Fate/Game Master   作:初手降参

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荒波からの撤退戦

 

 

 

鮮血特上魔嬢(バートリ・ハロウィン・エルジェーベト)!!」

 

誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!!」

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)!!」

 

『Noble phantasm』

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

黎斗達のグループは、迫り来るサーヴァントを相手に戦闘を続けていた。

始めのうちこそ順調だったが、敵は全員謎のバックアップを受けたサーヴァント、しかも大量ということもあって、一行は疲弊し始めていた。

 

 

「……流石に連戦はつらいわぁ。お水頂戴、お水!!」

 

「余の喉もカラカラである……!!」

 

 

そう呻く自称アイドル二人組。二人の声は何だかんだで優秀な殺人兵器なので、ここで失うのは地味に大きな負担と言える。

 

 

「くそっ……二人とも退け!!」

 

「む、かたじけない……」

 

「水分補給しなきゃ……!!」

 

 

そう判断した黎斗が、バグヴァイザーから光弾を乱発しながら二人にそう指示を出した。敵のサーヴァントの勢いがますます強まってくるのが目に見えて分かる。

 

 

「くそ……!!」

 

「はぁ、はぁ……これ、いつ終わるんですか?」

 

 

隣でガシャコンマグナムを構えるイリヤも汗だくで荒い息をしていた。この調子ではしばらくも持つまい。

……そして、間の悪いことに、サーヴァントの数が更に増え始めた。黎斗は再びビームガンを構えるが……呆然として下ろす。

 

呆れるほどに数が多かったのだ。残り十五程度だったサーヴァントが、いつの間にか二百もの数に膨れ上がっていたのだ。

 

 

「……おい、何か一気に……二百もの軍が押し寄せてくるが」

 

「……退却!!」

 

『爆走バイク!!』

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

 

黎斗は諦めた。そして爆走バイクとシャカリキスポーツを起動し、彼自身はナーサリーを取り込んでバイクゲーマに飛び乗る。

とてつもなく嫌だったが、後ろにネロが乗ってきたのを確認して、彼はゲーマを発進させた。

その隣ではジークフリートがスポーツゲーマにまたがり、エリザベートを後ろにのせてペダルをこぎ始める。

 

 

「わ、私は……」

 

「逃げるぞイリヤスフィール」

 

『Noble phantasm』

 

「捕まっておけ。虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

そして、置いていかれてあたふたしていたイリヤを、アヴェンジャーが抱えて走り出した。……一応その手にはボロボロのルビーも持っていた。

 

 

「ぐぅ……この体だと運転しにくいか……うわぁっ!?」

 

 

五頭身だとハンドルが上手く掴めず唸る黎斗。ちらっと後ろを見てみれば、羽織のサーヴァントの大群が波のように折り重なって、バイクゲーマの後ろのすぐ近くまで迫ってきている。

 

 

「うむ、余に運転を変わるがよい!! これでも騎乗スキルはBだからな!! ライダーの適性、あるしな!!」

 

「ばっ……腰を掴むな!?」

 

 

見るに見かねたのだろう、後ろにいたネロがひょいと黎斗を持ち上げて小脇に抱えハンドルを握った。突然おかしな体勢にされた黎斗は暴れるが、サーヴァント相手にはお供はあまりにも非力。

しかも悔しいことに、羽織のサーヴァントからはどんどん距離を離している。

 

 

「っ……やはりあのバーサー看護婦に破壊されたゲーマの修理を優先すべきだったかぁ……!?」

 

 

コンバットゲーマが治っていたらそれに乗って飛んで移動したのに……そう考えても後の祭、黎斗はネロの脇に抱えられて走る他無かった。

 

───

 

「ちっ……逃げられたか」

 

 

それから暫くして。

黎斗をひたすら追いかけていたサーヴァント達の呼び手である土方は、己の宝具である誠の旗(まことのはた)を殆ど解除し、一人だけ消えずに残って隣に立つ沖田にそう言っていた。

 

 

「もう、本当にズルいですよあれ!! あの乗り物速すぎます!!」

 

「お前は縮地があるだろう……あ」

 

「……吐血しました」

 

「……そうか……」

 

 

赤いものが垂れる口を吹きながら苦笑いする沖田。土方はやれやれと言わんばかりに肩を竦め、遠くを見る。

近くの敵は粗方始末し終えたらしかった。

 

