Fate/Game Master   作:初手降参

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希望の魔法使い

 

 

 

 

『ヒュー……凄いね、君』

 

「……」

 

 

赤い髪の男は既に敗走した。カルデアから様子を見ていたダ・ヴィンチが勝手に通信機を弄り、晴人に声をかける。

 

 

「もう少し、俺が早ければ……」

 

『……サーヴァントとは使い魔だ。元より一日二日でさよならするような存在なのだし、そしてその死は死ではなくて帰還。別れを惜しむことはあっても、その死は必然なんだ。いつ死ぬかの違いが少しあるだけ……悲しむ必要は無い』

 

 

晴人は落ち込んでいた。隣のエリザベートも何と話しかけていいか分からない位には。

サーヴァントは使い魔だとは知っている。彼の希望を守ることが出来た事は知っている。それでも……後少し早ければ、と思わずにはいられない。

 

 

『……ほら、そこにあのサーヴァントの残留思念が残っている。話でも聞いてやるといい』

 

 

ダ・ヴィンチが静かに、岩影を指し示した。ちょうど先ほどあのハサンが自殺した辺りだ。

……所々透けているハサンが、岩にもたれて空を見上げていた。晴人が歩み寄る。

 

 

「……感謝する、見知らぬ人よ。敵の非道さを見誤った己の未熟さが恥ずかしいが……礼は言わねばな」

 

「……あなたは、救えなかった」

 

「何、あなたは悪くない。これは我の運命よ……ああ、我は煙酔のハサン。民を守るためにここまで来て、愚かにも死んだ男だ」

 

 

そう自嘲するハサンは、しかしそれでも笑顔だった。

山の翁、ハサン・サッバーハ。人々を守って再び死んだ英霊。彼に晴人は、何も言えない。

 

 

「……東の村の呪腕のによろしく頼む。何かあったら、煙酔のハサンの紹介だ、と言えばいい。合言葉は……『願わくば我らを導いて正しき道を辿らしめ給え、汝の嘉し給う人々の道を歩ましめ給え』」

 

「……」

 

「さようなら。ありがとう、最後の希望よ。世界を、人々を……頼む」

 

 

そしてそれを言い切った所で、ハサンの残留思念も空に溶けて消え失せた。

 

彼から離れて、黎斗は苛立たしげにそれを見ていた。

 

───

 

「あれが聖都か。……へー、大きいね」

 

「見事な壁だな。高く、堅い……要塞としては十分だ」

 

 

そして、その日の深夜の内に、オーニソプターは聖都まで辿り着いた。ステルス機能を発動させたオーニソプターから降りて、一行は聖抜の行われている場所へと向かう。

 

 

「あれが正門だろうな。こんな夜分に、全員起きて集まっている……千はいような」

 

「だな……恐らく、聖都は獅子王が治めているだろう。エジプトとは不可侵条約辺りでも結んでいると考えられる。……あの騎士がニトクリスと話していた事を鑑みればな」

 

「で、ハサン達はレジスタンスをしている訳ですね」

 

 

遠巻きに観察してみれば、人々は全員起きていた。……しかし遠すぎて、声はあまり聞こえない。更なる接近が必要だ。

 

 

「潜り込むんだろうけど……どうするの? こんな大人数じゃ悪目立ちするわよ?」

 

「一応オーニソプターにフードの類いはありましたけれど、あまり近づいたら違和感は持たれるでしょうね。何しろ材質が違いますから」

 

 

シータがそう言いながら、積まれていた変装用フードを取り出す。

ラーマが既に羽織っていたが、遠くからならいざ知らず、近くから見れば材質がポリプロピレン……少なくともこの時代には無いものである事は理解できた。これでは、人々の中までは入れない。

 

 

「ねえ何か無いの子ブタ?」

 

「……あるよ? 指だして」

 

「?」

 

『ドレスアップ プリーズ』

 

 

それを横目に、晴人はエリザベートに指輪をはめて、己の腰にかざさせていた。

……それによって、不思議そうな顔だったエリザベートの姿が、現地人と比べても遜色ないような格好に書き変わる。

 

 

「わあ、すごい!! ……上手すぎて逆に複雑だけど」

 

「そこは我慢してよ……じゃあ、俺とエリちゃんは前に向かう。何かあったら伝えるけど……困ったら逃げてくれ」

 

 

