Fate/Game Master   作:初手降参

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やっと終わりましたよ先輩!!

 

 

「『天の杯(ヘブンズ・フィール)』起動。万物に終焉をっ……双腕・零次収束(ツインアーム・ビッグクランチ)!!」

 

「もう一発だアヴェンジャー、宝具!!」

 

「くははははは!! 虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

第六の間で、アヴェンジャーはルーラー、天草四郎と殴りあっていた。打撃の応酬による衝撃は、既に第六の間を破壊しつくしている。既にレンガの壁は崩れ、廊下が顔を覗かせていた。

 

 

   ズドンッ ズガンッ  ガガァァンッ

 

「ぐうっ……やります、ねぇっ……!!」

 

「まだまだ行くぞっ……!!」

 

 

互いに宝具を連発したせいだろう、アヴェンジャーも天草四郎も既にボロボロであった。

ジャンヌ・ダルクは天草の救援に入ろうとするが、ナーサリーに阻まれる。

 

 

「ナーサリー、ジャンヌ・ダルクを抑えろ!!」

 

「分かってるわ!! ええいっ!!」

 

 

氷やら炎やら何やらが、ジャンヌの足の歩みを強引に食い止めた。しかも、ナーサリーは遠距離攻撃を行うため、ジャンヌの旗のリーチでは届かない所にいる。

所謂ハメ技である。

 

 

「くっ……!!」

 

「そろそろ決めろアヴェンジャー、全力で止めだ!!」

 

「ああ、決めてやるともマスター!! 虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)……!!」

 

   カッ  ガガガガガガガガガガッ

 

───

 

そしてマシュ達は……欧風の街並みから、別の所に飛ばされてきていた。

 

 

「……ここはどこだ? 雑種」

 

 

そこは、炎に囲まれ焼け落ちた寺。

信長とギル吉、マシュにダ・ヴィンチとベビーカー内の二人、そして仮面ライダーセイバーは、業火巡る焼け跡に立っている。

 

 

「まさか……」

 

「……これは、固有結界?」

 

 

ダ・ヴィンチやマシュがそう呟いた。

焔に照らされたギル吉は辺りを見回し、一つ溜め息をついた後で、適当な剣を一本取りだし、構える。

 

 

「その程度の小細工でどうにかなるとでも思ったのか?」

 

 

そう言って歩き始めようとした。

しかし……足を出そうとした刹那、彼は体に違和感を感じていて。

 

 

「……ん?」

 

 

……熱いのだ。全身が焼けるように熱いのだ。蒸されるように熱いのだ。炙られるように炒られるように茹でられるように熱いのだ。

 

 

「ああ、ああっ……!?」

 

「……第六天魔王波旬、それは、儂の所業が人々の畏れを以て固有結界と化した宝具。この世界の炎は、神仏を焼く轟火よ」

 

 

その場に立ちすくむギル吉を前に、信長がそう言う。この炎のせいか、彼女の衣服は既に焼け落ち、裸マント状態になっていた。

 

そして相対するギル吉は、三分の二が神である。つまり、効果は抜群、と言うわけで。

 

 

「おのれ……だが……我は、ガッ……まだ、負けん!!」

 

 

それでも彼は剣……いや、刀を振り抜いた。それは日本刀の原典、三種の神器と名高い天叢雲剣。

 

セイバーと信長が彼を挟むよう抜刀して立つ。

……戦闘の最終局面が、始まりを告げた。

 

───

 

「……アヴェンジャー。あなたを救いたいと、私達は願う。その思いのもと、私達は戦った……ですよね、ジャンヌ・ダルク」

 

「はい……ですが、またも力及ばず……」

 

 

アヴェンジャーの最後の攻撃の後に煙が晴れると。

……天草四郎とジャンヌ・ダルクは、とうとう同時に膝をついていた。辛勝だった。

 

 

