「改めて聞かせて貰おうネロ・クラウディウス……お前は何だ? その格好は一体何のつもりだ?」
黎斗は木にもたれながら腕を組んで立ち(というかそうしなければ立てない)、正面でドヤ顔をしているネロを睨んだ。
ネロの方は萎縮する事もなく、胸を張って堂々と答える。
「うむ、魔法少女ネロ☆クラウディウスである……まあ、余の輝きが眩しすぎるのか、誰もおともになってくれないのだがな」
「自称魔法少女……!!」
「当然、魔法少女なのだからキャスターである。キャスターになったら、水着になっていた」
「そういうバグが起こるとでも言うのか……!?」
ネロに突っ込みを入れる黎斗。エリザベートは信じられないものを見るような目でプルプルしていて、ジークフリートは何も言えずに空を見上げ、ナーサリーはすることもないので踊っている。
「……と、言うわけで黎斗。余はここまで何とか一人でやってきたが、流石に寂しい!! 故に黎斗、貴様についていくぞ!!」
「止めろぉぅ!!」
何を言い出すんだコイツは。黎斗は飛び上がってネロから離れる。バグヴァイザーは……残念、パソコンの横だ。
ネロは黎斗に向かって語りかける。
「うむ、余の暴走特権とは一位をとるという事に皇帝特権の派生である。つまり皇帝特権と同じ使い方もイケる」
「どういう理屈だ!?」
「つまりだな、余が『この戦いで一位になるには檀黎斗をおともにすればよい』と言ってしまえばイイ感じに自己暗示が働いて貴様は余のおともになるのだ!!」
「なるわけが無いだろう!?」
激昂する黎斗。
……彼は気づいていない。自分の頭身が、既にある程度縮んでいることに。
「うむ、もうなっておる」
「……!?」
彼は指摘を受けて絶句した。……自分がいつの間にか5頭身で浮いているんだから誰だって絶句する。
そう、彼は既におともとされていたのだ。
「と、言うわけで……劇場の魔法少女ネロ☆クラウディウス、爆誕である!! うむ、実に良い!!」
「じゃあ、じゃあ私は星と詩の魔法少女ナーサリー☆ライムね!!」
しかも何故か二人分の魔法少女のおともになっている。なんか宝石も出来上がっているし。……黎斗は崩れ落ち、地面を殴った。
「くそぅ……どうして私がこんな事になった……!!」
「……すまない、マスター。俺には何ともしようがない」
「当たり前だ……!! そもそもこの特異点を作った奴は誰だ……見つけ次第削除してやる……!!」
───
『Noble phantasm』
「
「
アヴェンジャーとイリヤは、メイヴとそのおともと戦闘を続けていた。そして苦戦していた。
メイヴのおとも……メイヴがクーちゃんと呼んでいたそれは非常に戦闘力が強く、動きも素早かったためアヴェンジャーは攻めあぐねている。そしてイリヤは一人メイヴに魔法を放つが、その悉くが打ち消されていた。
「
「甘いわ!!」
器用にも魔力の刃を鞭で絡めとるメイヴ。そして彼女はイリヤが疲れ始めたと見て己の宝具を解放する。
「行くわよクーちゃん!!
「……不味いっ!!」
戦車が走り出す。メイヴとそのおともが乗ったそれはイリヤのみを狙っていて。
咄嗟にアヴェンジャーがそこに飛び込み、イリヤを己のマントで包み込んだ。そして二人は次の瞬間には迫り来る戦車に撥ね飛ばされて。
……いつの間にか、その戦車に囚われていた。
「成る程、これが本当の宝具という訳か」
「ここは……?」
「ここ? ここは、そうねぇ……
「ちょ、チョメチョメって……///」
メイヴの説明に勝手に赤くなるイリヤ。アヴェンジャーは彼女をマントにくるんで離そうとしない。
というか戦車自体が狭いのに、メイヴ、そのおとも、アヴェンジャー、そしてイリヤが入っているのだから、二人は固まっていないと動くことすら儘ならないのだ。
「さあ、恐怖して、私に屈服なさい!!」
「ふざけた事を……!!」
───
「……お前が、新しいサーヴァントか」
ファースト・マスターによって眠らされた信長をベッドに横たえてから己の職場を視察していた信勝に、先程見かけた門番が声をかけた。
信勝は振り返り、一つ笑う。何の後悔も無い、そんな笑みだった。
「正確にはサーヴァントですらありませんが、今はサーヴァントみたいな物ですね。貴方はさっきの門番さんですか。ええと、名前は……」
「真田エミ村。エミ村だ……本来は別のサーヴァントだったのだが、召喚に際して他の存在と混ざってしまったらしい。お陰で二人の魔法少女と共にここまでやって来れた」
