Fate/Game Master   作:初手降参

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闘争する者

 

 

 

 

 

「前方にワイバーン!!」

 

「分かっておる、三千世界(さんだんうち)!!」

 

    ズダズダズダァンッ

 

 

オーニソプターをかっ飛ばしながら辺りの障害を察知し、近くのサーヴァントに指示を出すナイチンゲール。

前方からの敵は信長が打ち払ったが、今度は上からワイバーンが降ってくる。

 

 

「上空からワイバーン!!」

 

「ふははははは!! 虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

今度はアヴェンジャーが動き、飛び上がって素早くワイバーンを吹き飛ばした。そして彼は瞬時にオーニソプターに戻ってくる。

 

 

「建造物まであと700メートルです」

 

 

前方に群がるワイバーンの向こうを、彼女は睨み付けた。オーニソプターのアクセルを更に踏み込む。

エンジンが唸り、排気は辺りを灰に染めて。音すらも越えてそれは駆けた。

 

 

「前方にワイバーンの塊!!」

 

「……了解した!!」

 

 

ジークフリートがオーニソプターのボンネット……のような部分に飛び乗る。貫かれたままの右足は酷く痛むが、今回は態々踏み込む必要はない。ただ構えて、宝具を使った状態で剣を振るだけ。

 

 

「──墜ちろ……幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)ぅっ!!」

 

   ズバッ

 

 

蒼白い光を纏った一閃が、全てのワイバーンを粉砕した。

ジークフリートは痛みと疲労でその場に座り込む。そしてナイチンゲールは建造物に辿り着いたことを確認し、オーニソプターを停めた。

 

 

「おう、アルカトラズ刑務所にようこそ。入監か? 襲撃か? 脱獄の手伝いか? とりあえず希望は言っておきな、殺した後でどうするか考えるからよ」

 

「……こちらの患者の奥方が此処に監禁されているようで。治療に必要なのでお渡し願います」

 

 

ずっとこちらを見ていたのだろう、建物の上から筋骨隆々な男が話し掛けてきた。ナイチンゲールは怯まずに彼に用件を告げる。そして男は落胆の顔を露にした。

 

 

「んだよ面会かよ、白けるぜ。戦いに来たんじゃないんかい?」

 

「まさか、看護師が戦いに来てどうするのです、看護師が戦うのは病気と怪我だけと決まっています」

 

 

そう言い切るナイチンゲール。男はやれやれといった様子で首をふり、少し考える様子を見せた。

 

 

「そりゃごもっとも……となるとアンタ、実は狂ってないのか? 乳母車かっとばしてここまで来たときはとんでもない奴と思ってたが、しごく全うなサーヴァントじゃねえか!!」

 

「……まあ、こいつはそういうサーヴァントだ」

 

 

黎斗はオーニソプターからのそりと首を出して呟く。男は意外そうに彼を眺め、首をかしげてから、納得したように頷いた。

 

 

「なんだ。荷物かと思えば喋るのか……ん、お前と隣の奴、多分どっちかか奥方のダンナだろう? どっちだ?」

 

「余、だ……」

 

「ああ、そっちだったか。そうかそうか……まあ残念だが、俺は奥方を解放するつもりはない」

 

「……」

 

「……では、怪我人の治療の邪魔ですね。障害は排除します」

 

 

そこまで聞いて、何の躊躇いもなくボックスピストルを構えるナイチンゲール。アヴェンジャーは炎を纏い、信長はバグヴァイザーを装着しながら火縄を呼び出す。そしてジークフリートはすまなさそうにオーニソプターの背後に隠れた。

 

 

「クッ……はははは!! 面白ぇ、面白ぇぞ!! バーサーカーってのも色々居るもんだ!!」

 

「何つーか、イヤな気分になるタイプのサーヴァントね、ツノ的に……!!」

 

 

エリザベートは槍を構えながらそう呟いた。顔には嫌悪が浮かんでいる。黎斗は男を見つめながら、エリザベートに言った。

 

 

「それもそうだろう。何しろ彼は英文学最古の叙事詩の主人公、竜殺しのベオウルフだからな」

 

「ほう……? 何で分かった」

 

 

真名を容易く見破られ訝しむ男、ベオウルフ。しかし黎斗はいかにも当然といった様子で彼に簡潔に語る。

 

 

「何でも何も、その剣はどう見てもフルンディングだろう?」

 

「……ハハッ、成程な。お前良い目だな!! じゃあ……俺手ずから相手してやるよ!!」

 

───

 

『Noble phantasm』

 

「……これでも喰らえ、三千世界(さんだんうち)っ!!」

 

 

アーチャーが宝具を解き放つと同時に、火縄から放たれた無数の弾丸がベオウルフに食らいつく。

しかしベオウルフはそこからさほど動こうとすることもなく、その手に持った鎖のついた剣の片方を大きく振るった。

 

 

「……これでも喰らいな、赤原猟犬(フルンディング)っっ!!」

 

 