「……復讐はヒトの手には余るのです。聖典を引用するまでもなく、ソレは過ぎたる行いだ。予言でも預言でもなく、私はあなたにこう言おう、アヴェンジャー。その炎は、いつかあなた自身を滅ぼすだろう、と」

 

 

体の端を光に変えながら天草四郎はそう言った。アヴェンジャーはそれを鼻で笑い返答する。

 

 

「……それが残す言葉か、ルーラーども。オレが永久の復讐者だという事実は主さえ変えられぬ。それでも尚言うか?」

 

「……永久のものなどありません。悪しきものなら尚の事。あなたは甘いと断ずるでしょうが……」

 

「ああ、甘いな……だが……」

 

 

アヴェンジャーはそこまで言って黙り、暫く考える様子を見せた。

目の前のルーラー二人は、既に半分ほどに磨り減っている。

 

 

「……いや、止めておこう。ここに在ってさえ気高さを失わぬ者共よ。お前らの主をオレは嗤うが、お前達は別だ。憤怒を赦した聖女、悪に立ち向かわんとした強欲の聖者よ」

 

 

そしてアヴェンジャーは彼らに背を向ける。向かうは、共に戦った人類最後のマスターの元。

 

 

「……さらば」

 

「……あなたの、魂に……」

 

「……安寧があらん事を、此処ならぬ何処かで祈ります」

 

 

背後から聞こえるその声を取り合えず頭の片隅に置きながら、アヴェンジャーは黎斗に話しかけた。

その黎斗は、やはり自信ありげに腕を組んでいて。

 

 

「……待たせたな、マスター。裁きの間はあと一つだ。……お前が諦めないなら、殺し、歩み続けるなら、ともすれば現世に帰れるかもな」

 

「かも、ではない。私は絶対に帰るとも」

 

「……ははっ。……帰るぞ。今回は、かなり疲れた」

 

───

 

『Noble phantasm』

 

「これで落とす!! 幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

「おのれおのれおのれっ……これでっ……!!」

 

 

   ズシャッ

 

 

セイバーが、ギル吉を横凪ぎに両断した。

本来なら何度でも立ち上がっていただろう彼は、この炎の中ではもう膝をつく他はなかった。

 

 

「がっ……がっ……おのれ……」

 

 

血を吐きながら……しかし、笑うギル吉。信長はその刀を鞘に収め、セイバーも変身を解く。

 

 

「まさか我が負けるとは、な……!! ははっ……楽しかったぞ英雄共……また今度、相手してもらおうだぎゃ」

 

 

そこまで言った所で、ギル吉は消滅した。思い出したように最後に語尾にだぎゃと付けていったが、正直途中は普通に素のギルガメッシュだった。

それに会わせて、世界に溢れていた炎は消え、景色は元に戻っていく。

 

 

「よーし終わった、これでオレもお役御免だ。竹中アンデルセンという響きが面白かったので協力してやったが、阿呆の馬鹿笑いにはうんざりだ。ふぅ……帰ったら寝よう」

 

 

一行が戻ってくるなかにギル吉がいないのを確認してから、そう言って自分から座に帰っていくアンデルセン。いやいや言っていながら、彼も何だかんだで傷だらけだ。

そして隣のエキセントリック軍師はと言うと、傷の痛みが少し引いたので立ち上がろうとしたところをダ・ヴィンチに撥ね飛ばされ致命傷を負っていた。

 

 

「いててて……いやはや全く残念無念、それはさておき、せっかくなので私からこの茶釜をプレゼントです。あたた……」

 

「ど、どうも……」

 

 

割りと早めに霧散しながらもマシュに茶釜を手渡す軍師。

マシュがそれを受け取ったのをしっかり確認してから彼は言葉を続ける。

 

 

「いやー、極東の……えーと? 山葵山葵文化? でしたっけ? まあ、これは実に興味深い!! 爆発する茶釜とは実にエキセントリックですなぁ!!」

 

「え?」

 

 

