Fate/Game Master   作:初手降参

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ファースト・マスター

 

 

 

 

怪音の霹靂(サンダラー・カオス)

 

   ダァンッ

 

 

宝石の力で異形と化したビリーが、歪められた宝具を放つ。滑りを持った紫の弾はエレナの足下に着弾し……触手を生やした。

 

 

「っく!? 何よ、この弾丸……!?」

 

 

目玉の生えた触手がエレナを拘束する。それは丁度、黎斗がロンドンで出会った魔神柱と呼ばれるそれと同じ姿だった。

だがそんな事知る由もなく、彼らはひたすらに、恐らく科学とは程遠い存在だろう、位しか分からないその触手と戦っていた。

 

 

「アル、助けてっ……!!」

 

「分かっているとも、O・F・D(アワー・フェイス・ドミネーション)!!」

 

 

エレナがおとも状態のエジソンに援護を頼み、彼女を中心とした半径3メートルの神秘をなんとは剥ぎ取った。

おともの身では宝具は酷く弱体化する。何とかエレナは触手から抜け出したが、かなり疲弊していた。

 

 

「ぐっ、キリがない……シータ!! 宝具だ!!」

 

「分かりました!!」

 

 

ラーマが辺りに生えた触手を切り払い、近くで矢を放っていたシータを呼び寄せる。シータはラーマの元に動こうとするが……やはり、足下を掬われて逆さ吊りにされてしまった。

 

 

「きゃあぁっ!?」

 

「シータ!?」

 

 

歯噛みするラーマ。嫁が捕まっている以上迂闊に手は出せない。

 

全く未知の敵と、それを遠距離から量産するビリーを前に、彼らはかなり苦戦していた。

このままではじり貧だと判断したジェロニモが、触手を力任せに斬り伏せていたバニヤンを呼び寄せる。

 

 

「バニヤン!! 逃げろ、ここは無理だ!! ベイブを呼び出して、仲間を率いて逃げるんだ!! ……私が押さえ込む!!」

 

「でも、どうやって?」

 

 

バニヤンは首をかしげた。敵は余りにも強大、如何にして一瞬でも押さえ込めようか。

ジェロニモは遠くで銃を構えるビリーを見つめて呟いた。

 

 

「おともの身では自滅は確実だが、いたずらコヨーテ君(ツァゴ・デジ・ナレヤ)を暴走させる」

 

「……っ!!」

 

「そうすれば、少なくとも彼の武器は融け落ちずにはいられまい」

 

 

自滅覚悟の捨て身の戦法だった。しかしそれを取ったなら、ジェロニモの言う通りの結果は導き出せる筈だった。おとも一人の犠牲で他を救えると考えたなら、その作戦は最適解に近い。

それを受け入れられるかを考えなければ。

 

 

「駄目、そんなの……」

 

「バニヤン。他に方法は無いんだ。君達を生かして逃がす方法は」

 

「そうする位なら……わたしがやるよ。今、ここでわたしがやる。それなら……わたしは、自分がいらない子じゃないって、言えるから」

 

「──!!」

 

 

バニヤンがそう言いながらジェロニモを押し退けた。

彼女の発した言葉で、ジェロニモは初めて彼女の心情を察することが出来た。

 

 

「バニヤン……」

 

「……行って?」

 

 

彼女は彼女で、ずっと孤独に苛まれていたのだろう。仲間が増えた今になっても、どうしようもない孤独感が彼女を襲っていたのだろう。

成程、死んでしまえば何も感じなくていい、と言うわけだ。ジェロニモは暫く俯き、ビリーに飛び掛かっていくバニヤンを見送って……他のサーヴァントを連れて退却しようとした。

 

 

「なっ……そんなこと出来るわけが無いだろう!?」

 

「死んでしまうなんて悲しすぎます……!!」

 

「うむ、死ぬことより、生きて帰ることこそが偉業なのである」

 

「なんとか、全員で脱出を!!」

 

 

当然、そんな反応が帰ってくる。彼らは短い間ではあったが、確かにバニヤンと共にいた仲間であって。

 

 

「彼女の心意気を汲んでやってくれ。不甲斐ない私には、ここで彼女の精神に決着を着けさせてやるのが一番にしか思えない」

 

 

それでもジェロニモはそう言って、宝具でコヨーテを呼び出して強引に退却した。

 

───

 

