Fate/Game Master   作:初手降参

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構築する者

 

 

 

 

 

「……偵察終わったぜ。ったく、顔のない王(ノーフェイス・メイキング)を酷使しすぎだっつーの」

 

 

アメリカ大陸東側、現在はケルトの物となったワシントンにて。

宝具を解除したロビンフッドが偵察を終え、仲間たちの前に戻ってきていた。

 

 

「お疲れ様ですロビンさん。で、様子は」

 

「あー、どうも連中この大通りで大規模なパレードを開くつもりらしい」

 

「パレード? 何だそれ」

 

「知るかよ。ただ、ケルトの連中が揃ってパレードの準備を行っていたのは確かだ」

 

 

敵は連勝で浮かれているのだろうか、そんなことをやっているらしかった。

何だか悔しくて、マシュは現状に歯噛みする。

 

 

「パレードだとぉ……けしからん!! いやさ、羨ましい!! パレードはいいぞ、余の名を歓呼する民、一糸乱れず行進する兵士、手を一ふりすれば、素敵!! 最高!! 万歳!! ネロ様抱いて!! の雨あられ。うむ、余もパレードしたい」

 

「……そうか。誰であれ浮き足立つか。では、パレードを狙おう。一番高台にいるサーヴァントを暗殺する」

 

───

 

「……シータが、いるのか?」

 

 

病床から蘇り、立ち上がったラーマは黎斗にそう聞いた。

 

 

「シータに会えるのか? まだ、間に合うのか?」

 

「当然、間に合うとも。だが……対価か欲しければ、労働しなければならない」

 

 

黎斗は含み笑いをしながらそう言い、外への道を指差す。

 

 

「……そうか、分かった。余は戦う。だから、絶対にシータと会わせろ」

 

「それは君の働き次第だ……なんてな」

 

「……非常に不愉快です」

 

 

ナイチンゲールが黎斗にピストルをつきつける。しかしもう黎斗は動じなかった。バグヴァイザーをこれ見よがしに振りナイチンゲールを黙らせた黎斗は、既に回復した足で少し歩きながら話す。

 

 

「私の父の言葉だ。今はいないがね。……とにかく、出るぞ」

 

「……」

 

───

 

「この私とクーちゃんの国で過ごすことを光栄に思いなさい!!」

 

 

「……随分な演説だね」

 

「女性でケルトの戦士たちの頂点に立つ……なるほど、彼女は女王か!!」

 

 

始まったパレードを物陰から観察する一行。急遽定められた暗殺のXデーは今、本当の幕上げを開始しようとしていた。

ターゲットはパレードで一番目立っている女……パレードを聞く限り、メイヴと名乗っていた女。

 

 

「ですが相手が女王なら都合がいい。私がジャックさんの暗黒霧都(ザ・ミスト)を使用した上で解体聖母(マリア・ザ・リッパー)を行えば……夜でない以上確殺とはいきませんが、相手が女、霧が起こっているという二つの条件は満たしているので致命傷は堅いです」

 

 

マシュがそう分析して、懐から群青のガシャットを取り出す。

黎斗から手渡されたそれには、スライムか何かのようなキャラクターが描かれていて。

 

 

「そうか……では、頼むぞ」

 

「ええ、成功させましょう」

 

『Perfect puzzle』

 

 

マシュはそれを迷いなく胸に突き立てた。

髪と瞳が透き通ったブルーに変更され、鎧はジグソーパズルのような意匠になる。

体が変質する感覚には慣れ始めていた彼女だったが、今回のものは何時とは

何か違っているように思えた。

その上で、彼女はプロトガシャットギアデュアルを取り出し、ギアを捻る。

 

 

『Britain warriors!!』

 

「……変身」

 

『Knight among knights!!』

 

 

ナイツゲーマーへと変身したシールダー。彼女は体に取り込んだパーフェクトパズルの効果を軽く確かめて、今だ傲り昂っているメイヴに狙いを定めた。

 

 

『高速化!!』

 

『透明化!!』

 

『ジャンプ強化!!』

 

