「……漸く、合流できたか」
弱められた結界の綻びを強引に破壊して、黎斗達が魔神柱の空間に突入した。
……そして耳を塞いだ。
「イエーイ!! あ、黎斗か!! わしじゃ!!」
ライブは続いていた。虐められ魔神柱は啜り泣いているようにすら見える。
黎斗は信長を制止し、前に出た。
「……退け。後は私がやる」
「むぅ……リリィ、オルタ、ライブ終了じゃ!! あ、アンコールある?」
「お断りだ」
「……セイバー顔いますね、始末してもいいですか?」
「騒ぎ立てるな」
勝手に動こうとするサーヴァント達を抑制して彼は打ち捨てられた魔神柱の前に立つ。
警戒を緩めている訳ではなく、黎斗はバグヴァイザーをチェーンソーモードにして構えていた。
「……さて。どうせ
「……我……グラシャ=ラボラス。貴様を、倒す、為に。平行世界の事象を編纂し……改造し……作り上げた」
魔神柱、グラシャ=ラボラスはそう語った。
レフ・ライノールはクビになったのだろうか、そう黎斗は思いながら更に問う。
「どうやってだ」
「……詳しくは、知らぬ。王が……やった」
「そうか。……もう用はない。やれ、ネロ」
「うむ!!
期待はずれだ、とも安心した、とも違う、そんな曖昧な表情をしながら黎斗はネロに指示を出し、攻撃させる。
それと共に魔神柱は破壊され、聖杯が落とされた。黎斗がそれを拾い上げる。
「聖杯、回収……」
「やったわねマスター!!」
「うむ!!」
「姉上!! お怪我は!?」
そして、信勝は信長に抱きついてそう言っていた。そして彼は信長に
信長は鬱陶しそうに信勝を引き剥がし、彼の頭を軽く叩いた。
「この大うつけ。なーにが永遠の平和、じゃあ。つまらんわ!!」
「……?」
「あのなぁ? 人間五十年、命は限りが有るからこそ楽しくて面白いんじゃ……まあ、わしも間違っていたかもしれんがな。もう少し早く、お主を寺か何処かに入れていれば良かったんじゃが……」
黎斗は聖杯を手に、帰り支度を始めようとしていた。地上組も黎斗が帰れば、自動的にカルデアにレイシフトするようだし、問題は無いようだった。
信長は今の仲間の元に戻ろうとして……
「……ノッブUFO、キャトれ」
「ノノノ、ブブブ!!」
……三体のノッブUFOに同時にキャトルミューティレーションを行使され、動きを封じ込まれた。
黎斗の持っていた聖杯も、風の簑に隠れていたノッブUFOに強奪され信勝の手に渡る。
「ノッブ!!」
「ノブゥ!!」
「ノノノ、ブブブ!!」
「ノッブァー!!」
瞬く間に溢れ出すちびノブの軍団。それらはサーヴァント相手に特効し、命懸けで敵の命を刈り取ろうとする。
「ノッブ!!」
「ノッブ!!」
「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」
「おいヒロインX!!