「成る程、そんな事が……因みに、貴方はファースト・マスターに何を望んだんですか?」
信勝はそう問う。
単純に彼には興味があったのだ。自分と同じ思いをしたサーヴァントはいるのだろうか、と。エミ村は答えるべきか少し迷った後に、信勝に言う。
「私自身に望みは無かった。……ファースト・マスター曰く、用の済んだ魔法少女は廃棄する、と言っていたので、彼女らに安全と幸福を与えてやれ、と言っておいたさ」
「わあ、僕と殆ど同じじゃ無いですか!! ……僕がファースト・マスターの元で働けば、姉上の幸せは保証されます。私も働いていれば、直に姉上の所に行ける。こんなに嬉しいことは無い。エミ村さん、共に頑張りましょう!!」
「……そうか、そうだな」
同士を見つけたと言わんばかりに興奮して、鼻の穴を膨らませる信勝。エミ村はそんな彼に、寂しそうに苦笑いをした。
「僕は姉上の為ならなんでもやれます!!」
「……何でも?」
「はい、何でもしますとも!!」
「……そうか」
───
そしてアヴェンジャーはイリヤを抱えて、メイヴとおともから逃れる為に酷く狭い戦車の中をひたすら跳ね回っていた。
……しかし元々空間は狭く、メイヴが一度鞭を振るえばそれは確実にアヴェンジャーに当たっていた。
「くそっ、余りにも狭い空間だな、ここは!!」
傷だらけになりながら壁を蹴るアヴェンジャー。本当にこの戦車からの脱出の手立ては無いらしい。
段々動きの遅くなっていくアヴェンジャー。おともを頭に乗せたメイヴがアヴェンジャーに微笑み、彼の顎を強引に掴んだ。
「ねえ、もう諦めなさいよ。私に傅いて永遠の忠誠を誓って、メイヴちゃんサイコー!! って言えば赦してあげなくも無いのに」
「フッ、どうせイリヤスフィールは殺すんだろう?」
「当たり前よ、不愉快だもの」
そこまで聞いて、アヴェンジャーはメイヴを振り払い抵抗を再開する。
しかしこのままでは勝つことが出来ない、というのは既に理解していた。懐のイリヤもここまでの機動でかなり酔っている。
……こんな閉鎖空間で使うのはかなり憚られるが、一応彼には切り札が存在していた。
「……使うのは割とリスキーではあるが、仕方あるまい。……聞こえるかイリヤスフィール、目をつぶって呼吸を止めておけ」
「……うん」
イリヤが呼吸を止めた事は何となく理解できたアヴェンジャーは、己の体から闇を吐き出す。
『Noble phantasm』
「
───
「んっ、ん……」
……信長は見知らぬ空間で目を覚ました。
見覚えの無い街の街道で彼女は爆睡していたのだ。
しかし誰も彼女の眠りを妨げなかった。何故か? ……そもそも、誰も通っていなかったのだ。
「はて、一体ここは何処じゃろうか……南蛮街かのう?」
白く磨かれた石畳。レンガを積まれた壁の数々。南蛮渡来の物によく書かれていた英語。
信長はここが南蛮街のそれだと確信する。
……しかし、やはり彼女は誰にも出会わなかった。
「誰もいなければ争いは起きない、と言うことか。沖田の奴もいないし……全く信勝め、何が永遠の平和じゃ、うつけ……」
そう呟く信長。
……色々やってみて分かったことだが、どうやら宝具含めて武器の類いは封印されているらしい。平和の為には銃など要らぬ、という事だろう。信長は溜め息を吐いた。
彼女は仕方無く、再び何処かで眠ろうと思って適当な場所を探し始めた。どうせ誰もいないのだ、不法侵入しても文句は言われまい……そう思って歩いていた時。
「ああっ!! サーヴァントです!! 良かった、私達以外で、やっと動いているサーヴァントに会えました!!」
「ん……?」
初めて己の物ではない声が聞こえた。
方向を見てみれば……黒い馬に乗った、黒い騎士と白い騎士がこちらに走ってくるではないか。信長は身構えたが、銃も剣も無い以上抵抗は殆ど出来ない。
……運が良いことに、その馬は信長の前で止まり、二人の女騎士……いや、元魔法少女が信長の前に立った。
「……何者だ? あっ、わしは魔王少女バンバン☆ノッブをしていた織田信長じゃが」
「あっ、初めまして。私は、聖剣の魔法少女アルトリア☆リリィです……聖剣奪われちゃいましたけど」
「そして私が聖槍の魔法少女アルトリア☆オルタだ……聖槍は奪われてしまったがな」
「なんかお主ら、胸は似ても似つかぬが顔がそっくりじゃの。姉妹か?」
何気なくそう問う信長。二人のアルトリアは曖昧な顔で互いを見合わせ首を傾げ、そして信長に向き直る。