「……うん、やっぱりアイテムの操作能力でしたね。いけそうです……それじゃあ、張り切って行きましょう」

 

『Noble phantasm』

 

「……暗黒霧都(ザ・ミスト)

 

   ブワッ

 

 

シールダーがジャックの宝具を発動した。シールダーから霧が発生し、瞬時に広がっていく。パレード中のワシントンに痛いほどのそれは立ち込め、辺りの人々は騒然としていた。

メイヴはいち速く危険を察知したらしく、既に守りを固めようとしている。

 

しかし、それはジャックのもう一つの宝具、今となってはシールダーの宝具にとっては無意味。

 

 

『Noble phantasm』

 

「お覚悟を。解体聖母(マリア・ザ・リッパー)……!!」

 

 

強化された肉体で高く飛び上がったシールダーは、女王メイヴを解体するために刃を向け……

 

 

「これピンチね、うん、すっごいピンチ。だから……来て、王様!!」

 

「──クアアアアッ!!」

 

「!?」

 

 

突然、何もいなかったはずのそこに、禍々しい体躯の男が飛び出してきた。それは槍を振るいシールダーを近くの壁まで吹き飛ばす。

霧はその槍の軌道に沿って切り裂かれていて、彼女は否応にもその男の強さを理解した。

 

 

「くっ、ネロさん!!」

 

「分かっておる、第二戦術!! 開け、ヌプティアエ・ドムス・アウレアよ!!」

 

 

シールダーの合図で、ネロが劇場、いや、式場を展開する。慌てていた人々の姿は掻き消され、サーヴァントだけの空間が形作られる。

 

 

「成程な、こそこそするだけでなく、こんな大胆不敵な事もやるか。だが失策だ……狙うべきはオレだろうに」

 

「光の御子、クー・フーリン……禍々しい姿よ。貴様が聖杯の所有者か!!」

 

「あ? 聖杯に興味なんてねえよ。あんなもんメイヴにくれてやった」

 

 

目の前の存在を観察しながら、男、クー・フーリンは槍を構える。深紅に染まったそれは、本来なら敵は弱体化する空間においても、いとも容易くサーヴァントを屠るポテンシャルを持っていて。

 

 

「全員で生き延びます。彼らを殺して!!」

 

 

それでもシールダーは左手の盾を構えた。自らの望む形で、人理を救うために。

 

 

『マッスル化!!』

 

『高速化!!』

 

『ジャンプ強化!!』

 

 

即座にパズルを組み上げる。そしてそれらを味方全てに与えたシールダーは、いの一番に駆け出した。

 

───

 

「フンッ!!」

 

   ガキンッ

 

「くっ……」

 

「強い……!!」

 

 

シールダーとネロは同時にクー・フーリンと戦っていた。

だが敵の肉体は強靭で、その動きには隙がない。二人は攻めあぐね、そしていたぶられていた。

 

 

「ほらほら、その程度?」

 

「うぐぅ……」

 

「こんな人は相手したくねぇなぁ……!!」

 

 

メイヴと戦うロビンフッド、ビリー、そしてジェロニモも苦戦している。

五人はそれぞれ追い詰められ、最終的に纏めて角へと追いやられた。

 

クー・フーリンが彼らを一瞥し、少し漏らす。

 

 

「……だが、まあ。お前たちの強さは認めてやろう。ここまで耐えるとはな。だからこそ……この一撃を手向けと受けとれ」

 

「──来ます、私の後ろに」

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

 

 

クー・フーリンは静かに宝具の真名を呟き、そしてその槍を投げる体勢に入ろうとした。

シールダーは素早くパズルを組み上げ己にバフをかけ、その上でキメワザを発動しようとする。

 

 

『鋼鉄化!!』

 

『伸縮化!!』

 

『反射!!』

 

「……受け止める」

 

『Kime waza』

 

 

ガシャコンカリバーを介しない必殺技。

シールダーは左手の盾を前に構え、ひたすらに踏ん張った。

 

 

「どれだけ苦しもうと、諦めません。私は貴方を殺します。私の守りたいもののために!!」

 

