Fate/Game Master   作:初手降参

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私はどうすればいいんですか先輩?

 

 

 

 

 

……痛いくらいの光が止んで辺りの照度が戻ったときには、先程までの戦闘の舞台は悉く焼き尽くされていた。

アヴェンジャーとエリザベート、そしてスカサハは完璧に焼き払われていて、既に戦闘から離脱していたナイチンゲールは運良く助かったが、当然再び戦闘には加われないほどの傷を負っている。

そうして、戦場に残っているのはクー・フーリンとセイバー、そして攻撃した本人であるカルナに、後から乱入してきたエジソンとブラヴァツキー。後は幾らかの機械化歩兵だけになった。

 

 

「まさか、追い付かれるとは……」

 

「……すまない。しくじった……!!」

 

 

城が失せ、完全に元に戻ったカルデアのワシントンに、シータに支えられたラーマが入ってくる。彼は既に傷だらけで弱々しかった。

 

 

「殆どの機械化歩兵は倒したが……ぐっ……」

 

「……その傷、カルナにやられたな」

 

「ああ、不甲斐なくてすまない……!!」

 

「いや、いい。早めに傷を治せ、オーニソプターに一応の治療式は入っている」

 

 

黎斗はそう言い、物陰に隠れてガシャットの電源を入れる。

 

 

『バンバン シューティング!!』

 

「再度の変身は厳しいが、これなら……」

 

 

そう呟きながら、彼は戦場を覗き見た。

 

 

 

「くっ……やられたか」

 

「すまない、気づけなかった」

 

 

己の鎧が解除され、黒焦げになりながら歯を剥くクー・フーリンと、全身……勿論背中まで満遍なく加熱されたセイバーが、此方に歩いてくる三人を見やる。二人は互いを警戒しながら、一先ずの協力体制を築いていた。

 

 

「ブラヴァツキー、聖杯は?」

 

「勿論回収したわよ?」

 

「では、私に貸してくれ。……うむ、それでいい。……ではカルナ君、頼むよ」

 

「了解した」

 

 

聖杯を受け取ったエジソンの指示で飛び出すカルナ。その身に最早鎧は無く、かわりに最強の槍があるのみ。

クー・フーリンが、エリザベートの焼け跡からゲイ・ボルグとガシャットを拾い上げ、勝手に使用する。

 

 

「……借りるぞ」

 

『タドルクエスト!!』

 

 

迷い無くそれはクー・フーリンの胸に突き立てられた。それによってクー・フーリンの体は更に黒ずみ、所々から障気を発し始める。黎斗の悲鳴にも近い号哭が聞こえるが、この戦場においてはそんなこと誰も気にはしない。

 

クー・フーリンが走り出す。セイバーもアヴェンジャーの跡からガシャットを拾い上げ、バグヴァイザーに装填しながら走り始めた。

 

 

『チューン ノックアウトファイター』

 

『バグル アァップ』

 

───

 

「私も……戦わなきゃ……!!」

 

 

マシュは戦いの音を聞きながら、オーニソプターから這い出して戦おうとしていた。

全身がずきずきと痛むが、それを無視して彼女は焦る。

 

立ち上がる。

 

ガシャットを手に取る。

 

一つ一つの動作を行う度に走る痛みが酷く焦れったくて。彼女は早くプロトガシャットギアデュアルの電源を入れようとした。

 

 

「……待ちなさい」

 

   ガシッ

 

 

マシュの手は誰かに掴まれていた。

ナイチンゲールだった。煤だらけ、火傷だらけ、傷だらけ、血だらけ。そんな彼女がマシュを掴んでいた。

 

 

「……離して下さい」

 

「……」

 

「……離して下さい。私は、早く行かないと」

 

「……貴女は病人です」

 

 

ナイチンゲールがそう切り出した。傍目から見ればナイチンゲールの方が余程緊急を要するようにも見えるが、彼女はマシュの目だけを見ていた。

 

 

「貴女は病人です。体ではなく、心が病んでいる」

 

「……」

 

「黎斗に合わせよう、黎斗と戦おう、そうしなければ皆不幸になる……そんな焦りが、貴女の心に巣食う病」

 

「……それがどうしたって言うんですか。私は……」

 

 

強引にナイチンゲールを振り払おうとするマシュ。頭が酷く痛む、それすらも拒絶しようと唸りながら。

一瞬ほどける手。マシュは駆け出そうとし……肩を強く掴まれた。

 

 

「貴女を待っている人がいる!!」

 

「っ……」

 

「カルデアの人々は!! 貴女と共に戦ったサーヴァント達は!! 貴女の死を望んでいない!!」

 

「私は、別に死のうなんて──」

 

「しているのです!! 貴女は道半ばで死のうとしている!! 己の病を他者に撒こうとしている!! それではいけない、いけないのです!!」

 

 

ここまで無理をしたせいだろう、だんだんマシュの力が抜けていく。ナイチンゲールが優しく手を離した。マシュは大地にへたりこみ、呆然と空を見上げて。

 

