「……魔法童女 うどん粉☆バニヤン……」
「うん……
魔法童女バニヤンに敵意は無いらしく、彼女はシータ達に微笑んで挨拶してきた。
彼らも自分に笑いかけてくる存在が嫌いな訳がなく、サイズ差による緊張は一気に解れる。だが、シータは返事をするのが少しばかり戸惑われた。
「いや、別に私は、魔法少女では……」
「じゃあ、僕がおともって扱いでいいのかな」
シータは魔法少女では無いからだ。しかし彼女が伴侶の方を見てみれば、案外乗り気だった。
ジェロニモが二人を見て苦笑いしている。ラーマは彼に向き直り問った。
「……所で、どうして彼女と契約を結んだのだ?」
「ああ……実は、彼女は一人森の中で空腹で倒れていてだね」
ジェロニモは簡単に話始めた。魔法少女の
「偶然通りかかった私が、見るに見かねて生で食べられる野草の類いを与えたところ、何と言うか……大きくなってだな」
「それって、つまり……無限に大きくなるって事ですか?」
「それなら大変な事になるのではないのか……?」
「いや、どうやら……彼女は定期的にサイズが変わるらしい。もしかすればおともと同サイズにもなるのかもしれないな」
そこまで言った所で、暫く黙っていたバニヤンが何かに気付いた。
「伏せて皆!!」
それと同時に……光が溢れ、辺りの木々が焼き払われる。バニヤンが咄嗟に庇ったお陰で全員無事だったのが幸いだったと言えるだろう。
そして、焦げ臭い臭いが立ち込める中で、顔をあげたジェロニモは新たな魔法少女を目にした。
「
「ははっ、行くぞエレナ君!!」
やはり見覚えのある顔。隣には白いライオンが漂っている。間違いない。あいつらだ。
「……ブラヴァツキー……!!」
「あら、おともかしら……? いや、これは……フフッ?」
そして、向こうも一行に気付いたようだ。どうやら彼女も第五特異点での事を覚えているらしく、バニヤン以外の存在は理解しているらしい。
彼女はおとも状態のジェロニモに微笑み、そして名乗った。
「久しぶりね皆。でも今はブラヴァツキーじゃないのよね……私は魔法の少女導師、マハトマ♀エレナ──よくってよ!!」
───
「信長は ちびノブを くりだした!!」
ポンッ
「ノッブー!!」
そして信長はと言えば、魔法少女ならぬ魔王少女となったことで手に入れた力を使って、試しにちびノブを使役していた。
手を振りかざせば出てくる軍勢というのは中々使いやすく、出てくるのが自分のデフォルメである点を除けば割と好感が持てた。
「なかなかいい物じゃなコレ」
「でしょう? あっ、何ならノッブUFOとかノッブ戦車とか金のノッブとかも作れますよ!! 姉上のいる今ならすぐにでも!!」
「やめろぉ!!」
弟の
「えー、だめですかー?」
「駄目に決まっておるじゃろう肖像権の侵害じゃ侵害!!」
そう拒否されて俯く信勝。そんな二人に、誰かが声をかけた。
「……あっ、ノッブじゃないですか!!」
「っ、その声はまさか!?」
信長は半ば反射的に振り返った。
聞き覚えがある声。その主は他でもない。
「沖田か!?」
「そう、私こそがこの世界に舞い降りた正義の志士、魔法少女の波動に目覚めた魔法新撰組の一番隊長、最強無敵の魔法剣士 人斬り☆沖田でーす!!」
「……で、そのお供の土方君だ……ったく、何だこのふざけた世界は……」
フリフリで裾の短い服を着た魔法剣士沖田だった。その後ろで鬼のような顔をした厳つい男のおともが立っている。
沖田と信長は互いに互いの姿を見合い笑っていた。
「沖田、お主も魔法少女だったのか!!」
「魔法剣士ですよ!! そう言うノッブも魔法少女じゃないですか!!」
「魔法少女ではない、魔王少女じゃ!! ま、是非も無いよネ!!」
脇から見ればフリフリの少女がはしゃぎあっているだけだが、どちらも魔法少女となったことで更にパワーアップしていた。
そんな二人のやりとりを信勝は微笑ましそうに眺め……土方は青筋を立てていた。
「……おい沖田ァ!! さっさと仕事しろや!!」
「ええ、相手ノッブですよ土方さん?」
「あん!? 口ごたえだぁ!? お前何時からそんなに偉くなった!!」