そして二人は、さっさと前方に潜り込んでしまった。しかもエリザベートは自らタドルクエストを奪っていく始末。

……黎斗は頭を抱えたが、ここで事を荒げるのは自殺行為だ。

 

 

「……行くぞ。私達は外側から観察する」

 

───

 

それから、一時間程またされた。時間は午前三時だろうか。

 

 

「まだですかねぇ」

 

「わしはもう疲れたぞ……?」

 

 

そんな不満も漏れ始めた頃。黎斗も手持ち無沙汰で落ち着かない。

 

……そして、そんな彼らを()()が突然照らした。

 

 

「っ!?」

 

「太陽が、登った!?」

 

 

白日の下に晒される人々。明確な奇跡を前にして、どよめきと期待の声が広がる。

門が開き、一人の騎士が現れた。

 

 

「落ち着きなさい。これは獅子王がもたらす奇跡……『常に太陽の祝福あれ』と、我が王が私、ガウェインに与えたもうた祝福(ギフト)なのです」

 

 

「ギフト?」

 

「何かしらの特殊な効果だろう。獅子王……私の予想が正しければ、最早そいつは王であると共に神にもなっているんだろうな。太陽を与える等権能の域だ。もしくは……聖杯を使っているやもしれんが」

 

 

そんな風に推察しながら様子を見てみれば、その騎士は難民に対して語り始める。すぐにでも入れてやればいいのに、そうはしない。

 

 

「皆様、ここに集まっていただきありがとうございます。人間の時代は滅び、またこの小さな世界も滅びようとしています。主の審判は下りました。最早地上の何処にも人の住まう余地は無い……そう。この聖都キャメロットを除いて、どこにも」

 

 

朗々と語るガウェイン。興奮で沸き立つ人々。遠巻きに見張る騎士。

人混みに紛れながら、黎斗は全てを冷ややかに観察していた。

 

 

「我らが聖都は完全完璧なる純白の千年王国。この正門を抜けた先に、理想の世界が待っている。ここに至るまで辛い旅路だったでしょう……我が王はあらゆる民を受け入れます。異民族であっても異教徒であっても例外無く。ただ……」

 

 

そこまで言って、ガウェインは声のトーンを落とした。

 

……すぐに人々を都に入れなかった時点で、こうなることは読めていた。

 

 

「……その前に我が王から赦しが与えられれば、の話ですが」

 

 

……そこで、人々はようやく静まり返り、この聖抜の場に疑問を持ち始める。どうやら全員が入れる訳では無いらしい。

 

顔を見合わせる民衆を見下ろすように、城壁の上に獅子の面の存在がいつの間にか立っていた。その存在はすぐに感づかれ、そしてそれは話し始める。

 

 

「──最果てに導かれる者は限られている。人の根は腐り落ちるもの、故に私は選び取る。決して穢れない魂。あらゆる悪にも乱れぬ魂。生まれながらにして不変の、永劫無垢なる人間を」

 

 

多くの人に見上げられたその王は、その槍を天に掲げ……それと同時に、聖都の前にいた人々の中の三人だけが、光り始めていた。

 

───

 

「な、何よあれ……!?」

 

「落ち着いてエリちゃん、騒がないで」

 

 

前方にいたエリザベートが、近くで光る女を指差して震えている。晴人は彼女を制止しながら、周囲の警戒を続けていた。

 

 

「聖抜はなされた。その三名のみを招き入れる。回収するがいい、ガウェイン卿」

 

「御意……皆さん、誠に残念です。ですがこれも人の世を後に繋げるため……王は貴方がたの粛正を望まれました。では──これより、聖罰を始めます」

 

 

……ガウェインのその言葉と共に、開けられていた門から粛正を請け負った騎士達が現れる。全員、剣や槍を構えて。そしてガウェインも、己の剣を振りかざす。

パニックに陥る人々。純白を謳う国の騎士は血に濡れんと、まずは手近にいた男に剣を振りおろした。

 

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

『バインド プリーズ!!』

 

「何っ!?」

 

 

その切っ先の男が魔法使いだなど知ることも無く。

剣を振り落ろされた晴人は立て続けに二種類の魔法を行使し、ガウェインを炎で拘束する。そして、黒い指輪を腰にかざした。隣にいたエリザベートは、粛正騎士達の足止めを行っている。

 

 

『ドライバーオン プリーズ』

 

「俺の目の前では、もう、誰も絶望なんてさせない……!!」

 

 

