「……起きたかマスター」
「おはようアヴェンジャー」
アヴェンジャーが牢獄の扉を開けたときには、既に黎斗は仕度を終えていた。ナーサリーは黎斗の周りをくるくると回っている。
「……行くぞ、準備しろ。第七の裁きの間へと向かうぞ」
「ああ……今日で最後だぞナーサリー」
「はーい」
そんな事を言いながら、三人はシャトー・ディフの廊下へと出ていった。
───
「じゃあ、召喚するよ!!」
ダ・ヴィンチが召喚室にてそう言った。彼の前では、マシュがきらきらとした目で召喚サークルを見つめている。
辺りに青い光が満ち、そして……
「魔人アーチャーこと第六天魔王ノブナガじゃ!! うむ、そなたがわしのマスターとなることを許すぞ!!」
「信長さんっ……!!」
やっと女子が来た!! これで勝つる!! ……なんて言ってはいないが、しかしそんな顔をしながら、マシュは信長に飛び付いた。
ダ・ヴィンチはやれやれといった感じで彼女を見つめる。
「はは……信長ちゃん、こんな場所だけどよろしくね?」
「うむ!! ……所で、わしもばぐばいざーとやらを使いたいのじゃが……」
「分かってる分かってる……」
信長に分かりきっていた要望を言われ、そう返すダ・ヴィンチは……突然腰に振動を感じた。
ヴーッ ヴーッ
「ん?」
端末を取りだしメールを確認する。
そこには……
「……マシュちゃん、君のマスターの容態がなんかおかしいみたいだよ」
───
「第七の支配者……お前は、ひたすらに相手に抗え。迷いは要らない、惑いは要らない、結局道は一つなのだから」
「今日は傲慢の担当だろう?」
「ああ……だが、お前ほど傲慢な男は、オレは中々見たことがない」
「ただの傲慢じゃないさ。確固たる才能と弛み無き研磨の上に抱く正当な傲慢だ」
「否定はしないとも」
アヴェンジャーと黎斗は、歩きながらそう語る。その目は、まっすぐに前を見つめていて。
「……にしても、お前は幸運な男だ」
「何だいきなり」
「オレが傍らを歩いているのもそうだが、このイフ城……シャトー・ディフの地獄の殆どをお前は知らずにいる」
「な、何かしら、それ……」
アヴェンジャーが唐突に切り出した話にナーサリーは怯え、黎斗の服の裾を掴む。アヴェンジャーはそれを気にかけることもなく、同じトーンで話し続ける。
……いつの間にか、第七の間の扉の前にやって来ていた。
「理不尽な拷問の雨、道理に外れた凌辱、死にかけの呻きの合唱、途絶えぬ死臭とそれに集る毒虫……そんなものだ。……オレは、お前は余程何かに愛されていると思っていたが……」
そう言いながら、アヴェンジャーは第七の間の扉に手をかけ。
今までで一番重い音を立て、空気すらも軋ませながら開いたその扉の向こうにいたのは。あったのは。
……
「……」
「まさか、檀黎斗。お前自身が第七の間の主だったとは」
「……ほう。随分と、粋な計らいがされているじゃないか」
黎斗はその台に歩み寄る。そして、ゲーマドライバーと二本のガシャット……プロトマイティアクションXとプロトシャカリキスポーツを拾い上げ、まじまじと見つめた。
「……ああ、そうだな檀黎斗。……オレはずっと考えていた。お前を導いて本当にいいのか、と。お前は……オレが本来憎むべき悪だったのだから」
「そうか。まあ、ここ基準で語るならそうだろうな」
「いや、ここで語る悪なら問題ない。寧ろお前は、ここの悪からはある意味では逸脱している。だから……お前は人非人であり、この世の理不尽足り得る、魔術王にも近い悪だ。だが……今なら言える。お前をここに連れてきて、良かった、とな」
黎斗は再びアヴェンジャーを見やった。
……彼の目は爛々と輝いていて、その体からは黒いエネルギーが溢れていて。
「第七の裁きの間、傲慢の間の支配者よ。オレかお前か、この戦いに勝った方がこのシャトー・ディフから脱出できる」
「……成る程、それもそうだろうな。だが……裁きの間の主が、外に出ていいのか?」
「くくっ、かくいうオレとて、神の領分たる復讐を司っているのだ……傲慢の具現、第七の裁きの間の支配者よ!! さあ……遠慮はいらぬ!!