 

「それにしても……あれだけ揃うと、やっぱり懐かしいですね」

 

「……そうだな」

 

 

土方は、昔を懐かしむ沖田の声に反応するように誠の旗を見やる。

関係ない人間から見ればただの旗だが……それは新撰組の信念であり象徴として、新撰組全ての隊士の中にあり続ける物だった。

 

 

「これには全てがある。近藤さんもいる、斉藤も武田も原田もいる……お前もいる」

 

「土方さん……」

 

「……俺がいる限り誠の旗は不滅だが……」

 

 

土方はしみじみとした様子でそこまで言って、ふと、思い止まったように口をつぐんだ。

そして彼は沖田も旗に戻し、次の魔法少女を探して歩き始める。

 

彼の目は虚ろだった。それがファースト・マスターとの契約の証。ファースト・マスターと共に戦う義務を持つ証拠。

その瞳に映る理不尽を、彼は何があろうと破壊しなければならなかった。

 

───

 

「……いたずらコヨーテ君(ツァゴ・デジ・ナレヤ)で移動できるのはここまでだ」

 

 

その頃。

やはり多くのサーヴァント相手に逃走を選択したラーマ達は、ジェロニモの宝具であるコヨーテを酷使してここまで逃げ延びていた。

 

 

「ありがとうジェロニモ、そしてコヨーテ……にしても、サーヴァントの大群とはまた大変だな」

 

「そうですねぇ。あれだけいれば流石に物量で押し潰されますぞ。ええ」

 

 

怒濤の勢いで迫ってくるサーヴァントの波を思い出して震えるジル・ド・レェ。呼び出した海魔が打ち破られていく様は恐怖でしかなく。

 

 

「ええ。あれを打倒するのは我々には不可能……纏めて葬ろうにもすばしっこくて敵いません」

 

「そのようだったな。全方位からの攻撃に対して完全に対応するのは不可能だ」

 

「だがここで止まっている訳にもいかないだろう。……でも、今日はもう遅い。明日、黎斗を探し出そう。サーヴァントの軍団を倒すのはそれからだ」

 

 

ラーマがそう纏めた。現在は敵性サーヴァントの気配は失せている。

取り合えず先の戦闘で少なからず負傷した体を休めようと彼らが横たわった、その時だった。

 

 

『あ、あー、聞こえる?』

 

 

カルデアから漸く通信が入ったのだ。

モニターにロマンの姿が浮き上がる。

 

 

「その声は、ロマン殿ではありませぬか!!」

 

「ロマニ・アーキマン……相変わらず惹かれぬ声ですね」

 

『うっ……出来れば君たちとは会いたくなかったなぁ』

 

 

懐かしげに飛び付くジル・ド・レェとファントム。ロマンは彼らに曖昧な笑みを返し、彼らの後ろにいるラーマに声を投げ掛けた。

 

 

『連絡が遅れてごめん。漸く安定した通信が出来るようになった……で、報告だ。檀黎斗の現在の居場所のデータが取れた。今からそっちにこの特異点の地図を転送する』

 

「本当か!?」

 

『ああ、本当だ』

 

 

一枚の地図が地面に落ちる。ラーマがそれを拾い上げてみれば、この特異点の地図らしき物に赤と青の×印が一つずつ映っていて。

 

 

『受け取れたね。青い×印は君達、そして赤い×印が現在の黎斗の居場所だ。今夜はそこにキャンプを敷くらしいね』

 

「じゃあそこに行けば……」

 

『勿論、黎斗達と合流できる』

 

───

 

そしてその黎斗達は、数多のサーヴァントを振り切って漸く安全な場所に辿り着いていた。手早く簡素なキャンプを設置し、そこで夜を越すつもりだった。

 

 

「全く、散々な目に遭った」

 

「余の運転を心行くまで味わえて満足であろう?」

 

「ふざけるな」

 

 

バイクゲーマを手入れしながら黎斗がネロに悪態をつく。

事故こそ起こさなかったが彼女の運転は乱暴そのもので、黎斗は脇に抱えられている間はずっと埃まみれだったのだから、無理もない話だった。

 

その隣では、顔を青くしたイリヤが口を押さえて踞っている。

 

 

「うっ……うっぷ……」

 

