Fate/Game Master   作:初手降参

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暗躍する影

 

 

 

 

 

   バァンッ

 

「……ここで間違いなさそうだな」

 

 

ドアを突き破って、黎斗の駆らせたバイクがファースト・マスターの前で停車した。

スポーツゲーマとコヨーテも部屋に飛び込み、素早く臨戦態勢を整えた。

 

 

「ああ……貴殿方が」

 

「……」

 

 

対するファースト・マスターは落ち着いた様子で剣を構え、隣の信勝は既に一本の剣を構えていた。ちびノブも背後にちらついている。

ファースト・マスターは、バイクから飛び降りた黎斗、エジソン、そしてコヨーテを収納したジェロニモに問った。

 

 

「一応聞いておきましょう。私はここまで辿り着いたおともの願いを叶えます。それは私、ファースト・マスターの力であり誓約、私はおともとして戦い抜いたサーヴァントの願いを叶えなければなりません。その代償として、わたしは願いを叶えたサーヴァントを従える事が出来る」

 

 

その言葉に黎斗はほんの少しばかりの興味を見せた。警戒は解くこと無く、簡潔に彼女に黎斗は言う。

 

 

「ほう……そうか。だが、私には既に神の才能がある。これ以上の物を君に出せるのか?」

 

「価値というものは、人によって違う物差しが存在します。私はおともの願いを叶えるのみ」

 

「……例えば、アメリカ大陸をアパッチの手に取り戻したいと願ったなら?」

 

「今はアメリカ大陸は他のサーヴァントの望みで埋まっていますが……何とかして叶えて見せましょう」

 

 

ジェロニモの問いにもそう答えるファースト・マスター。しかし、『このアメリカは埋まっている』とはどういうことか。黎斗は少し考え、俯く。

 

 

「……ああ、そう言うことか。ファースト・マスター……君の望みは、無数の平行世界に進出した上での、武力での支配による統治、という事なんだな?」

 

「……そうですね」

 

 

そうして黎斗の出した結論に眼前の女は頷いた。その言葉に、その隣の信勝は少しだけ裏切られたような顔をしていた。

黎斗の後ろでうずうずしていたエジソンがファースト・マスターに問う。

 

 

「例えば……この世界のアメリカを人理の破壊から救おうと思ったなら?」

 

「ええ、勿論やってみせま……ん?」

 

 

ファースト・マスターは途中までいいかけ、突然止まった。まるで何かの指示を聞いているようで。

 

 

「……残念ですが、それは無理なようです」

 

「……そうか」

 

「つまり……裏にまた誰かがいる訳か。いや、察しはつくが」

 

 

黎斗は、ファースト・マスターの後ろに存在する誰かの正体を察した。もう、油断はできない。

 

 

「何にせよ……無能な願望機に存在価値は皆無だ。遠慮はいらない、破壊しろ」

 

 

その一言で、一行は再び臨戦態勢になる。躊躇いはいらない、人理を救えない存在に、意味はない。

 

 

「……それはさせません。風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

堕・鶴翼三連(ブラックバード・シザーハンズ)!!」

 

 

対する二人も剣を構えて。彼らは同時に地を蹴った。

 

───

 

その頃。

 

 

「弱点剥き出しってナメてるんですか!?」

 

「すまない、これは仕方の無いことだ……!!」

 

 

エリザベートを不意討ちで下した沖田と、ジークフリートが斬りあっていた。

剣がぶつかり、火花が散る。しかし沖田は笑っていた。

 

 

「ふふ、沖田さんの縮地にかかれば……」

 

 

そう言って彼女は飛び上がる。

彼女のスキル、縮地……それはつまりは瞬間移動やワープの類い。彼女がそれを発動したなら、ジークフリートはあっという間に背中を貫かれ易々と撃沈するだろう。

ジークフリートが身構える。沖田の姿はその場に溶けて……

 

 

「コフッ!?」バタッ

 

「……」

 

 

……いくことは無かった。ジークフリートは曖昧な顔をしながら、倒れ伏す沖田に剣を降り下ろす。

 

 

「……すまない。幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 

 

「「羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」」

 

 

ラーマとシータも、群がる羽織の軍団を宝具で吹き飛ばしていた。

しかし、倒しても倒しても湧いてくるためキリがない。

 

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

その隣でアヴェンジャーも宝具を使っていたが、どうにも決め手に欠けていた。

 

 

「うう……アヴェンジャーさん……まだ、終わりませんか……?」

 

「休んでおけイリヤスフィール……一応、軍団の呼び手は把握した。どうやらどこぞの聖女よろしく、旗を振って仲間を呼び出しているらしい。倒れたやつも暫くすれば再び呼び出されるおまけ付きだ」

 

「そんなぁ……」

 

「……どうしてもって言うんなら、避難させてもいいが」

 

 

イリヤはその言葉に力無く、それでも首を横に振りガシャコンマグナムを構える。

 

 

「いや……まだ、やります!!」

 

「そうか。……ルビーはもうしばらくすれば覚醒する筈だ。それまで、耐えろ。無理はするなよ」

 

 

アヴェンジャーはそう言って、再び炎を纏い戦場に駆け込んでいった。

 

───

 

「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻の如くなり……!! エブリバディ、A・TSU・MO・RIぃぃ!!」

 

 

そして。

信長は二人のアルトリアと共に、壁に向かって演奏を続けていた。因みに今五曲目である。全部レコーディング済みという徹底ぶり。

信長は歌いながら右手を天に突き上げ叫ぶ。

 

 