そう怒鳴るアヴェンジャー。
ここに来て吹っ切れたのだろう、その拳からは焔が立ち上っていて。
対する黎斗はあくまでも落ち着いていた。
「……来い、ナーサリー」
「分かってるわよマスター」
黎斗が指示をだし、彼に纏わりつくようにナーサリーが背後から優しく覆い被さる。そして彼女はその体をバグスターウイルスに変換し、黎斗の体内に戻った。
これで黎斗は再び、『イメージ通りの挙動をする力』を得たことになる。ロンドンの時は体が砕け散るレベルの副作用があったが、魂だけの今なら大した問題はない。
『マイティ アクション X!!』
『シャカリキ スポーツ!!』
黎斗はゲーマドライバーを腰につけ、そしてプロトマイティアクションXにプロトシャカリキスポーツの電源を入れた。
第七の間に紫のゲームエリアが展開される。ガシャットの音声が鳴り響く。そして。
「行くぞアヴェンジャー……グレード3、変身」
『『ガッシャット!!』』
『ガッチャーン!! レベルアップ!!』
黎斗の体がゲンムに書き換えられる。紫の体躯の戦士となっていく。
『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン X!!』
『アガッチャ!! シャカリキメチャコギホットホット!! シャカシャカコギコギ シャカリキスポーツ!!』
「……仮面ライダーゲンム、レベル3」
「……くははははは……そうか、それがお前か!!」
アヴェンジャーは目を見張る。いや、肩に自転車を装備した珍妙かつ不安定な体型も十分刮目には値するが……
……彼がひたすらに見ていたのは、己のマスターの本来の力、そしてゲンムの持っている自信の結晶である仮面ライダー、そのものだった。
───
「ドクター!! 黎斗さんは!?」
「うーん……何だろう、元々死体だからなんとも言えないけど……」
医務室にやって来たマシュは、ロマンが枕元に立つ黎斗のベッドに目を見やる。
人理を救うためには、彼には存在して貰わなければいけないのだ、消えられては非常に困る。
「……実は、さっきからプルプルしてるんだよね、コレ」
「……プルプル?」
黎斗の冷たい体は、よく見ると小刻みに震えていた。定期的にブレたり、薄くなったりしている。
「当然、ボクはこんな症状知らない。もしかしたら、彼がロンドンでサーヴァントを体内に潜ませた影響なのかもね……でも、今は何ともしようがない」
「そう、ですか……」
「当然、最善は尽くすさ。少なくとも、彼にはマスターとして存在して貰わないと困るんだから」
───
「
『シャカリキ クリティカル ストライク!!』
宝具を解放し、超高速でゲンムに迫るアヴェンジャー。対するゲンムは左肩から車輪を引き抜き回転させ、盾のようにして攻撃を凌ぐ。
ガンッ ガンガンガンッ
「ふはははは……やるな檀黎斗……」
「そっちこそ、なかなか耐えるじゃないかアヴェンジャー」
殴りあいながらそう簡単に言葉を交わす二人。アヴェンジャーは、笑っていた。ゲンムは……表情なんて見えなかった。
「お前の攻撃の筋は何となく理解できているからな。言っただろう? オレはお前でお前はオレだと。お前とオレは同じな訳だ。全て、全て」
炎を撒き散らしながらそう言うアヴェンジャー。ゲンムはそれらを車輪で掻き消しながらアヴェンジャーに肉薄する。
「同じ、とはどういうことだ?」
「オレもお前も、結局は同じルートを辿り、同じエンドへとたどり着こうとする存在、というだけだ、檀黎斗。人間への愛を捨てられず、目的の為に人間を投げ捨てた……同士よ」
黒炎が巻き上がる。それをもろに受けたゲンムのライフゲージが幾らか減ったが、ゲンムはそれを気にすることなくアヴェンジャーの鳩尾を蹴り込んだ。
グシャッ
「かはっ……!!」
「……お前は勘違いしている。……私はあくまで、私自身の神の才能を生かすためだけに戦っているだけだ」
「だろうな。だが──態々才能を他者に恵んでいる時点で、少しは他者への情がある、という事かもしれないぞ? ……オレ自身、こんな台詞は似合わんと思うがな」
「……」
ゲンムは黙りこむ。その姿は、ここまで言われるとは思っていなかった、と言わんばかりで。
そして彼は、再びキメワザスロットにガシャットを装填する。
『シャカリキ クリティカル ストライク!!』
───
「……所で、クロト、とは誰なのじゃ?」
「そう言えば、俺も知らないな、すまない」
カルデアの食堂にて、まだ動いている黎斗を見たことがない二人が話していた。彼らは理解していないのだ。