「……そこは気にしないでくれ。それより、私達に協力してはくれないだろうか」
「実は私達、真田エミ村というおともとここに来たんです。彼は私達の身を案じて、何でも叶えてくれる権利を棄てて私達をこうしてくれた」
「だが、この結末は余りにも不出来だ。このような場所にいられる私達だと思うな……故に脱出する。この閉鎖空間を逃れ出て憎きファースト・マスターを討ちに行く」
その申し出は、信長にとってもありがたい物だった。そもそも、一人でずっとじっとしていろ、など何者にも代えがたい拷問である。つまり信長に断るつもりは全く無かった。
「うむ、それじゃあ、共に脱出を謀るとするか!!」
「ええ、よろしくお願いします!!」
───
そして、ラーマとシータ、そしてジェロニモは黎斗を探索して歩いていた。森を出てひたすらに歩く。
「一体黎斗は何処にいるのだ……?」
もう既に二時間は休み無しで歩いているが、形跡の一つも無い。魔法少女にすら出会わない。いや、魔法女装男子は不意討ちで襲ってきたから撃退したが。
とにかく、彼らはもう何キロも歩いていた。そして、漸く一つの手がかりに辿り着く。
「……何かあるな。鉄か?」
「これは……」
「確か、ロケットという物ですね……あ、宝石が落ちています」
ジェームズ☆フォレスタル……いや、マルス☆アルテラに破壊されたドゥ・スタリオンⅡだった。
「ここで何かがあったと見て間違いは無いだろう。これに黎斗が関わっているかは定かでは無いがな」
ロケットを分析しながらそう呟くジェロニモ。修復はどうやっても不可能で、せっかくの手がかりだがここに放置していくしかなかった。
「仕方無いな。何か足跡はあるか?」
「いや、ありません」
「そうか……」
「……待った。誰かが近づいてくる」
ジェロニモがそう言って彼方へと目を向けてみれば。
「おおクロスティーヌ!! 今貴方は何処にいるのでしょうか」
「ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌの存在感を感じますぞ!!」
「……逃げるか、ラーマ?」
「……にげましょうよラーマ様」
「余も非常に逃げたいが……少なくとも彼らは黎斗について何か知っているような気がする」
「えぇ……」
魔法少女四天王の残り二人が、彼らに迫っていた。
───
そしてアヴェンジャーとイリヤはと言えば、どうにかこうにか逃げ仰せる事に成功していた。二人とも黒く汚れているが、命に別状はない。
「ふう……何とか、魔法少女とおともとを対立させて強引に宝具から抜け出したが……反動が、酷いなこれは」
「ですね……」
イリヤは半ば熱のような状態でフラフラとしていた。
「……イリヤスフィール、今から高速移動したら、耐えられるか?」
「む、無理です……」
「……なら仕方無いな。……適当な雪山がある。オレがかまくらを作ってやる、少し待っていろ」
そう言って拳に炎を纏い、身を隠すためのかまくらを作り始めるアヴェンジャー。未だメイヴ達はピンピンしているだろうから、今は身を隠して英気を養う他無いのである。
「暫く、耐えておけよ……オレの体力が戻れば、治療も出来る」
「はい……」
イリヤは彼の背中を、ただ呆けたように見つめていた。
ルビーはアヴェンジャーによって頭から雪の中に埋められていた。
───
その頃。
「さーて、二つ目のバグヴァイザーを作れるだけの素材が集まったね」
カルデアにてダ・ヴィンチが沢山の資材の前で腕を組んでいた。最近は疲れているのか、いつの間にか寝ていてしかも記憶が抜けている、なんて事がよくあるが……ロマンも頑張っているのだから、と彼は自分を奮い立たせていた。
「普通に作ってもいいけれど、どうせならもっと戦闘に役立つものを追加してみたいよねー……」ガチャガチャ
手際よく材料を加工して組み上げていくダ・ヴィンチ。黎斗のバグヴァイザーを再現、改造して出来上がるバグヴァイザーL・D・Vは、あっという間に形を取り始めて。
「ロマンも物資補給のために座標の移動の法則を調べてるみたいだし、私も頑張らないと。……でもやっぱり、これを強化するには……バグスターってのを調べなきゃダメだよね……」
ダ・ヴィンチはそこまで言って立ち上がった。資料室にバグスターについての書物はあっただろうか。
そして、三歩歩き出した時点で。
「──ガッ……!? この、頭痛……すごい、デジャヴ……」
……彼は再び頭痛に倒れ伏す。
ゲキコウゲンム(5頭身)