「……と言うわけで、私達は檀黎斗という神と泣き別れてしまった訳です」
「お前達……苦労していたんだな……!!」
ラーマは泣いていた。話しているのは先程であったジル・ド・レェとファントム・オブ・ジ・オペラ。
彼らと黎斗の間に何があって、彼らと黎斗との別れがどうであったか……それを聞くだけで、ラーマは感動して泣いていたのだ。
「ラーマ様……」
「……やはり余は、何としてでも黎斗を見つけ出さねばならない。彼らの為にも!!」
思わず半歩下がるシータ。ラーマは勢いよく立ち上がって決意を表明し、元々黎斗のサーヴァントだった二人に協力の意を示す。
ジェロニモはひたすらに苦笑いしながらロケットを点検していたが、あることに気づいて飛び退く。
「……熱くなっているところ悪いが、場所を変えよう。ロケットに多少のオイル漏れと漏電が確認出来たから、いつ爆発してもおかしくない」
「そうか……出来ることなら何かに再利用したかったが。仕方無い、行こう」
───
「……気分はどうだイリヤスフィール。
「はい……ありがとうございます」
イリヤは小さなかまくらの中で火に当たっていた。体調は既に良くなっている。
アヴェンジャーは雪の降り積もる外を眺めながら今後の計画を考えた。
「さて……メイヴとの戦闘は暫く後回しにするとして。闇雲に動き回って黎斗と合流できるかは怪しいが、ここでじっとしているのはそれはそれでリスキーだ。さて、どうする?」
「ええと……ルビー、何か出来る?」
雪の中からルビーを引っ張り出すイリヤ。ルビーは暫くガタガタと震えていたが、突然妙に元気な声で話始めた。
「ええ出来ますよ?ルビーちゃん
「本当!?」
「ええ!! ……ですが私を酷い目に遭わせたそこの彼のために使うのは非常に嫌ですねぇ非常に嫌。土下座して貰った状態でルビーサミングと裏サミングをそれぞれ全身に満遍なく浴びせないとスッキリしませんねぇ」
そしてそう言ってのける。ここに来て、アヴェンジャーの方針が大きすぎる仇となってしまっていた。
「ねえねえ、謝罪は? 土下座は? ねえねえ、今どんな気持ち?」
「……黙れ」
「あの、その、ごめんなさいアヴェンジャーさん。ルビーがこんな事言って……」
「……」
挑発しながらアヴェンジャーの回りを飛び回るルビー。助けて貰ったのにこんな事になってしまって申し訳ないと言いたそうなイリヤ。アヴェンジャーは眉をひくつかせながら大きなため息を一つ吐き出して。
───
そしてその頃。
「……」
黎斗はエリザベートから引き抜いたマジックザウィザードを機械に装填し、パソコンのキーボードを叩いていた。何時もと体の大きさや勝手が違うのだろう、入力のスピードはかなり遅くなっている。
「余は暇だ黎斗、機械なぞにかまけておらず余の相手をせい」
「五月蝿ぁぁいっ!! 私は!! 作業中だ!! エリザベートと戯れていろ!!」
ストレスが溜まっているのだろう、近づいてきたネロを怒鳴り付ける黎斗。耳元で叫ばれたネロは目元に涙を浮かべ始めた。
それを見かねたのか、ジークフリートが後ろから黎斗に声をかける。
「すまないマスター。エリザベートはさっきから喜びで気絶している」
「使えない奴め……!! 仕方がない相手しておけジークフリート!!」
「えっ」
なげやりに黎斗にそう言われた彼は、その言葉に凍りついた。しかも、いつの間にか涙目のネロが彼の隣で体操座りしている。
「えっ」
「うっ……ひっぐ……ぐすん……」
「えっ」
───
……その頃アヴェンジャーはと言うと、半泣きのイリヤを背負って憎悪で黒く染め上げられた雪の上を歩いていた。
「……本当に、本当にすいませんでしたアヴェンジャーさん!! 許してください!! 何でもしますから!!」
「……復讐はすませた。杖はたっぷり汚染したから、丸一日は転身は諦めた方がいい」
そう言うアヴェンジャーは全身傷だらけで。彼の手元では、怨念マックス状態で発動された
復讐鬼であるアヴェンジャー。受けた痛みは倍返しが基本である。
「まあ、黎斗の場所は割り出すことが出来た。幸いメイヴはいないのだし、今のうちに黎斗のいる座標に急ぐぞ」
「本当に、本当にごめんなさい……!!」
全力疾走するアヴェンジャー。もしここで黎斗に会えなければ、次はルビーに何をされるか分かったものではない……というか寧ろ何をしてくるか読めるとも言うべきか。
とにかく、次があったなら全身にサミング喰らうより酷いことになるのは確定していた。
「次からルビーにもしっかり言っておきますから……!!」
「……慈悲などいらぬ!!