それと時を同じくして、エリザベートとジークフリート、そしてナーサリーはジェームズ☆フォレスタルと交戦していた。

ヒロインXを多少なりとも慕い始めていたエリザベートは、憤りのままに、直感的に()()を行使する。

 

 

「食らいなさい!!」

 

   ゴォッ

 

「ぐっ……」

 

 

火柱が吹き上がり、ジェームズを下から貫く。黎斗が観察する限り、彼女は炎の魔術しか使わなかった。恐らくガシャットの影響だろう。

 

 

「……成程、炎の魔術か。……やはり、仮面ライダーその者の能力を全て引き出すのは困難だったか」

 

 

そう呟く黎斗。彼の目の前で、エリザベートが炎の鎖を精製しジェームズを拘束する。

 

 

「動かないで!!」

 

   ジャラッ

 

「!?」

 

 

体を縛られ動きが止まるジェームズ。彼女の後ろからジークフリートが剣を振り上げ、袈裟斬りにした。

 

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

   ズシャッ

 

「かはぁっ!!」

 

 

その一撃で、糸が切れたようにジェームズは膝をつく。そこにナーサリーが追撃を浴びせて。

 

 

「くっ……今回は撤退を……!!」

 

 

ジェームズはそう言って空に飛び立とうとした。しかし数メートル浮き上がった状態で、再び呼び出された鎖に拘束される。

そしてそれを行ったエリザベートは、己の背後に城を呼び出していた。

 

 

「逃がさないわ……最後まで聞いていきなさい。鮮血特上魔嬢( バートリ・ハロウィン・エルジェーベト)!!」

 

 

形容しがたい音が響いた。黎斗のサーヴァント達は耳を塞いでのたうち回り、黎斗自身は耳栓とヘッドホンを重ねがけした上で踞り、そしてジェームズは音と炎の嵐の中で強引に砕かれ金の粒子になっていっていた。

 

そして、一曲終わったときには、ジェームズは跡形もなく消え失せ……エリザベートも意識を失って倒れていた。

黎斗は彼女の顔を覗き込み、その身、そのガシャットに含まれていたパワーを考えて小さく頷く。

 

 

「どうする、マスター」

 

「……背負っておけ。何処か安全地帯を探すぞ」

 

『爆走 バイク!!』

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

 

黎斗は懐からガシャットを取り出した。共に大幅に修復をかけた爆走バイクとシャカリキスポーツ。

黎斗とナーサリーがバイクゲーマに跨がり、ジークフリートはエリザベートを背負った状態で立ちこぎを開始した。

 

───

 

「たのもー!!」

 

「こちらが所謂あのお方のお城で宜しいのでしょうかー……」

 

「……にしては随分と和風ですね」

 

 

そして沖田と信長、そのおとも達は宝石を掲げたら出現した穴を通って、恐らく自分達を呼び出したのであろう存在の元へと向かっていた。

穴を抜けてまず目に入ったのは、信長や沖田には割と馴染み深い日本の城だった。何故か石垣に剣が突き刺さっているが。

 

 

「あのお方は日本人だった……?」

 

「かもしれませんね。ほら、あそこに入り口っぽい門がありますよ」

 

「……そうだな。進むか」

 

 

そう言いながら彼らが門を跨ぐ。

さらに進もうとすれば、呼び止められた。振り向いてみれば、門の裏に虚ろな瞳の赤いサーヴァントが立っている。

 

 

「……待った、まずは宝石を見せて貰おう」

 

「……お主何奴じゃ?」

 

 

門番か何かなのであろう仮面のサーヴァントは、信長と沖田の所持する宝石を確認し検査した上で、一つ溜め息を吐き彼女らを通す。

 

 

「私は真田エミ村、あのお方、のサーヴァントの一人だ。……よし。一人6つずつ宝石を持っているな。なら問題ない……進みたければ、進めばいいさ」

 

───

 

「……何もありませんね、アヴェンジャーさん」

 

「……そうだな。まるで……全部奪い尽くされたみたいだ」

 

 

そして、アヴェンジャーとイリヤは、雪の中を歩いていた。一面の銀世界と言えば聞こえはいいが、そこはひたすらに雪と氷に閉ざされた空間だった。

イリヤが知らず知らずのうちにアヴェンジャーのマントで寒さを凌ごうとする。

 

 

「……寒いです」

 

「そうか」

 

「おー? あれですか、肌で暖めあう的なゴポォッ」

 

