Fate/Game Master   作:初手降参

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苦手意識持つんですね先輩!?

 

 

 

 

 

「いざ、尋常に」

 

「……勝負!!」

 

 

二本の槍を構えたディルムッドと、二本の剣……バルムンクとガシャコンソードを構えたセイバーが、全く同じタイミングで走り出す。

 

 

『Quick brave chain』

 

「はあっ!!」

 

   ガキンッ

 

 

ドライバーの効果で瞬間的に加速したセイバーが先手を取って相手を切りつけた。しかし相手は最速と謳われるランサーのサーヴァント、その攻撃は受け流される。

 

二人は互いに少し距離を取り、相手の隙を伺いながら少しだけ言葉を交わした。

 

 

「……今の一撃、中々の手慣れと見た」

 

「こちらの台詞だろう。やはりフィオナ騎士団の一番槍、あんな簡単に対応されるとはな」

 

「こちらこそ、貴方のような大英傑と一戦交えられるというのは大変な幸福だ。……そこっ!!」

 

   シュッ

 

 

今度は素早く接近したディルムッドの方が攻め立てる。

長槍と短槍を交互に振るうその戦闘スタイルには隙がなく、セイバーは辛うじてそれらを受け流すことしか出来ない。

 

 

「くっ……だが、まだ!!」

 

『コッチーン!!』

 

 

セイバーは後ずさりながらガシャコンソードのAボタンを軽く叩いた。

 

すると唐突に、ガシャコンソードの刀身に冷気が纏わりつく。

 

 

「これで!!」

 

「……!?」

 

 

ディルムッドの持っていた槍が突然冷たくなり、辺りの空気まで巻き込んで凍りついた。ガシャコンソードによって急激に冷却されたからだ。

 

 

「くっ……」

 

 

ディルムッドが一旦後ろに下がる。そしてセイバーはその隙を逃そうとはしなかった。

 

ドライバーの両側のボタンを叩くと、必殺技の待機音声が鳴り始める。セイバーはそれに一瞬困惑したが、しかし大きく戸惑うこともなく、左側のボタンを更に叩いた。

 

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

騎士大剣・天魔失墜(タドル・バルムンク)!!」

 

 

ガシャコンソードからは無数の氷塊が、バルムンクからは無限の轟火が沸き上がる。

そして、セイバーは高く飛び上がり、ディルムッドを鋭く袈裟斬りに切り裂いた。

 

 

   ズシャッ

 

「があっ!?」

 

 

その衝撃は凄まじく、ディルムッドはその場から吹き飛ばされ黄色い短槍は高く打ち上げられた。

さらに追撃をしかけるセイバー。しかしディルムッドは痛みに耐えながら、残された赤い長槍でセイバーと打ち合う。

 

 

「終わらせる!!」

 

『Arts chain』

 

「まだだ……まだだ!! 破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!!」

 

 

長槍の真名を叫び、セイバーを一気に攻撃するディルムッド。セイバーはその勢いに押されながらも、焦っているのか隙だらけのディルムッドを攻撃する。

 

そして、ディルムッドが強引に攻めを続け、暫くセイバーが押されての繰り返しが続いた。しかしセイバーは致命傷を負わず、ただ押されて後ずさるのみ。

 

彼が頭の片隅に、何かおかしい、という感想を持ち始めた時だった。

 

 

「……しまった!! 上から来るぞ、回避しろ!!」

 

「!?」

 

 

作業をしながらちらちらと戦況を確認していた黎斗が突然悲鳴にも近い声を上げた。

困惑と共にセイバーがその場から飛び退こうとするがもう遅い。

 

 

「……今だ!! 穿て、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)!!」

 

 

真名解放された、未だ宙に舞っていたゲイ・ボウは鋭く落下してきて……セイバーの右足を貫いた。

 

 

   グサッ

 

「ぐっ……!?」

 

 

怯むセイバー。ディルムッドは彼から素早く短槍を引き抜き、仕える主の元へと舞い戻る。

 

 

「……ここまでにしておけディルムッド」

 

「はい……申しわけありません、我が王よ」

 

「いや、構わないともディルムッド。寧ろあの相手によくやった。ほら、癒しの水だ……暫く休んでいろ、傷が酷い」

 

 

ディルムッドに手で掬った水を与えそう言いながら、フィンが今度は前に出た。

 

