Fate/Game Master   作:初手降参

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私も戦わせて下さい先輩!?

 

 

 

 

壊音の霹靂(サンダラー)!!」

 

   パァンッ

 

 

「ひぇぇっ!!」

 

「どこだ、どこから撃ってきた!!」

 

「おい、しっかりしろ!! ……死んでる……!?」

 

「やだよぅ」

 

 

祈りの弓(イー・バウ)!!」

 

   シュパッ

 

 

「うわ!! こんどは何だ!?」

 

「邪魔な木が生え……ごぽぉっ!?」

 

「離れろ!! 毒出すぞこの木!?」

 

「みすてないで」

 

 

作戦開始から暫くして。

ビリーとロビンフッドは二人してワシントンの住居の屋根を駆け、目についた兵士の塊に宝具をかまして回っていた。

ジェロニモと信長は別行動中だが、遠くの方で銃声が聞こえたのだから、似たような事を行っているのだろう。

 

 

「さーて、ここも荒らし終わったね。じゃ、次行こうか次」

 

「はいはい、こそこそ行きますかね」

 

 

一つの小隊が混乱の渦に巻き込まれたのを確認した二人は、再び立ち上がり次の小隊を探し始める。ケルト兵は、確実に危機感を覚えていた。

 

───

 

そして、二つのワシントンの境目に、ジークフリートとアヴェンジャー、そしてラーマとシータが並び立つ。既にナイチンゲールはケルト兵へと駆け出していた。

 

 

「……私は幸福者です、ラーマ様」

 

「いや、君と会えた僕の方が幸福者さ……いや、これはどちらも同じくらい幸福者ってことにしておこうか」

 

 

戦場においても手を繋ぎ愛を囁く二人。場違いにも見えるが、それは彼らにとって何よりも大切なプロセスで。傍目から見ても、ラーマは今までで一番強い状態になっていた。

 

……そうだとしても二人を受け入れられないのはアヴェンジャー。彼はかつて妻を寝取られた男である。

その白い顔に青筋を浮かべながら彼はドライバーにガシャットを装填していた。

 

 

『バグル アァップ』

 

『Explosion hit!! Knock out fighter!!』

 

「……戦場で愛を語るな。(フラグ)が立つぞ」

 

『Quick brave chain』

 

 

そして変身するや否や駆け出していく。相手は此方に雪崩れ込んでくるシャドウサーヴァント達。

その大群は到底アヴェンジャーだけでは抑えきれず、ラーマとシータの方向にも攻めてくる。

 

 

「……敵は多いな。でもまあ気にすることもないか。今夜は、二人なんだから」

 

「違いますよラーマ様。今夜()()二人、です」

 

 

それでも二人は微笑んでいた。幸せオーラを撒き散らしていた。

それでいて、二人は真剣だった。

 

 

「……そうだな。……派手に行こうか。シータ、宝具を」

 

「ええ。追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)

 

 

シータが巨大な弓を取り出す。

ハラダヌ・ジャナカ。それは怪力無双を誇るシータの一族に与えられた弓。規格外の重さを誇るそれを扱うことが出来るのは、この場においては二人のみ。

シータが弓を手に取り、ラーマが彼女の手の上から弓を握る。

そしてラーマは、かつて剣に改造した矢を、その弓につがえた。

 

 

「……一緒に射つぞ」

 

「ええ、行きましょう」

 

 

シャドウサーヴァントが迫ってくる。それでも、愛の前にそれらは能わず。

 

 

「「羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」」

 

   ズバァンッ

 

 

炎が戦場を駆ける。放たれた剣は数多のシャドウサーヴァントを貫き、巻き込み、悉く破壊して。

その上で剣はラーマの手元に戻ってくる。

 

 

「……もう一発行くぞ!!」

 

「ええ……何回でもやれます」

 

 

再び弓を引き絞り……

 

 

 

「……」

 

 

……そして、ジークフリートはシャドウサーヴァントを切り伏せながら、何度も弓を引く二人を横目に見ていた。

かつて己の死後に復讐鬼と化した妻の事を思い出さない訳でもないが、今考えているのはそれではない。

 

 

「……檀黎斗……」

 

 

現在の己のマスター、檀黎斗その人だった。

ジークフリートとは、求められればそれに答える、その行いによって成立した英雄だ。言ってしまえば、ある種の願望機である。

だからこそ、彼には己の欲だけのために突き進む檀黎斗が理解できなかった。

勝手に消えていこうとしたシータを回収したときには、彼は檀黎斗を我欲まみれの人間だと思わずにはいられなかった。

……しかし、現在そのシータは愛する夫と肩を並べている。

 