「黙れと言った筈だ」

 

 

それに反応したルビーを黙らせながら、アヴェンジャーは周囲を見回していた。火をつけるのに適当な木の棒を探していたらしかったが……彼は別のものを見つけていた。

 

 

「……何かあるな」

 

「……雪に、溝が入ってますね」

 

「……轍だな。馬車でも通ったんだろう。追いかけるか?」

 

「追いつけるんですか? かなり遠いかもしれないのに……」

 

 

イリヤが疑わしげな目でアヴェンジャーを見上げた。アヴェンジャーの方はと言えば、少し体勢を低くしてイリヤを小脇に抱える。

 

 

「えっ、ふぇっ!?」

 

「……しっかり掴まっておけ。虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)

 

 

そして二人は、一瞬でその場から消え失せた。

 

───

 

重い音を立てて、扉が開く。

信長と沖田は、この世界の創造主の元にやって来ていた。

 

あまり広くない部屋の真ん中に玉座があり、そこにピンク髪に虚ろな瞳の少女のような何かが座っている。

 

 

「……あなたが……」

 

「……あのお方、なのか?」

 

「……私は貴女達魔法少女とその使い魔を呼び出した、言ってしまえば全ての原因。私の名はファースト・マスター。この世の理不尽を正すもの」

 

 

ファースト・マスター。少女はそう名乗った。そして彼女は立ち上がり、人差し指で信勝と土方を呼び寄せる。

 

 

「ここまで来た者達よ、願いを叶えましょう。あなたが理不尽と戦う限り、あなたの望みは叶えられる」

 

「おっ? 沖田さんの望みはですねー、この病弱スキルを──」

 

 

沖田が話し始めたのを、ファースト・マスターは一本の剣を投影して投げつける事で無理矢理中断させた。まるで、お前たちに用は無いと言わんばかりに。

 

 

「……違いますよ。私は、おともとして勝ち抜いたサーヴァントの土方と、サーヴァントですらない存在である信勝に言っているのです」

 

「……何じゃと?」

 

「これは私という願望機を無意識に求め、魔法少女を道具として扱う使い魔(おとも)達の聖杯戦争。他者を利用し、虐げられず、低い立場に居ながら望みを最後まで貫くもののみ勝ち残れる戦い」

 

 

つまり。これは魔法少女を操り戦う、おとも達の戦いだ……と、ファースト・マスターは言ってのけたのだった。彼女はまず土方をサーヴァントとしての姿に戻し、望みを問う。

 

 

「……俺は何も願わない。そんな与太話信じるほど俺はバカじゃない。願いが叶えられるって言うんなら、新撰組にかつてのメンバーを揃えてみろ」

 

「……分かりました。あなたの宝具『誠の旗』を極限まで強化させましょう。かつての新撰組二百人を全て呼び出せるように」

 

 

ファースト・マスターはそう言って、土方に何かの魔力を振りかける。それにより、彼の目は虚ろになって。

 

 

「……」

 

 

半ば呆然とする土方。どうやら本当に宝具は強化されたらしい。

信勝はそれを見ながらファースト・マスターを前にして言った。

 

 

「サーヴァントにも満たぬ存在、織田信勝が我が新たなる魔法少女に願う。……姉上と私に、永遠の平和を」

 

「……信勝?」

 

 

願いは聞き届けられた。そして、彼女が信長を指差せば、信長の意識は途端に途絶え……

 

───

 

「あら? ……新しい魔法少女かしら」

 

 

アヴェンジャーとイリヤが、宝具による瞬間移動で馬車に追い付いた。

その馬車に乗っていたピンク髪の魔法少女が、突然現れた二人に不思議そうな顔をする。

 

 

「……メイヴか」

 

「貴方は……ああ、ええと、アメリカでの時にチラッと見たような……」

 

「あの、質問したいことがあるんです。ええと……」

 

「……俺の仲間を見なかったか? 女王メイヴ」

 

 

アヴェンジャーとイリヤはそう聞いた。下手なことを言わせないように、既にルビーには幾らかのデコピンを喰らわせてある。

メイヴは暫く考えたあとに、何も知らない、と言った。

 

 

「そうか……」

 

「ああ、突然聞いてすいませんでした」

 

 

二人は軽く頭を下げ、馬車の前から退く。

 

 

「あら、どうして離れるのかしら?」

 

「いや、これ以上用もないのに引き止めるなんて出来ませんし……」

 

