「……第六の裁き、第六の支配者……」
「……恐らく、次の裁きの間は強欲の担当だろう?」
「ああ、お前は見るだろうな。およそ人間の欲するところに限りなどないと。彼以上に強欲な生き物など、オレに言わせれば存在しない。事実驚嘆に値する」
アヴェンジャーと黎斗、そしてナーサリーは、監獄塔の廊下をこれまでと同じ様に歩いていた。
アヴェンジャーは既に第六の間の情報も得ているらしく、次の支配者について話している。
「まあ、神である私とて究極のゲームを作るためいつまでもいつまでも研磨を続けているのだ、人間の欲に限りなどあるまいよ。で、どんなやつだ? 大方、全人類の救済でも願ったか?」
「その通りだ、マスターよ。彼の欲は世界へも及ぶ……彼は回答を求めた。正しきものが真にこの世に無いのなら、と」
そう語る姿は、いかにも楽しげで。どことなく、新しいゲームを思い付いた黎斗にも似ていた。
「尊きものを、人間の善と幸福を信じたが故に、悪の蔓延る世界を否定した……とも言えるか?」
「ほう?」
「そう、お前のいった通りだマスター。彼は、この世全てに善を成さんとした男。……お前と実は似通っているのかもな、彼は聖杯の力で
「分かっているじゃないか」
珍しく手放しで褒められ(たと黎斗は思っている)、ほんの少しテンションを上げる黎斗。アヴェンジャーはそれを横目に見ながら話を続ける。
「そうだな。……オレは第六の支配者に、ある種の敬意さえ抱いている。その無謀、高潔、喝采に相応しい!! ……故に」
「故に?」
「故に。この上ない敬意と共に。我が黒炎は悉く破壊しよう。正しき想い、願いにこそ、オレはの炎は燃え上がる」
「気持ちは分からないでもないな。水晶が砕け散るのはまたそれはそれで悪くない」
そう反応した黎斗に、アヴェンジャーは理解したようなしていないような微妙な顔をして、それでも言葉を連ねた。
「覚悟は、とうに出来ているだろうが。お前は世界を呑まんとする強欲をも砕かねばならない。出来なければ、それが本当の死だ」
───
「ふぅ……そろそろ飽きてきたが、ここら辺が特異点の中心地、大阪……のはずなのじゃろう?」
「うん。一応……でも……」
「これローマですよね。ローマですよね?」
その頃、マシュ達はとうとう特異点中心、大阪の大地を踏み締める事に成功していた。
しかしそこはイメージとはおおきくずれた、どう見ても日本ではないどこかでしか無かった。
「うーん、フランスっぽい気もするなぁ」
「いやいや、ローマですよこれは」
そんな言葉を交わしながら歩いていく。
一歩歩く度に、本来ならあり得ないはずの舗装された道路の固い感触が足に伝わってきた。
……突然、彼らの耳を高笑いがジャックした。
「フハハハ!! よく来たな雑種ども!!」
「!?」
「ひうっ!?」
「何じゃ!?」
「この声は!?」
反射的に萎縮して飛び上がる面々。声の方向に目を向けると、黄金の鎧を纏った何者かが高笑いを続けている。誰だあれ。
「我が名は黄金郷ジパングの主にして人類中世の英雄王、豊臣ギル吉!! 黄金といわず茶器といわず、この世の全ての財は我のものだぎゃ!!」
「うわぁ……色々めちゃくちゃだね……だぎゃって……だぎゃって……」
呆れるというか、一周回って凄いものを見るような目をするダ・ヴィンチ。そしてそのとなりでマシュはバグヴァイザーを腰に取り付ける。
「……なんかもう疲れました!! 疲れましたよねジークフリートさん!?」
「そ、そうだな。うん」
「なんかもう凄い疲れたので、ラスボスサクッと倒してさっさと帰りましょう!!」
『ガッチョーン』
「変身!!」
『Transform Shielder』
盾を振りかざしマシュは飛びかかっていった。それを援護するように駆け出すジークフリートと沖田、そして火縄銃を大量に呼び出す信長。
それに面向かった豊臣ギル吉は、口元を好戦的にニヤリと曲げて後方に声を投げる。
「ふん、日輪たる我に刃向かうか雑種。よかろう、半兵衛、官兵衛、策を申せ!!」