セイバーもよろけながら変身を解き、バグヴァイザーとバックルを信長に渡す。

 

 

「すまない……傷が治らない。そういう効果なのだろう……頼む信長」

 

「承った。わしに任せろ、なのじゃあ!!」

 

 

そして渡された信長は嬉々としながらそれを受け取り、小躍りしながら黎斗の元へと歩み寄る。

 

 

「わしにもガシャットを貸して欲しいのじゃが……」

 

「……」ガチャガチャ

 

「私にも!! 貸して!! 欲しいのじゃ!!」

 

 

お願いしたら無視されたので耳元で叫んだ。是非もなし。

 

 

「分かった分かった!! 叫ぶな!! ……こいつらを使え。二本挿しだ」

 

「分かったのじゃ!!」

 

 

めんどくさいので、適当にガシャットを二本取り出して与える黎斗。その目はやはりパソコンに向いていて、信長は少し寂しさを覚えた。

でもまあ、望みの品は手に入ったから文句はない。彼女は電源を入れ、ホクホクしながらバグヴァイザーにそれを装填する。

 

 

『バンバン シューティング!!』

 

『ジェットコンバット!!』

 

『『ガッシャット!!』』

 

『チューン バンバンシューティング』

 

『チューン ジェットコンバット』

 

 

フィンは槍を構えた体勢で微動だにせず、信長が仮面ライダーアーチャーに変身していくのを、静かに観察していた。

 

 

『ガッチョーン』

 

「ゆくぞ。変身!!」

 

『バグルアァップ』

 

『ババンバン!! バンババン!! バンバンバンバンシューティング!!』

 

『アガッチャ!! ぶっ飛びジェット トゥザスカイ!! フライ!! ハイ!! スカイ!! ジェットコンバット!!』

 

 

まずアーチャーの素体……つまり、ガシャットを使わずに変身した信長っぽい仮面ライダーが出来上がる。

次に、黄色く光るパネルが現れ、アーチャーにマフラーやら装甲やらを追加し、いわゆる仮面ライダースナイプっぽい要素を追加する。

そしてコンバットゲーマが空を飛び回り、アーチャーの強化装甲として合体した。

 

 

「おお!! 凄いのじゃ!! え、これ飛べるの? 凄いのぉ!! ……じゃあ、出陣じゃ!!」

 

 

アーチャーは暫く興奮したようすでレバーやら何やらを弄くり回し……そして、すぐに使用方法を覚え、空を舞った。

 

 

「打てぇい!!」

 

   ダダダダダダダダダ

 

 

辺りに火縄を呼び出しながら、自分はミサイルやらマシンガンやらを大量に発射するアーチャー。

対するフィンはその槍で撃たれた弾のほとんどを撃墜し、受け流し、回避する。

 

 

「ほうほう、これはまた奇妙な……だが、リーチを取った程度でこのフィン・マックールを征したと思うなよ!! 」

 

 

そう言って彼は空を飛ぶアーチャーに槍を向け。

 

 

「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃……その身で味わえ!! 無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)!!」

 

───

 

その頃。

 

 

「こうして、人魚姫は海の泡となってしまいましたとさ。……おしまい」

 

「酷いわ酷いわ酷いわ!! どうしてどうもこう、こう、バッドエンドばかりなのかしら!!」

 

「そんなこと言われても……」

 

 

ロマンは管制室で黎斗達をモニタリングする傍ら、何とかして黎斗を治療しよう(ゲームをクリアしよう)と、ひたすらに童話を読み続けていた。

ゲーム病……と黎斗が言っていた病は未だに黎斗を蝕んでいるらしい。黎斗の体が時々透けているのが、モニター越しに見てとれた。

 

 

「……じゃあ、次は三匹の子豚を……」

 

「それ前も読んだじゃない!! それに、どうして最終的にオオカミを茹でて殺しちゃう終わりかたの本なのよ!! もっと子供向けにしなさいよ!! 後味悪いじゃない!!」

 

「そんなこと言われても……ああ、どうしてカルデアの図書資料室には本当は怖いグリム童話的なエンドの本しか無いのかなぁっ!!」

 

 

そう唸るロマン。いくら漁っても、ろくなハッピーエンドが無い。

 