───
「……」
その頃。土方は他のファースト・マスターのサーヴァントの集団からは少し離れた所で一人立っていた。
普段は使わない宝具である
「……」
例え他の新撰組が全て倒れ伏しても己が立っている限り新撰組は不滅……そう思っていたが。こうして自分の手元に全ての新撰組がいるとなると、複雑な心境にならざるをえなかった。
沖田は既に座に強制的に還され、この宝具で呼び出すことが出来るだろう。隊長だった近藤も、当然呼べるだろう。
「……」
それを純粋に喜べないのは、自分がファースト・マスターの下僕として働くのが前提の報酬だからだろうか。
「……ん?」
「おい皆!! ファースト・マスターから伝令が入ったぜ」
「何だ?」
「伝令だと?」
土方は他のサーヴァント達が騒がしくなったのに気がつき顔を上げた。
全身青タイツの槍を持った男が何かを報告している。
「『サーヴァントの定員は満たされた。これより最終選抜としてこの幻想廃棄場を更地に変え、そして生き残った者達で全世界の理不尽を討ちにゆく』……だそうだ!!」
「成る程……では、とうとう」
「ああ、僕達の最後の試練です。全員でこの世の理不尽を正してみせましょう!!」
「……そうか」
土方は立ち上がった。……何もせずにここで再び揃った新撰組を失うのは流石に気が引ける。
「新撰組……出るぞ」
───
そして信長は二人のアルトリアと共に無人の街を探索していた。
恐ろしいほどに静かな街。商店には確かに商品が並んでいるのに、信長が店頭から勝手に品を持っていっても誰も咎めない街。
「ここまで来るとますます不気味じゃな」
「そうだな。あと探索していないのは……向こうの城と、それと接した北側の壁だな」
「そうですね。普通に考えて城が怪しいですが、この街は壁で区切られているようなので、壁も気になります」
「そうか……おっ、丁度よい所に、楽器の店があるようじゃな」
「ありますけど……どうしたんですか?」
「ちょっと寄らぬか? 一つやりたいことがある」
オルタの方のアルトリアの馬であるラムレイから、突然信長は飛び降りた。オルタが馬を止めて繋ぎ、リリィも伴って信長についていく。
店に入ってみれば、ごくごく普通の楽器屋だった。店内BGMすら流れている。
そして棚にはいくつもの洒落た楽器が並べられていて。信長は……強化ガラスを蹴り破って、この店の弦楽器の中で一番値の張る物を取り出した。
「うむ、これがよい」
「ギターだな。……それがどうかしたのか?」
やりたいこと、とは何なのか。今一理解できていないアルトリア二人。信長はピックを持って一つギターを鳴らし……光に包まれた。
「わしの魔王のスキルをもって、自分の霊基をちょちょいのちょいっ!! ってすれば……」
その変身は一瞬で。信長はクソダサTシャツを身に纏い、手には何かオシャレなエレキギターのようなナニカを持っている存在……バーサーカーにクラスチェンジしていたのだ。
「これにて変身完了!! 渚の第六天魔王、ノブナガ・THE・ロックンローラーじゃ!!」
「……渚の?」
「いや、何となく言いたくなったのじゃ。それより、そなたらもロックンローラー、ならぬか?」
バーサーカー、織田信長。彼女はどういうわけかロックンローラーに目覚めてしまっていた。そしてアルトリア二人を勧誘する。
「なるわけが無いだろう……そもそも私達は騎士だ。楽器などろくに触れたことは……」
「はい、残念ですけど……」
当然拒否。しかしそれも知ってたて言わんばかりに信長はニヤニヤしている。そして彼女はギターみたいな何かでサクッとショーケースを破壊してトランペットとドラムのスティックを取り出した。
「心配はいらぬ。ロックはフィーリングじゃからのう!! 何にせよ、何かあったときの為に武器は必要じゃろう? ほれ」
そう言って己のスキルで強引に楽器を変質させた物を押し付ける信長。やっぱり二人は当然戸惑う。
「これは……トランペット、ですか? その、私はこれ吹けないんですけど……」
「大丈夫大丈夫、何とかなるようにしておいた」
「……ドラムの、スティック、だと……?」
「何となく槍っぽいじゃろ?」
「いや、全く」
しかし今は、これ以外に武器がある訳でもない上、一応楽器なので武器として扱われず、見えない誰かに取り上げられる何てことも無い。アルトリア二人は仕方無くバンドマンと化し、ここに一つのロックバンドが生まれた。
「と言うわけで、これにてバンド成立じゃな!! 名前どうする?」
───
「姉上~姉上~」
そしてその信長を平和な街に投げ込んだ信勝はと言えば、出撃前の元気チャージと称して先程信長を安置したベッドのある部屋にやって来ていた。
「……姉上?」
しかし、ウッキウキで部屋を覗いてみれば、そこには何もなくて。部屋を間違えている訳でも無く、移動させたという張り紙も無い。