左手に持っていた真紅の剣が、勝手に動き回り弾丸を吹き飛ばした後にアーチャーへと斬りかかる。

あまりに予想外な攻撃にアーチャーはなすすべもなく、彼女はその胴にもろにダメージを受けた。

 

 

「くはあっ……!?」

 

『ガッチョーン』

 

 

吹き飛ばされるバグヴァイザー。変身の解けた信長は力なく尻餅をつく。

それを確認したベオウルフは実に興奮した様子だった。

 

 

「後ろ、貰ったわ!!」

 

 

そんな彼の背後で、エリザベートが槍を振りかぶる。それは確実にベオウルフの背中を狙っていて、しかし。

 

 

「残念だった、なあっ!!」

 

   ガキンッ

 

 

ベオウルフは今度はフルンディングと鎖で繋がれたもう片方の武器を振るって、背後からの攻撃を防いだ。そして彼は素早く向き直り、そのもう片方の武器……とても剣とは呼べそうにない棍棒のようなそれでエリザベートの鳩尾を抉った。

 

 

鉄槌蛇潰(ネイリング)!!」

 

「がはぁっ……!?」

 

 

あえなくエリザベートも数メートル転がされた。衣装は所々擦りきれている。彼女は槍を杖に立とうとするが、力が抜けてどうにも立てなかった。

彼女の隣からナイチンゲールが飛び出してベオウルフに飛び掛かるも、そこは経験の佐とでも言うべきか、まるで遊ばれているかの如く振り払われる。

 

 

「くっ……」

 

「ほらほら、もっと、もっと来いよ!!」

 

 

そして、その反対側では。

アヴェンジャーがバグヴァイザーを拾い上げ、その腰に装着していた。

 

 

『ガッチョーン』

 

「成程な。……オレもこうしてみたかったんだ。変身……!!」

 

『Transform Avenger』

 

 

体が書き変わっていく。緑のシルエットはそのままに、全身は頑丈に変化していく。

そうして出来上がった仮面ライダーアヴェンジャーに、黎斗は()()()ガシャットを手渡した。

 

 

「使ってみろ」

 

「──これは?」

 

 

今までの黒いガシャットとは一線を引いたカラーリングのそれには、赤い炎の戦士が描かれていて。

 

 

「以前の開発データを元に再現したガシャットだ、お前とは多分相性が良い」

 

「……そうか」

 

『Knock out fighter!!』

 

 

そんな音声が鳴り響いた。アヴェンジャーはそれをバグヴァイザーに装填する。ベオウルフは既にナイチンゲールを転がしていて、こちらに向き直っていた。

 

 

『チューン ノックアウトファイター』

 

「……行くぞ!!」

 

『バグルアァップ』

 

『Explosion hit!! Knock out fighter!!』

 

 

黒炎が激しく燃え上がる。アヴェンジャーの手にはますます力が宿り、眼光は鋭くなっていた。

ベオウルフもそれにつられて高揚したのか、武器を投げ捨てて拳を固めている。

 

 

「ああ……感謝するぞマスター。これは、確かにオレ向きだ」

 

「そうだろうそうだろう」

 

「……いいねぇ。俺も滾ってきた。やっぱり喧嘩は殴りあいに限るからな」

 

 

アヴェンジャーと向きあうベオウルフ。一瞬の沈黙の後に、二人は同時に飛び出して。

 

 

「これが闘いの根源だ!! 要するに殴って蹴って立っていた方の勝ちってやつよ!!」

 

『Knock out critical smash!!』

 

「ふははははははははは!!」

 

 

拳が交わる。衝撃が辺りを震わす。

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!! 源流闘争(グレンデル・バスター)!!」

 

「くはははははははははははははは!!」

 

 

肉の打たれる音のみが支配する世界。立っていた方が勝利する単純明快な闘争。それを前にしては、武将も貴族も看護婦も腰をついている事しか出来ない。

 

そして、全てが決したときの勝者は。

 

 

「が、はあっ……!! 中々やるな、てめぇ……」

 

「くはは、此方もそう言わせてもらおう」

 

『ガッチョーン』

 

 

アヴェンジャーだった。ベオウルフは地に倒れ込み、無防備な姿を晒す。それが敗者の礼儀とでも言わんばかりに。

アヴェンジャーは変身を解き、彼に止めを刺そうとして……

 

 

「……待ちなさい、これ以上の戦闘は無意味です。時間が勿体無い、早く監獄に」

 

「何だと?」

 

「何ですって?」

 

 

ナイチンゲールに引き留められた。アヴェンジャーは難色を示すが、胸元にピストルをいつの間にやら押し付けられていたので、仕方無く降参した。

 

 

「はいはい分かった分かった。悪いな」

 

「いや、仕方無いな。……ったく、やられたねぇ。正直、気持ちよく全滅させるか、させられたかったんだが……仕方無いな。降参だ、好きにしろ」

 

───

 

「……シータ、シータ、シータ……迎えに来たぞ。迎えに……来たんだ……」

 