───

 

『Buster brave chain』

 

「はあっ!!」

 

   ガンッ

 

 

セイバーが力任せにバルムンクを降り下ろす。カルナはそれを受け止め、炎でもって吹き飛ばす。

セイバーは苦戦を強いられていた。……そもそも、単純に拳を強化するノックアウトファイターが剣士であるセイバーには合っていなかった、と言うこともあるが。

 

 

梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!!」

 

「ぐぅっ……!!」

 

 

そしてクー・フーリンも苦しい状況にいた。そもそも、先程の戦闘で疲弊した体でここまでやっていることが凄いと言えるような状況である。

 

 

『Quick chain』

 

「まだまだ!!」

 

 

再び駆けるセイバーだが、力及ばずまた吹き飛ばされて。

 

 

「……ジークフリート、これを使え!!」

 

 

突然、物陰から機械化兵士を撃ち抜いていた黎斗が、セイバーにガシャットを投げ渡した。

 

 

   パシッ

 

「……これは?」

 

「いいから使え!!」

 

 

セイバーが手に取ったのはノックアウトファイターと同じ色のガシャット。彼は警戒しながらも、それもバグヴァイザーに装填して。

 

 

『チューン パーフェクトパズル』

 

「……変身」

 

『バグル アァップ』

 

『赤い拳強さ!!』

 

『青いパズル連鎖!!』

 

『『赤と青の交差!! パーフェクトノックアウト!!』』

 

 

いつも通りなら、ノックアウトファイターを素体にしたボディにパーフェクトパズルのゲーマが被さってくる筈だったが、そうはならなかった。

セイバーを赤と青が包み、書き換えていく。バルムンクを持つ右手とは逆の方向に、斧……ガシャコンパラブレイガンが現れる。そうして、彼はパーフェクトノックアウトゲーマーへと変貌した。

 

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

「……成る程、そういう能力か。……行くぞ!!」

 

『Arts chain』

 

『高速化!!』

 

『マッスル化!!』

 

 

セイバーはアイテムを軽く操り、自分の体力を回復して再びカルナに挑みかかった。

そしてクー・フーリンはその後ろで援護射撃を行っているエジソンに槍を向ける。

 

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルグ)!!」

 

 

放たれる槍。タドルクエストによってさらに強化されたそれは、自動的にエジソンに狙いを定めて突き進み。

 

 

「……ふっ。必ず命中する、なんて……本来はあり得ないのだよ」

 

 

それでも、エジソンはそう言った。彼の目の前に黒い粒子を吐き加速する槍が迫る。それでもエジソンは恐れず戦かず、己の宝具を解放した。

 

 

「万人に等しく光を与えよう。それこそが天才のなすべき業だ!! W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)!!」

 

「っ不味い!!」

 

 

その声を聞いて、セイバーは反射的にカルナとの戦闘を中断し、エナジーアイテムを操作する。既にカルデアのサーヴァント達は、アメリカ軍のサーヴァントのデータ等は黎斗から聞いていたからだ。

エジソンの宝具は迷信を剥奪する対民宝具。その光はセイバーの不死身も易々と消し去る。

だからその光から身を守らなければならない。

 

 

『発光!!』

 

『暗黒!!』

 

 

セイバーは己を暗黒でコーティングし、さらにその上から関係のない光を外側に向かって放射することで、文明の光を拒絶した。

 

 

   カッ

 

クー・フーリンも、カルナも、ブラヴァツキーも、エジソン自身もその光に包まれて。

ゲイ・ボルグから必中の効果は失われた。槍はあらぬ方向へと飛んでいく。

 

 

「チィッ!!」

 

「ハハハハハハ!!」

 

 

舌打ちするクー・フーリン。高笑いをするエジソン。ブラヴァツキーは彼を見つめ……叫んだ。

 

 

「エジソン危ない!!」

 

「ん? 何だね突──」

 

 

「「羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」」

 

 

彼の死角から、傷をある程度癒したラーマとシータが矢を放っていたのだから。

 

 

「くくっ、やはり獣かエジソン!! 獲物を殺すときに最も油断するのは、まさしく獣の証拠だな!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

致命傷を受けたエジソンに瞬時に近づき、ガシャコンマグナムを突き付ける黎斗。ブラヴァツキーはたまらず助けに入ろうとするが、ラーマにそれを阻まれて。

 

 

「去らばだエジソぉン!!」

 

   パァンッ

 

 

……銃声と共に、エジソンは消滅した。

聖杯が溢れ落ちるのを黎斗は拾い、撤退しながら叫ぶ。

 

 

「聖杯……回収……!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

聖杯を奪い去る彼を視認したクー・フーリン、カルナ、そしてセイバーは、聖杯を己が陣営の物とするために、最強かつ最後の攻撃を構えた。ここで勝とうが負けようが、これが最後となるのは確定している。

 

 

「チクショウ!! ……全呪開放、最早加減などいるまい? ……噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)!!」

 

 

