまた別である。

 

 

「あれ……?」

 

 

マシュの方も黎斗に違和感を覚えていた。先程炎の中で自分の手を握っていた彼は、もっと振りきれたテンションだったのだが……

……気のせいだろう。マシュはそう思うことにした。取り合えずは彼の質問に答えなければ。

そう思って彼女は話を始めたのだが。

 

 

「……それが、その……実は……」

 

   キャー!?

 

「……所長の声です!!」

 

 

響いた悲鳴を聞いて、一瞬逡巡した後にマシュは会話を中断し、その場から走り出した。黎斗はその後を追う。

燃える瓦礫を踏み越え、灰と化した町並みをすり抜けて、焼けきった人類の残したものを尽く踏み割りながら進んだ二人は、その先に見知った顔を見つけた。

 

カルデアの所長、オルガマリー・アニムスフィアだった。悲鳴は彼女のものだったのだろう、丁度、いくらかの骸骨に囲まれていた。抵抗の跡も見られるが、多勢に無勢だったと思われる。

 

 

「所長!?」

 

「あ、貴方達……」ガタガタ

 

 

どうやら彼女は腰を抜かしているらしく、動くことも儘ならないようだった。そんなオルガマリーを庇うようにマシュは立ち、骸骨との交戦を開始する。

 

 

「ガガ、ガガ……」

 

「ええい!!」ブンッ ブンッ

 

 

マシュが震えながら骸骨の中に飛び込み、その盾で敵を凪ぎ払っていた。その質量の前に骨は砕け、白い粉が舞っていく。

黎斗は何をする訳でもなく、ただそれを興味深そうに見つめていた。

 

 

「やあああああ!!」ブゥンッ

 

   バンッ

 

「ガ、ガ……」バタッ

 

「ふぅ……やりました……やりました……!!」

 

 

そうして、しばらくの交戦の後にマシュは全ての骸骨を砕ききった。黎斗は心底面白いという笑みを浮かべながら彼女に歩み寄る。マシュも彼に笑顔を見せた。

 

 

「出来ました!! 出来ましたよ黎斗さん!!」

 

「そうだな。実に面白い」

 

 

そして、オルガマリーはそんなやり取りを見ながら震えていた。

 

 

「嘘……でしょ……? まさか、デミ・サーヴァント?」

 

「……はい。あの爆発の時に、私の中の英霊が力を貸してくれたんです」

 

 

彼女は事情を知っているらしかった。黎斗がオルガマリーに解説を求めてみれば、彼女はため息を一つ吐いてからマシュについて話始める。

曰く。マシュはその身にサーヴァントを宿し、人の身で有りながら戦士となった……そんな内容だった。

 

その後、オルガマリーはカルデアに連絡を入れた。黎斗はそれをただ見つめていた。

黎斗は、オルガマリーの前ではなるべく無言を貫いていた。かかわると面倒だと察していたのだろうか。

 

 

『シーキュー、シーキュー、もしもーし!! よし、通信が戻ったぞ!!』

 

「っ、ロマニ!? なんで貴方が仕切ってるの!? レフを出しなさいよレフを!!」

 

 

連絡に応対したのは、医療担当のロマニ・アーキマン……通称ロマンだった。黎斗はカルデアに来る前に彼の存在も把握しておいていたらしく、特にこれといった会話をすることはなかった。

 

 

『ボクが作戦指揮を任されているのは、ボクより上の階級の人がいないからです。生き残った──』

 

「今すぐ冷凍して──」

 

『報告は以上です──』

 

 

二人の緊迫した、多くの命のかかった会話に、黎斗はてんで興味を示さなかった。……特筆すべき所があるとすれば、終始ドヤ顔で腕を組んでいたという事だろう。

それよりも、周囲から何か来ないかという警戒をしていたように、マシュには見えた。警戒というか、一種の期待のような感情にも思えた。

 

 

「──檀黎斗、答えなさい檀黎斗!!」

 

「黎斗さん、黎斗さん呼ばれてますよ!!」

 

「あっ、あぁ……何ですかアニムスフィアさん。何かありました?」

 

 

しばらく経ってから。話しかけられていた事に気づき、テンションをなるべく低めに、善良で従順な部下っぽくにこやかに振る舞う黎斗。

オルガマリーはそれに気を良くした(騙された)のか、朗々と説明を開始した。

 

