Fate/Game Master   作:初手降参

44 / 173
マジカルとの邂逅

 

 

 

朝日が草原を照らした。

ジークフリートを洗脳し襲ってきたメディア・リリィを始末し、彼女が落としていった宝石を手に入れた一行は、直りかけのロケットの側で夜を明かすこととなった。

 

 

「……すまなかった」

 

 

焚き火の側でジークフリートが言う。先程まで背中にたっぷりと洗脳用の粉を塗り込まれていた彼だが、漸く意識がはっきりとしてきたらしかった。

黎斗は黙っていた。エリザベートが彼に非難の言葉を投げ掛ける。

 

 

「……なんであんな事が出来たのよ。仲間だったのに」

 

「いや……それも俺が洗脳されていたせいだ。倒されても当然だった」

 

「そうじゃないの。なんで何の迷いもなく攻撃の指示を出せたのよ。答えなさいよ……!!」

 

 

エリザベートに力は無い。剣の腕は上がったが、全うなセイバーであるジークフリートには全く勝てる見込みは無かった。ゲンムを相手しても、きっと赤子の手を捻るように倒されていただろう。

それでも彼女は気にしない。己の意見を黙殺はせず、貫き通す。

 

 

「答えなさいよ……答えなさいよ!!」ユサユサ

 

「……決まっているだろう? この人理を修復しなければならないからさ」

 

 

揺さぶられた黎斗は嫌々答えた。

その答えは、黙って聞いていたジークフリートにとっては少し意外な物だった。

 

 

「ああ、私の才能を腐らせないため、そして神の恵みを受けとるプレーヤー達のため。それなら私は、私に持てる全てを注ぐのみ」

 

 

その言葉には、確かに他者への思いがあった。己の才能だけを見ていると思っていたが、他の人のことも考えられるのだと、ジークフリートは思った。

てっきり己の才能か、命か、そこら辺の何かを守るためと思っていたが、黎斗は人々を守るため、と言ってのけていた。

 

 

「……すまなかった」

 

 

またそう言った。

黎斗は聞いているのかどうなのかよく分からない反応を返して立ち上がり、近くに置いていたパソコンへと向かう。

 

 

「昼までには新しいガシャットが出来上がる。そしたら出発だ」

 

「……分かった」

 

「おい、ヒロインX。それまでにロケットを直しておけ」

 

「えっ? 絶対間に合わないんですけど」

 

「間に合わなければ……」

 

「ヒイッ!! やりますやりますやらせていただきます!!」

 

 

朝日が辺りを照らし始めた。

特異点での二日目が始まる。

 

───

 

そして、丁度同じ時間にラーマとシータも目を覚ましていた。

ジェロニモとバニヤンを揺り起こすラーマ。そしてシータは……昨日出会った魔法少女 マハトマ♀エレナにも声をかける。

 

 

「エレナさん、起きてくださいエレナさん」

 

「んぅ……んーっ……!!」

 

 

エレナは一つ大きな伸びをして起き上がった。

 

昨日の事だが。

第五特異点で自分を殺したラーマとシータに敵意を露にしていたエレナとそのおとものエジソンをジェロニモが宥めて、この森を抜けるまでの一時的な同盟を結ばせたのだ。

エレナとそのおとももどうやらこの森で迷っていたらしく、彼女は暫く悩みこそしたがこの提案を受け入れていた。

 

 

「さーて、今日も歩いていきましょうか。バニヤン!!」

 

「はーい」

 

 

エレナに声をかけられてバニヤンが起き上がる。

 

……彼女のその巨大な斧や足を振り上げて辺りの木々を凪ぎ払い、ついでに製材して出荷の準備を整えて……そして一行は、更地を進み、また木々にぶつかったらバニヤンを呼ぶ……そんな感じで昨日は歩いていた。そして、今日もそれは行われる。

 

 

「じゃあ、今日も開拓するね!!」

 

「うむ、どんどんやってくれたまえ」

 

「ああ、頼むぞバニヤン」

 

「……驚くべき偉業(マーベラス・エクスプロイツ)!!」

 

───

 

「さーて、じゃあノッブの仲間を探しましょうか!!」

 

 

沖田と信長は木の下で目を覚まし、そして大きく伸びをした。今日もいい天気だ。

取り合えず二人は立ち上がるが、行く当てが無いことに気がついた。

 

 

「……何処に向かえばいいんじゃろうか」

 

「うーん、まあ、誰かに聞けば良いんじゃないですかね?」

 

「でも回りに誰もおらんぞ?」

 

 