「……すまなかった。調子に乗って虚空を走ったのはやり過ぎた」

 

 

アヴェンジャーはそう言って頭を下げていた。ルビーは丁寧に埋めてあった。

 

 

「……どうやらサーヴァントはこの辺りまでは来ていないらしいな」

 

「そうみたいね……でも遠くで誰かの声が聞こえるわ」

 

「……緊急時に備えて、交代で起きるようにしなければな」

 

 

ジークフリートとエリザベートは辺りを見回しながらそう言っていた。

夜が深くなる。今日も今日とて疲弊した彼らは、殆どが倒れ込むようにして眠りについた。

 

───

 

その頃、信長達はと言えば。

 

 

「ふむ……」

 

「さて……困ったのう」

 

「ええ……ビクともしません」

 

 

城の壁を破壊しようと試みて、そして挫折していた。

 

 

「ある程度分かりきってはいたが……どうやらここでは『破壊』という行為が禁止されているのだろう。困ったことだ」

 

「でもそれなら、ここから出られません……壁を登ろうとしても何かに阻まれてしまいますし」

 

 

トランペットをもて余しながらリリィが首を傾げる。

脱出方法はあるのだろうか。登っても掘っても出られないこの楽園という名の監獄から、果たして出られるのだろうか。もしかすれば逃げることは不可能なのではないか。そう思えた。

 

 

「どうしよう……」

 

「うーん、もうわし疲れた、今日は寝る!! オヤスミー」

 

 

暗くなるリリィの隣にいたはずの信長はもう疲れてしまったらしく、近くの壁にもたれ掛かって寝息を立て始めていた。

 

───

 

時は既に深夜だった。月は高く昇る段階を過ぎ、もう傾く段階に入っている。

それでも、そんな夜中でも、サーヴァント達の魔法少女狩りは終わらない。終われない。

 

 

「ノブノブ!!」

 

「ノブ!!」

 

「ノノノ、ブブブ!!」

 

「マハトマをすっごく感じるけど……ちょっと今は逃げなきゃ駄目かしら!?」

 

「勿論駄目に決まっているだろう!!」

 

 

信勝の操るノッブUFOが追跡しているのは、少女魔法導師マハトマ♀エレナ。そしてそのおともであるエジソンだ。

 

 

「アル、何とかならない!?」

 

「今は取り合えず逃げるんだエレナ君!! 撃退するには距離が詰められ過ぎている!!」

 

「アルぅ!?」

 

「ノッブノッブ」

 

「ノノノ!! ノッブ!!」

 

 

ノッブUFOは隙を見ては二人の頭上に移動しキャトルミューティレーションを発動して彼らを拘束しようとしていた。宝具か何かを使って反撃をしようにも、どうにもそれが出来る隙がない。

そして追い込まれた彼女らの目の前に、先回りした信勝が立ちはだかった。

 

 

「これで終わりです、風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

「くっ……!?」

 

 

エレナに向かって暴風を纏った日本刀を振りかぶる信勝。その刃を前にして、反射的にエレナは目を閉じて踞る。

次の瞬間に彼女が肌で感じたのは、視界を介すことなく伝わる痛いほどの光で──

 

───

 

「……はい、そうですか」

 

 

ファースト・マスターは一人、居城の部屋に座って独り言を呟いていた。

 

 

「分かりました、では、そのように……」

 

 

いや、独り言ではない。彼女はうわ言のようにブツブツと呟いているが、それは魔力を利用して遠くの()()()()()に対して言葉を届けているという事だった。

 

 

「はい、ええ……そうですか。……何としてでも、変身させるな?」

 

 

ファースト・マスターはスポンサーと会話する。

彼女は盲目的に、彼が己の仲間だと信頼していた。

 

 

「分かりました。では」

 

 

通話が切られる。対話は遮断される。

ファースト・マスターは天井を見上げ、スポンサーに要注意人物として伝えられた者に思いを馳せた。

 

 

「……檀黎斗」

 

 

思わず口から言葉が漏れる。

 

彼女は気づいていなかった。

姉の安否を確認するため信勝が放った一体のノッブUFOが、彼女の会話を盗聴していたなど、気づきようも無かった。

 

 

「……ノッブ!!」




信じられるか?
これ、まだ二日目なんだぜ……?

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