Fate/Game Master   作:初手降参

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一時の別れですね、先輩

 

 

 

 

 

「……さて、朝になったな。我々は東部へと向かう」

 

「ああ。で、私達がアルカトラズ島へと向かう訳だ」

 

 

アメリカは朝を迎え、星は太陽に掻き消された。登り始める白日の下で、一行は一時の別れを迎える。

 

 

「アルカトラズにもケルトのサーヴァントがいるだろう、気を付けることだ」

 

「そっちこそ気を付けろ。お前達の行く先は、ある意味では地獄だぞ」

 

 

彼らは互いに軽く脅しあうが、それでも険悪にはなっていない。まあ、態々別れ際に相手を不快にさせる必要は無かったから、ある意味では当たり前の事なのだが。

 

 

「大丈夫です。私達は、生きて帰ってきます」

 

「……そうか、そうだろうな。せいぜい足掻いておけ。……餞別だ、受けとれ」

 

 

決意を黎斗に述べるマシュ。黎斗はそれを聞いて少し俯き、そして顔を上げると共にマシュにあるものを投げ渡した。

 

 

「ガシャット……」

 

「気が向いた、神の恵みをしばらく貸してやる。しっかりと私に返却することだ」

 

「……はい!!」

 

───

 

「……では、行くとするか」

 

「うむ、短い別れだったが悔いはないな」

 

 

黎斗達がアルカトラズへと進んで行くのを見守ってから、残されたサーヴァント達はその反対側に目を向けた。

どこまでも続く荒野の向こうに、ポツポツとケルトの兵が見える気がする。

 

 

「……死にに行く訳ではありませんよ。私は貴女を死なせない」

 

「承知している。だが暗殺するために敵陣深く潜り込むのだ。生き延びることを前提にしては、うまくいくものもいくまい」

 

「……貴女は、覚悟……してるんですか?」

 

「……余は生き残るとも。図太さで他の後塵を拝したことはないのだからな!!」

 

 

そんな言葉を交わした。マシュは少しだけ恐れを抱き目を瞑ったが、しかし己の行動を後悔することだけはしまいと決めていた。

 

 

「ま、そりゃそうだ。オレも死ぬ気は更々無いし。せいぜい頑張りますか」

 

「ええ……行きましょう!!」

 

───

 

そして黎斗達の方はと言うと。

 

 

「くっ……」

 

「……やはり患者の容態は日に日に悪化しています。急ぎましょう、出来るだけ早く治さないと」

 

 

ラーマ一輪車の上で、ラーマは静かに呻いた。傷口は膿んでいて、心臓は黒ずみが否めない。ナイチンゲールは彼の汗を拭きながら焦りを隠さなかった。

黎斗は手持ちのガシャットである爆走バイクを眺めながら溜め息をつく。

 

 

「バイクゲーマで一輪車……いや、この際だからスポーツゲーマを全分解して二輪車にしてしまうとして……バイクゲーマでラーマを乗せた二輪車を牽き、そしてサーヴァントは全力疾走……なんて手もあるが」

 

「……いや、それは中々魅力的ですが、些か患者に振動が伝わりすぎます。安静も大切ですから、それは最後の手段としておきましょう。他には?」

 

「無い。コンバットゲーマも治っていないし、他のゲーマも一輪車を牽引するには壊れすぎている。ロボットゲーマはもう鉄屑と言っても差し支えないレベルだ」

 

「そうですか、役立たずですね」

 

「」

 

 

お前が言うな、と言いたかった。黎斗は非常にそう言いたかった。……言いたかったが、流石にノータイムでピストルを撃たれたら避ける自信がないので止めておいた。

 

……その時、突然カルデアから通信が入ってきた。引き吊る顔をそのままに黎斗がそれの電源を入れると、画面の向こうにはロマンではなくダ・ヴィンチが映っている。

 

 

『いや、態々一輪車を牽くよりももっと良いものがある。悪いけど、そこから数キロ離れた所にある霊脈に行ってくれ。ダ・ヴィンチちゃん特製、改良型オーニソプターをプレゼントする』