「すいませんね、セイバー顔への殺意を抑えるのに必死でした!!」
悲鳴にも近い糾弾の声を上げる黎斗は、既に胸までちびノブに埋め尽くされて。
そして信勝は信長を拘束したまま、城の天井を破壊して空へと飛び上がった。そして聖杯を核にして、最強のちびノブを作り上げる。
「……来い!! グレートメカノッブ!!」
───
その頃。
『ガッチョーン』
「……ふう……」
新撰組を全て焼き払ったイリヤが、変身と転身を解いてアヴェンジャーの元に戻ってきていた。彼女は地面に着陸すると同時に、力なくふらつく。
「うっ……」
「……どうした?」
「いや……ちょっと、疲れたなって」
アヴェンジャーはイリヤを持ち上げた。丁度、所謂お姫さまだっこの体勢だった。
「さあアヴェンジャーさん、もう少し強くギューってしなさいギューって。全く、現地お兄ちゃんを作るようになるとかイリヤさんも捨て置けませんねぇ」
「現地お兄ちゃん!?」
「ええ、現地お兄ちゃん。何ならお薬いります? 精力剤ですが」
「……粉末になりたいか?」
「ゴメンナサーイ」
イリヤを煽るルビーにそう言いながら、アヴェンジャーは歩き始めた。
焦土と化した大地を歩く。まだ仲間は生きているだろう、彼らと合流しようとしていた。
「……気分はどうだ。何とか、簡単な回復は施したが」
「うん……ありがとう、少し楽になった……かな」
「そうか。まだ空の裂け目は残っている。仲間をかき集めて、黎斗達の元に向かった方が良いだろう。大丈夫だな、イリヤスフィール?」
「……イリヤ、でいいです。アヴェンジャーさん」
「……分かったイリヤ。じゃあ、さっさと探すぞ」
───
「……さて。この、マジもんの大うつけめ。わしの言葉が理解できんか? ん? 挙げ句にこんなわしの像まで作りおって……せめてもっとセクスィーにせんか!!」
ノッブUFOに拘束され、眼下で揉みくちゃにされる黎斗達を眺めながら信長が言った。信勝は呆れる信長に微笑み呟く。
「姉上は壊れてしまっているのです。あんな、殺しあいを強制される狂った世の中に当てられて、きっと狂ってしまったのです」
「うわ、気持ち悪いぞお主……余程ストレスが溜まってたんじゃな……」
「良いんですよ、僕が戻して見せます。面白おかしく過ごせていた、あの頃の姉上に戻して見せますとも」
信勝はグレートメカノッブの頭に乗り込んでいた。丁度巨大ロボのような格好のそれは、端から見ればある種の滑稽みすら持っていて……それでも、今の状況はとても笑える物ではなく。
「この聖杯、いや、グレートメカノッブをもって、この空間だけを保ち続けましょう。ええ、永遠の平和です……!!」
「……ふざけた真似を。その宝具で混沌を成すか」
真っ先にちびノブの海から脱出してきたヒロインXが、まだ残っている城の屋根に立ってグレートメカノッブに剣を向けた。
下を見てみれば、ネロとナーサリーと黎斗、そして未だ気を失っているファースト・マスターが、ジル・ド・レェの宝具による触手で持ち上げられ、天井まで押し上げられている。
「よっ、と……とんでもないエンドが待っていたな」
「そうね……またあの触手に捕まるとか本当に嫌だったのだわ……」
「うむ。凄く、18歳以下立ち入り禁止な触感だったな。……ん? そのジル・ド・レェの方は出てこないが」
「……どうやら宝具で力を使い果たしたらしいな。全く……勿体無い真似を」
阿鼻叫喚のちびノブ地獄を軽く見下ろして、そしてバグヴァイザーのビームガンを構えた。ネロはそれに合わせて剣の切っ先を向け、ナーサリーは魔術を行使する。
信勝は明らかに疲労を顔に浮かべながらグレートメカノッブを操作し、魔方陣を空中に投影した。
「……戻ってください、ファースト・マスターのサーヴァントよ。そして……僕に従え!!」
「……チッ。旗、燃え尽きちまったな」
魔方陣から土方が呼び出される。土方
「……一人、だけだと!?」
「どうやら地上班もよく働いたようだな。ああ……」
黎斗はネロとナーサリーとヒロインXを土方に向かわせる。そして横たわるファースト・マスターの首根っこを掴んで持ち上げ、その顔を信勝に向けさせた。
「さて。ここで一つ、絶望を与えようか」
「……何だと?」
「私は神だ。……だが今はおともの姿だ。ネロにそうさせられた」
そう話し始める黎斗。信勝は怪訝そうな顔でグレートメカノッブを操作し、無数のミサイルを発射する。