信長が辺りを見回しながら言う。沖田もキョロキョロと視線を動かすが、人は見つからず。

……しかし彼女は、遠くの方で倒れている人を見つけた。

 

 

「……あっ、なんか倒れてるイケメンがいますよ!!」

 

「何じゃと?」

 

 

駆け寄る二人。

倒れていたのは……翡翠の鎧のランサーだった。

 

 

「大丈夫ですか?」ユッサユッサ

 

「うっ、くぅぅ……!!」

 

 

まだ意識があるらしい。ランサーは呻きながら目を覚ました。そして沖田と信長に目をやる。

 

 

「……あの、その……お二人は魔法少女ですか?」

 

 

そして、そう呟いた。

特に彼に嘘をつく理由はない。彼女らは首を縦に振る。ランサーはそれを見て、弱々しげに言った。

 

 

「お願いがあります。聞いてください……どうか、どうか大人の女に、ならないで下さい」

 

「「……えっ?」」

 

───

 

「……ここが例の特異点か」

 

 

そして、傷から回復したアヴェンジャーも特異点に降り立った。手にはバグヴァイザーL・D・Vを持っている。

 

彼は辺り一面に広がる草原を見渡した。

人影はない……いや、一つある。

 

銀髪の少女だった。

 

 

「あっ……やっと……人、見つけた……!!」

 

「……誰だ?」

 

 

所謂セーラー服のような服装。茶色い鞄。白い帽子。当然アヴェンジャーは見覚えがない。

名を聞けば、銀髪の少女は顔を赤くしながら名乗った。

 

 

「え、あ……イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。穂群原学園小等部の五年生です」

 

「ほう」

 

「そ、それでその……ま、魔法少女……やってます……やらされてます……」

 

「……うん?」

 

 

コイツふざけてるのか、アヴェンジャーはそう思った。

どう見てもこの少女はサーヴァントではない。迷い込んできたのは分かるが、魔法少女とは何のつもりだ? ……アヴェンジャーは顔を引きつらせた。

 

 

「はうぅ……自分で名乗るの大変に恥ずかしい……!!」

 

「で、私が彼女の魔術礼装、愛と正義のマジカルステッキ マジカルルビーちゃんです!! イッツミー!!」

 

 

しかも彼女の後ろから喋るステッキが現れた。アヴェンジャーは酸欠でもないのに二、三歩後ろによろめく。

そしてアヴェンジャーは質問した。そうせずにはいられなかった。

 

 

「説明しろイリヤスフィール……魔法少女って何だ、ここは何処だ……!!」

 

「えーっ、あー、それは……」

 

 

口ごもる少女、イリヤスフィール。アヴェンジャーは疑念と苛立ちを募らせていき……

 

……突然、何者かの接近を察した。

 

 

「……ん?」

 

「ふっほほー!! 魔法少女発見!!」

 

「「「!?」」」

 

 

声の方向を見てみれば、全力ダッシュで向かってくるミニスカートの不審者がいるではないか。

アヴェンジャーは反射的にイリヤを庇い不審者を睨み付けた。

 

 

「むむ、拙者の道を阻むイケメンを発見。死ね!!」

 

「成程……こいつが黒髭か。データ資料で見るよりよっぽど汚いな」

 

「うっわ、辛辣なイケメンですなぁ!! 拙者プンプンですぞぉ」

 

「そ、それより……どうして下半身がミニスカートなの……!?」

 

 

アヴェンジャーに敵意を剥き出しにする不審者。イリヤはアヴェンジャーのマントを掴みながら恐る恐る彼の服装について聞く。

不審者……黒髭は、その声を聞いて大袈裟なまでの反応を示した。

 

 

「ふひっ、魔法少女に見られてる見られてる!!」

 

「……腐卵臭がするな。取り合えず用件を言え、言ったら去れ」

 

「まあまあ、イケメンは黙ってろ☆ ……我々は日頃より魔法少女を愛好し全身全霊をもって信奉せし者。映像、グッズ、中の人のCD、全てを集めてもまだ足りない!! だからこそ、このタイミングで来航したわけよぉ!!」

 

「……つまり、目的は?」

 

「魔法少女ペロペロ」

 

「よし、イリヤスフィール、あいつを(フカ)のエサにするぞ」

 

 

アヴェンジャーがそう言い切って、バグヴァイザーを掲げた。イリヤもマジカルルビーを手に持って構える。

 

 

「変身!!」

 

「転身!!」

 

『ガッチョーン』

 

「コンパクトフルオープン!! 鏡界回廊最大展開!!☆ Die Spiegelform wird fertig zum(鏡像転送準備完了)!!」

 