それはまあ、見えない誰かにも怒りたくなる。

 

 

「そもそも誰なんだ、この本を集めたのは……」

 

「……私だ」

 

 

ダ・ヴィンチが隣の部屋から顔を出した。

ロマンは彼に問いかける。

 

 

「え、ダ・ヴィンチ……君が集めたの? え、じゃあこのバッドエンドまみれなのは……」

 

「私の趣味だ、いいだろう?」

 

「……」

 

───

 

「くうっ……!!」

 

 

コンバットゲーマの背後に、何度目かのフィンの宝具が直撃する。次第にエンジンは悲鳴と共に煙を上げ始め、危険信号を発していた。

 

 

「この、何なんじゃあのハイドロなポンプ的な槍は……是非もなし、ここで決める!!」

 

『バンバン ジェット クリティカル フィニッシュ!!』

 

無限弾倉・三千世界(バンバン・ジェット・サンダンウチ)!!」

 

 

アーチャーは短期決戦に持ち込もうと己の宝具を使用する。空中に生成した大量の火縄と大量のガシャコンマグナム、そしてコンバットゲーマの機関銃がフィンを包囲し、火を吹いた。

 

 

「ふぁいや、なのじゃあ!!」

 

   ズドドダダダドダダダダ

 

 

轟音、そして砂煙。

その威力は凄まじく、圧倒的な勝利を思わせる。

ディルムッドは唖然とし、黎斗は苛立たしげに作業に耽り、マシュは輝きに満ちた目でアーチャーの勇姿を見て……

 

しかし。

 

 

「ぐぅ……ふむ、なかなか手に余る。これは……歴戦の勇士だったな」

 

「くっ……この装備をもってして攻めきれぬとは……!?」

 

 

しかし、フィンは傷だらけであったが無事だった。

傷が殆ど癒えたディルムッドが彼の元に駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか王よ!!」

 

「ああ。咄嗟に親指かむかむ知恵もりもり(フィンタン・フィネガス)を使用してね。周囲に何重にも水の壁を作って弾を弱めた」

 

 

そう、何処と無く自慢げに言った彼は、しかし力なく膝をつく。ディルムッドは彼に肩を貸し、倒れ込むのを防いだ。

 

 

「くっ……ここまでか」

 

『ガッチョーン』

 

 

コンバットゲーマが限界と見て変身を解いた信長は、勝てなかった事を悔やみながら敵のリーダーを見つめる。

そしてその隣では、ずっと押し留められていたナイチンゲールが弾かれたように駆け出していた。

 

 

「……不味いです。怪我人の気配!!」ダッ

 

「あっ、ナイチンゲールさん!?」

 

 

慌てて立ち上がり彼女を追おうとするマシュ。しかし彼女は黎斗に足を引っ掛けられ思いきり転んでしまった。

 

 

   ズコッ

 

「いたあっ!? く、黎斗さん!?」

 

「捨て置け。……おそらく相手の思惑は時間稼ぎ。ケルトは元々他の兵士達が狙いだったんだろう」

 

「ほう……気付いていたのか」

 

 

黎斗が推測を述べると、フィンが片方の眉を上げて黎斗に反応した。しかし黎斗はやはり彼を無視し、空を見上げる。

 

ロボットゲーマとビートゲーマとチャンバラゲーマ、そしてハンターゲーマが浮いていた。

ロボットゲーマは既に大破に近く、他の三つも傷だらけである。

 

 

「ふむ……やはりゲキトツロボッツは半壊していたせいでうまく働かなかったらしい」

 

「……それは?」

 

「兵士のサポートに行かせていた。まあ無理を強いたから、この有り様だがな。……ロボットゲーマのパフォーマンスが落ちたのはお前がこいつを壊したのが原因だ、患者が救えなかったのはお前のせいだ……なんてナイチンゲールに言って、思いきりいびってやろうか」

 

 

ゲーマをガシャットに戻しながら黎斗が呟く。余程ナイチンゲールに切断されかけたことを根に持っているらしい。

……最も、黎斗が本当に彼女をいびったならば次の瞬間には精神の治療の名目で挽き肉にされているため、絶対に黎斗は行動に移さないが。

 

───

 

   バァン

 

「……銃声が聞こえたな」

 

「どうせあのバーサー看護婦の荒療治だろうよ」

 