それらは黎斗に食らい付くように爆発し……しかし、ファースト・マスターを中心に生まれた光の盾によって傷一つつけられず。
「っ!?」
「では、何故おとものままだったか。神の才能を以てすれば、元の姿に戻るのは容易なのだが」
そこまで言って黎斗は……信勝にファースト・マスターを投げつけた。
「……このためさ。ファースト・マスター!! 魔法少女ナーサリー☆ライムと魔法少女ネロ☆クラウディウスのおとも、檀黎斗がファースト・マスターに望む!!」
「まさか!! 出ろノッブUFO、ファースト・マスターを遠くに転送しろ!!」
宙に舞いながら光始めるファースト・マスター。信勝は慌ててグレートメカノッブからノッブUFOを射出するが間に合わない。
望みは、聞き届けられる。
「
───
「……見たか?」
「うん……」
「ええ、ルビーちゃんこの目でしっかりと見ましたよぅ?」
アヴェンジャーとイリヤ、そしてルビーは、仲間サーヴァントを探している途中に、魔方陣に吸われていく一人の敵サーヴァントを視認していた。
黎斗達の方に、何か起こっているという事だろうか。
「……仕方無いな。行くぞイリヤ、掴まっておけ」
足に炎を纏わせて空を踏み、閉じ始めた裂け目へと飛び込むアヴェンジャー。
二人は黎斗達の元へと、間一髪で転がり込んだ。
───
「この空間と共に自壊しろ!!」
カッ
黎斗の願いを聞いたファースト・マスターは、次の瞬間には粉微塵に爆発四散していた。そして、城の各所が崩れだし、空間に穴が開き始める。
信勝は頭を抱え掻きむしり、そして拘束していた信長の手を掴んだ。
「……のう、諦めたらどうじゃ?」
「嫌です!! 信勝は、信勝は……!! 信勝は諦める訳にはいかぬのです!! 僕は駄目でも、僕の全てを使って、姉上を何処か、殺し合わなくてすむ世界に送って見せましょうとも……!!」
「わしはそれを望んではおらぬ」
「僕が望んでいるのです!!」
それを聞いて、信長は察した。
信勝は……自分に何としてでも
「……そうか。それは……わしが何を言っても止まらぬのも道理じゃな」
「姉上……僕は、もう姉上に誰も殺して欲しくは無いのです。もう、十分です、殺しすぎです……僕は、無能だから姉上の代わりにはなれませんでした。だから、せめて!!」
「……なら……気兼ねなく、わしはわしの望みに則って動かせて貰うぞ」
次の瞬間には、信長はアーチャーに戻っていた。そして、信勝を囲むように火縄銃は展開されていて。
「わしは、この世界で、人理を救う戦いに興じたい。それが望みじゃ」
「……」
「
「貴様も難儀なものだな。利用され利用され、とうとう決戦兵器にまで落ちるとは。ヒロインXとやら、どう思う?」
「私としてはセイバー適性ありそうですし切り伏せて当然な感じですが。というかまず貴女を斬りたい」
「止めとけ止めとけ、黎斗に燃やされるぞ」
「ヒッ」
その下では、ネロとヒロインXが並んで土方と斬りあっていた。ナーサリーは後ろから援護を行っている。
「ぬぅっ……く、流石に……いや、俺は死なん!!」
「……宝具が来ますよ。迎撃します?」
「うむ。劇場は、海より来たり──」
土方が怒気を孕んだ声で叫び、敵へと一気に詰め寄る。
そして、宝具が放たれた。
「
「
「
───
「やったか!?」
モニターの前に座っていたロマンは、信勝に向かって放たれた
マシュはやっぱり目覚めてはいない。敗北して強制的に帰還してきたサーヴァント達の様子も見る必要がある。
ロマンも、他のサーヴァント達同様に疲れていた。
「……いや、やっていないね。ほら、ギリギリ弱点に当たっていない」
「ダ・ヴィンチ……」
「……でもまあ、そろそろ終わるだろう。あと一分もしないうちに、聖杯は回収できる」
「……?」
───
「っ……」
ドサッ
信勝は墜落した。信長の恩情と言うべきか甘さと言うべきか、とどめは刺されず、半殺しの状態でグレートメカノッブの座席から墜落した。……そして、信長はそれと同時に解放された。
既に、特異点は半分崩れていた。そろそろレイシフトが必要だ。
「ふぅ……終わったのじゃ」
「よくやった。後はグレートメカノッブを破壊すれば、聖杯を回収できる」
「そうか。……じゃが、既に大破しておるぞ?」
「ん?」
信長の言葉で、黎斗はグレートメカノッブの胴体を見やる。
……地上からここまでやってきていたアヴェンジャーが、下からグレートメカノッブを破壊して、聖杯を持って飛び出してきていた。