彼には分からなかった。檀黎斗が結局何なのかが。

 

───

 

そして、その檀黎斗はと言うと。

 

 

「いいか、イメージするんだ。設計図はもう頭に叩き込んだ筈だ。いいな?」

 

 

ケルトではないワシントンにて、三人のサーヴァントのデータを操作することで新たな城を産み出そうとしていた。

全身にコードを繋がれた三人の内の一人であるネロが、退屈そうに欠伸をしてから黎斗に問う。

 

 

「分かっておる分かっておる。……ええと、本当に内部はハリボテで良いのか? 余なら全部出せるぞ?」

 

「何を言っている、そんなことをしたらせっかくここまで形成された基地が駄目になる。下手に中身を作って、数の足りない兵士が壁の中に埋められたらたまったもんじゃない」

 

「うむむ……」

 

 

ごもっともな指摘にネロは頬を膨らませる。そして、黎斗が合図を出すと共に、彼女は唱えた。

 

 

「では……開け!! ヌプティアエ・ドムス・アウレアよ!!」

 

 

その声一つで、黄金の式場が競り上がる。元々スカサハの門だけで作られた簡素な城壁は、輝かしい物へと変貌した。

 

だがまだ穴だらけだ。しかしそれも計算のうち。

 

 

「……よし。エリザベート、宝具」

 

「分かったわ!! サーヴァント界最大のヒットナンバーを──」

 

「まだ歌うな」

 

「──……はーい」

 

 

式場に被さるように、チェイテ城が出来上がる。穴という穴に城の城壁が寸分違わずはまりこみ、頑丈な物となった。

 

 

「仕上げだ。宝具を」

 

「了解した。死溢るる魔境への門(ゲート・オブ・スカイ)

 

 

そして最後はスカサハの宝具。唯一ぽっかりと穴が開いていた門の部分に、閉じられたゲート・オブ・スカイが設置された。普段なら普通に出入り口として使え、真名解放すれば敵を食らう牙となる優れものになっている。

黎斗は出来上がった新都ワシントンを見上げ、楽しそうに笑った。

 

 

「……良い出来だ。後は此方で用意した物を積み込めば……ん?」

 

 

そして彼は一旦城壁の中に入り、これまでに用意していたある仕掛けを取り出そうとする。

しかし、その前に彼はとある兵士に呼び止められていた。

 

 

「ああ黎斗さん、ちょっと待ってください」

 

「……どうした?」

 

「それが……その……このマシュ嬢が、黎斗さんと話したいらしくて」

 

「ほう?」

 

 

彼の後ろには、オーニソプターに乗せられたマシュが。非常に腹を立てているように見えた。

 

 

「……何で私は戦えないんですか。気遣ったんですか」

 

「私はお前がどうなろうが気にするものか。ロマンに聞け、ロマンに」

 

 

いかにもうざったいと言った感じで首を振った黎斗。マシュは直ぐ様通信機を取りだし、いるであろうロマンに声を投げ掛ける。

 

 

「……分かりました。ドクター、ドクター? 聞いてるんでしょう?」

 

『……マシュ。気持ちは分かるけど、今回は戦わせられない。……これはボクの我が儘だ。君がどうしても戦いたいと言ったとしても、今回だけはボクは全力で拒否させてもらう』

 

 

彼の顔は暗かった。とても暗かったが、決意しているようにもマシュには感じられた。

 

 

「ドクター……」

 

『もし今回君が戦おうとしたら、ボクはすぐに君をカルデアに連れ戻す。怒るなら甘んじて受け入れよう、でも……この特異点では、もう戦わないでくれ』

 

「……」

 

 

何も言えないマシュは、それでも彼の言葉を受け入れることは出来なくて。

自分が人理を救いたいのだ。願わくば、ハッピーエンドで。黎斗に任せたら、全員が不幸の内に終わってしまう。

 

だから……彼女は通信機の電源を切った。そして歩き出そうとし……

 

 

   ストン

 

「──!?」

 

 

黎斗に首筋に手刀を入れられ気絶し、崩れ落ちた。

 

───

 

「もう少しでワシントンだ、ケルト兵を残らず叩き潰せ!!」

 

『『『イエス、サー!!』』』

 

 

そして、エジソンは機械化歩兵を率いて進軍中だった。一歩たりとも乱れぬ足音は荒野を震わし、辺りには微かに硝煙の臭いが漂っている。

 

 

「左からケルト兵!! 焼き払え!!」

 

『イエス、ドミネーション・オーダー!!』

 

『弾倉が空になるまで撃ち続けます!!』

 

 