『Britain critical protect!!』

 

 

青白い光が無限大の壁となり、堅く軟らかい鉄壁の防御を構成した。クー・フーリンはその壁を見て、少しだけ感心した様子を見せ……死の槍を全力で投擲する。

 

 

「ハアアアアアッ!!」

 

   ブゥンッ

 

 

 

   ガギィンッ

 

「──!!」

 

 

最初の衝撃。

槍の貫通は免れた。ゲイボルクはその先端で壁を貫きながら、しかし動きを封じられ震えている。

しかし、少しでもシールダーが力を緩めれば、一瞬で彼女の心臓を貫くだろう。

 

 

「ぐ、あ、ああっ……!!」

 

   

一歩後ずさる。

槍の力は凄まじく、力を打ち消すなんて到底不可能で。

 

 

「あああっ……!!」

 

 

また後ずさる。

酸欠で頭がくらくらしていた。視界が槍の赤と盾の青で埋め尽くされる。

 

 

「それでも……!!」

 

 

また後ずさる。

彼女は、黎斗の事を思い出していた。

仲間を殺しても平然としている極悪人。仲間を仲間とも思わない人非人。己の才に溺れるエゴイスト。

それでも、彼は彼で努力はしていた。

彼とは一生分かりあえないが、分かりあうつもりもないが、それだけは認めていて。

だから、だからこそここでは負けられなかった。

 

ここで負けたら、彼と戦えない。

ここで死んだら、彼と話せない。

 

 

「私は……!!」

 

 

様々な事があったが……ここまできて漸く理解できた、自分の望み。

黎斗ではなく、カルデアではなく、自分にとって最良の形で人理を救いたいと、ここまでの旅でシールダーはそう思えたからこそ、今この瞬間まで耐えていて。

 

そして、それは勝利への道となる。

 

 

「これを!!」

 

『逆転!!』

 

 

後ろで見ていたビリーが、近くにあったアイテムを打ち上げてマシュに当てた。

 

逆転のエナジーアイテム。

……ゲイ・ボルクとシールダーの勢いが逆転する。

 

 

「ああああああああああああああ!!」

 

 

一歩前へ。

 

 

「こいつもだ!!」

 

『幸運!!』

 

 

ロビンフッドが打ち上げたアイテムがシールダーに取り込まれる。

 

幸運のエナジーアイテム。

ゲイ・ボルクは呪いの槍。その強さは相手の幸運によって弱まる。

 

 

「ああああああああああああああああああ!!」

 

 

また一歩前へ。

 

 

「これで!!」

 

『マッスル化!!』

 

 

ネロがその剣で跳ね上げたエナジーアイテムはマッスル化。シールダーはそれを取り込み……

 

 

「ああああああああああああああああああああああ!!」

 

   ガキンッ

 

「……!?」

 

 

ゲイ・ボルクを。

 

跳ね返した。

 

 

   ズシャッ

 

「があっ……!!」

 

 

跳ねあげられたゲイ・ボルクは、虚を突かれたクー・フーリンの右手を貫く。

 

最後に発動したのは反射のエナジーアイテム。

投げられた槍を、呪いもろとも反射したのだ。

 

思わず怯む敵二人。シールダーは盾を解除し、ガシャコンカリバーを抜いて走り出す。

そして仲間達も、弾かれたように駆け出した。

 

 

「クーちゃん!?」

 

「余所見するで無い!!」

 

『挑発!!』

 

 

思わずクー・フーリンの所へと駆け寄ろうとするメイヴの前にネロが立ちはだかる。

挑発のエナジーアイテムが使用されたことで、メイヴの目は何故かネロから離れない。

 

 

「なら……!! 来て、アルジュナ!!」

 

 

メイヴが鞭を振りかざす。すると、彼女の背後に色黒のサーヴァントが現れていた。

 

 

「アルジュナ……!?」

 

「クーちゃんがこんなになるなんて予想外だったから……予備戦力が本当に必要になるとはね」

 

 

メイヴがそう言う横で、無言でアルジュナと呼ばれたサーヴァントは弓を引く。

ネロは剣でそれを受けようとする。

 