痺れを切らしたのだろう、土方が叫ぶ。どうやら沖田は彼には逆らいにくいらしく、縮んで悶えていた。
見かねた信勝が土方に近づいて問う。
「あの、その、仕事って何ですか?」
「……んなもん決まってるだろうが。魔法少女と魔法少女が出会ったなら、殺しあいだ。お前たちで……8人目だな」
そう言いながら彼はマントを翻し、緑や藍色の宝石をちらつかせた。どうやらこのペアはやり手らしい。
「や、やめて下さいよ!! 知り合い同士で殺しあうなんて……」
「あん? 甘ったれた野郎だ。身内だろうが元仲間だろうが、ひたすらに斬る。斬って、進む。それだけだろう」
威嚇する土方。信勝は引け腰になりながらも彼を制止しようとする。まだ信長は新米も新米だ。ここで戦うのはリスキーすぎた。
「ほら、その、ここはほら、魔法少女としてのお二人の邂逅と言うことで……」
「あ? ……全く、偉そうな奴だな、ああん? 遠慮は要らねえ、
「ヒッ」
しかし、抵抗虚しく。信勝は土方の放つ殺気にあえなく気絶してしまった。沖田と信長はどうしたものかと考えている。
「……チッ」
信勝が倒れ伏したのを見て、土方が一つ舌打ちをした。そして彼は沖田の元に戻る。
「……興が削がれた。戦いは止めだ沖田」
「えっ、いいんですか?」
「気分が乗らん。……同盟でも何でも、好きにしろ」
───
「はあっ!! はあっ!!」ブンッブンッ
「打ち込みが甘い!! もっと腰を入れて!!」
「これアイドル活動に意味あるのかしら~!?」
その頃、エリザベートはヒロインXにロケット修理の片手間に言いつけられたノルマをこなしていた。地味にハードな物ばかりだ。
憎きセイバーにひいこら言わせることが出来て、ヒロインXは何だか嬉しそうにも見える。
「~♪」
「……いつ始末してもいいんだぞ」ボソッ
「!?」
しかしその顔はすぐに蒼白になった。
彼女の背後に、いつの間にかガシャコンマグナムを持った黎斗が立っていたのだから無理もない。
ヒロインXはロケット修理を中止して直ぐ様エリザベートの隣へ飛んでいく。
「しっかりやっているんだろうな」
「ひぇっ、せ、誠心誠意頑張らせて頂いています!!」
黎斗は寧ろヒロインXを始末する口実を探しているようにも見えた。
しかし彼はエリザベートの隣で見せつけるように必死に剣を振るヒロインXを確認したあとに、思い出したようにエリザベートに向き直った。
「……いや、お前の事なんてどうでも良かったんだったな。エリザベート、ジークフリートを見たか?」
「どうして? 別に見なかったけど」
「……実は見回りと称してここを出ていってから一時間経つが、全く音沙汰が無いのだよ。ナーサリーに探しに行かせているが、見つかる気配も無い。全く……」
そう言えば見ていないわね、と言った様子で辺りを見回すエリザベート。
しかし二人の疑念はすぐに解消されることになった。
ジークフリートが彼らの前に現れたからだ。……二つの変な虫を背中につけて。
「う、ぐ、あっ……!!」
「ほーらほーら、貴方は私達の仲間ですよー。メディカル☆メディアちゃんの仲間ですよー」
「ぐ、い、があっ……」
「ジークフリート!?」
現れたジークフリートは呻いていた。
……メディア・リリィが、ジークフリートの後ろで杖を振っていたからだった。定期的に怪しい薬を彼の背中に振りかけているようにも見える。
どうやら見回り中にやられたらしいな、と黎斗は推測した。
「チィッ!! ……エリザベート、斬れ」
「えっ!? 彼仲間よ!?」
「いいから斬れ!! あの魔女から引き剥がせ!!」
そう歯を剥いて叫ぶ黎斗。明らかな焦りがちらついている。
「が、あがぅ……」
「ほーら、痛くない、痛くない~☆ 魔法の粉でどんな悩みも消えていけ~☆」
そしてジークフリートは、だんだんと意識も混濁してきたらしく目が虚ろになってきた。
……支配権が奪われ始めた。彼とのラインが希薄になっていく。
「……どうやら彼らは敵対してくるようですね。どうしましょうイアソン様」
「どうも何も、纏めて始末するだけだろうメディア?」