 

「オーニソプターとは何ですか? 患者の助けになりますか?」

 

『うん、確約しよう。私のオーニソプターはラーマを助けるのに一役買うよ』

 

───

 

そう言われて、彼らは横道にそれとある霊脈へとやって来た。ダ・ヴィンチが彼らの元へそのオーニソプターを転送する。

 

だが。

 

 

「これが……オーニソプター……なのか?」

 

 

ベビーカーだった。どうみてもベビーカーだった。

 

 

「……説明しろ、どういうことだ?」

 

「うむ、わしは知っておるぞ!! あのぐだぐだな特異点を攻略したときに黎斗が乗っておった奴じゃ!!」

 

「そうだな。あの時は無理矢理連れ出してしまってすまない……」

 

 

ますます黎斗は凍り付く。

今の言葉が真実なら、とんでもないことが明らかになってしまうのだが。

 

 

「……待った。私はこのベビーカーに乗せられていたのか?」

 

「うむ。あ、沖田と二人で凄く密着しながら乗ってた時もあったのう。気絶してたから分からなかったろうが、何だかんだで役得だったと思うのじゃ!!」

 

「は?」

 

「くは、くは、くははははは!! まさかお前は、寝ている間に女とベビーカーに乗って特異点にいたのか!! くははははははははは!!」

 

 

アヴェンジャーの高笑いが何処と無く虚しく響く。黎斗は別に恥ずかしいとかではなく、単純に驚きでふらつき、近くの岩に凭れかかってから血を吐いた。

 

 

「コフゥ」

 

「っ!! 患者が増えました!! 今すぐ治療に……」

 

 

そこまで聞こえてきた所で、黎斗の意識は暗闇へ沈み……

 

───

 

「……織姫と彦星は、こうして七夕の七月七日にだけ会えるようになりました。めでたしめでたし」

 

「全然めでたく無いわよぅ!!」

 

「そんなこと言われても……」

 

 

ロマンは管制室の一角でまた頭を抱えた。もう絵本は3ループ目に差し掛かろうとしている。正直な話、ロマンはもう殆どの童話を暗記していた。

 

 

「ここはもういっそのことアンデルセン辺りを呼び出して新作を書き下ろしてもらうか……?」

 

「アンデルセン!? アンデルセンを召喚するの!? だったら何で人魚姫をあんな結末にしたのか抗議しなくちゃ!!」

 

「やっぱ止めとこう」

 

 

そこまで言って、彼はモニターに目を向けた。

丁度黎斗がベビーカー、いや、オーニソプターに詰め込まれている。隣のラーマも窮屈そうだ。

彼女はいつも患者同士は離すように気を付けていた筈だが、緊急事態だからまあ仕方無いのだろう。

 

 

「心配と言えば、マシュもそうだよな……絶対あの子無理してるしな……」

 

 

そう呟きながら別のモニターを見る。マシュ達のグループはどうやらケルトとは全く戦わずにワシントンまで辿り着くつもりのようで、あらゆるケルト兵を無視していた。

 

 

「大丈夫かなぁ……大丈夫じゃないと……」

 

───

 

「……で、マスターは積み終えたが。……オーニソプターは誰が運転する?」

 

 

黎斗をラーマの隣に優しく押し込んだジークフリートが、メンバーを見渡してそう言った。

現在の面子は、彼と信長、アヴェンジャー、そしてナイチンゲール。本当は騎乗スキルBの彼自信が運転したいところだったが、残念ながら彼は右足を怪我している。アクセルやブレーキを踏む支障になるだろう。

 

 

「私がやろっか?」

 

「いや、ここはわしじゃ!!」

 

 

名乗りを上げる信長とエリザベート。ナイチンゲールは無反応、アヴェンジャーはそっぽを向いている。

……ジークフリートに直感スキルは無かった筈だが、彼はいつの間にか冷や汗をかいていた。

 

 