しかし、そうはならない。

 

 

「横から失礼!!」

 

   パァンッ

 

『睡眠!!』

 

『混乱!!』

 

 

ビリーが弾丸で二つのエナジーアイテムを跳ね上げた。

 

睡眠のエナジーアイテムは、相手を眠らせる効果を持ち、混乱のエナジーアイテムは、相手を混乱させる。

 

 

「ガッ……!?」

 

 

本来トップサーヴァントだった彼だが、そもそも乗り気でなかった今回の戦闘で不意にこんな攻撃を食らえば、少しは戸惑うと言うもので。

 

 

「マシュ!!」

 

 

シールダーとロビンフッドと共にクー・フーリンを相手していたジェロニモが声を上げた。

 

 

「くっ……チクショウめ……!!」

 

「はいはい畜生でもいいから……!!」

 

 

回復中の右手を庇いながら左手で戦うクー・フーリンは、二人に阻まれてシールダーの妨害が出来ない。

 

 

「これもどうぞ!!」

 

『魅了!!』

 

『暗黒!!』

 

 

そして、ジェロニモの声に応じ敵から一歩離れたシールダーが、二つのエナジーアイテムを組み上げてアルジュナに投げ込んだ。

 

アルジュナは既に眠気と狂気を押し付けられていたが、更に暗黒に囚われ、その上で最も近くにいたメイヴに強制的に魅了された事になる。

四つのエナジーアイテムの効果は組合わさり……

 

 

「あが、が、愛しくて、恋しくて、がぁ……裏切られて、いや、悲しくて……憎くて、やめ、憎うて……炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)!!」

 

「ちょっ、なんで私に射とうとするの!? なんで!? クーちゃん助けて!?」

 

 

アルジュナは闇に呑まれながら、千鳥足でメイヴに弓を向けていた。クー・フーリンは漸く回復した手を見て一つ舌打ちし、ロビンフッドとジェロニモの間をすり抜けてメイヴの元へと舞い戻る。

 

 

「……今です!!」

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

 

シールダーはガシャットをガシャコンカリバーに装填しながら、全員に回復のエナジーアイテムを配布した。

 

敵は今混乱の中で一塊になっている。

殺すなら、今しかない。

 

 

「ここで全てを終わらせます……!!」

 

『Noble phantasm』

 

 

剣に己の全てを籠める。思いを、望みを、力を籠める。きっとこの攻撃の後にとんでもないことになるかもしれないが、きっと死なない。まだ生きる。何としてでも……何としてでも、ここで倒す。

そう決意して、彼女はカリバーに纏わせた聖なる光を解き放つ。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

   カッ

 

 

光が式場に満ちる。星の聖剣を模倣した光が、敵を悉く焼き払わんとする。

 

 

「続け!! 大地を創りし者(ツァゴ・デジ・ナレヤ)!!」

 

祈りの弓(イー・バウ)!!」

 

壊音の霹靂(サンダラー)!!」

 

星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カレエスティス)!!」

 

 

熱が、毒が、弾が、炎が。全てが全て、光と共に敵を討ち果たし……

 

 

 

 

 

「……逃げられました、ね」

 

 

彼らは、いつの間にかワシントンに戻っていた。

メイヴとクー・フーリンはいない。

 

 

「カル、ナ……」

 

 

倒したのは、アルジュナのみ。それでも……理想には近い、勝利だった。

 

 

「やった……のか」

 

「最上級のサーヴァントを一人倒した。こちらは誰も失わなかった。……ああ、勝利だ」

 

 

ネロはそれを聞き、そして嬉々とした顔でマシュへと振り向き……

 

 

「……マシュ?」

 

「」

 

「おい、マシュ? 無事か?」

 

 

……そのマシュが、全身からちびちびと血を流しながら倒れていた事に気がついた。

 





どうでもいいけど、中の人は回復のエナジーアイテムが好き
『かぁいふぅくぅう^~(ねっとり)』って感じの音声が癖になる
同じ理由でビルドの『イェーイ(ねっとり)』にも期待してる

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