「そんなものあるか馬鹿め。大体なんだこの低クオリティな世界観は!! なってないにも程がある!!」
「いやはやなんとも残念無念ご愁傷さまですねぇっ!!」
……しかし。声をかけられた後方のうちの一人は、つまらなさそうに茶を啜りながら難色を示していた。もう一人は鋏をどこかから取りだし、キャハハと笑いながら飛び出していく。
「しかしまあこういう機会な訳ですし? 同じ馬鹿なら弾けにゃ爆死、とも申します、せっかくなので荒れていきましょう!! 止めてみな!! って奴ですねぇ!!」
「行きますよっ!!」
『Arts chain』
───
アヴェンジャーが第六の裁きの間の扉を押すと、それは無抵抗に、音もなくスッと開いた。まるで手入れをされ、油を注されていたかのように。
「あっ」
それだけで黎斗は察した。この裁きの間の中身を。
「……違う」
「……来ましたね、アヴェンジャー」
「違う違う違う違う違う違う!! 何でお前がいる、ジャンヌ・ダルクぅっ!!」
アヴェンジャーが激昂する。目の前には白い旗の聖女、本物のジャンヌ・ダルク。アヴェンジャーが何よりも憎む、
「確かに殺すさ、ああ逃がしはしないお前はいずれ殺すとも!! だが今ではない、何で今出た旗の聖女!!」
「ふっ……アヴェンジャー、最早憤怒が八つ当たりの域に達しているぞ」
「構わぬ!! 憤怒の存在を認めぬのなら、それはオレを否定するにも等しき事よ!!」
その拳に炎を滾らせながら怒鳴るアヴェンジャー。相対する聖女は、その旗を握る細腕に力を込めていて。そして告げる。
「アヴェンジャー……確かに、憤怒の炎は消えないのでしょう。それは忽ち広がり、煌々と燃え盛る。 でも、それでも……それと共に、赦しと救いを想う事だって叶うはずです」
「小癪!! オレに赦しと救いを説くか!!」
「だって……貴方も、一度はそれを経験した筈でしょう?」
緊迫した空気が流れている。黎斗は旗の聖女と、その後ろに黙って佇んでいる第六の間の主であろう十字架を頸に提げた男に、ともすれば魂を焼きかねないほどの聖なる光を見た。
それを正面切って睨むアヴェンジャーはと言うと、その目を益々光らせていて。
「はっ……はは、は……!! はははははははははははは!! ククッ、はは、ははははははははははははは!!」
高笑いがこだまする。ナーサリーは黎斗の服の裾を掴み、ジャンヌ・ダルクは旗を握りしめ。そしてアヴェンジャーは叫んだ。
「我が恩讐を語るな、女!!」
「……!!」
「我が黒炎は、請われようとも許しを求めず!! 我が怨念は、地上の誰にも赦しを与えず!!」
黎斗はアヴェンジャーに指示を出す姿勢を整えた。もう彼の行動の癖は全て把握済み、次こそは逃がしはしない。二人纏めて葬り去る、その思いを固めていた。
「『虎よ、煌々と燃え盛れ。汝が赴くは恩讐の彼方なれば』。オレは巌窟王!! 人類史に刻まれた悪鬼の陰影、永久の復讐者である!!」
「ああ……行け、アヴェンジャー!!」
───
「はぁ……めんどくさいが、さっさと人生を書き上げよう。タイトルは……ああ、
「ハーハハハハ!! バフもガンガン盛られましたし、行っちゃいましょう行っちゃいましょう!!」
アンデルセンと名乗った茶を飲んでいたほうの軍師が、これまでで一番エキセントリックな軍師を強化する。
エキセントリックな方の軍師は鋏を振りかざし、ジークフリートと沖田とを相手取っていた。
「ヒャハハハハ!!」
パァンッ パァンッ
「ぐっ……なかなか近付けないな、厄介だ」
自分の廻りに爆弾を固定し近づけさせない戦法をとるエキセントリック軍師。背中以外不死身のジークフリートも、迂闊に近づくのは憚られる。
沖田は痺れを切らしたのだろう、その宝具を開帳した。
「ああもうまどろっこしい!! 一歩以下略、三歩絶刀!!」
一瞬でその姿を空に溶かし、次の瞬間には軍師の目の前に現れる沖田。
「無明、三段突き!!」
ズシャッ
その刀は確かに軍師を貫いていて。なのに……目の前の男は笑っていた。
「……残念でしたァァッ!!