 

監獄に入るや否や勝手にオーニソプターから這い出して、ラーマはふらふらと走り出す。彼の目はもう半ば白く濁っていて、血は固まりかけで溢れ落ちていた。

 

 

「シータ、シータ……」

 

「……ラーマ様!!」

 

 

彼の声に呼応するように、監獄の向こうでラーマとよく似た少女が声を上げた。恐らく彼女がシータなのだろう。

何となく空気を読んだアヴェンジャーが素早く彼女の檻を破壊し、ラーマの元へ連れていく。

 

 

「……ああ、くそ。目が霞む。何も見えん。シータ……何処だ……?」

 

「……シータはここにおります、ラーマ様」

 

 

そしてシータは、倒れこんで動くことも儘ならなくなったラーマの手を握った。

 

 

「シータ、シータ……会いたかった。本当に会いたかった。僕は、君がいれば……!!」

 

 

譫言を呟くラーマ。彼の目にはシータは映ってはいない。分かるのは声と手触りだけ、しかもそれすらも薄れていて。

 

 

「……早速ですが治療を始めます。こんなところでやるのは不衛生ですが、サーヴァントなので特例です。シータ、貴女は手を握っていて下さい」

 

「ラーマ様は……?」

 

 

シータは不安そうに訊ねた。ナイチンゲールは手早く治療の準備を整えながら、現在のラーマの状況について手早く話す。

 

そして、彼女から全てを聞いたシータはいっそうラーマの手を強く握った。

 

 

「ああ、そうだったのですか。私が、ラーマ様のお役に……」

 

 

そう言って彼女は一つ涙を溢す。そして己とラーマの境遇について語った。

生前に呪いを受け、望んだ形では出会えなくなったこと。そしてそれは座に入っても変わらず、二人は同じサーヴァントとして扱われることで、本来なら決して出会えないということ。

そして、ラーマが目覚めるときには自分は消えているだろうと言うこと。

 

 

「……本当にそれでいいの……? まだ何もやってないのに……」

 

「ええ、私は満足です。私は……あの恋と愛を知っている。だから、また会う日を願い続けましょう。叶うと信じて」

 

 

……その時、治療を受けていたラーマが一際大きく呻いた。ナイチンゲールの顔が険しくなる。

 

 

「修復は大分終わりましたが、巣食った何かが厄介です。恐らくクー・フーリンのものでしょう」

 

「治すには、どうすれば?」

 

「……何かに呪いを転写すれば、どうにか……」

 

 

彼女は苦々しげにそう言った。まあ、望んで彼の声に身代わりになる存在などそうそういる訳がなく、ラーマを助ける方法が無いにも等しいのだから無理もない。

 

 

「……なら、私がこの身を捧げましょう」

 

「……!?」

 

 

しかし、この場にはそんな存在がいた。

 

 

「私の身を以て、この呪いを解きます。私が呪いを背負い消えれば、それでいい。私とラーマ様は同じですから、肩代わりは容易でしょう」

 

「……それで、いいのか。彼は貴女を求めてここまで来たのに」

 

「その気持ちで、十分です。ラーマ様は……貴女達を救う、世界一の味方になります」

 

 

そう言うシータの目は希望に満ちていて。だからこそ、彼女の申し出を断る事は出来なかった。

 

 

「……では、呪いを貴女に転写します。よろしいですね?」

 

「……はい」

 

 

ナイチンゲールは沈痛な面持ちで、彼女に呪いを転写した。誰かを救うために誰かを犠牲にする、やりたくはなかったが、本人の同意がある以上、これが最適解だった。

 

そしてシータは粒子になり始める。金の粒は空へと登り……

 

 

「……貰ったぁっ!!」

 

   ブァサササッ

 

「……!?」

 

 

……何てことは無かった。

 

ずっと黙って聞いていた筈の黎斗が、いつの間にかバグヴァイザーを構えて、愉しげに歯を剥いて笑いながら立っている。

消えていこうとしていたシータは、何故かバグヴァイザーの中にいる。

 

 

「マスター!?」

 

「ちょっ!?」

 

「ええっ!?」

 

「──!?」

 

 

驚く三騎士クラス、そして絶句するナイチンゲール。意識を失ったままのラーマも呻いている。

そしてアヴェンジャーは暫く考えたあとに、理解したように笑った。

 

 

「く、はははははははは!! そうか、そうか!!」

 

「教えなさいアヴェンジャー、彼は一体何をやったのですか!!」

 

「いやいや、オレの口からは語るまい!! 本人に問うがいいさ!!」

 

 

ナイチンゲールに詰め寄られてもアヴェンジャーは臆せず。そして彼女は黎斗に飛び掛かる。彼は患者であると共に……今の彼女にとっては、敵だった。

 

 

「分かりました……答えなさい檀黎斗!!」

 

「ハーハハハハ!! 誰が教えてやるもんか!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

監獄島に、男は笑う。

 




アヴェンジャーの弱点もナイチンゲール

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