 

戦線から撤退し、再び元の椅子に座り込んだ黎斗は、パソコンを操作しながら傍らのアヴェンジャーと話していた。

 

 

「ふっ……余程嫌いなのだな、あれが」

 

「医者は基本好かない。特に、絶対に患者を笑顔にする、なんて矜持を持っていればなおさらだ」

 

 

……そんな事を呟いていると、ナイチンゲールがテントから出てきて、マシュと一言二言交わした後にまた出撃しようとする。

 

 

「ああ、私の作業を邪魔するのか、また」

 

 

そんな事を言いながら、黎斗も立ち上がり荷物を纏めようとした。

 

その時。

 

 

「お待ちなさいなフローレンス。何処に行くつもりなの? 軍隊において勝手な行動はそれだけで銃殺ものと知っていて?」

 

「……ごもっともな事を言う女だな」

 

「ああ。もっと言ってやれ」

 

 

機械化兵士を引き連れた小柄な女が、ナイチンゲールを呼び止めていた。

黎斗はパソコンの下でガッツポーズをする。

 

 

「治療に戻りなさい。さもないと……手荒い懲罰が待ってるかもよ?」

 

「貴女こそ職場に戻りなさい。私の仕事は変わらない、この兵士達の根幹治療法が見つかりそうだから探りに行く、それだけです」

 

「あらそう。もっともな理由ありがとう。でも、バーサーカーには行かせられないでしょ。戦線混乱待ったなし、王様は絶対に認めないでしょうね」

 

「……王様? そんな人物に私は止められない。そんな権利は無い」

 

「うわぁ話通じないわね、流石バーサーカー。どうしましょう」

 

 

そんな会話をしている二人。

しかし暫く黙った後……突然距離を取り、互いに身構えた。

 

 

「……いい機会ね。片付けてしまいましょう」

 

「同感です。この先の無駄話が省けます」

 

 

「くははは!! 火花が散っているな!!」

 

「どうせなら相討ちになってしまえ」

 

 

そんな事を呟くアヴェンジャーと黎斗。

しかし小柄な女は彼らにも目を向ける。

 

 

「まあ!! サーヴァントが、こんなに!! よくってよよくってよ!! ケルト追い払ったのあなたたちだったのね、王様にとってグッドニュースかしら」

 

「おい、話し掛けられているぞアヴェンジャー」

 

「マスターへの質問だろう?」

 

「ああもう!! 私が話しますよ!!」

 

 

対応を擦り付けあう二人を遮って、女との会話にマシュが飛びこんだ。

 

 

「まず質問です。王とはだれですか?」

 

「……そうねぇ……うん。現在ケルトと東西に別れて戦争中の、アメリカ西部合衆国の大頭王。私……エレナ・ブラヴァツキーや、色々なサーヴァントを従えている人。それが王様。彼が世界を制覇すれば、それはそれで問題ないわ」

 

 

マシュの言葉に答える小柄な女……ブラヴァツキー。

彼女曰く、王の目的はアメリカだけを次元から分離させ、滅びから救うことらしい。

 

 

「それは、赦せません。患部を切り捨ててそれで治療を終わらせるなど言語道断です」

 

「お前が言うか切断厨」

 

 

ブラヴァツキーの言葉に怒りを隠さず答えるナイチンゲール。黎斗は彼女を小声で煽るが聞かれてもいない。

そしてナイチンゲールに相対するブラヴァツキーは機械化兵士をけしかけようとし……

 

 

「……あら、もう大丈夫なの? じゃあ……お願いね、カルナ!!」

 

「!?」

 

 

しかしブラヴァツキーは何もせず、ただ上に声をかけた。

……見上げてみれば、いつの間にか上空に新たな存在が現れていた。しかも、技の……恐らく宝具の構えに入っている。

 

 

「チッ、アヴェンジャー!! 宝具だ!! 最低限で構わない、脱出を──」

 

 

黎斗はカルナと呼ばれたその英霊を見上げそこまで言って……再び胸を押さえた。

 

 

「どうした!?」

 

「ぐっ、が、あっ……発作か……!!」

 

 

「……すまないな。梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!!」

 

 

そして彼の意識は再び闇へ落ちて……

 




ひたすらナイチンゲールにビビる黎斗
やはり医療従事者は彼の天敵

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