 

「檀黎斗、仕方がないから貴方を一時的にマスターとして認めます。……この任務を成功させる、その為に戦力を増やしましょう」

 

「なるほど。どうやって?」

 

「簡単よ。新しくサーヴァントを召喚すれ──」

 

『緊急事態!! 緊急事態!!』

 

 

……説明を開始した途端、ロマンから通信が飛び込んでくる。話を断ち切られて顔をしかめたオルガマリーは文句の一つでも言おうとし、しかしロマンから聞こえてくる言葉に驚愕の色を浮かべた。

 

 

『不味い、今すぐそこから退避するんだ!! この反応は……』

 

「……何ですって!?」

 

 

途端に慌て出すロマンとオルガマリー。マシュも痛いほどの何者かの気配を感じて震える。

しかし黎斗だけは怯えることも逃げることもせず、ドヤ顔を保ったまま自信ありげに立っていた。

 

 

『今すぐ!! 今すぐ逃げるんだ!!』

 

「もう逃げる時間なんて無いわよ!! あああぁぁどうしようどうしよう……!!」ガタガタ

 

 

相変わらず二人だけで恐慌状態になっているオルガマリーとロマン。オルガマリーの方は抵抗の意思すら失せたようで、瓦礫の隅に体操座りをして震え始めていて。

 

 

「あの、黎斗さん?」

 

「?」

 

「その、黎斗さんは怖くないんですか? というか何が来るか分かっていますか?」

 

「サーヴァントが襲って来るんだろう?」

 

「だったらどうして、そんなに落ち着いていられるんですか!?」

 

 

何処かから砂埃が立ち始めた。もう10秒もしないうちに、敵サーヴァントがやって来る。

 

マシュは恐怖に震える足を律しながら盾を構えた。黎斗は相変わらず余裕の表情だ。

マシュには彼が全くわからなかったが……今はそれを気にする時ではない。

 

そして、それは現れた。

 

 

「聖杯ヲ、コノ手ニ……!!」

 

 

短剣を手にした、紫の長髪のサーヴァント。クラスはライダー。それはこちらに敵意を剥き出しにしながら、嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

 

「先輩、下がって!!」

 

「いや……私がやろう」ズイッ

 

「先輩!?」

 

 

震えながら盾を構えるマシュを押し退け、檀黎斗は前に出た。サーヴァント対ただの人間、勝ち目などない。マシュは引き止めようと声をかけるが、黎斗は彼女の忠告などはなから聞くつもりなど無かった。

それをライダーはただ黙って、面白そうに見つめていて。

 

しかし。ここまで自信に満ちていた黎斗に切り札がないなど、あり得なかった。

 

 

「さぁて……テストプレイと行こうかぁ……」

 

 

黎斗は懐から謎の紫色の物体(ガシャコンバグヴァイザー)白いゲームカセット(デンジャラスゾンビ)を取り出す。黎斗のテンションがあの管制室での彼のように再び上がっていき、非常に興奮しているのが見てとれた。そんな彼に思わず怪訝な目をしてしまうマシュ。

だが黎斗はそんなこと意にも介さず、それらの電源を入れる。

 

 

『ガッチョーン』

 

『デンジャラス ゾンビィ……』

 

「変身……!!」

 

『ガッシャット!!』

 

『バグル アァップ……』

 

 

マシュは瞬間、その目を大きく見開いた。

目の前の男はその腰に紫色の何かを装備し、さらにそのスロットに彼が生み出したゲームカセットを入れて……

 

……閃光と共に全く別のものに姿を変えたのだから。

 

 

『デーンジャ デーンジャー!!』

 

『ジェノサァイ!!』

 

『デス ザ クライシス!! デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ウォー!!』

 

 

白い、人形の、禍々しい何か。……それが檀黎斗のもう一つ(仮面ライダーとして)の姿。

仮面ライダーゲンム、ゾンビゲーマーである。

 

……全てはまだ始まったばかりだ。この悉く燃え尽きた世界を前に、神は何を覗くのか。

どこまでもイカれたゾンビを前にして、マシュは最後に何を思うのか。

 

 

聖杯探索の長い旅が始まる(   Game start   )




そこ、ポッピーは痴女だろとか言わない!!
あれは黎斗のお母さんだからネ!!

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