カッ
「……!?」
沖田が飛び退いたときにはもう遅い。彼女の手足は破裂している。これではろくに戦えない。
しかも運が悪いことに、ここで彼女の病弱スキルまで発動してしまった。
「くっ……コフッ……」
「はーい、急病人はこっちねー。ジークフリート君、後はよろしく!!」
そう言って沖田をベビーカーで回収していくダ・ヴィンチ。ついでに彼はジークフリートにあるものを渡していった。
「これは……分かった、恩に着る」
「コフッ……すみません……」
「この世の財は我のもの、ならばどう使おうと問題はあるまい? ……これも戦法の一つと言うものよ。
ズドォンッ ズドォンッ
それと時を同じくして、シールダーと信長はギル吉と交戦していた。
……いや、ギル吉の攻撃をひたすらに回避していた、とも言えるが。
『Noble phantasm』
「はああっ!! ……今のうちに!!」
その盾を大地に突き立て、ギル吉の宝具を受け止めるシールダー。信長はその背後で無数の火縄を召喚し放つ。
「くっ……
「ふっ、その程度の弾で我が落ちるとでも思ったか!!」
カキンカキン カキンカキン
……が、それらは全て発射された宝具に弾かれ、届かず。二人は益々疲弊していく。
そして。
「思い上がったな!! ……失せろ!!」
ガンッ
『ガッチョーン』
「……!?」
ゲート・オブ・バビロンによって、シールダーのバグヴァイザーが勢いよく弾き飛ばされた。当然シールダーの変身は解け、マシュは無防備な姿で倒れこむ。
「くぅっ……!!」ドサッ
「ふはははははは!!」
ギル吉の高笑いがまた響いた。
ここに来て、黎斗の存在がいかに頼もしかったかをマシュは思い知る。そして、未だ自分達は力不足だったと、彼女は再確認した。
「ふははは、ははは…………飽きた。流石に飽きたぞ、女。そろそろ終わりにしようではないか」
圧倒的絶望。というか、いつも絶望的状況だったが。少なくとも、圧倒的な敵が目の前に歩いてきていて、かつ剣をこちらに向けている時点で、今回の危機が一番なのは言うまでもない。
せめてもう少し戦力が多ければ。……マシュは、向こうで戦っている筈のジークフリートを見た。
彼は。
「……すまない……勝手に借りる!!」
『ガッチョーン』
「変身っ!!」
『Transform Saber』
「……!?」
……予想外は連鎖する。
ジークフリートが、バグヴァイザーを装備していた。ダ・ヴィンチから渡されたのは、予備のバクスターバックルだったのだ。
その姿を変化させ、呪いのかかった背中以外を装甲に包み、仮面ライダーセイバーは大地を駆ける。標的は豊臣ギル吉、幸いエキセントリック軍師は腹を貫かれた痛みで動きが鈍い。
ここで決める。
『Buster brave chain』
『Noble phantasm』
「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす――
ガキンッ
「……ほう、貴様は暇潰しになるか?」
セイバーの宝具発動。ギル吉はマシュを断とうとしていたその剣でバルムンクを受け止めるが、一撃の重さに思わず飛び退く。
再び、黄金に身を包んだ王の顔に愉悦が浮かんだ。
───
「ここで殺してくれる旗の聖女!! 与えてやろう、我が怨念の何たるか!!
