「が、くぅ……」
「どうしたのカルナ!?」
進軍するアメリカ兵達の前に……カルナが墜落してきた。ボロ切れみたいになって墜落してきたのだ。
当然衝撃を受けるブラヴァツキーは、直ぐ様彼の元に駆け寄る。
「カルナ!? 返事しなさいカルナ!?」
「……がっ……ぐ、急げ……取り返しがつかなくなる」
「何!? 一体何が起こったの!? 説明しなさいカルナ!!」
本来ブラヴァツキーなんかよりよっぽど強い存在であるカルナがここまでやられるなど、一体何があったのか。ブラヴァツキーは混乱を隠せない。
「……奴等は、地獄を作る力を手に入れている」
「……地獄?」
「ああ……ケルトはもうすぐ倒れるだろう、だから……!!」
───
「今日は朝から大盛況ね!!じゃあ皆、歌うわよー!!」
「うむ!! 余も歌うぞ!!」
「……」
時は既に朝になっていた。城の前には早朝から大勢のケルト兵や魔獣の類いが押し寄せている。今までストックしていたのだろうか。
エリザベートとネロは非常に張り切ってマイクを握り、スカサハもだんだん吹っ切れた様子になって、再び歌おうとする。
BGMが流れ始めた。
「「「ハートがチクチク箱入りロマ
スポッ
「ふぅ……耳栓が間に合った」
城の中でオーニソプターに乗っていた黎斗は耳栓をしていた。
昨日はあの歌によって予想外のダメージをくらい、一晩中頭痛に襲われた上に再び気絶してしまったのだ、彼としてはあんな歌など二度と聞きたくない。
「にしても、今日は流石に兵が多すぎる。何が……」
外を眺める。ケルト兵は三人の歌で瞬く間に昏倒し倒れていく。魔獣は逃げようとしても互いにつかえて逃げられず墜ちて死ぬ。
それでも、一曲終わる度にケルト兵が押し寄せてくるのだ。
「……」
「……」
……因みに、現在黎斗はオーニソプターに乗っている訳だが。
隣にはマシュが乗っている。黎斗に何かを時々言っているようだったが、どうせ恨み言なので黎斗は無視していた。彼が確認してみた所、髪色は最終的に黒みがかった紫色に落ちつき、鎧は所々剥がれ落ち、体は所々黒ずんでいた。
それでも戦意を失っていないあたり、とんでもない成長をしたものだとも思うが。
「……ああ、ジェロニモか。調子はどうなっている」
黎斗は覗き窓をピシャリと閉め、三人が歌っているエリアからかなり離れて、そうしてようやく耳栓を外してジェロニモに様子を聞いた。
彼はかなり不安そうな顔をしていた。何か異常があったのだろう。
「……それが、もう、誰一人として街にはいないのだよ。街には、兵も民もいないのだ」
「……何だと?」
誰もいない? つまり、まさかあのコンサートに全員動員した?
黎斗は首を捻る。そんなことをして何になる?確かに彼女らは疲弊するだろうが、彼女らが高所にいる以上……
「……不味い、そういうことか!!」
黎斗は再び耳栓をしてオーニソプターを動かさせ、歌って歌って、歌い疲れ始めていた三人の元へ叫んだ。
「退けお前達、罠だ、退かないと……」
「え?」
「何だって?」
「早く逃げろ!! 逃げないと──」
身ぶり手振りで何とか退かせようとする黎斗。しかし……遅すぎた。
グサッ
「かはぁっ……!?」
次の瞬間には、ネロが朱槍に貫かれていた。
「ネロ!?」
「っく……抜かったか……!!」
乾き痛んだ喉を擦りながらスカサハが己のゲイ・ボルクを取りだし、敵のゲイ・ボルクが飛んできた方向に蹴りつける。
「
空間すらも切り裂いて飛んでいく槍。しかしそれは、紅の爪に阻まれる。
「お前は……」
「クー・フーリン……!!」
城壁の外に、
どうやら思う存分泳がせておいて、疲弊したところを突いたようだ。
ネロは……消滅していた。それと共に式場だった部分は消え失せ城は穴だらけになり、エリザベートは彼女に刺さっていたゲイ・ボルクを引き抜いて呆然としている。
「馬鹿弟子め……」
「……流石に、お前がアイドルなんてやってるのは見てられない」
クー・フーリンがケルト兵の血でまみれた観客席に乗り込んでくる。当然のようにメイヴも一緒に。
「射程内に入った、放て!!」
黎斗はそれを確認して手を振り上げた。