メディア・リリィの後ろから金髪のおともが現れた。どうやら彼がメディア・リリィに指示を飛ばしているらしい。
メディア・リリィ……いや、魔法少女メディカル☆メディアと、支配権を奪われたジークフリートが、こちらに得物を向けた。
「行きますよイアソン様」
「ああ。さあ、死なないと言うことがどれだけ暴力的か教えてくれメディア!!」
「……いいだろう。感謝しろ、それについては私が教えてやる」
『ガッチョーン』
『デンジャラス ゾンビィ……!!』
黎斗はそう言いながらバグヴァイザーを装着していた。連続での変身は危険だが、エリザベートとヒロインX、そしてたった今戻ってきたナーサリーだけでどうにかなるか、は不安が残っていた。
「今戻ったわ……」
「……ナーサリー、魔女を炎の檻で捕獲しておけ。おともは捨て置いて構わない。エリザベート、ヒロインX、ジークフリートを抑えるぞ」
「分かったわマスター!!」
ナーサリーが炎の檻を展開する。メディア・リリィはそれを杖で打ち払う。
そして黎斗は二人を引き連れて走り出した。
『バグル アァップ』
『デンジャラス ゾンビィ……!!』
『ガシャコン ソード!!』
───
「……アヴェンジャーの体調はどうだいロマニ?」
「……明日には特異点に出られるだろう、そっちは?」
「黎斗が変身して魔法少女と交戦してる。二回目だ」
「そうか……」
カルデアでは、ロマンとダ・ヴィンチが交代で看病と司令を行っていた。
マシュの体調は良くなる兆しが見えない。もしかしたら二度と目覚めぬまま体が駄目になるのでは……ロマンはそんな事も考えた。
「……やっぱり、彼一人だと限界があるんだよ。きっと、きっとそうなんだ。だから……目覚めてくれよマシュ」
ロマンはマシュの枕元で呟く。
アヴェンジャーは明日には特異点に向かえるだろう。しかしラーマとシータの時のように、また別の場所に出ると考えられる。
戦力が強制的に分散される状況においては、やはり一度に数が多い方が有利で。
……それ以前に、彼はマシュの復活を望んでいた。
彼自身、黎斗に限界があるなんて、到底思えない。彼には底知れない恐怖を覚える。
だがそれでは、きっと駄目なんだ。
「……やっぱり、君には『普通のマスター』が必要だったんだろうね。一般的な感性を持っていて、君と共に悩み、共に苦しめるマスター。君が守りたいと思えるマスターが」
……もしそんな人が彼女の側にいたなら。それなら、彼女も生きる気力が出たのだろうに。
……そんな妄想に意味はない。それでも、ロマンはそうでもしないと、溢れ落ちそうな涙を止めることが出来なかった。
───
「が、あっ……
ズシャッ
「ぐうっ……!!」
その身にジークフリートの宝具を受け仰け反るゲンム。どうやら連続変身が祟ったのだろう、パフォーマンスがかなり落ちていた。
ジークフリートの背後に回り込んだエリザベートが剣をジークフリートの背中に突き立てようとするが、見切られていたらしく回避される。
『クリティカル デッド!!』
ゲンムが五体のゲンムを呼び出した。彼らの内の四体がジークフリートに向かっていく。
だが……
「
「邪魔です!!
カッ
ヒロインXとジークフリートの攻撃によって、ジークフリートに群がろうとしていたゲンム達は高く打ち上げられていた。
当然死にはしないが、ダメージは大きかったらしく回復するまで動けない。
「どうするのよ!!」
「チッ……!!」
エリザベートが悲鳴を上げる。
黎斗も予想外のパワーに怒りを露にしているように見えた。
……しかし、まあ。
黎斗はそれにも対策はしていて。
「い、イアソン様、こっちにもアレが来ましたよ!!」
「早く吹き飛ばせメディア!!」
炎の中に囚われていたメディア・リリィが、彼女に迫る一体のゲンムに攻撃していた。
……しかしゲンムは関節をあらぬ方向に曲げながら、なんもないと言った様子で彼女に迫り、しがみついて……爆発する。
全く簡単な話だった。ペットが倒せないなら、飼い主を倒せばいい、それだけ。
魔法少女メディカル☆メディア、脱落。
魔法少女は虐め倒してなんぼ