「
アヴェンジャーの高速、いや光速に達しうるレベルの速度の攻撃をその旗で防御するジャンヌ・ダルク。
暫く打ち合って、しかし攻めあぐねたのかアヴェンジャーは黎斗の元まで戻ってくる。
「ちっ、思いの外固くなっているようだな」
「決意したらステータスが上がる、という訳だ。ふざけた設定だな」
そう短く言葉を交わす二人。目の前では、ジャンヌ・ダルクと黙っていた男が話している。
「……言葉だけでは届かぬ思いもある、と言うことですジャンヌ・ダルク」
「……分かっています、が……諦められません」
「……でしょうね。だからこそ、主は今もあなたを愛するのでしょう」
アヴェンジャーがその男の姿を漸く認め、言葉を投げ掛けた。
「もう一人の裁定者、やはりお前も相手をするか。面白い、嗚呼面白いぞ……天草四郎時貞!!」
「……初めまして、アヴェンジャー。斯様な場所でなければ、違う出会いもあったでしょうが。復讐のクリストを名乗る貴方には、最早祈りも言葉も届くまい」
「分かっているじゃあないか」
「ですが……この世の地獄を知るのなら、真に尊きものを知っているはず。魔術王の策謀にも貴方は乗らなかった。ならば……」
第六の間の支配者、天草四郎時貞はアヴェンジャーにそう言った。アヴェンジャーは彼の言葉を聞き、怒りと昂りを感じているように見える。
「黙れ、オレは恩讐の外の存在と馴れ合うつもりはない。勘違いするな、オレは世界を救う手助けなどしていない」
「……そうですか。荒事は苦手ですが、これも導きですね。ジャンヌ・ダルク……力を貸します」
「ええ、共に戦いましょう。共闘するなら、貴方ほど心強い相手もそうはいません。二人なら、なんとかアヴェンジャーを……!!」
「ハッ、ここまでの戦いを見るに、どうも聖職者は嘘が好きらしいな!!」
そこまで言って、アヴェンジャーは黎斗に向き直った。その拳から燃え上がっていた黒炎は、今や体全体を覆わんとするレベルに達していて。
「……指示を出せマスター。おまえとオレは最早一心同体。おまえの事はやはり分からんが、今この場において──」
「──オレはお前で、お前はオレ、という訳か。……この言葉はあまり好きではないがな。まあ良いだろう。……二人で一人、二人で
「ああ……!! おまえと!! 戦えるのは!! オレだけだ!! 殺せ!! 奪え!! ……全てを取り戻せ!!」
「……私もいるんだけどなー……」
───
『Quick brave chain』
「はあっ!!」
「ふはははははは!! いい、良いぞ仮面ライダー!!」
セイバーとギル吉が鍔競り合う。セイバーの持つのはバルムンク、ギル吉が構えるはゲート・オブ・バビロンから取り出した竜殺しの魔剣グラムと絶世の名剣デュランダル。
火花を散らして金と銀が争う姿はどこか神聖で、そして言い様もなく恐ろしかった。
「もう一発だ!!」
『Noble phantasm』
「
グシャッ
セイバーが宝具の真名を解放し、全体重をもってグラムとデュランダルを叩き斬る。
ギル吉はよろめき、しかしバックステップを踏みながらゲイ・ボルクやらカラドボルグやらを投射した。
『Arts chain』
「はぁっ!!」カキンカキン
それらを弾き飛ばし、瞬時にギル吉に再度肉薄するセイバー。ギル吉はさらに大笑する。
「そうでなければな、もっと我を楽しませろ!!」
そうして引き抜いたのは……
「決着の時だ。世界を裂くは我が乖離剣……!!」
『不味い!! それを使われたら、最悪特異点が崩壊する!!』
「何ですって!?」
ロマンの悲痛な声が、通信機越しに響いた。……それでも、それを聞いたマシュは何も出来ない。ただ痛む全身を抱えて祈るしかない。
「受けよ!!
ポン
「……ん?」
必殺の剣を引き抜かんとしていたギル吉は、その肩に誰かの手の感触を確かに感じた。
邪魔をするとは不届きな輩だ、誰だ?まさか盾の小娘ではあるまい──
そう思って振り替えると。
「……漸くこのタイミングが巡ってきたのう」
「……貴様は」
「人間五十年、それ即ち夢幻。然れど人間の可能性は無限……我は魔王、例え神であろうと焼き払おう。例え仏であろうと殺してみせよう。是非もなし、神仏の閨に火を放て」
それは、先程までマシュの隣にいたはずの信長だった。彼女はギル吉の肩に手を置き、静かな、しかし挑戦的な目をしていた。
「我こそは織田信長なり、いざ、三界神仏灰燼と帰せ……
オリ詠唱はなんだかクサくなっていかんね