銀のベルトが浮かび上がる。鎖を切断したガウェインは警戒しながら剣を向けた。

 

 

「無駄なことを……貴方が誰かは存じませんが。王の意思に背くのなら……円卓の騎士、ガウェイン。この聖罰を任された者として、貴方がたを処断します」

 

「俺はウィザード。お節介な魔法使いさ……俺が、最後の希望だ」

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン シャバドゥビタッチヘンシーン 』

 

「……変身」

 

『フレイム!! プリーズ!!』

 

 

晴人の指の赤い指輪が光る。そして、真紅の魔方陣が彼を指先から包み込み。

 

 

『ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!!』

 

「さあ……ショータイムだ」

 

───

 

「……チッ」

 

「何で動かないんですか、早く変身してください黎斗さん」

 

「……全く操真晴人め、勝手な真似をしてくれたな!!」

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「何でそんな事言うんですか……これは人を救うために必要な戦いです」

 

『Dual up!! Millions of cannon!!』

 

 

前方で交戦を開始したウィザードとエリザベートにつられるように、後方にいたサーヴァント達も粛正騎士相手に戦闘を開始していた。

辺りには何人もの騎士が走っている。ゲンムは彼らに狙いを定め、攻撃を開始した。

 

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「全く……もう少し私に従順になるようにすべきだったか? いや、そうしたらウィザードの強さが半減する……」

 

 

矢を放ちながらゲンムはそう呟く。その仮面の下では何本もの青筋が立っていた。

思えば、今日だけで何回勝手な行動をされただろう。……しかし自分だけだと、これから先の展開が難しくなる。

 

 

「黎斗さん、右から粛正騎士が三体!!」

 

「分かっている!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

   スパンスパンスパンスパン

 

 

怒りをこめて矢を射るゲンムの横を高速化したシールダーがすり抜け、ガウェインの元へと走っていった。

 

───

 

『キャモナスラッシュ シェイクハンズ!!』

 

『フレイム スラッシュストライク!! ヒーヒーヒー!!』

 

「はあっ!!」

 

「ふんっ!!」

 

   ガンッ ガキンガキンガキン

 

 

ウィザードとガウェインが切り結ぶ。互いに炎を撒き散らし、互いに隙を伺いながら。二人は少しも恐れず、信念を貫かんと剣を振る。

 

 

「……強いね、君」

 

「ええ、貴方もそれなりには強いですが。……『異邦の星輝く時、白亜の結託はひび割れ、王の威光は失せ、神託の塔はは崩れ落ちる』……残念です。このような出会いで無ければ、あるいは共存の道もあったでしょうに」

 

 

ガウェインは少しも疲れを見せていない。獅子王のギフトの為せる技だろう。ウィザードは既にビッグやらドリルやらを使っていたが、彼は驚きこそすれ怯みはしなかった。

 

 

「今降参すれば、痛み無く楽にしてあげますが」

 

「ははっ、冗談言うなよ。そっちこそ、もっと本気出したらどうだ?」

 

「まさか。貴方はそれほどの敵ではありません」

 

「……ふーん」

 

 

殆どの難民が、既に聖都から抜け出していた。身重の女や幼い子供は残っているが、既に他のサーヴァントが動いている。

 

 

「じゃあ、俺も本気を出すか」

 

 

晴人はそこまで確認してから指輪を付け替えた。その指に銀と水色の指輪が煌めく。ガウェインは疑いと共に眉をひそめた。

 

 

「……それは?」

 

「俺の、希望だ」

 

 

そして、炎を塗り潰すように魔方陣が描かれ、水晶の龍が舞い、そして魔法使いは変身する。

 

 

『インフィニティー!! プリーズ!! ヒースイフードー!! ボーザバビュードゴーン!!』

 

 

赤は白銀に塗り変わり。手には銀と赤の長剣が握られ。

 

 

「……並々ならぬオーラを感じます。ですがどちらにせよ──」

 

『インフィニティー!!』

 

   ガンッ

 

「──速いっ!?」

 

 

次の瞬間には、ガウェインの目の前に距離をつめたウィザードが迫っていた。

 

ウィザード、インフィニティースタイル。仮面ライダーウィザードの究極形態。ゲーマである彼には三分の制限が設けられているが、それでも、ギフトのついたガウェインを相手取る位の実力は十分にあった。

 

 

「教えろ、こんなことをして何が目的だ」

 

「貴方はそれを知れる程、強くは……」

 