なんかすっごい物騒な事が聞こえてきたのでマシュは硬直した。え、今爆発するって言わなかった?と。

 

どうすればいいかあたふたするマシュ。エキセントリック軍師は既に消滅している。

茶釜を投擲しようとしていた彼女に、信長が声をかけた。

 

 

「落ち着け落ち着け、爆発するのは松永のだけじゃ……うむ、この茶釜が変質した聖杯の核のようじゃな」

 

 

そう言っていた。

 

……つまり、ミッション完了である。やっと完了である。

ああ、長くて辛くて苦しい戦いだった。

 

 

「……ミッション完了、ですね」

 

「そうだねー……そろそろ帰らないと、本当に空間消滅しちゃうね」

 

 

帰還が始まる。マシュとジークフリート、ダ・ヴィンチ、そして結局目を覚まさなかった黎斗は青い光に包まれていく。

 

 

「コフッ……皆さん、今回はお世話になりました。今度は是非私たちの世界にも遊びに来てください……大戦中ですけど」

 

「うむ、おまえ達は気に入ったのじゃ……というか、わしがそのばぐるどらいばーとやらを使えなかったのが悔しい!!」

 

 

協力してくれた二人はそう言っていた。

信長は余程悔しかったのだろう、何度も地団駄を踏んでいる。

 

 

「次何か召喚する時には、絶対に召喚されてやるからの!!」

 

「ノッブならやりかねませんね……」

 

「さようなら沖田さん!! 信長さん!! かっこよかったですよ!!」

 

「では、さらばだ」

 

「じゃーねー!!」

 

 

そしてその光景も、次の瞬間には青に塗り潰されていて。

 

 

「では、また何処かで会いましょう!!」

 

「さらばじゃ!!」

 

 

その声だけが、マシュの耳に残っていた。

 

───

 

「……檀黎斗」

 

 

アヴェンジャー、エドモン・ダンテス。憤怒そのものであり、復讐者として座に記された男。

彼は……仮初めのマスターの牢獄の前に座り、思考に耽っていた。

 

宝具にもなるほどの超高速思考も、檀黎斗という神を理解するには未だたどり着けていない。情報が少ない──それが、アヴェンジャーの出した一応の結論だった。

 

 

「……檀黎斗は、果たして助けるべき人間か?」

 

 

何度目かは分からないが、アヴェンジャーはまたそう呟いた。

これまた何度目かは分からないが、再度これまで得た情報を纏めてみる。

 

 

・嫉妬の間

 

 監獄塔においても己のペースを貫く精神性

 高い技術

 仲間意識は一応ある

 非常に嫉妬深い

 復讐に寛容

 

・色欲の間

 

 色欲を憎んでいる

 既に魂から排除済み

 

 

ここまでは、黎斗はアヴェンジャーにとって全く理解に苦しむ存在だった。

人間なのか、そうでないのか。善か、悪か。

 

いや、元来アヴェンジャーは人類最後のマスターを助ける心づもりではあったが。それでも、彼を助けるのは本当に大丈夫なのか、と思ってしまった。

 

情報は日毎に増えていった。

 

 

・怠惰の間

 

 怠惰に寛容

 勤勉に活動し怠惰を産む

 残酷なまでの決断力

 神の才能(ジル・ド・レェ談)

 

・憤怒の間

 

 復讐を利用している

 英霊には無知

 

・暴食の間

 

 迷わない(カリギュラ談)

 沢山の人間を犠牲にしている

 後悔しない

 愛を捨てきれなかった(カリギュラ談)

 後天性かつ真性の悪(カリギュラ談)

 

 

この、カリギュラの言葉が一番のヒントなのだろう。元々黎斗の仲間だった者の言葉だ、信憑性はある。

だが……どうしたものか。後天性かつ真性の悪なんて言われてしまっている。

 

己の憎むものは、悪と理不尽だ。それは己がもっとも理解していること。ならば、彼を許すのは復讐者としてどうなんだ……そうとも思う。

 

されど、彼がこの人理焼却に打ち勝たないと、全ての人間が死ぬことになる。それはアヴェンジャーの本意ではない。

 

しかし彼に人理を救わせたところで、どうなる? 檀黎斗自身が新たな人類悪になるやもしれぬと言うのに?