いくらかの機械化歩兵が弾を打ち出した。ケルト兵は頑丈ではあるがその堅さは以前から数段落ちていて、何より数が足りない。

いつの間にか、彼らは割と安定した勝利を得られるようになっていた。

 

 

「……ねぇカルナ」

 

「何だ?」

 

 

そして最前線にいるサーヴァント二人は、前を見ながら言葉を交わす。

 

 

「私、凄く胸騒ぎがするのよ。先に行っちゃ駄目かしら」

 

「……軍の規律を守るべきと言っていなかったか?」

 

「それを言われると耳が痛いわね……仕方無いわ。じゃあ、カルナが行く?」

 

「……それが望みなら」

 

 

丁度太陽は沈もうとしていた。薄暗くなる大地の上で、ブラヴァツキーは指示を出す。

 

 

「……分かった。偵察に行ってきてちょうだい。あくまで偵察よ、無理だと思ったらすぐに逃げて」

 

「分かった」

 

───

 

「……さーて、どう攻めたもんかねぇ」

 

 

ベオウルフは、ゲリラを避けながら敵側のワシントンに向かって歩いていた。少し目を離した隙に巨大な壁が出来ていたのには驚いたが、結局壊せばいいだけである。

 

 

「シャドウサーヴァントに紛れていくのは明らかな愚策だな。思うように暴れられない。ゲリラを襲うのも非効率的だ。ここは……根城を叩く他ない」

 

 

そう考えながら、彼は何やら考え事をしながら見張りを行っているジークフリートの背後を全速力で走り抜け、壁の元へと駆け寄った。

 

 

「……敵性サーヴァント襲来!!」

 

「敵性サーヴァント襲来!!」

 

 

見張りをしていたのであろう兵達に気づかれる。まあそうなるとは思っていたベオウルフは、他のサーヴァントに追い付かれる前に中に侵入しようと入り口を探す。

走って走って……自らが誘導されているとも気づかずに。

 

 

「ふーん、ここが入り口か……ぶち抜いてやるぜ」

 

 

門の前に立ち、腕をこきこきと鳴らすベオウルフ。門の上には三人のサーヴァント。そして……彼の前に、バグヴァイザーをつけた黎斗が立った。

 

 

「……ベオウルフが来たか。丁度良い、試運転だ」

 

『ガッチョーン』

 

「……? あんたは……ああ、乳母車に乗ってたあいつか!!」

 

「チッ……取り合えず私が時間を稼ぐ。今日は調子がいい。変身にも耐えられる筈だ」

 

『デンジャラス ゾンビィ……』

 

 

黎斗は久々にデンジャラスゾンビの電源を入れた。

 

 

『ガッシャット!!』

 

「え、それってそうやって使う物だったの!?」

 

「当然だ。神を甘く見るな」

 

 

これまでバグヴァイザーとはシータみたいなサーヴァントを吸収する道具だと思い込んでいたエリザベートは驚愕する。

そして黎斗は変身した。

 

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「……ははっ、貧弱だと思っていたが、なかなか面白そうじゃないか」

 

「……テストプレイを開始する」

 

『ガシャコン ブレイカー!!』

 

 

ガシャコンブレイカーを呼び出し構えるゲンム。ベオウルフはフルンディングを構え、にやりと笑った。

 

───

 

そして、二人が戦い始めた丁度その時に。

 

 

愛しき人の未来視(コンホヴォル・マイ・ラブ)

 

「……どうだ?」

 

「……ちょっと不味いかも。ベオウルフが倒されるわ」

 

 

メイヴはそう予知するや否や、外にある見張り台に上り、遠くにある敵の方のワシントンを見やった。

彼女の後を追って上ったクー・フーリンも、酷いものを目にすることになる。

 

 

「あれは……」

 

「……白い男、かしら?」

 

「さあな……何かのサーヴァントとも思えない。何だ……?」

 

───

 

『マイティ クリティカル フィニッシュ!!』

 

赤原猟犬(フルンディング)!!」

 

   ガギンッ

 

 

互いの刃がぶつかり、二人は吹き飛ばされた。ベオウルフは城の近くに、ゲンムは城の少し遠くに。

そしてゲンムはその剣を掲げ、ずっと傍観に徹していたサーヴァント三人に指示を叫ぶ。

 

 

「よし、死溢るるコンサートの城(チェイテ・ドムス・アウレア・スカイ)、全解放だ!!」

 

 

その声を合図にして……照明が辺りを照した。時は黄昏、薄暗い城に三人が浮かび上がる。

……BGMが流れ始めた。

 

 

「ん? 一体何が始まるって言うんだ?」

 

 

見回してみれば、ゲンムは城からなるべく離れた所で踞っている。全体宝具ということだろうか。

そう思ったベオウルフは鉄槌蛇潰(ネイリング)でもって城ごと破壊しようと思ったのだが……遅すぎた。

 