『インフィニティー!!』

 

   ガンッガンッガンッ ズシャッ

 

 

インフィニティーの強さは、その硬さとパワー、そして幻想的なまでのスピードにある。彼は任意で瞬間移動すら行いながら、無敵のガウェインを攻め立てる。

 

 

「……これでもか?」

 

「くっ……ああ、認めましょう。貴方は聖剣にも値する強敵だ……私は騎士の王にして純白の獅子王、アーサー王に支える騎士ガウェイン。求めるものは何者にも冒されない理想郷の完成。獅子王の法を遵守し、千年王国を成すことだけが人の生きる道。その為に悪しき人間を排除する……」

 

「ふざけるな。人の希望は、誰かに左右されていいものじゃない」

 

「……貴方は今、獅子王とその円卓の騎士を敵に回しました。……そう言えば、トリスタンがさっき言っていた『最後の希望』とは貴方の事ですよね? ああ……惜しい。貴方なら円卓にももしかすれば……いや、もう止しましょう」

 

「……俺は希望を守る魔法使いだ。お前たちには、負けない」

 

 

そこまで言って、ガウェインはウィザードを突き飛ばした。そして、己の聖剣を天に投げる。

 

 

「聖剣、抜刀。この剣は太陽の写し身、あらゆる不浄を清める焔の陽炎──」

 

『ターンオン!! ハイタッチ!! ハイタッチ!! ハイタッチ!! ハイタッチ!! ハイタッチ!!』

 

 

炎を纏う剣を前にして、ウィザードは剣を回転させた。元々持ち手だった部分に存在していた真紅の刃が、魔を断つ斧として起動する。

 

 

「──転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!!」

 

『プラズマシャイニングストライク!! キラキラ!!』

 

   ガッ……ガガガガガガガガガ

 

「ぐっ……ぅあああああ!!」

 

「はぁぁあああああ!!」

 

 

激しく鍔競り合う二人。両者は一歩も譲ること無く、閃光と炎が乱反射して周囲を真紅に染め上げる。

しかし既に、ウィザードの限界まで残り30秒を切っていた。

 

 

「があああああ……うぐっ……このままじゃ……」

 

「太陽の下なら私は無敵!! 例え、貴方ほどの勇者であろうと、負けない!!」

 

 

 

「……じゃあ、太陽から切り離しましょうか」

 

   ズドンッ

 

『暗黒!!』

 

「っ……!?」

 

 

……次の瞬間には、ガウェインの体は闇に包まれていた。未だに聖剣と押し合うウィザードが闇越しに向こうを見てみれば、砲弾を利用して暗黒のエナジーアイテムを押し付けたシールダーが、ちょうど変身を解いていて。

 

 

「マシュちゃん!?」

 

「……後ろ、貰いましたっ!!」

 

 

そして彼女は、かつてダ・ヴィンチの開発したルールブレイカー機能つきの短剣をガウェインの首筋に突き立てて、真名を解放した。

 

 

「ルール……ブレイカーッ!!」

 

   カッ

 

 

……世界は今落陽に至る。

不夜のギフトは掻き消され、無敵の恩恵は失われ、ウィザードの渾身の一撃で袈裟斬りにされたガウェインは力無く膝をつき。

 

 

   ズバッ

 

   ドサッ

 

「が……はっ……」

 

「円卓の騎士ガウェイン、撃破」

 

 

天を仰ぐその顔面に、マシュが己の盾の側面を降りおろした。最後にガウェインが見たものは、懐かしい物と変わり果てた者。

 

 

「ああ、我が王、我が仲間よ……私は……私はっ!!」

 

   グシャッ

 

 

 

「やったわよ子ブタ!! 粛正騎士は片付けたわ!!」

 

「ああ、お疲れ、エリちゃん……」

 

 

そしてウィザードは、エリザベートの元に向かっていた。剣を片手にはしゃぐ彼女は、仮面の下での晴人の容態に気づく事は出来ず。

 

 

「次は、あの人たちを……守ら、ない、と……」

 

   ドサッ

 

「それってさっきのブタ達の事なの子ブタ? ……子ブタ?」

 

「……」

 

「子ブタ……えっ、倒れてる……?」

 

 

マジックザウィザードのゲーマは、余りの負荷に耐えられず機能を停止した。

 




ウィザードほんと好き
ウィザードほんと主人公
仮面ライダーで三本指に入るくらい好き

正直社長より好き

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