対メイヴ特効の秘密兵器の発動の合図だ。
ヒュッ ヒュッ
「……そんなっ!?」
……英霊は、己の死に方がそのまま弱点となる。ジークフリートなら背中が弱く、クー・フーリンならゲッシュを破れない。
そしてメイヴは、かつてチーズを脳天に当てられて死んだ存在だ。黎斗はそれを利用し、対メイヴ用兵器として投チーズ機を用意していた。
……のだが。
「……なんて、言うとでも思った?」
メイヴは最初こそ変な声を上げたが、それでも笑っていた。クー・フーリンも動じていない。
「
そして彼女は虚空からカラドボルグを引き抜き、飛んでくるチーズを吹き飛ばした。
「何だと!? ……まさか予知していたか!!」
「ふふーん……その程度、しなくちゃね?」
やられた、と頭を押さえる黎斗。
スカサハは既に飛び降りてクー・フーリンと交戦中だし、エリザベートは未だ立ち上がれていない。
「
「
ゲリラ活動から戻ってきた二人が、背後からメイヴを狙い撃つ。しかしメイヴはそれも理解していた様子で、持っていたカラドボルグを振り回した。
「そこも既に予測済み!!」
その剣によって、弾丸も矢もあらぬ方向に飛んでいった。そして虚を突かれた二人の目の前には、いつの間にかカラドボルグが投げつけられていて。
そしてメイヴは呟いた。
「
カッ
本来なら決して切られないはずの最後の切り札を、彼女は何でもないように使用した。フェルグスから借りたカラドボルグは熱を発して爆発し、アーチャー二人を焼き殺す。
「っくぅ……今回は、ここまでだね」
「チッ……悪いな」
二人は吹き飛ばされながら金の粒子に還り、一人は空へ、一人は
───
「不味いわ、もう始まっている!!」
「うむ。そのようだな。……この隙だ、互いに戦力を投入している今こそ、我々が勝利するのだ!! インダストリ&ドミネーション!!」
『『『インダストリ&ドミネーション!!』』』
そして、全速力で移動中のアメリカ軍はと言うと、漁夫の利を狙って黎斗達の背後から接近しようとしていた。
カルナの傷はある程度癒えているし、兵もあまり減っていない。
絶好調の一行の前に……一組の夫婦が立ちはだかる。
「……ふむ。カルデアのサーヴァントか。……そこをどいてはくれないか!! 助けに来たのだが!!」
「……悪いが、余とシータは戦場の混乱を防ぐ役割を仰せつかっている。今回は聖杯は諦めてくれないか」
ラーマとシータだった。二人はエジソンに弓を引き絞り、何時でも射てるようにしている。
カルナが彼を庇うように立ち、槍を構えた。
「チッ!! ここで止まってなどいられるものか!! 行くぞ皆の衆!!」
エジソンが咆哮する。
彼らに退却は許されない。全ては、祖国だけでも救うため。
───
「
「
『Knock out!! Critical smash!!』
「
城の前にて、ジークフリートと信長にアヴェンジャー、そしてスカサハがクー・フーリンを相手取っていた。
しかし暴走した彼は三人全ての宝具を弾き返す大暴れっぷりを遺憾無く披露し、数を覆して有利を保っている。
「効いていない、だと……!?」
「何故だ……!!」
「この、変な技を覚えてくれよって……!!」
「……まあ、これだけは誰にも教わってないからな。ついでに言えば、まだ俺は本気を出していない。本気を出せば……」
「くっ……こうなれば第六──」
グシャッ
「……こうだ」
クー・フーリンは笑いながら信長を捻り潰した。彼女は瞬時に消滅し、カルデアに強制送還されたことになる。
黎斗の隣にいるマシュは、黙ってそれに震えていた。
「信長!!」
「くっ……!!」
歯噛みする残りの二人。黎斗は自分でも変身しようかと考えたが、それをするには己の力は足りなすぎた。
こうなったらジークフリートにも壊れた幻想を使用させようか。今まで全く使っていなかったが、この手には霊呪がある。
そのような事を考えながら、今度は彼は聖杯を持っているであろうメイヴの方を見た。
「
「
「ふふふっ、その程度?」
ジェロニモとナイチンゲールが交戦しているが、メイヴは未だにピンピンしている。
埒が空かない。こうなればラーマとシータを呼び戻して、と黎斗は考え……一人忘れている存在に気がついた。