 

二人は光に包まれていき、その姿を書き換えて。

 

 

『Transform Avenger』

 

Offnunug des Kaleidoskopsgatter(万華鏡回廊開放)!!」

 

 

各々のもう一つの姿へと変貌した。

 

 

「カレイドライナー プリズマ☆イリヤ!! ここに推参ですー!!」

 

「……仮面ライダーアヴェンジャーだ、覚えなくていい」

 

───

 

そして。

ナーサリーを膝の上に乗せた黎斗がパソコンを叩いている側で……と言っても数メートル離れた所で、エリザベートとジークフリートは時間を潰していた。

二人は見回りすら許されず、仕方がないので○×ゲームに興じていた。

 

 

「……また俺の勝ちだな」

 

「むう……」

 

「これで……49連勝目か。そろそろ止めないか?」

 

「やだ、止めない」

 

 

そう言うエリザベートはふて腐れた様子で。まだ先程の黎斗への憤りが収まっていないように見えた。

 

 

「……ねぇジークフリート。黎斗の事、どう思ってるの?」

 

 

そう聞いた。ジークフリートは下を向き……そして暫く考えたあと、エリザベートの目を見た。

 

 

「……ある意味では、目指すべき地点、なのかもしれないな」

 

「……?」

 

 

彼の口から溢れた言葉は、エリザベートが疑問を呈するには十分すぎた。それでも彼女は黙っている。ジークフリートの言葉を静かに待っていた。

 

 

「……俺は、生前は求められるままに動いた男だった。サーヴァントとなってからも、殆どの聖杯戦争では道具と言う立場に甘んじた」

 

「……」

 

「……だが、本当の事を言うとだな。……俺は、自分の望むように自分の正義を貫く、『正義の味方』になりたかった」

 

「……!!」

 

 

エリザベートもそこで察した。

決して正義の味方とは言えないが、自分の望むように自分の正義を貫く男の存在を。

 

 

「……檀黎斗は自分勝手な存在だ。でも、その行動で笑顔になる人がいた。彼の望みは自分勝手だが、それは他の人の為の物だった」

 

「……だから」

 

「ああ……檀黎斗は、俺の理想の一端な訳だ」

 

 

そこまで言って彼は口を閉じた。エリザベートはその目に、ほんの少しだけ信頼を見た。

 

 

 

「さて、出発しようか」

 

 

そんな会話を聞くこともなく、ずっと作業をしていた黎斗は、パソコンから水色のガシャットとそれから生まれた黒いガシャットを引き抜いてそう言った。

 

 

「ヒロインX」

 

「はいっ!!」

 

「ロケットは直ったか」

 

「勿論ですっ!!」

 

「乗せろ、上から特異点を探索する」

 

「喜んでっ!!」

 

 

ヒロインXは硬直しながらロケットの搭乗口を開く。かなり狭いが四人分のスペースがあった。

黎斗は一瞬逡巡して、どうせ変身しても戦えないからとナーサリーを体内に取り込んでからそのロケットに乗り込み、ジークフリートとエリザベートも中に入るように促す。

 

 

「シートベルト締めましたか? それじゃあ、ドゥ・スタリオンⅡ、飛ばしていきますよ!!」

 

 

轟音と共に離陸するロケット。飛行が安定したのを確認して、黎斗は未だブレイブ状態のエリザベートに出来立てのガシャットを手渡す。

 

 

「……エリザベート、これを使え」

 

「これは……?」

 

 

表が黒。裏は赤。そして赤い人形のデザインが施されている。

 

 

「第四特異点で大破したガンバライジングガシャットから唯一無事に抽出が成功したデータだ」

 

 

黎斗がそう言う。

……そのガシャットの名は、『マジック ザ ウィザード』。

 

 

「剣士の時間は終わった。次からは……魔法少女の時間だ」

 

 

「……っ!! 上空に謎の飛行物体確認!!」

 

 

突然宇宙船が傾いた。ロケットの前方に、三色の剣を持った白い女性が浮いている。

 

 

「全く、森林伐採の罰則を与えに行こうと思ったら、今度は領空侵犯だと……!?」

 

「あの剣は……不味い、ビーム撃ってくるぞ!! 避けろ!!」

 

「あの白いのがっ!! 着いてくるんですよっ!!」

 

 

空中で何度も旋回するドゥ・スタリオンⅡ。しかし三色の剣の射程内からは逃れられず。

猛威は容赦なく解き放たれた。

 

 

軍神の剣(フォトン・レイ)!!」

 




言っただろう? 他ライダーに出番が無いとは言ってない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。