黎斗がいかに面倒で独り善がりで排他的で自惚れていてそして強いかを。
彼らは無知が故に、彼に夢を見てしまう。
「マシュ曰く凄く酷い奴、じゃったが……」
「だが、自身の大破もいとわずビーストを撃破したと聞く。ともすれば、真の意味で強い存在なのかもしれない」
「じゃが、それなら少しは理解されていても良いと思うのじゃが。わしには判らぬ」
「そろそろ目覚めてくれるとありがたいのだが、な」
───
「
『シャカリキ クリティカル フィニッシュ!!』
「「……終わりだ!!」」
ブレードを展開したガシャコンブレイカーにシャカリキスポーツを装填したゲンムは、全身を燃え滾らせるアヴェンジャーに何度めか分からない必殺を繰り出す。
対するアヴェンジャーは瞬時にゲンムの前に移動し、その拳を振りかぶり。
グギャァンッ
「……!?」
次の瞬間には、ガシャコンブレイカーのブレード部分が大破していた。長く激しい戦闘で、武器が最初に音を上げたのだ。
遠くに突き刺さる切っ先、目の前には宝具を解放したままのアヴェンジャー。
彼の拳がゲンムに迫る。そして、既に彼のライフゲージは1で。
「はあああっ……!!」
「ぐっ……」
目を閉じるゲンム。
拳が風を切る音が聞こえ。
しかし衝撃は何時まで経っても来なかった。
「くっ……」
アヴェンジャーは、彼の目の前で拳を止めてしまっていたのだ。
『バッコーン!!』
『シャカリキ クリティカル フィニッシュ!!』
「はあっ!!」
グシャッ
そのあまりに大きすぎる隙を見て、ゲンムはアヴェンジャーの腹に最後の一撃を叩き込んだ。
糸がプツリと切れたように崩れ落ちるアヴェンジャー。炎はいつの間には萎み、消えている。
『会心の一発!!』
「……くはは……これが、身内の情、という奴か」
「私はお前の身内ではない。神の才能を前に怖じけづいただけだろう」
力なく呟くアヴェンジャーをゲンムはそう断じる。そして彼は、変身を解いた。
「……クッ、ククッ。ああ──流石、我が同士だ」
「……言ったはずだ。お前は私とは違う、と」
「お前が何を言おうと、そんなの気になどするものか、オレはオレのやりたいようにお前を翻弄してやる……」
そこまで言って、一つ深呼吸するアヴェンジャー。既に、体は少しずつ薄くなっていて。
「……気分は悪くないな。そうとも、オレは一度でも味わいたかった、かつてオレを導いたただひとり、ああ、ファリア神父……あなたのように!! オレも……絶望に負けぬ誰かを……我が、希望として……」
「……私には分からないな。やはり、私はお前とは違うとも」
「……オレは思おう。お前はお前なりに、結局誰かの役に
「……」
「……お前はオレを殺してくれた。ゲーム、クリアだ。……そう……オレたちの勝ちだ!! 魔術王とて全能ではないと言うことだ!! くははははは!! くははははは!!」
絞り出すような、それでも満足げな笑いだった。
「愚かな魔術王め!! お前がビーストにこてんぱんにやられたのを機に殺そうとしたが、結果はこれだ、ざまあない!! オレなんぞ選ぶからだ!! くははははは!! ああ、復讐さるるべき悪なるもの、檀黎斗!! しかしお前は……」
「……お前は?」
「世界を救うだろう!!」
「そうか……そう、思うのか。……所で、お前は……永遠に消えるのか?」
黎斗はそう問いかける。彼の前のアヴェンジャーは、既にその下半身を霧散させていて。
しかしアヴェンジャーは言った。
「……馬鹿め。オレはアヴェンジャーだ……復讐すべき悪を見逃して簡単に消えられるとでも思ったか?」
そこまで言って、アヴェンジャーは小さく黒炎を起こし……黎斗の肩に押し込んだ。己の肩を慌てて見やり、静かに慌てる黎斗。
「……これは」
「魂にオレの炎を少し流し入れた。戻ったら召喚してみろ、すぐに押し掛けてやる……お前が己自身の意思すら見失い、意味無き悪に、理由無き理不尽に墜ちたなら、オレが復讐してやるさ」
そう言うアヴェンジャーは、もうその腕も消えていて。
「……また後でな、檀黎斗。オレと似た存在よ。オレが、アヴェンジャーたるオレが、お前を最後まで見届けてやる……待て、しかして希望せよ!!」
辺りには誰もいなくなる。
そして黎斗自身も、その次の瞬間には光に包まれ、シャトー・ディフから消え失せていた。
アヴェンジャーがクリア報酬になるルート
ノッブかエリちゃんかで一時間悩んだ結果、結局Uchuu2001さんのノッブを採用しました