「えっ、姉上どこ……ここ……?」
信勝は思わず震え始めていた。プルプルしながら即座にちびノブ……の結局勝手に作った新作の一つであるノッブUFOを呼び出し走らせる。
「ファースト・マスターを呼んできて!!」
「ノブッ!!」
廊下を高速で飛んでいくノッブUFO。それは直ぐ様ファースト・マスターの元に辿り着き、彼女を連行して戻ってきた。
「ノッブ!!」
「……どうしました?」
「……あっ、ファースト・マスター!! あの、ここに寝かせておいた姉上がいないんですけど!?」
唾が飛ぶのも気にせずに食いかかる信勝。ファースト・マスターは非常にめんどくさそうな顔を少しだけしてからすぐに微笑み、信勝にゆっくりと答える。
「……大丈夫ですよ。あなたのお姉さんは安全な所に移してあります。ほら、早く準備をして下さい。貴方にはお姉さんとかのサーヴァントの宝具を擬似的に譲渡させてあるでしょう?」
「姉上は、本当に安全なんですか!?」
「ええ……貴方が理不尽と戦い続ける限りは」
───
「……ふぅ……」
黎斗はパソコンに突っ伏していた。まだ数時間も立っていないのに、おともの体は何時もより疲労が溜まってしまうのだろう、指があまり動かない。
「くそ……ネロめ……」
「まあ、そう怒らないでくれ、マスター。ネロも立派な戦力の一つだ」
「そうよ、ぶつぶつ言ってると楽しくないわ」
雑魚寝するエリザベートとネロの隣で立っているジークフリートと、黎斗が小さくなったので膝に座れず立っているナーサリーが口々にそう言った。
黎斗も何だかやる気も少なくなってきて、椅子にもたれる。
「チッ……私も、少し休もう。ナーサリー、張っておいたセンサーに変化は?」
「無いわね。……お休みなさいマスター。いい夢を」
そうして黎斗は眠りについた。疲労も溜まっているのだ、暫くは動くことは無いだろう。
───
「ごめんねクーちゃん、さっきはついついムラっとしちゃって」
「しっかりしろよ、チー鱈ぶつけんぞ。お前が俺に集中したせいで対人宝具のターゲットが変わって、あいつらは脱出できたんだからな」
「分かってる……気をつけるわ」
そして、雪に溢れた大地を戦車で抜けて走っていたメイヴとそのおともクー・フーリン・オルタはと言えば、ファースト・マスターが動き始めたことを既に察知していた。
「……ところで、例の軍団がとうとう動き始めたらしいぞメイヴ」
「そう……私達は私達で独自のルートを探ろうとしてたけど、先を越されちゃったか」
「諦めるのか?」
「まさか。私は蜂蜜禁誓系魔法少女コナハト☆メイヴ。私が一番で私が幸せな国を何としてでも作ってやるんだから」
そう言う彼女の手にはもういくつもの宝石が。これだけあればファースト・マスターの所に行くのは簡単なのだが、メイヴはそうはしない。
「普通の魔法少女達みたいにファースト・マスターに消されるのも、アルテラみたいに擦り寄って道具として使い潰されるのも、真っ平御免よ……!!」
「そう言うと思っていたさ……好きにやれ」
戦車は走る。ひたすらに走る。その乗り手は瞳の中にサーヴァントの一団を捉えて。
そのサーヴァントの一団の方も、迫り来る魔法少女に身構えていた。
「……魔法少女、接近!! 確実に敵対している体勢だ!!」
見張りをしていたジェロニモが叫ぶ。シータが咄嗟に矢を射るが、向こうには全く効いている様子がない。
「……どうしますか?」
「当然、打ち破る!!」
ラーマは剣を抜いてシータに並び立った。ジル・ド・レェとファントムも交戦の意を示している。
接触まであと300メートル。ファントムが隣のジル・ド・レェに声をかけた。
「……クロスティーヌには怒られるでしょうが、あれを使ってはどうです?」
「そうですねぇ……お許し下さい
そう言って取り出したのはプロトドラゴナイトハンターZ。……黎斗と共に戦った結果、ジル・ド・レェの新たな装備として扱われるようになった存在。
それは光をボディに纏い、四つに分裂する。
接触まであと200メートル。
『クロー!!』
『ファング!!』
ジル・ド・レェとファントムはそのガシャットを手に取り電源を入れていた。残りの二本は、ラーマとシータの前で回りながら浮いている。
二人は恐る恐るそれを手に取り。
「さあお二人とも、電源をお入れ下さい」
「……分かった、これを使うんだな?」
『ブレード!!』
「本当に大丈夫なんでしょうか……まあ、やりますけど」
『ガン!!』
残り100メートル。ジェロニモは既に近くの木の上に待避していた。
迫り来る戦車に向かい立った四人は、同時にその体にガシャットを突き立て。
「「「「変身!!」」」」
仮面ライダー轟鬼(水着)
仮面ライダー威吹鬼(リリィ)
仮面ライダー響鬼(オルタ)