 

「「「ハートがチクチク箱入りロマン♪ それが乙女の束縛劇場♪」」」

 

「……何だよこの歌、ふざけてるのか……ん?」

 

 

歌が始まる。途方もなく音痴な歌が。ベオウルフは顔をしかめて宝具を握った手を降り下ろそうとし……

 

 

「「「愛しい貴方を閉じ込めて♪ キスの嵐と洒落込みましょう♪」」」

 

「……んぐっ!? がぁっ……おいおいマジかよ、この歌ダメージ与えるのかよ……!?」

 

 

酷い頭痛に襲われた。頭が割れるように痛い。体は音波で刻まれそうだ。

見れば、ゲンムは何度も死んで蘇っているような、そんな悶えかたをしていた。

 

 

「ヤーノシュ山から、貴方に♪ 一直線♪ 急降下♪ 当然貴方は串刺しよ、今夜も監禁させてよね♪」

 

 

因みに、作詞作曲は黎斗である。30分で書いたからクオリティは低いかもしれないが、気にしてはいけない。

そして歌はエリザベートのソロパートを迎えていた。

 

 

「ソロパートまで完備かよ……くっそ、こうなりゃぶちかますしか無いな……行くぜ、源流(グレンデル)──」

 

 

頭を押さえながらネイリングを手放し、何とかしてダメージを与えようと拳を振りかぶるベオウルフ。

 

しかしそうはゲンムが卸さない。

 

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

   ピキピキピキピキ

 

「!?」

 

 

ベオウルフの足下が凍りつき、彼はその場に縫い付けられたのだ。

 

 

「コヒュー、コヒュー……お前も……聞いて、逝け……!!」

 

「貴様ぁ……!!」

 

 

歌は続く。無情にも続く。

今度はネロのソロパート。

 

 

「我が劇場から、貴様に♪ 一直線♪ 急上昇♪ 当然貴様は余のものよ、今夜も監禁させるがよいぞ♪」

 

 

ベオウルフは膝をついた。

目は半ば白濁し始めている。

 

 

「えっ、あっ……影の国から我が弟子に♪ ゲイ・ボルク♪ オルタナティブ♪ 当然貴様は槍まみれ、今日は何回殺そうか♪」

 

 

最後に来たのはスカサハのパートだった。しかもご丁寧に、歌詞に合わせてしっかりとゲイ・ボルク オルタナティブを浴びせてくれるサービス付き。

 

そしてとうとうベオウルフは意識を失い……大口を開けた影の国に食べられてしまった。

 

───

 

「ワシントンからクーちゃんに♪ 一直線♪ 突撃よ♪」

 

「……ああ、頭痛くなってきた」

 

 

それをずっと見張り台で見ていたメイヴとクー・フーリン。

クー・フーリンは一切の感情を捨てた王であろうとしていたが……流石にこれには閉口してしまっていた。

 

 

「ふふ、私が歌えば頭痛なんて起こらないわよクーちゃん。どうする?」

 

「止せ……おい、それよりベオウルフは還っていったが」

 

「大丈夫大丈夫。十二分に兵はストックしてあるわ」

 

 

クー・フーリンは再び城を見る。白髪の男がそこからふらふらと飛んで逃げていく姿が見えた。アメリカ側のサーヴァントだろう。

 

 

「……明日だ。もう待っているのは駄目だ、明日には全て攻め落とす」

 




ラーマ&シータ

黎斗がラーマとシータを強引に合体させた状態。セイバーとアーチャーのダブルクラスであり、座は仕方がないのでエクストラクラス『カップル』として再登録した。
ラーマとシータは元々同一存在だったため、このような合成が可能だった。ラーマとシータのうち、ラーマが倒れたときにリタイアとなる。

宝具

覚醒・羅刹を穿つ不滅(ラブラ・ブラフマーストラ)
シータの弓にラーマの剣をつがえて放つ。剣はラーマの手元に戻ってくる。
強力だが、二人いないと使えない。

ステータス

筋力A 耐久A 敏捷B 魔力C 幸運A 宝具A+

保有スキル

ダブルクラス(A)
セイバーとアーチャーのダブルクラス。実際のところラーマとシータは別存在だが、座は一つのサーヴァントとして扱っている。

怪力(A)
ラーマ、シータ共に怪力を誇っている。更に、どちらかが助けを求めれば火事場の馬鹿力が追加される。

愛情(A)
急遽作られたカップルのクラススキル。互いを庇い合うなど勝手な行動も行うが、どちらかが危機に瀕したときステータスが大アップする。

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