「「じゃーんけーん、ぽん!!」」

 

 

勝手にじゃんけんを始める二人。信長はパーを、エリザベートはチョキを出す。

 

 

「やったー!! 私の勝ちね!!」

 

「うぅ、悔しいのじゃあ」

 

 

あ、死んだなこれ。

 

ジークフリートは何をしたわけでもないがそう察し、己の過ちを悔いた。

 

 

「すまない……」

 

───

 

「ひゃあああああああ!?」ガタガタガタガタ

 

「おわぁああああああ!?」ガタガタガタガタ

 

「───!!」ガタガタガタガタ

 

「くはははははははは!?」ガタガタガタガタ

 

「……」ガタガタガタガタ

 

 

結果こうなった。ちなみに上から順に運転者であるエリザベート、そしてその側に立ち乗りする信長、ジークフリート、アヴェンジャー、ナイチンゲールである。

 

予想以上に運転が下手くそだったエリザベートは、右へふらふら左へふらふら、ケルトの兵を撥ね飛ばし、機械化兵士も吹き飛ばし、ワイバーンをジャンプ台に崖から飛び降りる有り様だ。

オーニソプターの補助機能のお陰で振り落とされることこそ無かったが、それは別の意味では地獄が長続きしたという意味でもあったと言える。

 

 

「「」」

 

 

当然オーニソプターに収容された二人も無事で済む筈がなく、何度も脳みそをシェイクさせられた結果気を失っていた。無事だったが。これでは爆走で二輪車を牽く方がずっとましだった。

 

そのような旅が暫く続いたが……まあ、なんとかアルカトラズ島の見える海岸までやって来たのだ。

 

 

「……ついたようじゃな。この向こうの島がアルカトラズじゃろう?」

 

「ああ……以外に近いな。だが泳げそうにもあるまい」

 

「そうかの? わしはスキル活用すればほら、こんな風に水着になれるのじゃが」

 

 

そう言いながらいつの間にかジャージを着ている信長。意識を取り戻した黎斗は、それに何の反応も返さずにオーニソプターから顔だけ出して言う。

 

 

「いや、コフッ……海水温や潮流的に考えて不味い。冷えて風邪でも引いたらどうする、コフッ、流石に三人はこのベビーカーには乗らないぞ」

 

「……是非もないよね」

 

 

元の格好に戻る信長。

彼女を視界になんとなく確認しながら、ナイチンゲールはオーニソプターの底部を探し、一本の紐を引いた。

 

 

   ボフッ

 

「「!?」」

 

 

突然、車輪を囲むようにしてゴムボートらしき何かが出来上がった。こんな機能までつけられていたらしい。

突然ベッドが競り上がったせいか驚きを隠さない二人の体調を気にしながら、ナイチンゲールは他のサーヴァント達を乗せ運転を開始した。

 

 

「ちょっと、私が運転してたのに!!」

 

「貴女の運転は患者に障ります、我慢してください」

 

「えー……」

 

───

 

ナイチンゲールの運転は、エリザベートよりはましな物だった。少なくともラーマと黎斗は、非常に快適な船旅……いや、オーニソプター旅を送れたと言える。

 

そしてオーニソプターは、岩礁に乗り上げることもなく静かに砂浜に乗り上げた。

遠くに監獄の建物が見える。そしてそれを守るように、沢山のワイバーンが浮いていた。

 

 

「ついたようだな。サーヴァントはいるか?」

 

「ふむ、恐らくいるようじゃな。わしらを誘うようにワイバーンが設置されておる」

 

「ええ……ゴムボートの収容は終わりました。皆さんオーニソプターに掴まって」ブルンブルン

 

 

獲物を見定めるようなワイバーンの目付きなど歯牙にもかけず、スムーズにゴムボートをしまったナイチンゲール。そして彼女は再びオーニソプターのハンドルを握って。

 

 

「今は時間が惜しい。執刀許可を待つ時間は不要です、突貫します!!」

 




オーニソプター(二回目)

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