黎斗はオーニソプターから飛び降りて、ガシャットを一つひっつかみ屋上へと駆け上がる。
───
その二、三分後。
「エリザベート・バートリィッ!!」
黎斗が叫んでいた。チェイテ城の屋上で叫んでいた。
眼下では、丁度ジェロニモが力尽きて還ろうとしている。
「私のせいよ……全部、私のせい……!!」
彼女は何か思い詰めている様子だった。目の前で仲間が死んだからだろうか、と黎斗は軽く考え、そして彼女に詰め寄る。
「何故戦わない!!」
「だって……だって……」
「困惑も後悔もこの場には要らない。戦え……戦えぇぇえっ!!」
エリザベートの首根っこをつかんで黎斗は怒鳴り散らした。頭が酸欠でくらくらするのも気にせずに彼は吠える。体はストレスでまた透け始めていた。
それでも、エリザベートは未だうじうじしていた。手にはマイクのような槍と、ネロを貫いたゲイ・ボルクを未だに持っていて。
眼下でスカサハが崩れ落ちた。消滅はしていないが、酷く痛手を食らったらしい。
「お前が戦え!! 戦え!! そうしないと皆死ぬぞ!!」
「でも、でも……」
それでもうじうじしているエリザベート。彼女に怒鳴っていた黎斗は自棄になったのか、懐からガシャットを取りだし。
『タドルクエスト!!』
「勇気が足りないか!! 全てを忘れ自由に戦うのは不可能か!! 今さら責任感を感じるか!! ならば……強制的にでも!!」
それをエリザベートに突き立てた。
───
「くぅっ……!!」
『ガッチョーン』
クー・フーリンと交戦していたアヴェンジャーがとうとう地に膝をついた。バグヴァイザーがこぼれ落ちる。
「ならば!!」
『ガッチョーン』
『Transform saber』
それを拾い上げたジークフリートがセイバーに変身してクー・フーリンに挑むが、やはり力負けしていた。
「くぅっ……!!」
「……そろそろ終わりか。メイヴ!!」
セイバーを乱雑に吹き飛ばしクー・フーリンがメイヴに声をかけると、そのメイヴはすぐに彼の隣に飛んでくる。彼女と交戦していたナイチンゲールはまだ生きているが、既にボロボロの状態だった。
「さっさとワシントンを奪還するぞ」
「ええ、行きましょう」
そして、二人は進行しようとし……
……足を止める。
「……?」
「……何か聞こえるな」
音が聞こえた。二人はその音の方向を、空を見上げて……
「La~♪」
黎斗によって強制的に衣装替えをさせられたエリザベート、いやエリザベート・ブレイブが歌っていた。
もちろん、ただの歌ではない。
「え、何よこれ、動けないんだけど?」
「よし、ゲット!!」
歌声は風となり、風は……メイヴを捕縛する枷となったのだ。クー・フーリンは呆れ顔で彼女を解放しようとするが、立ち上がったセイバーに阻まれる。
『Buster brave chain』
「はあっ!!」
カキンッ
「チッ、邪魔するな」
そして、メイヴとクー・フーリンが離れたのを確認した黎斗は。再び腕を振り上げて……二回目のチーズ砲を発射した。
「えっ、えっ、ええっ!?」
「ふ、予知は切れていたようだな……神の才能を舐めたつけだ。なぜ私が予備を用意していないと思っていた?」
グシャッ
沢山のチーズがメイヴにめり込む。
即死とは行かなかったが、彼女は殆ど前も後ろも分からない状況に持ち込まれて。
「これで止めよ!!
ズシャッ グシャッ ザシュッ
マイクが変質した剣エイティーンとゲイ・ボルクを構えたエリザベートがチェイテの屋根から飛び降りて、回転しながらメイヴを粉々に切り刻んだ。
断末魔も無く、訳も分からないままに消滅したメイヴの跡から聖杯が出現する。
「アヴェンジャー!!」
「分かっている、
黎斗の指示に合わせて、痛みに耐えて横たわっていたアヴェンジャーが宝具を解放し、最高速で聖杯を奪おうとした。
聖杯さえ奪えば、後は全速力でカルデアに帰れば歴史は戻るのだ。
……だが、そう簡単にはいかなかった。
聖杯を手に取ろうとしたアヴェンジャーはふと上を見上げ……太陽を見たのだ。
「
ぅゎクーちゃんっょぃ
地味に第五特異点だけでこの小説の三分の一を占めてたりする