「イエーイ!! それじゃあ、イカれたメンバー紹介するのじゃ!! まずは……カワイイ顔して実は裏でマスターの貞操狙ってる系姫騎士、トランペット吹きのリリィ!!」

 

「ろ、ロッキュー!!」

 

 

嘘である。そもそも彼女にマスターなどいない。

バンドのキャラづけという名目でそういうキャラにされてしまった彼女だったが、だんだん吹っ切れたらしく楽しげにトランペットを吹いている。

 

 

「次は……すました顔して夜な夜な気に入った相手の布団に潜り込む系王様、ドラマーのオルタ!!」

 

「……不快だ」

 

 

当たり前だが嘘である。彼女にもマスターはいない。

彼女の方は吹っ切れる事も出来ず、真顔のままで力任せに壁を破壊、いや、打ち鳴らしていた。

 

 

「そして……取り合えず夜にはポロリも気にせず枕投げを行う系武将、ギタリストの第六天魔王波旬、織田信長!!」

 

「チッ」

 

 

割りと自分だけまともな紹介をしたことに舌打ちするオルタ。信長はそれを無視してさらにギターを掻き鳴らし……

 

 

「以上じゃ!!」

 

   バァンッ

 

「ほ、本当に、壁が壊れました……!!」

 

 

曲が終わるのと同時に、壁は派手に崩壊した。

 

───

 

誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!! ……うむ、全く効いておらんな!!」

 

 

ネロが宝具を開帳する。多くの光線がファースト・マスターに振りかかるものの、敵は全く怯んでいない。

 

 

「おそらく裏方のバックアップの賜物だろう……ダメージ反射効果でも付加しているのか?」

 

「勝てないわ、勝てないわ!?」

 

「……仕方がない。今からでも部隊を分断して半分を裏方の捜索に充て──!?」

 

 

そう指示しようとした黎斗は、背後にほんの少し風を感じて踞る。

 

 

   パァンッ

 

「それは、させません」

 

「不可視の火縄か……厄介な」

 

 

信勝が風を纏わせた火縄を呼び出していた。存在を感じるには、漏れ出ている音を聞く他無い。

 

 

「下手には動けないか……全方位から不意討ちが来る可能性がある」

 

「既に、この城の至るところに不可視にしたちびノブを配備しています。ええ」

 

 

そう言いながら日本刀をしまい手を振り上げる信勝。

黎斗を庇うようにファントムが立ち。

 

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

───

 

「ノッブー!!」

 

「ノブノブ」

 

「ノノノ、ブブブ」

 

 

風を纏った不可視のちびノブは、城の中を駆け巡っていた。その目的は黎斗達への対策と、もう一つ。信長の安否確認である。

既にちびノブ達は、明らかに怪しい魔力による結界の存在は確認していた。おそらくその向こうに信長がいると結論付けていた。

 

 

「ノッブ」

 

「ノブノブ」

 

 

となれば、後は結界の中に入るのみ。

結界を突き破るのはちびノブには困難だが、彼らは小さい影のような存在だからこそ、結界の隙間を潜ることが出来る。

 

その結果。

 

───

 

「うーむ、入れたはいいが、どこに行けばよいのかさっぱりじゃのう!!」

 

「どうするんですか……」

 

 

「ノッブー!!」

 

 

「ゲエッ、ちびノブ!?」

 

 

信長達の発見に成功した訳である。

 

 

「ノブナガ、ミツケタ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノブノブ」

 

「わぁ、こっちに来るでない!! シッシッ!!」

 

「ノッブー!!」

 

「ノノノ、ブブブ!!」

 

「ああっ!! ちょっ、押すな、あっ、馬鹿ぁっ!!」

 

 

ちびノブ達に押し潰される信長。

しかし彼らは、間違いなく出口の場所を示していた。要は、ちびノブの来たルートを辿ればいい訳である。

 

 

「行くぞ!!」

 

───

 

「くっ……ここまでやられるとはな」

 

 

黎斗達は、地道に追いやられていた。

ファントムがまず黎斗を庇って凶弾に倒れた。エジソンもおともの身で戦い抜くことは出来ず戦線離脱。ジェロニモも三千世界を打ち消すために宝具を使いすぎて倒れている。

 

 

「私達だけでも逃げるか?」

 

「それは駄目よ!! 置いていけないわ!!」

 

「チッ……なら、どう突破する!!」

 

 

ファースト・マスターにこれといって疲れは見えない。傷は負っているが痛みを感じているように見えない。確実に裏方の魔術だ。

 

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

「おっと……!!」

 

 

唯一の幸いは、信勝が裏方の恩恵をあまり受けられず、確実に疲弊している事だろうか。黎斗でも彼の攻撃は最早容易に回避が可能だった。

だが何にせよ、このままではじり貧であることに変わりはない。

 

 

「……どうすればいい? 誰かが裏方を叩かなければ……」

 

───

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「……うーむ、ここが出入り口のようじゃが」

 

「予想以上に……小さかったな……」

 

 

信長とアルトリア二人は、結界から出ることは叶わなかった。ちびノブの出入り口が小さすぎたからだ。

結界を解除できれば破壊は容易いが、何が結界を作っているのかが分からない。

 

 

「……待ってください」

 

「どうしたリリィ?」

 

「……あの扉の向こうに、誰かがいます」

 

 

いや。

 

誰が結界を作っているのか等、理解するのは簡単だった。()()を目にしてしまえば。

 

信長は扉をあけて、裏方を覗き見る。

 

 

「……肉の、柱?」

 

 

魔神柱、出現。

 




未だかつてこんなにカッツが戦闘面で活躍した事があっただろうか

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