「フフッ、優しいのね。でも……その心配は要らないわ」

 

 

メイヴはそう言って馬車を二人に向け、鞭を振るった。馬が二人目掛けて走り出す。

 

 

「私の前に現れた魔法少女は、全て私に傅いて倒されるんだから!! 行くわよクーちゃん!!」

 

「ちっ!!」

 

 

アヴェンジャーが咄嗟にイリヤを抱えて緊急回避を行う。そして二人は共に変身し、メイヴと、その後ろに立つおともを見つめた。

 

 

「カレイドライナー プリズマ☆イリヤ!!」

 

「……仮面ライダーアヴェンジャーだ」

 

 

メイヴの方は姿を変えたイリヤを憎々しげに見つめ、更に馬を走らせる。

 

 

「……そういうの、もううんざりなのよ。さっきも神風魔法少女ジャンヌ☆ダルクとか言うのを倒してきたけど……本当に、貴女みたいなタイプはうんざりなの」

 

「お前の趣味嗜好など聞いていない。……どうする、イリヤスフィール? ……と言っても、流石に選択肢などあるまい?」

 

「はい……戦います!!」

 

───

 

その頃。

 

 

   ガサガサッ ガサッ

 

「……森を、抜けたか」

 

 

そして、ジェロニモは自分達が森から抜け出た事を確認して宝具を解除し座り込んでいた。……一々木々を伐採するよりこうして走った方が早く森を抜けられたと言うのは、中々皮肉な事だった。

既にバニヤンの存在は感じられない。ジェロニモは再び野良のおともに戻っていた。

 

 

「……ああ、森を抜けたな」

 

 

そう力なく呟くラーマ。彼はずっとコヨーテに口で運ばれ続けて酔っていたというのもあるが、それ以前に現在の状況が悲しかった。

しかし、そうも言ってはいられない。早く黎斗を見つけ出す必要がある。

 

エレナとエジソンは既に何処かに消えていた。彼女らとは元々、森を出るまでの停戦関係だったのだから、背後から襲われなかっただけ幸運と言えた。

 

 

「一先ず、黎斗を探さないとな。……余と共に来るか、ジェロニモ?」

 

「……ああ、ご一緒させて貰おう」

 

 

そうして、三人は歩き始める。

 

───

 

「……ん、ここは……?」

 

 

エリザベートは、ジークフリートの背で目を覚ました。自分が背負われていると気づいて慌てこそするが、もがくだけの気力は彼女にはまだ無い。

 

 

「すまない、マスター。エリザベートが目を覚ましたようだ」

 

「そうか。……丁度いい所に大木があるな。休むぞ」

 

「お茶にしましょう!!」

 

 

彼らは荒野を走っていた。疎らに木はあるが、全体的に乾いている。

ゲーマを収納して木の下に腰を下ろしてみれば、ここまでの疲れが一気に体に来るように思われた。

 

 

「はぁ……この体では満足に変身は出来ないか。そもそも、この特異点が何なのか私にはさっぱり分からない……」

 

 

そうボヤく黎斗。彼は疲れきった顔で彼方に目をやり……

 

……顔を物凄く引き吊らせる。

 

 

「……おい、まさか……嘘だろう?」

 

 

「ふっふっふ……あれは何だ? 美女だ!? ローマだ!?」

 

 

その声に、エリザベートは思わず痛みも無視して飛び起きる。

声の方向を見れば……何ということか、この荒野を水着で歩く変態がいるではないか。

 

 

「もちろん、余だよ♪ 魔法少女、ネロ☆クラウディウス!! 皆の呼び声に応じて参上したぞ!!」

 

「……誰も、誰も君など、呼んではいないぃぃぃっ!!」

 

 

黎斗は思いきり絶叫し、そしてその場に倒れ伏した。

 




ファースト・マスター
・見た目はカラーリングがリヨクロエのリヨぐだ子
・体の表面には魔神柱っぽいデザイン
・何故か敬語

この戦争の目的
・あらゆる苦境においても挫けず立ち上がるサーヴァントを求めたファースト・マスターがおともを試す為の戦争、魔法少女はおともの道具でしかない
・おともはファースト・マスターの元に辿り着けば願いが叶えられる。そのおともがファースト・マスターと共に運命に抗う限り、その願いは叶えられ続ける。逆に言えば、ファースト・マスターに背いた時点で願いは破棄される。

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