もしかすれば、人間は痛みなく一瞬で消滅したままの方が、幸せかもしれないと言うのに?

 

 

「……チッ。オレが他人の幸せを心配するとはな。聖女にでも毒されたか」

 

 

アヴェンジャーはそう一人ごちた。

彼の中での結論は、「黎斗は復讐すべき悪である」に決まりつつあった。

 

だが、彼はいざ黎斗を手にかけるべきかを考えると、途端に思考が止まってしまうのだ。

下手をすれば、殺す前に殺されるやもしれぬと言うのに……いや、シャトー・ディフにあって二人以上の脱出など有り得ないのだが。

 

とにもかくにも、アヴェンジャーは……黎斗に攻撃するのが酷く躊躇われていた。

何か判断基準を追加しようと、第六の間の事も思い返すが……

 

 

・強欲の間

 

 努力を怠らない

 

 

これだけだ。アヴェンジャーは頭を抱えた。

 

己はどうするべきなのか、と。

 

そもそも何故、黎斗を殺せないんだろうか。アヴェンジャーは考える。

彼を焼くイメージを固め黒炎を出してみようとするが……

 

 

「……」シュボ

 

 

煙草一つすらもつけられそうにない、微弱な火花が散っただけだ。

 

アヴェンジャーは考えた。

これまでの六日間を。()()()()()()六日間を。

 

……そして、はたと気づいた。

 

 

「……ああ、そういうことか」

 

 

これまでの六日間。

アヴェンジャーにとっては大変予想外な出来事だらけだった。

理解がいくところも、理解がいかないところもあった。共に戦った時にはその技術や才能に確かに驚嘆した。

 

 

「あの男も、オレも。……人間でありながら人間を捨て、されど愛を最終的には捨てられず。目的のためには一心に動き、そしてその目的のため……人間性の悉くを逸脱した」

 

 

そこまで言って、アヴェンジャーの口から笑い声が漏れ出た。彼は何かを拒絶するかのようにその帽子を目が隠れるように被り直す。

 

 

「ははっ、くはははは……そうか。オレと彼奴は()()なんだ。共に悪であり、共に人外と化した……ああ、仲間、なのか」

 

 

寵姫こそいたが……彼を理解する存在はいたが。

アヴェンジャーは己と似た存在を知らなかったのだ。六日前……いや、ある意味では今日この日まで。

 

 

「同士、なのか」

 

 

だからアヴェンジャーは、どこか呆けたように、そう理解した。

 

この世の地獄、シャトー・ディフの怨念にまみれたその床に、一粒の滴が落ちた。

 

 

「くははははっ……ああ、分からぬ、全く、オレはオレが分からぬ!! 復讐者たるオレに、仲間を求める感情があったとでも言うのか!! ああ、そうでなければ、この感情の昂りは何なんだ!! 今までの何とも違う、オレはこんなの知らない、覚えていない、既に忘れた、なのにっ──!!」

 

 

そこまで言って、アヴェンジャーは落ち着きを取り戻した。

溜め息を一つついて、煙草に火をつける。

 

 

「……やれやれ。これでは考えるだけ無駄と言うものだ……偵察にでも行ってやろう」

 

 

そう言って歩き出す。

 

その力を活用し、数分と経たずに第七の裁きの間、傲慢の間にたどり着いたアヴェンジャーは。

 

その姿を見た。第七の裁きの間の主を。

 

 

「……はは、やはりそうか。それもそうだよな」

 

 

そこにいたのは。

 

 

「檀、黎斗……!!」

 




アヴェンジャーと神は、何だかんだで敵対しない限り相性いいと思う……思わない?

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