鎧を纏うクー・フーリン。

 

 

「絶滅とは是、この一刺し。焼き尽くせ、日輪よ、死に随へ(ヴァサヴィ・シャクティ)!!」

 

 

槍を構えるカルナ。

 

 

『マッスル化!!』

 

『マッスル化!!』

 

『マッスル化!!』

 

『パーフェクトノックアウト!! クリティカル ボンバー!!』

 

「終わらせる!!」

 

 

バルムンクとガシャコンパラブレイガンを構えるセイバー。

 

初激は同時だった。

熱と衝撃波が辺りを震わし、理不尽なまでの破壊を振り撒いて──

 

 

 

 

 

───

 

「……終わったか」

 

 

黎斗が聖杯を片手に、ジークフリートが落としていったバグヴァイザーを拾っていた。

クー・フーリンもカルナもジークフリートも、皆それぞれ相討ちになったらしい。

 

 

『……黎斗』

 

「……ああ、ラーマにシータか。安心しろ、座に戻っても再召喚されても、君達は二人で一人のサーヴァントとなった」

 

 

黎斗が名前を呼ばれて振り向くと、ラーマとシータが立っていた。座へ帰ろうとしているのだろう、彼らは金の粒子になっていて。

二人は幸せそうだった。黎斗はアヴェンジャーの言葉を少しだけ思い出す。

 

 

「……君達は、私が君達の役に立ったと思っているか?」

 

「ああ、勿論だ……本当にありがとう。シータと共に戦えて……僕は……」

 

「……ありがとう。本当に……」

 

「……ふっ、神の才能を崇めるがいいさ。ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

黎斗は笑う。楽しげに笑う。今この世界にはいない医者どもの顔が脳裏にちらついて、それがむしろ楽しかった。

 

 

「は……はは、はははははは!!」

 

「ふふふっ……」

 

 

ラーマも笑う。シータも笑う。そしてひとしきり笑った後に。二人は、手を取り合って還っていった。

 

───

 

「……悲しいわね。アメリカは救われなかった」

 

 

ラーマによって致命傷を受け、動くことも儘ならないブラヴァツキーが、誰かの積み荷にもたれて空を見上げていた。

日は傾き始めている。

 

 

「願わくば……彼らの人理修復が成功しますように。そうでなければ……戦った意味がない」

 

 

そう思った。自分達に与えられたチャンスは掴みとれなかったが、彼らが仮に勝利できたなら、話は別だから。

 

 

「でも……本当、凄かったわね。どちらかに協力しなければ勝てない、なんて言ったけど……そんなことは無かった」

 

 

自分の体が透けていく。足越しに地面が見えた。悔しさと悲しさと虚しさ、そしてほんの少しの祈りだけが、彼女に残されたもの。

 

 

「……まあ。私達は多くからなりたつ一つの国。自分達の国だけでも……なんて思ったのが、そもそもの間違いだったのかもしれないわね」

 

 

そう言って、彼女は誰にも看取られずに消えていった。

 

───

 

「……どうやら、もう治療は終わってしまったようですね」

 

「……」

 

 

ナイチンゲールも透け始めていた。彼女は自分の胸に手をあて、消滅が始まっていると実感する。

マシュはずっと、空を見上げて呆然としていた。

 

 

「この切り捨て方では医療過誤も甚だしい……と言いたいですが……もう私にはどうにも出来ません」

 

「……」

 

「……貴女は生きてください。貴女の望む平和な世界を取り戻すには、まだ貴女は生きなければならない」

 

 

マシュは考えていた。どうすればいいのかを。

どうすれば倒れずに戦えるのか。どうすれば最後まで戦えるのか。どうすれば死なずに戦えるのか。どうすれば仲間を苦しめずにすむのか。

答えは無い。それは当たり前の事だった。

 

 

「……では、これからも頑張って。辛かったら……また、支えになりましょう」

 

 

そう言ってナイチンゲールは消滅し……プロトガシャットギアデュアルに吸われていく。

 

 

「……え?」

 

 

そして、彼女は青い光に呑み込まれて。

 

───

 

 

 

 

 

「……心拍数安定。呼吸正常、脳波測定開始」

 

 

カルデアにて、マシュは帰還するや否やロマンに捕まり、強制的に眠らされて体の確認をされていた。

 

 

「随分と手荒な事をするんだな」

 

「黎斗……君には言われたくないね。……所で、マシュのガシャットは、一体何なんだ?」

 

「……プロトガシャットギアデュアルB(ブリテン)。イギリス出身のサーヴァントを自動的に回収し成長していく新型のガシャット。意思なんてもったから、マシュにしか使えなくなったがな」

 

「……そうか。これは、そのガシャットはマシュにとって有害か?」

 

「……さあ、どうだろうな」

 

 

黎斗はそこまで言って去っていく。

開いて、また閉まっていく扉の向こうに、ロマンはやはり不安しか覚えなかった。




第五特異点漸く終了
最初の原案では一話一特異点だったのがこの有り様だよ!!

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